<31>
ガンダムバルバトスとガンダムフェニックスが互いにぶつかり睨み合う状態が数秒だけ続くと、フェニックスが先に離れていく。そして、ガトリングの照準をバルバトスの方へと向けるとバルバトスはチャフの中へと突っ込んでいく。
フェニックスのガトリングの砲撃がチャフの中に隠れているバルバトスへと当っていく。バルバトスは致命的な攻撃だけを的確に避けるが、少しずつ腕や脚や頭部などに充てっていく。
その姿をブリッジの画面から確認していると、ビスケットは下唇を噛みながら戦いの経過を見届けていたが、それは一方的なものだった。
その戦いの姿はビスケットにかつてのバルバトスのパイロットである三日月・オーガスとテイワズの組織『タービンズ』のパイロットであるラフタ・フランクランドの戦いを彷彿させていた。
フェニックスガンダムの姿はどこかテイワズフレームの『百里』をサイズダウンしたような姿をしている。飛行形態に変形するところは百里を連想させた。
「まるで百里みたいだ……」
ビスケットのつぶやきにメアリーとイオリはそろって「百里?」とつぶやく、するとソニアがそばの端末を操作して正面の画面に百里のデータを表示させる。双子の姉妹はCICの仕事をこなしながら正面の画面に目を向ける。もっとも、今の状況では二人に仕事はほとんどない。
ビスケットは百里の姿とフェニックスの姿を見比べてみると、ソニアが得意の解析を終えていた。
「フェニックスと百里の違いは単純な装甲の差ね。フェニックスは装甲を極限まで薄くすることで大気圏内での運用を可能にしているのに対して、百里は一般のパイロットを前提にしているからある程度防御力が必要なのよね、その為に重たい装甲の分だけ大型のバックパックが必要になった、それが百里の大きさの理由。フェニックスは装甲を極限まで薄くすることで通常モビルスーツが搭載できるギリギリの高性能ブースターですんでいる。機動力と推進剤の量は圧倒的にフェニックスの方が、防御力と攻撃力はバルバトスが上なんだけど、ソードでは機動力が足りない上に遠距離攻撃が全く存在しないから………」
ビスケットは内心相性が悪すぎると思いながらもマルチスタイルを射出するかどうかを悩んでいる。しかし、今更それでどうにかできるような状況ではないし、それにそれを相手が黙って見てくれるような状況ではない。
ビスケットは記憶を紐解きながらかつて鉄華団の三日月は百里にどうやって対抗したか思い出していた。
(思い出せ!思い出すんだ!あの時三日月はどうやって百里を攻略したかどうか思い出すんだ………あの時………三日月は!!)
思い出したビスケットは受話器を手に取り、ひたすら叫んだ。
「サブレ!旋回中にシザーアンカー!!」
<32>
フェニックスは攻撃をバルバトスのコックピットへと当てようとしつこく攻撃を仕掛けてくる。バルバトスは耐熱性小型シールドで受け止めながら攻撃を避けていくが、チャフの中にいるからと言ってもこのままでは耐久値だって限界が訪れるだろう。
俺は操縦桿を必死に動かしながら攻撃を回避しているが、フェニックスは近づいてこないようにとデブリを駆け抜けながらガトリングでの攻撃に集中している。近づいてきたら何とかできるんだが。
避けることに全神経を集中させていると、声だけがコックピット内に響き渡った。
「サブレ!旋回中にシザーアンカー!!」
そうか!旋回中なら減速するしかない、だったら!
