4
まだ、クリュセ内でモビルアーマーが暴れている時、一台の車はクリュセはずれの空港内に停泊していた大型輸送飛行機に入っていく。
大型飛行機は荷物やモビルスーツが大量に入る様にモビルスーツより高い格納庫は直接乗り入れができるようにと後ろに作られている。
格納庫フロアは四階構造になっており、それぞれ左右に通路が作られている。
車が入った段階で飛行機は忙しそうに激しく動き回っている。
その車に乗り込んでいた人物がまず右足を出し、そのまま目の前にいる軍服の男が彼女の右手を握って立ち上がるために手伝う。
その人物がゆっくりと立ち上がり長い金髪が風になびいて揺れる。光が金髪に反射し、なびく髪の毛の一本一本に男は見とれてしまう。
クレアは真剣な面持ちで飛行機の中へと進んで行く。
廊下を歩く靴の響く音が部屋の中にも聞こえてくる。金属の床や質素な壁は寂しさを覚えるが、室内の備品はどこか中にいる人を気づかうように木のテーブルに木の椅子、木の箪笥の上には一輪のピンク色の花が透明な花瓶に入っている。
窓の外の景色は自分がこの飛行機の中に入って来た時とまるで同じで、寂しい滑走路に人が何人かが行きかっているだけである。
私がこの部屋に入ってから三十分ほどが経ち飛行機のエンジンの駆動音が金属の壁の振動越しに聞こえてくる。
今更お姉様が何の目的で私を攫うのか分からないが、それが私が幼いころから持っていた触れた人物の記憶や心を覗くことができる力を悪用することであることは想像できる。
しかし、お姉様は私の前に近付くのも嫌いのか、それとも様子をうかがっているのかは分からないないが、この部屋の前廊下を通る靴音は軍服の音しかしない。
特に警備体制が高いというわけでも無く、このタイプに飛行機をよく知らないが、むしろ低いように見える。
モビルスーツも特に搭載しているわけでも無く、警備体制も普通。お姉様の目的がいまいちわからない。
そう思っていると、金属製のドアをノックする音が聞えてきた。私が「どうぞ」っと大人しめの声を出すとドアの向こう側から私の声より高い「入るわ」っと言う声が聞こえてきた。
その声の主を私は予想していたが、その人物はドアをゆっくりと開け中へと入ってくる。私より多少高い背、スタイルはとてもよく、短めの金髪にはカールがかかっている。私と似ているのにどこか高圧的な視線と相まってどこか偉そうに見える。
両手を両肘に当てて部屋の中へと入って来る其の人物は私の姉である『ククナ・フォン・フレイヤ』が何を考えているのか分からない様子で入ってきた。その隣には金属の手錠で両手の拘束されたスーツ姿の男が現れた。
「久しぶりねクレア。会えてうれしいわ」
姉は微笑みながら部屋の中に持ち込んだ木の椅子に座ってスーツ姿の男を床に放つ。
「何ですか?」
警戒心を最大限まで上げて会話をすることは難しく、あまりしたいことではない。しかし、お姉様と会話をすること自体は警戒心を高めないと出来ることではない。
お姉様は足を組み、右手でまっすぐ男を指さすその姿はまるで女王様と言ってもよさそうな面持ちである。
「この男。実はクーデリアの側近の一人でね。実はある『モノ』を見た可能性があるかもしれないの。薬で思考をある程度奪っているからあなたは自由に覗けるはずよ」
そういうお姉様の顔はいつもの微笑み顔である。
いつだって変わらない。
「………お姉様は変わりませんね」
「そうは言っても私とあなたでは生活が違うけどね。私は幼い頃から研究所や学校で過ごすことが多かったし、あなたは箱入り娘みたいに部屋から出してもらえなかったもんね」
「それでも、昔のお姉様はそこまでじゃあありませんでしたよ。小さい頃はまだ優しい人だった」
視線を背けもう一度薬で意識が濁っているであろう男性の姿を見る。小さな呻き声を出し、苦しんでいるさまが見ていて苦しくなってくる。早めに見てあげる事がこの男性の為になるかもしれない。
私は床に膝をつき男性の左手を出来る限り優しく持ち上げ、祈る様に握りしめる。
「あ、そうだ。見るのはクーデリアがテイワズのマクマードからもらったであろうカードキーを二つの名前と色。時期は木星帝国がラスタル暗殺前後だと思うわ。それとそのカードキーの行方」
その辺の知識を元に記憶を探っていると、濁った記憶の中からある光景が見えてきた。
