1
では、これから始まる戦いを語ることで最終章への前哨戦にしようと思う。前哨戦でプロローグへ至るための話にしようと思う。
弟であるサブレが最終章に向かうために必要なお話を語ること、みんながサブレの闇と対峙しなければならない時が来た。
ある意味みんながサブレと向き合ってこなかったという事なんだろうと思う。頼りになるが故にみんなが頼りにする。それ故にサブレの隣にいる人間が誰もいなかったのだろう。
誰もサブレに追いつける人間がいなかった。
だから、後ろから追いかける事しかしなかった。
いや、居たのかもしれない。それ以上にサブレにストレスを与えていたのだろうという事ははっきりと分かる。
言ってくれれば―――――、助けを求めてくれれば―――――、そんな事を言っても今更だろう。
サブレの中で生まれ落ちた『闇』はクリュセや火星中の人々の中にある『嫉妬』や『妬み』、『誤魔化し』と『逃避』を取り込んで大きくなった。
それはサブレが特殊過ぎたという事なんだろう。
だって、サブレは人類の未来を決めることのできる『選別者』なのだから。その上決してあきらめようとしない頑固なところ、何度でもチャレンジするところを含めて考えても、サブレには出来ない事を探す方が難しい問題なのかもしれない。
これから語る話はサブレがどうしてこうなってしまったのかという事を知る話なのだと知っていもらいたい。
俺の弟が何でできていて、どういう人間なのかをまずは知ってもらいたい。
最終章へは主人公であるサブレの話を知ることでしか始められないのだから。
でも、これだけは言える。俺達は―――――、サブレの事を大切に思っているという事だけはたった一つの真実なのだから。
だから決めなくちゃいけないのかもしれない。
「私達はあなたが大好きです」―――――、という言葉にサブレは答えなくてはならない時が来た。
「俺は―――の事が大好きだ」―――――、という答えを。
俺達はそれを見届けなくてはならない。
サブレが誰を好きになり、誰に思いを告げるのかを知るという物語なのだから。
そして、サブレの『闇』である『黒衣の騎士』との決着の物語でもある。
2
クリュセの中心に作られた火星連合の議会は四階建ての建物になっており、ロビーから左右に廊下と共に各部屋が設けられており、ロビーから入っており一番奥が議会堂になっている。
左右にまっすぐ伸びている各フロアはオフィスなどや議員たちの休憩室になっている。
そして、その周りを囲むように道路が整備されており、本来であれば多くの車が行き狩っているのだが、現在はレジスタンスと元ギャラルホルンと木星帝国による銃撃戦が繰り広げられていた。
元々はレジスタンスと元ギャラルホルンが協力しながら木星帝国から議会を取り戻そうと戦っていたが、木星帝国の策略で三つ巴に発展していた。
戦場は大きく分けて三つ、ロビー前の広場、東から入ることができる地下駐車場前T字交差点、最後に、ロビー前広場に行くための唯一のメインストリートである。
どうやら、木星帝国は予想以上の戦力に苦戦を強いられていたらしい。メインストリートでの防衛戦だけで充分だと判断したのだろうが、旧式のモビルワーカーを持ち出してメインストリートを強引に突き抜けていった。
それと同時に地下駐車場へと強引にモビルワーカーと軍用車が強引に入っていったところで木星帝国の別同部隊が地下駐車場への出入り口へと攻撃を開始した。
そんな経過を少し遠くから見ていたのはレオとマーク、それにアスナであった。
人々は戦場になってしまったメインストリートから逃げ出し、彼らは物陰から戦場の様子をうかがっていた。
あとで合流する予定になっているシノと明楽を待っていた。
後ろから駆け寄ってくる二人の影を見付けたマークは嫌そうな表情を浮かべ、シノに向けて小さな舌打ちを聞こえるようにする。
