20
ライド・マッス。
俺は彼を決して忘れない。三日月や昭弘に人一倍強い憧れを抱き、まっすぐ強くなろうとしたあの少年を………、若者を忘れない。
鉄華団の毎日を過ごしてきた中で、ライドが三日月や昭弘の後ろを必死に追いかけていたことをシノはよく知っている。
しかし、結果からすれば追いつくこともできず、見送ることもできなかった。
一言でも話してくれていれば、一言相談してくれれば、誰かが俺に行ってくれれば何か手を打てたかもしれないのに。
「それこそ意味の無い後悔だな」
サブレがそういうことを俺は忘れない。
真っ白な空間に俺は後悔と共にしゃがみ込んでいる。目の前に立っているサブレはニコニコ笑いながら俺に問いかける。
俺はこれが夢、幻なのだと確信した。
俺の後悔が作り出した幻のサブレ、俺が俺を罵倒し後悔させ続ける為のサブレ。
「ライドを救えなかったって?オルガを救えなかったって?みんなを救えなかったって?」
その通りだった。そうとしか言えない。
「後悔するぐらいならしなければいいのに………行動しなければいいのに」
誰も救えない俺なんか………、そう思っているとそんな幻のサブレが塵になったように消え去り、別のサブレが姿を現した。
「心を閉ざすなよ。見つけるのに時間がかかっただろ?それじゃなくても今忙しいというのに……」
心底うんざりするようにその場に姿を現した。
「忙しい?」
サブレは確かにそういった。心底うんざりするように、やれやれと言わんばかりの表情でそう告げた。
「今、クレアを追いかけて飛行機に乗り込んでいるところなんだ」
「!?何の話!?クレアさんがどうして飛行機に?」
「誘拐されて」
「誘拐?」
何それ?物騒な響きは?サブレはいったいどういう数日を過ごしたのだろう。
俺は勢いよく立ち上がりサブレの前に立つ。
「一体何があったの?」
「それより……話してくれよ。兄さんの話。話はそれからだよ」
俺は語ることにした。すっきりさせるために、話そう。
21
俺は急いで鉄華団本部から出ていくと仮設本部の方にも別のギャラルホルン本部に姿を現したモビルアーマー『エルヴォル地上仕様』と複数のモビルスーツ『霊電』が襲い掛かってきていた。
急いで戻らなければ。
そう思う一方でライドへの嫌な予感が背中に汗を流させる。
バカなことをしなければいいけど………、そう思いもう一度鉄華団本部の方を見ると、みるみる内に近づいてくるもう一機のモビルアーマー『エルヴォル強襲型』が近づいている。
事前に資料を読んでいたのでその辺の区別がつく。地上仕様と違い四つのクローアームが体を支え、まるで蜘蛛のように素早く近づいてくる。
背中に四つの砲台が付いており、体も丸っこい形をしている。
機動力が高く、拠点やモビルスーツ隊を翻弄出来るようにできている。
すると、鉄華団本部の地下施設から爆音を上げてモビルスーツのようなシルエットが姿を現した。
獅電を改良してあるようで、背中に多少大きなバックパックを背負っており、腕にも耐熱シールドを持っている。ビームライフルにバックパックにビームサーベルが一本だけつけている。全身が黄色で塗装されている『獅電改』と言うべき機体がまっすぐエルヴォル強襲型へと走っていく。
「ライド!?」
なんとなくライドだという確信に似た感覚を得た。
ダメだ!!勝てるわけが無い!!
