6
意識がどす黒い闇の奥へと落とされていくのが体中にまとわりつく見えない重圧からよく分かる。体中にまとわりつく見えない『何か』が体の中に入ってくる。
『お前がいるから!』『あんたなんか生まなければよかった』『火星連合なんてあるから……』『EDMのせいでギャラルホルンに所属している夫は……!』『木星帝国に従うなんて考えられない』
恋人に、自分の子供に、どこかに住む普通の人が、火星に住む妻、火星連合に所属する男性が心の奥に住む相手に対する気持ち。しかし、誰にも言えない気持ち。
心の奥にある憎しみや悪意が襲い掛かってくる。
今のクリュセの争いの中心にはこの悪意が存在する。
俺の心が作った『闇』に火星中の人の心の『闇』を飲み込んで、喰らって育っていく存在が惑わせて、狂わせる。
『お前が弟でなければよかった』というサヴァラン兄さんが言っているような気がする。
『お前なら絶対にできる』『頑張るんだよ。あなたならもっと上を目指せるはずだ』という両親からの期待。
それ以外にも『どうして見捨てたんだ』という恨みめがしい声、『誰にでも優しいのって無責任だ』という指摘の声まで様々な声が聞えてくる。
他人と違う事が怖くて、誰か一人を決めることで他の誰かを傷つけると恐れ、家族を巻き込むことを恐怖した。
自分が普通ではなく異常なんだと知っていた。
そんな普通ではない部分がいずれ何もかもを突き放してどこまでも突き進むのではないかという恐怖、普通の人はもっていない才能を閉じ込め封印し、自分が普通の人間なのだと言い聞かせる。
そうしないと自分人間ではないような気がした。
そんな罪悪感と悲壮感が心を襲い周囲に『闇』を広げていく。
7
クリュセ議会から多少離れた古い建物の中を入っていき、地下に進んで行くとそこには議会地下へとつながる唯一の道になる。
そこに道があると明楽達が気が付いたのは周辺の聞き込みをしている途中でレレらしき人物が建物の奥へと進んで行くのが見えたかららしい。
レオが調べた結果をまとめたタブレットを読みながら説明してくれた。
「なんでも、クリュセの地下には開発当時から残っている地下施設が多く残っているらしくて、その名残や道がクリュセ再開発計画の名残で埋め立てられたり、そのままにされていたりするらしく、この建物は再開発計画の名残で残ったもの」
マークはゲームをする手を止め、明楽がドアのカギを何とか開けようと努力している方へと視線を向けつつ、アスナは顎に手を当ててレオの言葉に納得していた。
「なるほど、確かにそういう計画がクリュセでありましたね。その名残ですか。ここはその唯一の道というわけですか?」
「唯一というわけではありませんが、議会への道はここが唯一です。それ以外の道は埋め立てられていて、直接進めば地下駐車場に出ると思います」
明楽がドアの鍵を開けることができたと喜んでいると、ずっと考え込んでいたシノがふいに思いついたことをそのまま口にした。
「なあ明楽、俺ずっと考えてたんだけどよ。テム・フォースとかいう人の話」
「?テムさんがどうかした?」
「いや、それって話して大丈夫だったのか?」
明楽の表情が真っ青に変わっていく。喋ってはいけないことを口にしてしまい、真っ青に変わっていた表情にガクガクと震え始める。そんな姿を見ていたレオが驚きと共に小声で声を荒げる。
「そんなに恐怖を抱くようなことなのか!?だったら口にするなよ」
「どうしよう………誰かに言ったら両手を切り落としたうえで拷問するって」
明楽の口から出てきたサブレの言葉にマークが「両手を切り落とす行為は拷問に入れないんだな」と訳の分からないツッコミをして、シノは数歩後ろに下がって明楽から遠ざかる。
みんなから哀れな者を見るような目で見られているとは思わないようで、明楽は今まで感じた事の無い恐怖を感じていた。
明楽とテム・フォースの出会いは唐突であった。
鉄華団壊滅後、いきなり自分の前に現れたその人物は「特訓に付き合ってほしいんだヨ!」っとラップ調で話し始めた。しかし、その強さは異常と言ってもいいほどに強く、明楽では全くかなわなかった。
「勝てるかも」
そう思った自分が間抜けに見えるほどに強かった。