シノはその舌打ちを聞いたのちにものすごく嫌悪感を露にする。
そんなやり取りをめんどくさそうな表情を浮かべながら明楽はレオの元へと急ぐ。すると、レオの隣に綺麗な女性であるアスナがいるという事に気が付くと明楽の興味は一気にそちらへと移動する。
フラフラと移動しながらアスナの両手を握りしめ真剣な面持ちを維持しながら告白する。
「付き合ってくれませんか?」
「ごめんなさい」
素早く降られてしまう明楽はアスナの両手を離しフラフラと二歩後ろに下がる。アスナは「今好きな人からの告白待ちなんです。振られたら考えてもいいですよ」っとその後でも振られそうな表情を浮かべる。明楽はその言葉を受け、告白待ちの相手を言い当てる。
「もしかして………それってサブレ先輩?」
アスナは微笑みながらうなずく、明楽は両腕で顔を覆い地面に付しながら大泣きする。
「いつだって先輩は俺の先を十歩行くんだもん!!」
それについては他の三人も同意する。すると、シノは気になったことを不意に尋ねる。
「そういえば、サブレの奴って仲のいい奴がいないよな?それってやっぱあいつと気の合うやつがいないのか?友達って聞いたことないけどな」
レオとマークはいまいち思い至らなかったらしく答えられなかったが、明楽だけが思い至ったらしく涙目で答えた。
「え?テム・フォースさんが先輩の唯一の友人なんじゃないんですか?そう聞きましたよ」
『テム・フォース』という聞きなれない名前に首をかしげるレオとマークとシノに対し、話がよく分からないアスナは議会の方を気にしていた。
レオが代表して尋ねる。
「誰?テムとかいう人」
「あれ?知らない?先輩と同期の人で、先輩と互角の実力者だよ!めっちゃ強いの!サブレ先輩と互角ってぐらいの実力者だよ!本人が言ってたもん「俺はサブレの親友なんだ」って!先輩は嫌そうな表情を浮かべてたけど」
「それって本人が一方的に思っているだけなんじゃないのか?」
「?そうなの?よく知らないけど。でも、強い人なのは確かだよ。俺勝ったことないもん!」
明楽は胸を張り、自慢するように答えた。負けたことを自慢する明楽を哀れな目で見るレオ達。
しかし、明楽でも勝てないという言葉にレオやマークやシノは興味を持ったのは確かだった。
言っては何だが、明楽はこんな性格でもサブレ・チルドレンのメンバーの中でも一番強い。そんな明楽でも勝てない相手に興味を持った。
そして、それを離そうとしないサブレに興味が出た。
そんな時、シノはふと気になったことを尋ねた。
「なあ、なんでサブレはあんなに一人でなんでもしようとするんだ?」
そんな疑問にいの一番に口を挟んだのはマークだった。
「そりゃあ、先輩が基本は一人で何とかなってしまうからだろ?一人で解決できてしまうだけで、基本は俺達が居なくても何とかなる問題が多い。俺達が居れば早く解決できるだけで、多分俺達が居なくても時間を掛ければ先輩は解決できるんだよ。結局はアルン近辺で起きたモビルアーマー戦だって先輩一人で何とかしたようなもんだったろ?多分、強すぎるが故なんだろうが、昔からそういう傾向はあったんじゃないか?一人で悩んで一人で解決する傾向」
それは幼いころからの傾向だったのだろうとマークは考察する。
幼い頃より一人で解決する傾向が強く、それ故に友人なんかの繋がりを求めていなかったのではないかっとマークを想う。
「強く、強すぎる。誰も追いつけないぐらいに強すぎた。一人で居る事を嫌がっていないんじゃないかな?」
マークの一人語りを聞きながら、レオは戦場の方を向き、明楽は物思いにふけっている。しかし、シノだけはその言葉に納得できなかった。
(そうなのか?でも………だったらどうしてサブレは友達を求めているんだ?それはあいつが繋がりを求めているという証明じゃないのか?)