そう思ってライドの方に走ろうとしたところで俺の腕をつかむ存在を知る。
「誰!?」
そういいながら振り返るとそこには覆面の男が立ち尽くし、腕をつかんでいた。
俺にはそれも確信に似た感情が芽生えた。
「三日月!?やっぱり生きていたんだね?」
『久しぶりだね。今昭弘が寝ているから俺だけど』
寝ている。サブレの予想はある意味あたっていたわけだ。
サブレは―――――、「もし三日月が生きているのなら体を機械で補強しているという可能性と、昭弘という男の体と半々使う事と、その両方という可能性がある」っと言っていた。
今三日月は昭弘と体の所有権を半々にしているのかもしれない。
問題は三日月の声が俺の脳内に響いていただけで、声を出していたわけでは無い。
『今の俺はしゃべることができないから。脳波を通じてなら声を伝えることができる。ビスケットは脳波を使えるんだね。俺の声を聞き取ることができるのはゲイナーを除けば他に居ないから』
「昭弘は寝ているって言ったよね?」
『うん。というより起きていることはあんまりないよ。基本は寝ているから。それより今、ビスケットが出て行っても役には立たないよ』
「だったら三日月は!?モビルスーツは無いの?」
『持ってない。ライドだってどうやって隠していたんだろう?』
そこまで話したところで俺はバルバトスを隠していた事に気が付いた。
「ついてきて!バルバトスがあるんだ!」
俺は三日月を連れて車の中に入る。通信機をONにしてシノへと緊急通信を入れる。
「シノ!ライドがモビルスーツに乗ってモビルアーマーへと突っ込んでいったんだ!俺は今から三日月にバルバトスを渡すために一旦ヴァルハラへと向かうから、ライドへの援護を頼む!」
「へ!?はぁ!?何の話だよ?」
「いいから!!早く!」
シノは多少慌てた様子で「わ、分かったよ。おっかねぇな」っと言いながら多少遠くからメテオがエルヴォル強襲型へと向かっていった。
俺は一目散に車に三日月を載せてそのまま走り出した。三日月は露骨に不愉快な声を脳内に届けた。
『痛いよ、ビスケット』
「いいから!!」
俺はあっという間にヴァルハラ辿り着いて格納庫へと入っていく。ゼム・ロックさんが驚きながらこちらを見ている。
「ゼムさん!バルバトスの出撃準備を!」
「だけど………パイロットはどうするんだ?」
「ここにいます!」
俺は三日月に指さし確認をすると、ゼムさんは何かを言いたそうにしているが、それを飲み込んで周囲に怒号を上げる。
「バルバトスを出すぞ!」
三日月はふとバルバトスを見上げる。
右腕が左腕より多少長く爪がビームクローのようになっている。左腕には内蔵式の電子レンジを応用した電磁波を使って敵を蒸発させる兵器『デビルレフト』通称:悪魔の左腕である。武器はバルバトスルプスレクスが使用していた大型メイスにビーム機能を搭載した大型ビームメイスであり、先端にはビームライフルを装着されている。
背中についているバックパックはオリジンと呼ばれている機体の物が使用されている。しかし、この場合は機動力と瞬発力に富んだものだった。その為に空中戦には適応されていない。
しかし、俺は三日月にはあえて必要ないと感じていた。そもそも阿頼耶識システムに完璧に近い形で適応できていた三日月だ。瞬発力による長大なジャンプ力があれば十分だと判断した。というより、追加で届いたサイコフレームによる新たな阿頼耶識システムは、元の阿頼耶識システムに追随できる。本来の人間には無い飛行能力を再現することは逆に三日月にとっては邪魔になるとソニアさんとの話し合いで合意したことだった。
全身のフレームはオリジンの物を使用し、細部のパーツはバルバトスの物を使用している。
ゼムさんに促されるように三日月はバルバトスに乗り込んでいく。
「三日月。俺もすぐに見に行くから!ライドをよろしく!」
『分かってる』
三日月はゆっくりとカタパルトデッキに移動していく。三日月の目の前に現れた小さな画面には『ガンダム・バルバトス・ルプスオリジン』と書かれており、全身の様子が様子が書かれている。
赤い大地と青空が正面に見えてくると、三日月は新しいバルバトスと共にライドとシノの元へと急ぐ。
22
ライドはエルヴォルのクローアームの攻撃をギリギリで回避して真下へと滑り込むように移動する。背中のビームサーベルを抜きながら切りつけようとするが、クローアームがライドの体を突き飛ばす。
シノがライドへと向けられたクローアームの先に出現したビームクローを使った攻撃をメテオのジャマダハルを使ってギリギリのところで受け止める。
メテオからの拡散ビーム砲をエルヴォルは高くジャンプすることで回避する。体を使ったのしかかりの攻撃をメテオはライドの獅電改毎飛んで回避する。
「ライド!一旦引くぞ!」
「嫌です!シノさんだけ引けばいいでしょ!俺はあそこを守る!」
「俺の言うことが聞けねぇのか!?」