クーデリアが赤いカードキーと青いカードキーをマクマード受け取っている姿を横から見ている風景である。
『クーデリア嬢よ。このカードキーをあなたに託す、出来る事ならこれを隠してほしい。その方法は任せる』
マクマードは神妙な面持ちで語り掛け、クーデリアは嫌な予感を表情に出している。
『何があったのですか?』
『今は言えん、いずれ知る日が来るだろう。そして……最後の願いだ。我々を探さないでくれ』
そこで記憶は切れており、次に探る記憶はカードキーの行方だったが、ヤマギという男性?に青いカードキーをわたしている記憶しか見えてこない。少なくとも赤いカードキーについては分からなかった。
「で?どうだった?」
お姉様は先ほどから全く変わらない一件優しそうな表情を浮かべながらこちらを見ている。
「青いカードキーはヤマギという人が持っているようです。赤いカードキーまでは分かりませんでした。少なくともこの男性は知らないようです」
「そう、じゃあカードキーの名前は?」
「……青いカードキーは『マイク』で赤いカードキーが『アイス』でした」
お姉様は微笑みの種類を含みのあるものに変え、小声で「なるほどね……」っと一人思考し始めてしまう。
マイクとアイスという名前に私自身どこか聞き覚えがあるように思えた。どこかで聞いたことのある名前だっと思考していると、ある家の掃除をしていた時の名前だという事に気が付いた。
「確か……『傷だらけの王様』ってタイトルの絵本の主人公とヒロインがそんな名前だったような気が……」
そういう話だったような気がする。
お姉様は少しだけ驚いたような表情をしつつ一瞬で元の微笑みに戻ってしまう。
「『傷だらけの王様』著者:エブリー・ロン。エブリー・ロンは木星出身者だと言われているけれど、木星にはそんな人間はいないという事は分かっているわ。じゃあ、このエブリーという人は誰なのかしらね」
「分かっているような声ですよ」
楽しそうに微笑みながらからかっている事だけは私には分かる。昔からたまに会えばこんな風にからかって楽しんでいる人だった。
今も多少楽しんでいる最中なのかもしれない。
「エブリー・ロンは厄祭戦時代の人間で地球出身者よ。厄祭末期に開発者として多少は名をはせた人間よ。いつ死んだのかすら分からない人間なんだけどね。まあ、アカシック・レコードが回収したんじゃないかしらね。死んだ人間の脳をデータ化して利用していたみたいだし、多分現在のPN01の前任データがエブリー・ロンなんでしょ」
「だったら……傷だらけの王様は……」
「そこまでは分からないわ」
そう言っていると、飛行機が少しづつ移動していき飛び立とうとしているのが見ていてわかる。すると、空港の中に入り込んでくる一台の車が見えてくる。誰かが乗り込んでいるように見え、後ろ左側の窓から身を乗り出しサブレがアサルトライフルを護衛隊に向けて引き金を容赦なく引く。
「クレア!!」
自分の名を叫ぶ彼を見る為に身を乗り出して窓にピッタリと引っ付ける。懐かしく思える彼の姿を見て私も叫ぶ。
「サブレ!!」
サブレの反対側の窓からは仮面を着けた男『モンターク』が同じように身を乗り出してアサルトライフルを撃ち続けている。
しかし、車がたどり着く前に飛行機は滑走路に乗っかり、速度を大きく上げていく。少しづつ巨体を浮かび上がっていき、車を引き離してしまう。
「安心しなさい。彼がここまで来たら返してあげるわよ」
微笑みを絶やさないでこちらを見ながら足を組みなおす。
私はサブレが来てくれたことに嬉しさを覚えながらお姉様の言葉を考え直す。
「それに、私は彼に会ってみたいのよね。あなたの心を射止めた人をこの目で見てみたいわ」
「彼をどうするつもりですか」
似合わないにらみをお姉様に向けるが、お姉様はまるで気にしないようにニコニコするだけだった。
「サブレ・グリフォンが特殊だったのは確かよ。でも、生まれ持った覚醒者だったけれど、それ以降サイガ・フリーデンの死まで力を使わなかったのは事実よ。でも、そのきっかけがあるはずよ。力を封じるきっかけが幼いころにね」
私はそれを知っている。初めて彼の手を触れたとき覗けてしまった。記憶の中にあるサヴァランという兄の絶望と失望の表情が彼を貶めたという事、心に完全になりたいという気持ちが生まれたと同時に他人と違う事、他人より優れている事が他人と分かり合えないことだという勘違いを生み、そんな勘違いが余計に周囲から浮く原因になった。幼いころ、ビスケット君と一緒に学校に通っている間が一番荒んでいた時代だったはずだ。兄の為に、家族の為に『敵』を潰していた時代が一番苦しく、荒んでいった。