レオは「そろそろ作戦を開始した方がいいと思う」と全員に声をかけ、そのままもう少しだけ近づこうと試みる。
(ビスケット。お前は知っているのか?あいつの事を………)
シノも他のメンバーについていきながら疑問が頭から離れなかった。
3
ビスケットと一緒に車に乗ってクリュセに向かっていたところだ。俺、三日月・オーガスは助手席に乗りながら凸凹道を何度も揺れながら進んで行く。
俺はバルバトスで行ったほうが楽でいいと提案したが、モビルスーツを不用意にクリュセに近づけないほうがいいという理由で却下されてしまった。
ビスケットはそう言うところで頭が固くて困る。
そう思っているとまるで俺の心の中を読んだように嫌な目で見てくる。
「なんか、失礼なことを考えてない?」
『別に………考えてない』
勘が鋭い時が多いので会話するのも一苦労。オルガの気持ちの変化にも過敏に気が付いていたみたいだし、まあ、そういう風に周囲に気づかうからこそあの頃の俺達はあそこまで行けたのだと今更ながら思う。
きっと本人は否定するだろうけれど、鉄華団を陰で支えていたのは確かにビスケットだった。ビスケットを失った後のオルガの忙しさはやはり異常という状況だった。
忙しく、目を回しながら、それでもみんなを想い続けるオルガの追い詰められているさまに俺達は気づけなかった。支えられなかった。
「まあ、多分だけど。オルガを支えようとはしなかっただろうけど、それでも心のよりどころになろうとしたのがサブレじゃないかな?多分サブレとオルガは友人だったんだと思う」
『なんでそう思うの?やけに確信的な言い方をするけど』
ビスケットの言い方はどこか確信めいたものを感じた。
「う~ん。サブレの行動を考えていたらなんとなくね」っと苦笑いを浮かべながらそれでもどこか嬉しそうにしている―――――ように見える。
しかし、サブレという人を知らないから何とも言えない。
又聞きした限りだとすごく強く頼りになりすぎる気がするのは俺の気のせいだろうか?「まあ、強すぎるというのは……あっているよ。だから何だろうね。多分サヴァラン兄さんにも、周囲の人達にも孤高に見えたんじゃないかな?でも、それでもサブレは別に誰かとのつながりを求めようとしたんじゃないかな?自分の事を理解してくれる人を、そんな人間をどこかで求めていた。でも、その反対にそれを拒否していたのもサブレだったんだ」
?よく分からない。どうしてその二つが同列になるのだろうか?誰かを求める心と誰かを拒否する心が並列に語れるのだろうか?
「そうなんだよ。一見見て相反する心はたった一つの目的の元で生まれたんだ。今ならそれがよく分かるよ。道や方法は全く違ったけど、サヴァラン兄さんも同じだったはずだから………家族の為、親の為それが二人がずっと向き合ってきた思いなんだもん」
そこまで言うとまるでビスケットは向き合わなかった風に聞こえるから訂正してほしい所である。まあ、言わないけど。
「サヴァラン兄さんは家族の為に努力をして、上を目指そうとした。上を見ながら食らいつきながら、アピールしながらね。でも、サブレは親の期待に応えようとするあまり自分を追い込んでいった。それはサヴァラン兄さんも同じかもしれないけど、追い込み具合はサブレの方がひどかったかもしれない。実際父さんや母さんはサヴァラン兄さんよりもサブレの方に期待していたと思うから、それだけサブレの才能の高さはサヴァラン兄さんに嫉妬させたと思うし」
サブレという優秀な弟とサヴァランという努力家の兄。どっちがいいのだろうと考えるが、よく考えるとそれに挟まれるビスケットという立場が一番嫌だと思う。
優秀な弟と努力家の兄………か。
逆の言い方をすれば努力をしないと上に行けなかった兄を見ながら成長したといえると思う。
「だからかな、サブレとサヴァラン兄さんの関係はグリフォン家の中でも冷め切っていたと思う。だけど、それはサブレの所為でもサヴァラン兄さんの所為でもないと思う。でも、そんな家庭環境だからこそ、努力しないと生活が厳しかった。貧乏だったしね」
貧乏だった。という言葉はかつて俺はドルトの時に聞いた気がする。
家が貧乏でドルト3に来たかったっとビスケットは口に出していた。
貧乏だからこそ、そこから脱しようとする気持ち、そこから生じた家庭環境の悪化、そして両親の死をきっかけに兄弟仲が本格的に割れてしまったという話だろうか?
「そうだね。両親の死をきっかけにサヴァラン兄さんは俺達を養おうとし、サブレは親代わりの人を探そうとした。でも、サブレの行動はサヴァラン兄さんから見たら冷めたものに見えたんじゃないかな?多分だけどね。でも………」
ビスケットは口を重たく閉ざしてしまい、その先が言いにくそうにしており、さらに車の速度を上げながら口を開く。
「それも絆を切りたくなかったが故だったんじゃないかな?親の絆を切れてしまったからこそ、兄妹の絆を切りたくはなかった。サヴァラン兄さんのやり方では限界が来るとすぐに分かった。だから、探したんだと思う。でも、サヴァラン兄さんには分からなかった。同時に、サヴァラン兄さんのサブレを切ろうとした行為が逆の結果を生んだんだと思う。親からの期待に応えようとするストレス、二人の兄より優れていたという負い目、そんな負担がサブレの親への思いとつながって『闇』を作り出した」
両親へのストレス、兄妹への負い目……か。正直家族を知らない俺からすれば無縁な感情なんだけど。もっと分かりやすいたとえは無いかな?