ライドは言うことを聞かず、ビームライフルを使った牽制をエルヴォルへと向けるが、エルヴォルは上部からテールビームブレードが四つも出現する。今までのエルヴォルとは違い、テールビームブレードの数は四つに増えていた。
四つのテールビームブレードが同時に攻撃を仕掛けてきた。
しかし、そのさらに上からバルバトスが大型メイスを使って上部へと攻撃を仕掛ける。エルヴォルはテールビームブレードを使って受け止め、クローアームでバルバトスを吹き飛ばす。
ライドはテールビームブレードの出現と同時に死すら覚悟した。しかし、三日月の攻撃や、テールビームブレードの攻撃を捌いたシノの姿に見惚れていた。
『結局、俺は何も変わっていないじゃないか!見惚れる為に生きてきたわけじゃないんだ!』
獅電改のビームサーベルを抜いて切りかかろうとするが、それをエルヴォルは鬱陶しそうにクローアームのビームクローを使って攻撃毎吹き飛ばす。そんなライドを受け止めながらジャマダハルで反撃を試みる。
エルヴォルはシノからの攻撃をビームクローの攻撃を受け止めながら、テールビームブレードの攻撃を今度は三日月が大型メイスで受け止める。
『また!また庇われた………!」
ライドは、「嫌だ、嫌だ」と呟きながら次第に追い詰められている。
すると、遠くからビスケットが車でこちらに向かっていく姿を見かけてしまう。ビスケットはこれ以上近づくつもりは無く、岩陰に隠れるように車を止めようとしたところでエルヴォルの視線にちょうど良くビスケットの姿が映った。
エルヴォルは三日月とシノを吹き飛ばし、ビスケットの方へと一直線に突き進んでいく。
シノと三日月は内心「しまった」っと自分の不覚を呪う。走り出す瞬間にライドの脳内には、かつてシノがダインスレイヴの攻撃から庇った姿が、銃撃から庇った団長『オルガ・イツカ』の姿が重なって見えた。
『あの日、ビスケットさんは団長を庇った。なのに……俺は団長を守れなかった。だったら………今度こそ!!』
そんな思いと共にライドは獅電改を走らせた。
エルヴォルはビスケットの乗っている車目掛けてクローアームを右から左に向けて薙ぎ払おうとクローアームを振り上げる。
その瞬間、三日月やシノにとってはスローに見えた気がする。しかし、ライドだけはその瞬間に今までの事を走馬燈のように思い出した。
死ぬかもしれない。でも……それでもいいと思った。
返せるものがある。
ビスケットの車を庇うように抱える、すると獅電の後ろからコックピットを貫くようにクローアームが突き刺さった。
ビスケットの視界に、シノの視界に、三日月の視界にそれが写った。
三人が唖然と一秒に満たない時間静止してしまった。止まってしまった。考えを放置してしまった。
ビスケットだけが大きな声と共に反応する。
「ラ、ライドぉ!!」
コックピットに突き刺さったそれはあまりにも残酷で、無残な姿に見え、クローの先は血で濡れているように所々が赤く塗れている。
エルヴォルは獅電改ごと遠くへと吹き飛ばす。まるでライドは最後までビスケットを守る様に機体を半回転させ、衝突場所を背中に変えた。
ビスケットは車から這い出てライドのコックピットへとまっすぐとよじ登る。
「俺の所為だ………、俺がこんなところに来なければ」
小さな声で呟きながら裂け目からコックピットの中へとのぞき込む。そこには斜めに半分になったライドが虫の息で「ヒュ………ヒュ………」っという音が聞えてきた。
エルヴォルはもう一度近くまで近づきとどめを刺そうと腕を振り下ろす。そこまで来て我に返った二人が機体を走らせるが、ぎりぎりで間に合いそうにない。
ビスケットは攻撃が来るにもかかわらず、ライドへと手を伸ばす。
「ライド!ライド!!ダメだよ………こんなのって無いよ」
あまりにも衝撃で、あまりにも辛い結末。
クローアームを振り下ろすが、その攻撃はいつの間にか近くまで近づいていたガンダム・シムカスのビームアックスが受け止めた。
「明楽……?どうしてここに?」
「すいません!手伝いに来たんです!」
サブレがよこしたのかもしれないとビスケットは考えるしかなかったが、テールビームブレードの攻撃をシノと三日月がそれぞれ受け止める。
ライドの視線にはバルバトス、グシオン、フラウロスがいるように見えた。
「ビ、ビスケ………ト……さん。三……に…んが……」
何を言いたいのか、ビスケットにはなんとなくわかっていた。
「そうだね………戦っているんだよ……三人が」
ライドの前には三日月、昭弘、シノが戦っているように見えたのかもしれない。ライドは右腕をまっすぐ伸ばし、ビスケットはそれを受け取る。
「や……っと…おい……つ………いた」
その言葉を最後にライドは力なくその場にうなだれてしまう。ビスケットは涙を流して決してライドの手を離そうとしない。
三人がエルヴォル相手に奮戦しながら戦っている姿を見ることができない。
23
「なるほどね。そんなことになっていたなんてな」
サブレは俺の話を一通り聞いてからそんな曖昧な反応をしている。というより、サブレの姿が時折ノイズが走っているように見える。
これってどういう状況なのだろう?
