というわけでテトラ戦です。
12
戦ってきたシノたちの眼前に現れた四人の人影はまるで漫画やテレビに映っている正義のヒーローのようにも見えた。
サブレと同時に降りてきたクレアは傷ついたレレの元へと急ぎどこか申し訳なさそうにしている。それだけでレレにはサブレの覚悟が身にしみてわかっていた。
レレには分かり切っていた事だった。
サブレが一人を決めることをしなかったのは、自分やここにいるアスナが原因だと思っていた。自分達を傷つけまいと、返事を遠回しに、しかし、誰かに手を差し伸べることをやめたくないがためにいつだって曖昧に、適当にはぐらかす。しかし、クレアの表情はサブレの覚悟が示した証でもある。
キャリーに告げた「自分が自分であるため、サブレとの関係をはっきりしたうえで自分の将来を決めたい」っと覚悟の上で突き進んできた道だ。
クレアが言いにくそうにしているとレレは額をクレアの額にくっつけ息がかかりそうなほどに近い距離を維持する。
「誇ってよ。あなたは私達がいくら言っても届かなかった思いをあなたは届けたんだから」
「………うん」
涙を流すクレアを抱きしめるレレに後ろで複雑な表情をサブレに向けるアスナ。
サブレはテラの方を見ながらレレとアスナに一言だけ告げた。
「後で話がある。だから……待っていてくれ」
そう言ってサブレはテラの体を強引に議会場の方まで連れて行って姿を消してしまった。
ペペロはヘラヘラ笑いながら東区画の方まで姿を消し、モンタークもそれを追いかけるように走り去っていった。
テトラも西区画の方へと走り去っていき、ビスケットも追いかけようとする。
「待ってくれ……!俺達も」
「大丈夫だよ」
ビスケットは笑顔を向けてそのままテトラを追いかけていく。たくましく見えたその大きな背中が少しづつ消えていった。
最後に残されたFと三日月はほぼ同時にロビー方面に駆け出していった。
寂しさが残る冷たい空気だけが場を満たしていた。
ビスケットが自ら引き受けたテトラの相手こそEDMと新しくできた太陽系議会にとって最初の障害になりかねない存在だった。
いずれ火星の政治体制を素早く取り込みたい太陽系議会からすれば、火星連合の事実上のトップであるテトラの支配は木星帝国による隷属と同じことでもあった。
他の経済圏同様に火星連合を解体するためにはテトラを引きずり落とす必要がある。
その大事な一戦を引き受けたのはビスケットだった。
もちろんこの一戦がそんな大事な一戦になっているとはまるで思わないビスケットは西区画の二階の廊下の上で悲鳴を上げながら走り出していた。北から南へと駆け出しどこまでも走るのではないかと思うほどに、今まで出したことが無い速度で走っていく。
その後ろでテトラは笑いながら手榴弾を投げつける。ビスケットは焦りながら右隣の部屋へと飛び込んでいく。
すると、先ほどまで自分が立っていた場所で手榴弾の爆発音が鳴り、ビスケットはそれから身を守るためパソコンが乗っている作業用デスクの下に隠れる。
爆発による破片がパソコンを吹き飛ばし、廊下の窓ガラスをまき散らす。ビスケットはデスクの下で両手を頭の上に置き、衝撃に耐える為に歯を食いしばる。
爆発が止んだところでビスケットはデスクから頭をかすかに出し、ポケットの手のひらサイズの小型爆弾を廊下目掛けて投げつける。
爆弾はテトラの足元まで転がっていき、テトラは左側の作業フロアへと飛び込み、同じように作業用デスクへと隠れ、衝撃をしのぐ、爆発が終えたタイミングでテトラはビスケット目掛けてハンドガンの引き金を容赦なく引く。
「出てきなさいよ。男のくせに!!かつての鉄華団のように戦いなさい!!!ビスケット・グリフォン!!!」
憎しみを込めた言葉にひるんでしまうビスケットはテトラから送られてくるある意味呪詛の言葉の反論を口にする。
「あなたはお父さんを殺された恨みを鉄華団に向けるのは分かる。でも、クーデリアさんを恨むのは筋違いじゃないですか?だって、そもそもギャラルホルンがクーデリアさんを殺そうとしたのが原因だったんですから」