フェニックスガンダムは一旦距離を取り、こちらに向かう為に大きく旋回する間、速度を落とす段階で俺はバルバトスのシザーアンカーをフェニックス進路上に飛ばした。
飛ばされたシザーアンカーはフェニックスの脚部にとりつくと、フェニックスはバルバトスを振り払おうと右往左往しながらデブリの中を移動していく。小型故に小回りが利くのがこいつのメリットだろう。
フェニックスはわざと軌道を大きな小惑星へと向けると、小惑星にあたるギリギリのところで軌道を大きく変え、バルバトスは大きな音をたてて小惑星にあたる。
フェニックスが逃げていくようにヴァルハラ目掛けて移動するが、シザーアンカーがフェニックスの体を引っ張ってしまう。砂煙の中からバルバトスが対艦刀を小惑星に突き刺して体を支えながら現れた。
接触通信越しに男の声が聞こえてきた。
「これを最初から狙っていたのか……!」
くぐもった声が聞こえてくると、俺はバルバトスを操作して思いっきりシザーアンカーを引っ張ってフェニックスをこちらにひきつける。
大きな衝突音と共に俺はフェニックスに向けてビームサーベルを振り下ろす。
フェニックスは右膝をつき、両腕で体を支えている、フェニックスは機動力が高い分防御力が低いため、結果的に小惑星への衝突時にかなりのダメージを受け、振り下ろされたビームサーベルの攻撃をビームクロウで受け止める。
再び互いの視界がぶつかる。
「少々しつこくないかな?」
正面のモニターに仮面を着けた金髪の男が姿を現した。表情を全て覆い隠すような大きな仮面を着けた、辛うじて声で男だと判断できる男は俺に向けて皮肉を吐き出した。
「そっちこそいい加減落ちたらどうだ?」
2人の戦いがヒートアップしようとしていると、視界の先で大きな光の筋がギャラルホルンのスキップジャック級を襲った。
<33>
ビスケット達の視界の端にいたギャラルホルンの攻撃が激しさを増していく中、モビルスーツが交戦している以上艦に絡みついたワイヤーを取り除くことができない。チャフが主砲のビーム攻撃を半減しているが、それでもこれ以上の攻撃はかなりきつい。
対策を考えていると、スキップジャック級の右側面に主砲クラスの攻撃が直撃し、大きなダメージを抱えてしまい、今にも落ちそうになってしまう。
こんな攻撃をする人物と機体にビスケット達は一つしか心当たりがなかった。
ビスケット達の視界の先にはデブリにガッチリ体を固定して、四つ足で背中の二つの砲台をスキップジャック級へと向けているピンク色の機体を見付けた。
「あんな奇抜な機体色を選ぶ人間がほかにいるとは思えないけど……」
メアリーの引きつった声と共にイオリは固有周波数を確認した。
「固有周波数……『ガンダムフラウロス・リファイン』です!シノさん来てくれたんですね……!」
同時に攻撃しようとしていたフェニックスがバルバトスから離れる為にシザーアンカーを切り裂く、フェニックスはそのまま小惑星を蹴り離れていく。サブレは警戒を高めるが、そのままバルバトスから離れていき、エヴォ・エクスが生き残ったスキップジャックの艦長に指示を出す。
「艦長。撤退信号をあげたまえ」
艦長は必死な形相で「まだ戦えます!」と戦うことを提案する、エヴォ・エクスは仮面の奥の表情を感じさせないよう、先ほどとは全く違う平坦な声で答えた。
「止めておきたまえ。この距離では私が到着する前に君の艦も落とされてしまう。それでも良ければ戦おう。どうかな?」
艦長は落ちることを恐れ、撤退信号を上げる。しかし、エクスの視界には命令に逆らって戦おうとしているバエルの姿があった。
フェニックスの腕でバエルの肩をがっちり捕まえると、そのまま逃げるように去っていく。バエルにのったジュリエッタは激しく抵抗していく。
「離してください!まだ戦えます!」
「いや、無理だな。君はすでに戦えるような状態じゃないだろう。それに、バルバトスならともかく、グシオンにすら勝てないような実力ではな」
ジュリエッタは悔しそうに下唇を血が出るほどに噛み、離れていくグシオンを睨みつけた。
バエルとフェニックスの後を追うようにキマリスも撤退していく。
ビスケットはイオリに指示を出してヴァルハラからも撤退信号を上げさせる。シノや明楽達がそれを確認すると、ワイヤーを切り裂きながら撤退していくが、サブレは壁に突き刺さった対艦刀を抜き取り、撤退していく者達とは違う方向、デブリの一番奥の方を睨みつけた。
<34>
デブリの外から一連の戦いを眺めていた赤とピンクのガンダムキマリスのパイロットである紫色の髪と綺麗な顔立ちの女性が逃げていくガエリオのキマリスを睨みつける。同じように隣で先ほどの戦いを見届けていた青と水色のバエルのパイロットである青い髪の整った顔立ちの若者が紫色の髪の女性に指示を出す。
「アルミリア。PN01からの指示、撤退だってさ。それに多分……」
そこまで喋ったところでアルミリアは代わりに答えた。
「ばれているでしょ?分かっているわよ。バルバトスのパイロットからの敵意を感じるし……あのパイロットは覚醒者?そうなの、ジャック」
ジャックと呼ばれたパイロットは肩をすくめながら答えた。
「さあ?可能性ならあるけど……けど、今仕掛けるのはやめた方がいいだろうね。僕としてはグシオンに興味があるけど……君は?」
アルミリアは答えようとはせず、撤退していく。
「私はバレる前に帰らねばならないから。ジャック、あなたと遊んでいる場合じゃないの……」
帰っていくキマリスの跡をバエルが追う。
「僕だって一緒に帰って君の制止役をしなくちゃいけないんだけど」
軽口を叩きまくるジャックを邪険にしながら逃げていくアルミリアは正面の画面に映る自分の姿を確認する。パイロットには不似合いだからと短く切り落とした短めの髪を少しだけ触っていく。
(目的を達したら……また伸ばさなきゃ。マッキーはこの髪も似合うって言ってくれるかな?)