五十回戦って、五十回負けた。
五十回戦えば一回ぐらい勝てるかもしれないと思ったのだが、結果は惨敗で終わった。すると、その人はこう言ったのだ―――――、「俺はサブレ・グリフォンぐらい強いぞ」っと。
明楽は急いで確認にしそぐと、サブレは恐ろしい表情をしてテムに襲い掛かったのはサブレだった。
喧嘩する二人を眺めながら明楽は思った。
『まるで友人みたいだな』
怒鳴るサブレに聞き流すテム。その姿は数年来の友人のように思え、そんな油断は明楽への災いという形で帰ってきてサブレから―――――、「テムの事を喋ったら両手を切り落として拷問する」などと言われた。
その時の表情は慈愛に満ちた仏のようであったが、しかし、その裏に見えない殺意のオーラが明楽には見えた。一周回って明楽の方にまで殺意が向いているのがよく分かった。
明楽には怯えて「はい」とうなずくしかなかった。
それ以外の返答をすれば殺される心配すらあった。
それを思い出し、震える体を明楽は何とか忘れることで押さえようとした。
レオは明楽の代わりにゆっくりとドアを開くと中には多少壊れた軍用車が乗り捨てられており、中を調べた結果重火器が多数が乗っていた痕跡を見つけた。
「中に人が乗っていた痕跡もあるぞ」
さすがにゲームをやめたマークは車の中に落ちていた金髪をレオ達に見せる。それにアスナが反応した。
「クーデリア様?それにクーデリア様が乗っていたんですね?」
「ええ。という事は………」
シノが明かりをゆっくりと右から左へと移動していき、最後に強引に開いた痕跡の残った扉を発見した。
「こっちだ。銃で鍵を壊した痕跡がある」
「私が案内します」
そう言ってアスナは勇敢にも道案内を買って出た。レオとシノは「危険だと」言い聞かせようとしたが、「私は一回だけ案内してもらったことがあります。ロビーまでだったら案内出来ます」っと行って聞かなかった。
マークは明楽の背中を強く叩き「しゃべらなければいいんだよ」と落ち着かせてアスナの後を追いかける。
レオはもう一度後ろを向く。
「俺とシノさんが前、明楽が後ろでマークが真ん中だ。マークはいざとなったらアスナさんを守ってくれ。よし!目標はクーデリア・藍那・バーンスタインとレレの確保だ」
そう言ってレオとシノが先に前を移動し始め、マークが何とか立ち直れそうになっている明楽を促しながら進んで行く。
不雑に入り組んでいる廊下にシノが疑問を挟んだ。
「どうしてこんなに入り組んでんだ?」
「確か、地下では火星中の情報を紙媒体で集めていました」
「なんで紙で?今時珍しいよな?本冊子ならともかく」
シノの疑問にアスナは曲がり角を迷うことなく曲がったところで答えた。
「当時各地区ごとに分断されて管理されていた火星を一つにまとめるには相当の情報をいっぺんに処理する必要があったそうです。しかし、それをタブレットなどで処理するには限界があったと聞いています。ここはそれを紙の用紙で処理するために緊急で作られた場所だったんです。地上の施設は他の使用目的が既にあったそうですから」
複雑に曲がった先の階段を昇っていき、一回の西区画に出ると、一本のまっすぐな廊下に出る。左右に広がる一個一個の部屋の窓を確認するようにのぞき込み、部屋の中にはパソコンが並んで設置されており、机の上には最近まで使用されていた痕跡のコーヒーが残っている。
上の部屋から銃撃音が聞こえてきたことをきっかけに五人は上の部屋へと急いだ。
レオ達が上の部屋へと急ぐ前、クーデリアは既にテラの待っていた西区画の二階へと乗り込んでいた。
レジスタンスのメンバーは全部で四人だった。
全員が覆面を付けており、とある一室へと足を運んだ時、中には一人の歳を食ったような隻眼の男が立ちふさがる様に部屋の中心に待っていた。
「彼女は置いて君たちは一旦反対側の部屋へと行きたまえ。そこで議長を待たせている。報酬はそこでもらうといい」
そう言って隻眼の男はレジスタンスのメンバーを外へと追い出した。彼女は死すらも覚悟し、隻眼の男の残った目をまっすぐに直視する。
「強い良い目だ。死を覚悟したような目でもあるな。安心したまえ、用事を終わらせるまでは殺しはしない。さあ、教えてくれ。君がマクマードからもらったであろうカードキーはどこに隠したのかな?」