そんなビスケットの言葉を真に受けたテトラは怒りと憎しみを増してしまい、ハンドガンを乱射して弾を入れ替えている。そのタイミングでビスケットは小型爆弾を二つ連続で投げつける。
テトラはそのまま北側の部屋へと移動し、会議室のテーブルを倒して防弾壁にしながら体制を整え、テトラはマシンガンで窓ガラスを割りながら別の爆弾をビスケットの隠れている作業フロアへと投げつける。
ビスケットは自分の足元へと飛んできた爆弾を廊下へと投げ返し、そのまま走って北側の部屋へと移動する。
「クーデリアさんはあくまでも防衛の為に鉄華団を雇っただけであって、殺したのも鉄華団だし、それなのにクーデリアさんを殺そうとするのは別の理由があるんじゃないですか?あなたの怒りはまるで……」
そこまで言った所でテトラの怒りで発狂しながらマシンガンを乱射しながら叫ぶ。
「うるさい!!うるさい!!!うるさい!!!!あんたに何が分かるのよ!!家に帰ればテーブルの上にお金が置いてあるだけで、お父さんは帰ってこなかった。あの日だって………!!」
怒りと同時に感じ取れる憎しみの中には明らかに父親に対する気持ちもあった。
「帰ってこなかった」っという言葉に寂しさと共にその恨みをクーデリアへの殺意に変えている気がしてしまうビスケット。
「あなたは………もしかして、父親が自分を振り向いてくれなかったからですか?」
マシンガンの弾が切れてしまったタイミングでマガジンを切り替えながら少しの沈黙の後に怒鳴り声がビスケットの鼓膜を刺激した。
「そんなんじゃないわよ!!!あの日………あの日あんなものさえ見つけなければ……こんな気持ちになることだってなかったのに!!」
涙を流しながら再びマシンガンを乱射し、弾丸は窓ガラスを破壊してデスクや部品を破壊していく。
幼いころのテトラは決して裕福とは言えなかったが、当時の火星の一般家庭の収入を考えれば、少なくとも貧困という事は決してなく、言ってしまえば裕福の方だっただろう。
しかし、それは幸せだったという事ではなく、娘を学校へと通わせるために仕事一筋だった、父親が自分の事を見ていなかったという寂しい家庭環境だった。
物心つく頃には母親を失ってしまったテトラには父親しか親とよべる者はいなかった。
しかし、父親は仕事に没頭していて、テトラが家に帰ればその日の夕食代がテーブルの上に置いてあるだけで、そんな夕食代で近くのスーパーで買い物をして帰る毎日。
友達とよべる人もまるでできなかった彼女には家で寂しく食べる食事以外には勉強することしかできなかった。
寝るまでの間にただ勉強するだけの毎日はいきなり崩れ去った。
一本の電話が彼女の悲劇を加速させた。
「あなたのお父さんが殺されました」
彼女は孤独になった。
そんな事情など知る由もないビスケットには彼女の怒りの本当の理由が分からずに戦うしかできなかった。
両者が爆弾を使用した戦闘は圧倒的なほど見た目が派手で、二人がいた部屋が廃墟になりかねないほどであった。
ビスケットはチャンスを探し出し、テトラは弾切れしたマシンガンを放り出し、腰からナイフを取り出して議会西隣にある一番大きな会議室へとたどり着いた。
部屋の出入り口は一つだけ、左と一番端が一面窓ガラスでできているこの部屋に入っていったのが数分前だという事をビスケットは確認を取れていた。
ビスケットはスモッグと催涙弾に足をとられていしまい、気が付いたときは一番奥の部屋へと隠れていた。
しかし、一番奥の部屋に隠れたという確信を得るまでに五分はかかってしまい。最後のドアに手を掛け、ゆっくりと開けると、部屋中に赤外線センサーが部屋中に隙間なくついており、その赤外線の枠から大きく距離をとる形でテトラは大きなデスクをいくつも壁にしていた。
その時点でビスケットは彼女が弾切れ状態だという事に気が付いた。
しかし、逆に言えば背水の陣を敷いてでも戦おうとするこの状況はむしろ彼女を冷静にしているのだという事に気が付いた。