マクギリスの事を考えると少しだけ心が浮つく自分がいることにアルミリアが気が付いた。
<35>
「シノ!任務はどうしたの?」
俺は艦長としての仕事をメアリーとイオリに任せて格納庫に入って来たフラウロス(シノ曰く六代目流星号)のコックピットから出てきたシノに向かって突っ込んでいく。シノはいつものさわやかフェイスで俺を受け止めてくれた。
シノの左頬には大きな斜め傷がついていて、新調した新しいピアスが光り短い茶髪を含めて俺には無い要素ばかりで俺は少しだけ嫉妬してしまう。みんなのムードメーカーぶりは健在だ。
もっともファントムブラッド隊のムードメーカーは明楽もいるので、二人そろうと本当に賑やかになる。もっとも、サブレはそんな賑やかさが嫌らしく、すごく嫌そうな表情をするのが印象的だ。
シノは笑顔で俺の疑問に答えてくれた。
「いや~、マハラジャのおっさんからお前たちがギャラルホルンに襲われたって言われてよ、多分もう一回仕掛けるだろうから追いかけて来いって言われたんだよ。間に合ってよかったぜ」
二人で廊下まで移動すると、何かを考えているサブレが追いついた。その後ろから明楽が大きな声で近づいてくるが、サブレは明楽の顎をアッパーで殴りつけ、格納庫の下の方へと叩きつける。俺とシノの視線が一瞬だけ明楽の方を向く。明楽は「なんで~!?」と悲鳴を上げていると、サブレはその間も全く表情を変えずにいる。
クレアさんが長めの金髪を後ろでまとめている姿で現れ、手元にドリンクをたくさんもちながらサブレから順番に配っていく。シノはある程度の事情を知っているのか、簡単に自分の名前と所属を紹介すると、肝心のクレアさんも同じように自己紹介する。
そこで同じ表情で考えていたサブレがようやく口を開いた。
「ブリッジから何も見えなかったか?デブリの外からこっちを見ていたキマリスとバエルがいたんだけど。いたって言ってもちらっとだけ見えただけだし……確信が無いんだけど……」
俺は思い出すこともなくすぐさまに否定し、シノは「何の話だ?」と疑問の声は発するとサブレは次の言葉をつづけた。
「赤とピンクのキマリスと青と水色のバエルが一瞬だけ見えた」
サブレの言葉に衝撃を受けたのはクレアさんだった。彼女は口元を押さえて驚き、唐突に正体を明かした。
「多分、『ガンダムキマリス・レッドクイーン』と『ガンダムバエル・ブルーレイ』だと思います。多分、私を回収するために本国から送られた部隊でしょう。この二機は特に有名ですから。私の出身国である………木星帝国からの」
木星帝国という聞きなれない言葉に驚いたのは俺とシノだけで、サブレは特に驚くこともなく再び考え込んでしまう。
木星帝国―――――どんなところなのだろう?