クーデリアは口を開こうとしたその瞬間反対側の部屋から銃撃音が八発聞こえてきた。クーデリアは急いでそちらの方を見る。そちらの部屋では一人の女性が容赦なくレジスタンスのメンバーを殺害する様が見えてしまった。
「なぜ殺すのですか!?殺す必要はないはずです」
「いいえ。彼らはここまで来た時点で充分秘密を知ることができるからですよ。その時点で殺すだけの意味を持つ。さあ、それより教えてもらいましょうか」
教えてもいいのだろうかという疑問がそこでようやくクーデリアの脳裏をよぎった。もしかしたら、彼らがそこまでして手に入れたい物とはとんでもない者なのではないか?そんな疑問が彼女に躊躇する気持ちを与えた。
しかし、テラはそんなことであきらめるような男ではなく、テラは薬品を持ち出すと彼女へと近づいていく。
クーデリアも近づいてくるたびに一歩一歩後ろに下がっていく。テラの後ろから隣の部屋で殺害していたテトラが入ってきてクーデリアに強い憎しみを向ける。
クーデリアが背中を壁にぶつけると、クーデリアとテラの間に缶ジュースのような物が廊下から投げ込まれる。
缶ジュースのような物はスモッグのようなものを発して一気に視界を奪っていく。
「催涙弾だな。テトラ一旦隣の部屋に移るぞ」
テラの声が聞えてきたクーデリアの右腕をつかむようにレレが姿を現し、そのまま彼女を廊下へと案内する。
「大丈夫ですか?助けに来ました。ここから逃げましょう」
そう言ってレレはクーデリアを廊下へと連れていき、そのまま階段へと向かっていくが、一つ目の部屋を通り過ぎた所で後ろからの銃撃で足を痛めてしまう。
廊下にはテトラがハンドガンを容赦なくこちらに構えている姿が見えた。
「止めてあげてください。私が目的のはずです」
テトラはやめる気配がなく、レレもあくまでも抵抗しようとしていた。
「やれやれ。元気なお嬢さんだあくまでも殺されに来るとはな」
テラも後ろから姿を現し、テトラはハンドガンの銃口をレレにまず向けた。そこでようやくシノとレオが姿を現し、アサルトライフルでテトラを撃とうとするが、さらに後方からFが見えないような速度でレオの顔面を横から蹴っ飛ばして隣の部屋へと叩き込む。シノが反射的にFを撃とうと引き金に手を掛けるが、そんなシノの鳩尾に拳を叩き込み、そのまま首を絞めるように持ち上げる。
マークがそのままFを襲おうとするが、そこにペテロが階段下から明楽とマークを同時に襲い掛かる。
テラは彼らにこう語りかけた。
「ようこそ、化け物の巣窟へ」
8
ビスケットが車を走らせてから何分が経ったのかは分からないが目の前にクリュセが確かに見えてきた。そんな時、目の前に一人の女性が見えた気がした。悲鳴を上げながら急いでブレーキで車を止め、目の前にいる女性に怒鳴り声をあげる。
「何をしているのか分かっているんですか!?ソニアさん」
ソニアは「テヘ」っと言いながらまるで悪びれないような表情でビスケットの前に近づいてきた。
「ごめんなさいね。これをこれをわたしておこうと思ってね。変装に使いなさい。今あなたは制服でしょう?クリュセに入ったら一発で殺されるわよ」
そう言って差し出した服はビスケットには身に覚えがあるように思えた。
上下の灰色のツナギに濃い緑のジャケット、ジャケットの背中は何も書かれえていないが、ビスケットはこれが何なのかがよく分かっていた。
だって、これはビスケットが約十年前に着ていた鉄華団での格好に似ているからだ。
「これってどうやって?」
「サブレから預かっていたのよ。誰が直したのかは知らないわ。でもいつの間にか直っていた。返しておくわ。これを着てクリュセに行くかどうかはあなたに任せる」
ビスケットは一瞬だけ悩みそのまま服を車の陰で着替え始める。
五分かからずに着替えることができた。車の陰から再び出てきたその姿はまるで昔に戻ったかのようでもあった。しかし、あの時と違って今は帽子を被っていないのとタオルを首に巻いていない。
そんなわがままを言っている場合ではないことぐらいは分かっていた。しかし、まるで見透かしたようなタイミングでソニアはビスケットの帽子を取り出した。