先ほどまで怒っていたからこその激情に駆られていた戦闘方法はしてこないだろうという事だけは確かな事実で、逆にこの境地を乗り越えれば……思う一方でどうすればこの境地を乗り越えることができるのかをひたすら考えていた。
むやみやたらに突っ込めば呆気なく爆死してしまう事は明らかであった。
一旦距離をとってもいいが、戦ってからそれなりに経っているこの状況、ほかの戦闘が終わっていてもおかしくはなく、状況によってはこっちに敵の援軍が賭け付けかねない。
その前に終わらせてしまいたいビスケットは部屋の中に入ろうとしたところでふと気づく、こんなに爆弾を仕掛ける必要があるだろうかっと。
(まるで……俺に爆弾を爆発させたがっているみたい。いや………違う、この人はナイフでの近接戦闘だって出来るはずなんだ。俺はこんな体型だし……もちろん最悪の可能性だってあるけど、弾が無いならこんな危険性を侵す必要はないはずだ。爆弾だって最悪設置中に誤爆する可能性だってあるわけだし……そんな可能性を無視してでもこの作戦に掛けたという事は……それに、本来なら爆弾は隠すものだ。こんなに爆弾を大量に設置して、赤外線を露骨に見せているという事はまるで爆発させてくれって言っているようなものだ……もしかして)
そう思った時、ビスケットは最悪の可能性が脳裏をよぎった。
テトラは電話越しにきいた父の訃報に最初は信じたくなかった。
走り出した現場の人達を押し通して奥へと進んで行き、父親の遺体を見つけたとき衝撃のあまりその場で膝を折り泣き崩れた。
大量に流れたと思う血が真っ黒に変色し固くなってしまっており、廊下の奥から聞こえた声に無意識に耳を傾ける。
「鉄華団の奴ら無茶苦茶だな………後始末するこっちの身にもなってほしいもんだぜ」
「だな……まあこんな事務所誰も使わないだろうけどさ………。しかし、ギュウジャンの奴も馬鹿だよな…クーデリア・藍那・バーンスタインを狙うなんてさ。彼女、実はあのテイワズと繋がっているらしいぜ」
「あのマフィアの?じゃあ、鉄華団も……」
「じゃねえのか?いっそ壊してしまったほうが………」
「いや……それはだめだってさ。なんでも木星の資産家の支社が買い取ったらしいぜ」
「事故物件じゃねえかよ。いや、事件物権か?」
二人の作業員の話を聞くうちに聞こえてきた『鉄華団』『クーデリア・藍那・バーンスタイン』『テイワズ』という言葉だけが脳内に残っていった。
その後、父親が亡くなたこともあって家も没収されてしまい、親戚もいない彼女は行く当てもなくさまよっていた時、彼女は結局父親の事務所の前まで戻っていた。
夜遅くに立ち入り禁止の黄色いテープを掻い潜り、事件現場に入ると、パソコンが起動していることに気が付いた。
そこには複数の預金口座が移っており、その口座内が空になっていることに気が付いた。しかし、問題はその口座の名前が『テトラ学費』になっていることに気が付き、その学費を稼ぐために最近になって仕事が極端に減る状況で危ない仕事に手を出し始めたことに気が付いた。
それ以外にも日記には彼が追い詰められていく描写が描かれており、次第に覚えていったのは憎しみだった。
しかし、その憎しみが鉄華団、クーデリア・藍那・バーンスタイン、テイワズに向けられたものなのか………それこそ父親へと向けたのかは分からなかった。
そんな時……テラに出会った。
ビスケットは悩んだ結果爆弾を先に誤爆させることにした。一旦戦闘跡の部屋まで戻り、瓦礫をいくつか持って戻っていき、部屋の外の物陰から爆弾を誤爆させた。大きな爆発音で周囲の建物が崩壊するのではないかっと思うほどの衝撃がビスケットの足元を揺らす。
テトラが瓦礫に隠れる中、ビスケットは爆発で生じた煙や砂埃が視界を埋めてしまい、それでも突き進もうとしたところでいきなり視界が晴れる。
テトラは物陰から何かを爆発の中心に投げ込み、それが割れた窓ガラスから外へと煙などを追い出してしまい、ふさがっていた視界を晴らしていた。それはまるで小さな蜘蛛のように見える道具で、風を巻き起こしていた。