「俺と兄さんは一卵性双生児だ。脳波が非常に似ている。だからだろうな、俺が選別者として覚醒した今、兄さんも覚醒者として目覚めている。よっぽど遠くに離れない限りこういう会話が出来るというわけだ。まあ、今まで理論だけだったんだけど、こうして証明できたわけだ」
なんか嫌だな。
俺の脳内の考えを見透かされそうで嫌だ。それでなくてもプライバシーの侵害を積極的に行われているのに。
ライドの事を考えれば、ここで俺が立ち止まることが一番ライドの為にならないだろう。
あの時、決めたことだ。死んだ者の分まで笑って歩くと。
「最後に伝言だ」
サブレの姿が本格的にノイズが走っているように見える。
「シノと明楽をクリュセに向かわせてくれ。細かい事情はメアリーから聞いてほしい。クリュセに付いたらアスナ・エールという女性を助けてやってほしい。彼女はクリュセ一帯における争いを収束出来る存在だ。今クリュセはレジスタンスと元ギャラルホルンと木星帝国が三つ巴で銃撃戦をしている。彼女はレジスタンスが連れている。俺はクレアを救出した後にクーデリア・藍那・バーンスタインを救出しに行く」
「クーデリアさんにあったの!?」
「ああ、アスナが連れていたんだが、どうもアスナと一緒にレジスタンスにつかまってしまったようだ。別行動をしているという情報を手に入れたが、クーデリアよりアスナの方が重要だろう。彼女をクリュセ議会に連れて行ってやってくれ。俺は彼女が火星連合の行く末を決める存在だと思う」
サブレの真剣なまなざしにあえて問わない。
俺は黙ってうなずく。
すると、サブレ側から銃撃音が聞こえてきたような気がする。
「済まない。どうやら見つかったようだ。そろそろクレアの場所に行く」
そう言うと視界がクリアに元の景色へと広がっていく。
俺は涙を拭き、戦いを終えている三人の方に向く。どうやら三日月は俺とサブレの話を脳波を通じて聞いていたようで、ビスケットの方を見ながらうなずく。
「シノと明楽はクリュセに向かって、アスナ・エールという人をレジスタンスの人達から奪い返してほしい。そのままクリュセ議会へと連れて行ってほしい。こっちは三日月がいてくれる」
シノと明楽は首をかしげて先程のビスケットの言葉に疑問を抱いていた。サブレが今どこにいるのか分からないが、どうも銃撃戦をしているようだし、ほかのメンバーも心配だ。
「頼む!俺はここに残る!」
シノと明楽はお互いに視線を合わせながら「分かった」と言いクリュセの方へと進んで行く。
俺はライドの方にもう一度向き、頭を小さく下げる。
立ち止まらないよ。ライド。
だから………お休み。
「行こう三日月。ライドの分まで立ち止まらない」
『うん。俺が今度こそ守るから』
24
ライド・マッスは鉄華団本部で目を覚ます。
直前の記憶が無い。いや、鉄華団以降の記憶が存在しない。どうして自分がここにいるのかよく分からない。
格納庫で目を覚まし、廊下に出ていき左右を見回す。小さな子供達が遊んでいる。
彼は気が付いていない。ライド自身の背丈が鉄華団の頃まで縮んでい事に気が付いていない。
廊下を歩き、いろいろと見てまわると団長室のドアをゆっくり開けていく。
団長室にはオルガ・イツカが団長椅子に座りながらゆっくりしていた。
「ライドか?全く……」
そういいながら片手で手招きするオルガにライドは内心喜びながら駆け寄っていく。
言いたいことがたくさんあった。
聞いてもらおう。いっぱい話をしよう。辛い事、楽しかった事、悲しかった事、嫌な事。そして、知らないことを教えてもらおう。
「団長………!」
喜びながら飛び込んでいく。
そこは多分命が還る場所なのかもしれない。ライドもまた命の還る場所へと還っていく。廻る命はビスケット達には分からない。
辿り着く場所は無かったのかもしれない。でも………還る場所はあったのかもしれない。
ライドの命も還っていった。
《マーズ・アタック編終わり ラブ・イズ・フォーエバー編開始》
どうだったでしょうか?辛い話だったと思います。ライドを含めて亡くなった者達が報われる結末になろうと努力していきます。
次回のタイトルは『ラブ・イズ・フォーエバーⅠ《運命》』になります。