「どうして?」
「フフ。想像にお任せするわ」
ビスケットは帽子を被り直し、車の方を向くと運転席には三日月が据わっていた。ビスケットは反対側に座ると、そのまま助手席に座る。
三日月はビスケットが乗ったのを確認するとそのまま車を出す。ソニアはビスケット達に手を振り遠ざかっていく。
運転している三日月はビスケットにタオルを手渡した。
「準備がいいね」
そういいながらタオルを受け取って首に巻き付けるとまるで昔に戻ったように見える。
『うん。似合ってる。ビスケットはそっちの方がいいね。背丈が少し伸びているけど』
「うん、でもこの服も大きくしてくれたみたい」
縫い目が多少荒い所をビスケットは触っていると不器用な人が直したように見える。
最後にライドが持っていたハンドガンを三日月に返そうとするが、三日月は片手でそれを拒否してしまう。
『いい。ビスケットが護身用に持っていて。いざとなったら守ってくれるかもしれないし』
ビスケットは「分かった」っと答えつつそのまま左胸のホルスターにしまう。すると、上空からどす黒い感覚がクリュセを巻き込もうとしているのがよく分かる。
雨雲がまるで渦を巻くように降りてきているように見え、その姿はトルネードにも見える。
それがクリュセの人々の心の闇が集まってできていると分かるのはきっと今現在はこれを直接見ているビスケットと三日月だけだろう。
『どうやらクリュセの方で戦いが始まろうとしているのかもね』
まだ現段階ではシノたちは戦いを始める前であるが、あの渦が戦いを加速させるのは分かり切っていた。
ビスケットも焦りを隠せなくなり、ふと上を向く。雨雲の上でサブレが闇に飲まれそうになっているのに感覚で気が付いた。
『やばいね。サブレって人。すごく強い闇だ。離れているはずなのにこっちまで引き寄せられそうになる』
三日月がそう言うという事にビスケットは恐怖した。
脳波をうまく使えている三日月が遠く離れているはずの『闇』の悪意に引き寄せられそうになっている。
きっと覆面の奥に表情があるならきっとその表情は多少歪んでいただろう。
ビスケットには心の奥でサブレの名を叫ぶことしかできなかった。
クレアやアインも表情を歪ませてしまう。航空機の下の雷雲すら巻き込んで大きくなる『闇』の力に頭痛を激しくさせる。
飛行機の上で組み合った状態で止まってしまった両機がサイコフレームの共振と同時に悪意がクリュセ中に生きている人の心の奥にある他人に対する悪意を浮き彫りにさせる。
スラム街の人々が争い、議会周辺の戦闘は一般人を巻き込んで激しさを増す。
悲鳴と苦しみの声、激しさを増す戦闘音に人々の不安が増大していく。それに従ってサブレにまとわりつく『闇』の力も増していく。
もはや人にどうこうできるレベルの力ではなく。もはや『化け物』と言っても差し支えない力を周囲に見せつけようとする。
そう、もはやこれは『化け物』だと誰もが判断できた。
サブレが生んだ『闇』は小さかったはずだ。アフリカ戦線の不安や恐怖を飲み込み、地球での戦いで生じた人々の悪意を飲み込ん多きくなった時点で既にサブレに管理できるレベルではなかった。
その時点で既に戦うべき人物はサブレ個人から世界中の人間に移っていた。
黒衣の騎士にとって木星帝国という組織も自分の目的を果たすだけの場所であった。
ククナとテラの間を行き来しながらテトラの心の闇を浮き彫りにすることでうまくクリュセ中を巻き込むことができた。
サブレ・グリフォンを単身この場所まで導くことで彼を取り巻く環境全てを巻き込む準備は整った。同時にビスケット・グリフォンと三日月・オーガスにライド・マッスの死を当てることでうまく封じつつ彼らにショックを与えることにも成功した。
そうして、最後のカギとなるレレをクリュセ議会に呼んだことで黒衣の騎士はほぼすべての役目を終えたと言っても過言ではなかった。
クリュセ議会周辺の攻防をもって人の悪意を浮き彫りにする準備を整え、クリュセ議会での戦いで生じた不安や恐怖を力にサブレ・グリフォンの乗っ取りを開始したのだ。
全ては今日この日を迎えるための準備。
全てサブレ・グリフォンの肉体を乗っ取るためでもあった。