心に常に影を抱え、闇を抱きしめながら、それでも他人の為を想いながら表では『自分の為に』と言い訳をしていた。
その為に『覚醒者』としての能力を封じ込め、自分が普通の人間だと言い聞かせてきた。
苦しみ、自分にむけられる期待という名のストレス、他人と違い過ぎるというズレ、優れているが故の不安、そう言う『負』の感情がサブレの気持ちを追い込んでいった。
友達もおらず、誰か好きな人を決めれば他の誰かを傷つけると遠ざけ、家族自分から離れていった。
そんな彼を救い上げたのは、オルガでも、サイガでも、私でもなかった。
前向きに考えよう。少しでいいから他人に手を差し出してみよう。
落ち込んだ時、苦しい時にいつだって彼が声をかけてきた。
初めて地球の学校に通った時、『テム・フォース』は真っ先に声をかけてきた。
「グットモーニング!!エブリワン!!ハウワーユー!!!」
「はあ?」
サブレの『闇』ですら手に負えず、それとなく遠ざける作戦しか取れなかったはずだ。それぐらい強く、個性的で、周囲の人間がかすむくらいに明るい。
「どんとこぉ~い!」
正拳突きのような構えで右こぶしを前に突き出しつつそう言い放つ記憶は見ていて微笑ましく思う。
自称友人っとサブレは言っているが、彼がいたからこそサブレはここまでこれたと言ってもきっと過言ではないと思う。
「なるほどね。『テム・フォース』……か。東南アジア戦線に入られて一日で崩壊したのよね。それとすれ違いでサブレ・グリフォンが本部防衛に戻ったのよね。まあ、その辺は私が予想してたけどね。どちらかが防衛に回しつつ、反対側が攻めを担当する。まさしく『双璧』よね」
お姉様は鬱陶しそうにしているように見えてどこか嬉しそうに見える。
彼らが戦っている間も常に思い、こうして会っていると常々思う。
「お姉様。勝つ気あります?」
お姉様は微笑みを絶やさないでいるだけで答えようとはしない。
「いつも思っていたんです。というか火星での戦いも思ったことですが、EDMに勝つにはテラと共闘した方がいいに決まっています。なのに、お姉様はテラといがみ合い、EDMが来るまでテラをクリュセに閉じ込めた。何が目的だったんですか?」
お姉様は答えようとはせず勝手な言い分を口にする。
「まあ、黒衣の騎士の独断専行は別にいいんだけど……結果は私にとって都合が良かったしね。もう、私達の手から離れているけれど、多分クリュセでの戦いで決着をつけるつもりなんじゃないかしら?彼の正体は………人々の不安を浮き彫りにさせる存在だと睨んでいるんだけどね。サブレ・グリフォンと……クリュセに居る人々との関係に決着をつけるつもりでしょ」
そういいながらお姉様は楽しそうにしている。そんな中室内に警報音が響き、お姉様は室内の通信機を手に取ってブリッジと連絡を取る。
「何事?」
「ガンダムエデンが接近中です。同時に左側から黒衣の騎士の機体も接近中です」
「あらあら。ここで決着を向けるつもりかしら」
私は窓に手を掛け彼が近づいている事を感じ取っていた。
5
エデンを一旦ソニアの元へと戻しており、イオリとメアリーを預けて、渉に車の準備をさせる。
イオリに対する罪悪が強すぎてどう会えばいいのかが分からない。
だから、今は目の前の救出作戦に集中することにする。しかし、そんな中、渓谷の奥から突き進んでいるガフェインの姿をはっきりと確認できた。
ガフェインの中からやはりというか、モンタークが姿を現した。
「クレアという女性が誘拐されたと聞いたが?」
「ソニア?」
すぐさまにソニアの方へと意識を向ける。ソニアはすぐさまに視線を外し明後日の方を見る。この女………どこまで話を広げたんだ。
モンタークは降りてきてこちらに近づいてくる。
「私も協力させてくれ、もしかしたらアルミリアと接触するチャンスかもしれない」
そういう事情か。
彼からすれば妹の事情や経過を知りたいと言った所だろう。ならば、俺が断る理由にはならない。
「だけど、あくまでもクレア救出が優先だ、そのついでになるけどそれでいいのか?」
「ああ、それで構わない」