<36>
本来南側の宇宙港は一般商会などの輸送船が止まる専用の港だが、今俺たちが走っている道路は南側の宇宙港から都市部へ向けて車で走っていく。
本来なら東側の軍港に泊める事が義務づけられているが、現在東軍港は車の出入口は封鎖されており、クレアの安全を考えて南側の港から出ることになった。
俺が車を運転している後ろで兄であるビスケット兄さんとクレアが会話を弾ませていた。
「南側には海水があるので、夏になると海岸で泳ぐことができるんです」
兄さんの説明にクレアはウキウキした様子でその光景を心待ちにしていた。
「海があるんですか?」
「はい、逆に北には山があり、冬はスキーをしたりできるんですよ。このアルンは宇宙都市最大の規模で、過ごすうえで飽きないように娯楽要素が色々あるんですよ」
「いいですね。木星では家からすら中々出させてくれなかったもので……すごい」
光が車の窓から車内に入ってくると、クレアの視界いっぱいに海と海岸、都市部が見えてくる。道路の下には貨物列車や人を運ぶ列車が走っている。今日は晴れているようで天井のドームに映し出される天候は曇りすらない快晴だった。疑似太陽の光が海に反射しているため、十月とは思えないぐらいだが、一歩外に出ると十月の寒さが襲うのだから分からない。
車はあっという間に都市部の中心へと移動していくと、そのまま車をEDM本部前の駐車場に止めてしまうと、そのままEDM本部前で立ち止まる、クレアは道路を挟んだ左側に存在するEDM教習学校の方へと視線を向けた。口を開いたのは俺ではなく兄だった。
「あそこはEDMの教習学校で、俺達を含めてEDMに所属している士官や社員のほとんどはあそこを卒業することが前提なんですよ」
クレアを後押しするように自動ドアからロビーに入ろうとしたとき、クレアは端青色のランプの方をじっと見つめて、ロビーの中に入っていく。兄さんが受付嬢に二人の女性に手を向けると、彼女たちは黙ってうなずきそれぞれの仕事に戻っていく。歩いて数分の一番奥にあるエレベーターに乗り込むと、最後に入った俺はエレベーターの操作盤の黒い認識装置のところに俺の服の腕部分につけている金色のワッペンを当てる。すると、操作盤に書かれている装置の続きに15階から20階が表示される。
後ろで一連の操作を見ていたクレアは俺が19階のパネルに触れた瞬間に声を上げた。
「そのワッペンは何か特殊な物なのでしょうか?」
そこで俺は兄さんの代わりに口を開いた。
「このワッペンは幹部クラスにしか配られていない物なんだけど、このワッペンには特殊チップが内蔵されていて、それを近づけると15階から上に上がることができるようになっているんだ」
クレアはエレベーターが上へと上がっていく中で、俺と兄さんの幹部ワッペンを見比べている。
「ワッペンに数字が書かれていますね。サブレさんが『18』でビスケットさんが『25』?これはどういう意味があるんでしょうか?」
兄さんは言いにくそうに答えた。
「幹部に上下は無いんですが……その……基本は入って来た順番に1~30までの順番に割り振られるんです。その後は、やめていった幹部ナンバーが開くたびに一個ずつずれていくんです。俺は入ってから25番目の幹部なんですよ。俺はサブレと違って新参者なもので」
どこか自虐的なセリフに小声で「フン」と発すると、兄さんは「アハハ」と誤魔化すように声を無理矢理出すと、クレアはクスクスと笑ってしまう。
そんな話をしていると19階に辿り着いた。
20階は事実は代表であるマハラジャの居住地なので、EDMの施設は代表室である19階で最後だ。
壁一面に木でできたようなデザインで、床は高級品のカーペットのような造りにすら見える。三人でその床を汚さないような足取りで歩いていき、長い廊下を歩いていく。左右に様々な名前の部屋が存在するが、そのすべての部屋から人の気配を感じない。
歩いて数分で代表室と書かれたプレートが付いている部屋の前に辿り着いた。
両手開きのドアを俺が開くと、部屋の一番奥のデスクにマハラジャが座っていた。
大きな部屋にソファが二つと、はさむようにテーブルが備え付けられている。左右にはあらゆる情報をまとめられたデータが残っており、マハラジャの真後ろは一面が窓で、視界の先に海が見える。