「う~んそうだね。三日月で分かりやすい………か。三日月には無縁かもね。確かに、オルガとかからの期待を重たいっと思ったことないよね?」
うん。無い。
オルガからの期待を重たいなんて思う事も、思ったことさえもない。オルガが言えば何でもする。
「そういうのをやめてほしかったんだけど」
冷たい目で見られてしまった。
「まあ、いいや。そうだね……ハッシュ君だっけ?後輩が入ってすぐに三日月を追い抜いてオルガの期待を奪ったらいやだろ?」
うん。嫌だ。そういうことを想いたくもない。
「まあ、こういうのは突飛かもしれないけど。要するに、期待されれば、逆に期待されなかった………されなくなった人間の気持ち。そして、出し抜いてしまった人も気まずいよね」
まあ、そういう言われ方をすれば気まずいと思う。
その辺にサブレという弟の事情があるのだろう。
「親からの期待は次第にサブレにある一つの目的へと突き進ませた。完璧になりたい。親の期待に常に応え続けたいという気持ち。それは反対に周囲から完璧さ完全さ以外の『何か』を排除するように動いた。それが『闇』とつながったんだと思う。サヴァラン兄さんから斬られたことで完璧になるためには他人とのつながりを切った方がいいという暴論に辿り着いたのが『闇』で、それでも他人とのつながりを重要視したのが『サブレ』自身だった。ぶつかり合った『心』は歪で不安定なモノへと変わっていった。多分、切り離したのはサイガさんの死がきっかけだったんだろうな」
サイガ・フリーデン。アフリカ戦線の際にビスケット達と出会った男性というぐらいしか知らないが。どうも友人だったらしい。
しかし、友人になった人間の死がきっかけに自分の『闇』を知ったという事だろうか?「そう、知った。だから、切り離したんだと思う。同時期にサブレは覚醒者に目覚めたって言ってたし、切り離すタイミングとしてはちょうどよかったんじゃないかな?」
だったら、その『闇』の体はどうなるのだろう?コットンの話を聞く限りだと、イオク・クジャンの者を使用されているという話だったけど。
「多分、同時期に何か利用できる死体やDNAをアインはククナに引き渡していたんじゃないかな?そのうちのイオクっていう人の死体から作ったクローンを何に使おうとしたのかは分からないけど。丁度ギャラルホルンを乗っ取ったタイミングだっただろうし、空の器っていうのかな?魂の宿っていない量産型Eの初期型の別タイプの研究用の体に入ったのが『闇』だったんじゃないかな?」
非科学的だな~っと思う反面、覚醒者という別の意味での非科学的な存在である自分やビスケットを知っていると一定の説得力を持つ。
ゲイナーは言った。人には魂があると、覚醒者は知識の進化系であり、中には魂を覗くこともできるという。記憶や知識というのは一種の魂と言ってもいいだろうっと。
『闇』という魂は空の肉体に宿り、まるで自分は作られた存在であるかのようにふるまい、テラやククナを利用することで、間を動き回ることでクリュセ中をひっかきまわったのだろう。
「サブレやグリフォン家が造ってしまった『闇』はクリュセの人々の『不安』や『向上心』、『嫌悪感』などを喰らいながら成長していき、それを増長していたんだと思う。だから黒衣の騎士なんだよ。『黒衣』……『黒い』騎士なんだ。黒くて暗黒で真っ黒。人を守る騎士が人を追い詰める。反対だから黒。人を守るや平和を白という色でイメージした場合、黒は何?」
絶望。不安。死。拒絶。………そして『闇』。
「そうだね。だから『黒』なんだよ。『黒い騎士』から『黒衣の騎士』。黒衣の呼び方を黒いに変えて。黒は闇という意味。闇の騎士。戦いや戦争、紛争の中で培ってきた不安や絶望がサブレの『闇』と共に一つになって成長したのが『黒衣の騎士』なんだよ」
それを又聞きでたどり着いたビスケット。まあ、家庭の事情や、サブレ・グリフォンが『選別者』であることを知っていたからこそ辿り着いた結論何だと思う。
選別者であるが故の試練なのかもしれない。
最終戦争に辿り着く前に自分と決着を付けろっと。
「そうだね。そう思えば、アカシックレコードがこのタイミングでサブレに真実を告げた意味が分かるね。『お前は特別なんだよ』っと『真実に向き合え』って。知っていたんだ。『闇』が巣くっていることも、試練にちょうどいいと思ったんだと思う。選別者としての試練」
俺達はクリュセに向かう。まだ、完全真実には辿り着いていない。
どうだったでしょうか?面白かったと言ってただけたら幸いです。今回のテーマは『闇』と『愛』になります。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅡ《その闇はどす黒い》』になります。お楽しみに!