渉が車を俺達の近くに寄せてくる。中から「準備できました」っと止めてくる。俺はモンタークと共に車の後部座席に乗り込み、共に走り出す。
クレアが空港に入ったという情報を提供したのはモンタークだった。
「ちょうどクリュセの北側でレジスタンスの動向を探っている際にそんな話を聞いたんだ。西の外れへの道を進んだ先にクーデリア・藍那・バーンスタインが火星連合を作ってから開発した空港があるとな。様々な物資を運ぶために作ったと聞いた。そこを木星帝国は再利用したとな。それを封じる為にククナは砂嵐を起こしていたという目的もあったのだろう。砂嵐が吹き荒れている状況では空港が使えないからな」
仮面を直視すると時折笑いそうになるので、見ないようにしながら思案顔と腕を組みながら考える。
「確かに、通信妨害するという目的以外にもそんな理由があったんだな。外との連絡手段を一切断つ。テラが議会に封じられている間に自分はクレアを連れて離脱……しかし、理由が」
理由が分からない。
そう考えているとその辺も事前に調べていたモンタークが説明してくれた。
「どうもクレアという女性の『能力』に関係しているらしいぞ。どんな力なのかは分からんが、ククナという女性はクーデリア・藍那・バーンスタインが持っているコロニーレーザーのカードキーの所在を知りたいんじゃないかっと私は睨んでいる」
まさか……という時は何度かあった。まるで心や記憶を覗かれているような感覚があったのは事実だ。最も、俺が覚醒者として目覚めてからはどうもうまく作用していなかったようだが。
しかし、ククナはクレアには興味がないみたいなことを言っていなかったか?
あの言葉が嘘だったとはあまり思えないのだが………まあ、直接聞けばいいだろう。
今は目の前に見えてきた空港を前にして選び取ったアサルトライフルをいつでも撃てるようにと準備を整える。
柵を壊しながら突き進み、身を乗り出してアサルトライフルの照準を容赦なく飛行機の周辺に居た護衛部隊に向ける。すると、飛行機は急遽動き始める。
すると、飛行機の窓にクレアが見えた気がした。
「クレア!!」
中からはクレアが叫んでいるようにも見えるが、飛行機は滑走路へと移動しそのまま走り出す。
「このままじゃ!」
モンタークも護衛部隊相手に容赦ない攻撃を加えるが、飛行機はそのまま飛び立っていく。
護衛部隊は全滅したものの、逃げられたのでは意味がない。
「どうします?」
外に出た俺に渉が近づいていく。
「仕方ない。エデンを今よこしたから俺とモンタークがエデンを使って乗り込み、渉は高高度からウイングソードで待機、撤退時に渉はモンタークを回収してくれ、俺はクレアを連れて撤退する」
「分かりました」「了解だ」
すると、エデンは俺の側に降りてきて左手を差し出す。俺とモンタークはそのまま左手に乗り、渉は車で来た道を戻っていく。
俺はコックピットに入っていき、そのまま高高度へと進んで行く。
その時、どす黒い闇が近づきつつあることに気が付いた。
黒い騎士のような機体が突っこんで来ようとしていた。俺は飛行機の上で一旦止まり、モンタークを先におろす。
「あの機体を先に何とかする。あんたは先に救出作戦を開始していてくれ」
「分かった。先に救出している」
そう言って飛行機の速度で吹っ飛びそうになりながらモンタークは天井から入れる場所を探し出し、そのまま入っていく。しかし、俺の方は黒い騎士のような機体と取っ組み合いの態勢に移ってしまう。両機は足裏からかぎづめのような装備を出し、足を床に固定する。
両機のサイコフレームが反応したのか、周囲に衝撃波を放っていく。
俺は何とかしようとするが、機体がまるで金縛りにあったように身動きが取れない。すると、敵の機体からどす黒い感覚が迫ってくる。次第に暗くなっていく視界の中、クリュセ中の、いや火星中の『負』の感情が迫ってくる。
その中心にあるのは俺の幼い頃の兄サヴァランの表情である。
親のよくやったなという誉め言葉と兄ができないことをしたという結果が兄からの失望を生んでしまったのかもしれない。
あんなことになるなんて思わなかったんだよ。
闇の底へと進んで行く。
どうだったでしょうか?次回からは動きが激しくなっていきます。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅢ《たった一人の為に》』になります。