マハラジャは大きな巨体で椅子から立ち上がると、クレアをソファまで案内する。クレアも一回頭を下げてソファに座り込む。すると、右隣のドアからタイミングを見計らうようにコーヒーを二つもって出てきた眼鏡をかけた黒髪のショートカットの秘書がテーブルに近づいていく。
「ここまででいい。次の任務は追って連絡する」
俺と兄さんは頭を下げてすぐに部屋を出ていく。
時間を掛けながら本社ビルから出てくると、兄が言いにくそうにもじもじしているのを見かけた。
「何?用事?」
「この後……オルガ達の墓参りに行きたいんだけど……」
俺はその言葉には答えず、歩いて車へと移動していく。
<37>
クレアは差し出されたコーヒーを一口だけ飲み、真剣な眼差しでマハラジャの三白眼をじっと見つめる。彼女の目の前に映るその姿は聞いていた以上に大きく見えるが、しかし、だからと言って背が高いという風には見えない。せいぜい180㎝と予想する。
気が付けば秘書らしき女性がいなくなっている。
「ご足労すまなかったな。木星帝国の姫君」
マハラジャの声に体が反応してしまう。クレアは一回ほど頭を下げて口を開いた。
「いえ、ファントムブラッド隊の皆さんに迷惑をかけてしまって……」
クレアはもう一度コーヒーを飲んでみると、マハラジャは単刀直入に尋ねた。
「済まないが、こちらも忙しくてね。本題に入らせてもらう。今、木星帝国は何を企んでいるのかというのを聞きたい」
クレアは一瞬だけ取り出すのを躊躇うと、ポケットの中から一つのデータ端末を取り出す。マハラジャはノートPCに差し込み中のデータが表示させる、するとそこに出てきたデータはコロニーのように見える。
「コロニーで………は無いな。これは?」
「コロニー型の兵器だと思います。まだ設計書を書いている段階ですが……それに、何かを企んでいるようで………それ以外にも。先ほどその先遣部隊と思わしき者達の機体をサブレ様が確認しています。何を企んでいるのか……」
マハラジャは立ち上がり、窓まで歩いていく。クレアも同じようについていくと、窓の外ではサブレとビスケットが部屋から出ていくところが見えて取れた。
「人間が宇宙に上がって二千万年が経った。宇宙に上がって以降、人類は進化の呪いに掛けられてしまった。一万年前、人類は滅びの危機に立たされてなお、呪いを紐解くことができなかった」
クレアはマハラジャの悲しげであり、かつ諦めていない確かな熱の籠った瞳を見つめた。
「信じているのですか?人類を苦しめ続ける呪いを紐解けると……」
「ああ、信じている」
二人の視線は静かにあの兄弟へと向いた。
<38>
ビスケットは近くで買ってきたお酒とジュースを墓石の前に置き、最後にお菓子を紙皿に入れると、そのまま同じように置く。
ビスケットは一人、墓石の前でしゃがんで手を合わせる。
墓石には多くの名前と共に『鉄華団犠牲者』と書かれた文字と鉄華団のマークが書かれている。
ビスケットはEDM代表であるマハラジャにこの墓を作ってもらえないかどうかと執拗にお願いし、結果として叶うこととなった。
オルガ・イツカと書かれた人物から始まり、三日月・オーガスなどの名前が書き連ねられている。
そして、最後に『彼らの犠牲を忘れてはならない』と文字で区切られている。
ビスケットは立ち上がると、視界いっぱいに広がるアルンの街並みが広がる。いつの日か、鉄華団の死んでいった者達が名前を普通に残せる日が来ると信じていた。
「……帰ろうか?」
ビスケットの声にサブレは空を向きながら答えた。
「そうだな……寒くなりそうだし」
同じように上を向くと、ビスケットの額に冷たく白い何かが触れた。
雪がかすかに降り始めていて、二人は少しだけ季節外れの雪で体が冷える前に帰ることを決めた。
さらに寒くなっていくP.D.332年10月の出来事―――――人類が宇宙に上がってから二千万年が経ってしまった頃の出来事だった。
《アース・ガイド編終わり 次回スターダスト・インパクト編開始》
どうだってでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです!先に予告している通り、次回からスターダスト・インパクト編開始になります。今回の話は十月の出来事です。次回はさらに二か月ほどが経ち、クリスマスから年末までの数日間の話になる予定です。
そして、再びですが、本当に申し訳ありません。肝心な部分である『万』が抜け落ちておりました。
次回のタイトルは『スターダスト・インパクトⅠ』になります。楽しみに!