そのための準備をひそかに整え、誰にも邪魔されないこの状況を作り上げた。
しかし、黒衣の騎士にはたった一つだけ考えていない事態が起きていることにようやく気が付いた。
そう、この状況をたった一人だけ読み切った人物がいた。そのうえで準備を地球側から整えた人物が、今テム・フォースを使う事でサブレ・グリフォンへと二人の人物を繋げる作業に入っていた。
昔からサブレ・グリフォンの危うさに気が付き、クレアとビスケットが揃っているこの状況ならサブレと同じ脳波の力を持つテムを遠距離で介すことでなら二人の意識をサブレの深層心理に送ることができるのではないかと考えた。たった一人の人物―――――、マハラジャ・ダースリンの策がここで動くことになった。
月面都市アルンでひそかに建造されていた脳波をマイクロウェーブに乗せて火星に送り込み、クリュセ一帯の異常ともみられる電磁波の乱れが一人の『化け物』だという事に確信をもって。
サブレ・グリフォンが人類を救う人間だとマハラジャが信じているわけでは無い。しかし、サブレ無くして勝利は無いという事だけは分かっていた。
ここで失うべき人間ではない。
地球に居る少なくはない彼を思う人の思いも知らないうちにサブレ・グリフォンへと届けられる。
悪意の底、どす黒い闇の底へと届けられる小さな光の粒がやがて二人の意識をようやくの思いで届かせた。
「サブレお兄ちゃん立ち上がって」というクッキーの声、「サブレお兄。一人じゃないよ」というクラッカの声、「あんたならうまくできるはずだよ」という桜・プレッツェルの声、「俺を立ち上がらせた人間がこんなところで終わるわけじゃないよな?」というユージン・セブンスタークの声、「フフフ。あなたならこんな闇も倒して見せるでしょ?」というマックの声、「サイガの分まで戦てくれ」というファンの声、様々な声が彼に呼びかけてくる。
「俺からは何もないな」
マハラジャはそんなそっけない態度を取るだけだった。しかし、マハラジャにはそれ以上の何かなんていらなかったと判断したからだ。
「たとえ、あなたが別の誰かを選んだとしても私はあなたを責めたりしません。だってそういうあなたを好きになったのですから」――――っとレレはサブレに声をかける。
「たった数日の付き合いでもあなたがどうしてクーデリア様を嫌いになったのか分かってしまったんです。あなたはクーデリア様に似ているようでどこか違う。あなたはそんな違うところが嫌いなんですよね。自分ができなかったことでできるクーデリア様が、そんな人間らしさを私は好きになったんです。だからそんなあなたでいてください」―――――っとアスナは言ってくれる。
「ごめんね。サブレをいつもひとりではしらせてしまって。でも今度は俺も一緒だよ。一緒に歩くから」―――――っとビスケットもサブレに声をかける。
「あなたと出会い、あなたと触れたことで『闇』が浮き彫りになったんだと思います。でも、そんな闇の奥にある優しさに私は気が付きました。誰よりも優しく、決してそれを武器にしようとはせず、実は他の誰よりも繊細で優しい。そんなあなたを好きになっていたんです。どんな決断になってもあなたを恨んだりしないです」―――――そう言ってくれるクレア。
最後にみんなからたった一つの言葉が送られる。
「「「私達はあなたが好きです」」」
それだけで十分だった。
その言葉だけでサブレ・グリフォンは立ち上がることができた。自分の周囲にいる思いを力に変えて立ち上がる。
みんなの思いを光に変えて闇を押しのけていく。
「俺の………俺の中から……………出ていけ!!!」
サブレの目はまるで虹色の火が揺らいでいるようにも見え、黒衣の騎士はその姿を見た途端サブレ・グリフォンのみに何が起きたのかを完全に把握した。
サブレ・グリフォンは次の人類へと進化を遂げた。
どうだったでしょうか?面白かったと感じていただけたら幸いです。まだまだウィー・ラブ・ユー編は続きますが楽しみにしていてください。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅣ《君の名を叫ぶ》』になります。お楽しみに!