ビスケットは驚きと共にたじろいでしまい、その隙にテトラはハンドガンを手に取りビスケットの帽子越しに頭へと向けて引き金を引いた。
ビスケットの帽子に当った弾丸は弾かれてしまい、帽子が後ろに吹き飛んでしまうが、何とか片膝をつきながらハンドガンを彼女の左胸に向けて引き金を引く。
テトラは咄嗟に出した左腕を貫通した弾丸をよけることもできず、左胸にあたってしまう。ビスケットはもう一度帽子を被り直し、物陰に倒れてしまったテトラを確認する為に左側から回り込んで姿を見るとテトラは目を開いてビスケットの左胸にハンドガンを向けた。
「しまっ………!?」
テトラがハンドガンの弾を温存しているのではという事は想定していた。だからこそ、帽子の中に金属の当てモノを入れておいたまでは良い、しかし、金属の当てモノは帽子につけてしまって当てがなく、これ以上時間をとられるわけにも行かなっビスケットはこの作戦に賭けていた。しかし、テトラはここからもう一つ先を読みきり、怪我を負いながらでもハンドガンを向けていた。
こう見ると、左腕を怪我したのも弾丸が当たったのかを隠すためだと判断できた。
ビスケットは全てがスローモーションに見え、走馬燈さえ見えたところでテトラの放ったハンドガンの弾はビスケットの左胸にあたってしまう。
感じたことも無い衝撃と、十年前を思い出す痛みがビスケットの体中を突き抜けた。
あっ………死んだ。
そんな言葉が脳裏を宿りそのまま倒れてしまったビスケットは、苦しみながら悶えてしまう。
テトラは勝利を確信し、そのまま立ち上がって左腕を庇いながら状態を確認すると、ビスケットは痛みはあるが死ぬほどでもない、その時、ビスケットには自分の左胸をふとのぞき込む。
その正体に気が付き、勢いよく立ち上がるとハンドガンを弾いてテトラの後方に吹き飛ばす。テトラは生きていることに驚き抵抗することもできず、ハンドガンが後方に飛んでしまったところでナイフを取り出して、斬りかかってくるが、ビスケットは左腕でナイフを受け止めつつ、至近距離で殴りつける。
テトラは悲鳴を上げながら後方に吹き飛び、ナイフもはるか後方に吹き飛んでしまい、テトラとビスケットはほぼ同時にハンドガンへと手を伸ばすが、テトラが先にハンドガンを向けたところでビスケットのどこを撃てばいいのか悩んでしまう。その隙にビスケットのハンドガンの弾が頭に直撃してしまう。
テトラは最後の瞬間に父親の姿を思い出していた。
倒れたテトラの右胸から落ちてきたスマフォを手に取るビスケットはその中に記載されていた父親への愛を知ってしまったテトラがそれ故に父親へと憎しみを覚えてしまった経緯が描かれていた。
愛していたのならどうして自分を見てくれなかったのかっという記載が描かれており、ビスケットはそれを見る度にどこか心苦しくなってしまう。
愛ゆえに憎しみを覚えてしまったテトラはその当てのない憎しみに父親を殺した人たちやその関係者たちへの憎しみへと変わっていった。
そんな場に自分がいても仕方ないっと分かっていても、それでも考えてしまうビスケットは一筋の涙を流してしまう。
決して勝利を喜んでもいられず、そんな気分にもなれない中、自分の左ポケットに入れたままにしていた三日月のハンドガンを取り出す。
ちょうど真ん中に弾が当たって壊れてしまったハンドガンを両手に抱きしめる。
オルガやライドが守ってくれたようにも見えた。
しかし、同時に感じる寂しさとテトラという敵の女性の気持ちを知ってしまったという気持ちが複雑な悲しさを感じ取っていた。
涙を流しながら勝利を噛み締めていた。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸い。今回はテトラの複雑な事情と戦いを描いたものでした。次回はモンタークとペペロ戦になります。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅦ《微笑と怒りの狭間で》』になります。お楽しみに!