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ペペロはクリュセ議会の東区画を真っ暗闇に変えてしまった。一寸先すら見えない闇が周囲を覆い、モンタークは警戒心を高めながら一歩一歩音をたてないように進んで行き、壁に左肩を当てながら場所の確認を怠らない。
『一寸先は闇とはよく言ったものだな』
長い廊下は逃げ場が存在しない廊下をモンタークが歩いているのは、物音を立てやすい室内より自分の居場所を敵に把握しにくいだろうという考えからである。
実際東区画に入ってから三十分が経つがまるで攻撃を仕掛ける気配がない。いい加減北の一番端の部屋に辿り着こうとしていたが、物音も聞こえてこず、自分の左肩が壁に当たるすり音がかすかに聞こえてくるだけである。
しかし、そんなとき一番端の部屋から微かにだが机が動く小さな音が聞えてきた。
入るべきか入らないべきかで悩んでしまうモンターク。単純に罠の可能性が高い反面、小さな可能性で単純にミスをした可能性もある。
ペペロは言い方を悪くすれば太っている。
それは歩くときにぶつけやすいという意味でもある。それでもなくてもテンションの高そうなペペロが物音をたてないようにするのは難しいのではないかと考えた。
部屋に入るのに三十秒だけかかってしまうと、そのままゆっくりと物音をたてないようにしながらドアを開けて室内に入る。ガランと寒気すら覚える室内の嫌な静けさがモンタークの背筋に冷汗を流し、全身に緊張を誘う。
全身から警戒心を放ち、見えない闇が恐怖をモンタークに与える。
すると少しだけ離れたところで椅子がかすかに動く音が聞こえてきて、そちらの方へとハンドガンを向ける。
すると、後ろのドアが閉まる音が聞こえてきて、振り返ると先ほどまで開いていたはずのドアが閉まっているのがうっすらと見えた。
しまったドアをもう一度開いて廊下まで出ていくと、廊下にピエロの落書きが光って見えた。
「へへへ~!!よくできているでしょ?大急ぎで書いたんだけどいい出来だよね」
あちらこちらから声が聞えてきて、居場所が分からない。
モンタークは左右の部屋の部屋を確認しようとすると、奥の部屋から聞こえてくるような気がしてきた。
「知ってる?僕も地球出身者何だよぉ~」
出身地は不明だとクレアはモンタークに告げていたが、予想外にも自ら出身地を告げてたことに驚きしかなかった。
「知らなかった?お父さんから聞かなかったのぉ~?ラスタルにもぉ~?」
ラスタル、父親の名前が出た事に驚きしかなったが、そこまで出たところでモンタークはペペロがギャラルホルン関係者に近い人物だという事を確信した。
ペペロはギャラルホルン関係者である。
その真実を知る者はいないだろう。なぜなら、ペペロという名前自体偽名であり、真名はすでに失われているからだ。
ラスタルでさえ名前自体は知らなかった。しかし、かつてのペペロが研究部署の名前さえ出せばすぐにでもわかりやすい場所だった。
『薬品兵器開発部署』
そこがペペロが開発した薬品兵器を開発するためのギャラルホルンのセブンスターズの一角の直属組織であり、同時に最も忌み嫌われる組織に変わってしまった。
それをモンタークは知ることになる。
「僕の事を教えてあげるよぉ~」
モンタークはあえてしゃべらない。ただ探すように一つ一つの部屋へと入っていき、気配を探る作業の中でペペロは一方的にしゃべる。
「もしかしてぇ~疑っているのぉ~?それについては僕にとっては君は決して他人事じゃないからなんだけどねぇ~。だって……僕の開発部署を担当していたのが………君のお父さんなんだからねぇ~」
これ以上ない衝撃を得た。
父が持っていた担当部署の研究所の男が妹であるアルミリアの記憶をいじったという真実。まるで巡る輪廻のような因縁に見えた。
「君は知るべきだよぉ~君のお父さんが好意で作った部署がどんな悲劇の事件を作り出し、それをイズナリオがどのように利用し、君がそこにどうかかわっているのかをね」
ペペロは語るお話はペペロに微笑を、モンタークには怒りを与えるお話だった。
僕がガルス・ボードウィンの研究部署に付いたのは君が生まれる五年前の事さ、君のお父さんはバイオテロ対策の小さな研究部署だったんだけどねぇ~、そんな時、当時の研究部長が人体に影響のある薬品の実験の為にヒューマンデブリを拾ってきては薬品を試していたんだけどねぇ~、そんなときだったよ………イズナリオ・ファリドが訪ねてきたのは、彼は『ヒューマンデブリを購入するための場所を紹介してほしい』という話だったよ。
うちの研究部長はある場所を紹介したよ……しかし、その二か月後……紹介した場所は大規模なバイオテロで崩壊してしまったんだよねぇ~。
そうだよぉ~、イズナリオがバイオテロをおこしたのさぁ~。理由かい?簡単だよ……ラスタルがかぎつけたからねぇ~証拠隠滅で街ごと滅ぼしたんじゃないかなぁ?
ただそれで危機的状態になったのはうちの部署だった。
バイオテロの疑いで嫌疑がかけられてしまい、イズナリオの手でほろぼされてしまったのさぁ~、まあ、街を滅ぼすウイルスを開発したのはぼくなんだけどねぇ~。
怒るなよぉ、イズナリオに頼まれて開発しただけだしぃ、それに謝礼金ももらったしねぇ、ははぁ!もしかして………そこにうちの父親がかかわっているんじゃないかって?そこは安心しなよ……彼はそれによってセブンスターズの立場を危うくしてしまっただけさ。だからこそ、研究部署はガルスの手で滅ぼされてしまった。
僕はそのころにはテラの紹介で後の皇帝に出会ったけれどねぇ~。
そうだよぉ~その紹介した場所で出会ったのがマクギリスさぁ~、僕は知っていたけれどね……あそこは子供を本当に性処理の道具ぐらいにしか思っていないからねぇ、イズナリオの性格上正面切って探せなかったんじゃないかな?紹介という形でしか探せなかったんだよ……まあ、ラスタルは分かっていたみたいだけどねぇ……。
あ………そうだぁ、ラスタルで思い出したけどぉ………アイン・ダルトンのクローン生成に協力したのが僕なんだよねぇ………戦闘能力を覚えさせ、記憶の操作にはどうしても薬品の力を借りないとできないからねぇ……まあ、僕は面白かったけれど。
ガルスが作ったバイオテロ対策部署がバイオテロの為の兵器開発をしていて、それをしそれを原因としてマクギリスを中に入れてしまったという話だった。
「それ以外にもいろいろな所から子供を引き入れては部署を潰し、を繰り返していたみたいだし、それによってセブンスターズの権威を脅かしていたみたいだねぇ。それで自然とファリド家が上に立つチャンスを得たんじゃないかな?それがエドモントンのあの事件につながるわけだぁ~。権威を落としたセブンスターズの上に立つ機会だと考え、下手をするとラスタルを蹴落とす権利を見出したんじゃないかなぁ?それを知ったマクギリスはイズナリオをひきずりおとしたというわけだぁ」
そこまで聞くとモンターク小さな怒りが芽生えた。
「偶然だっただろうけどねぇ~最初は……ガルスが権威を落としたところを見て思いついて、マクギリスを自分の妾の子として紹介したのも、子孫のいない自分では上に立てないと考えた上の苦肉の策だったんじゃないかなぁ?まあ、妾自身いないわけだけどねぇ」
どこか面白おかしそうに語る友人の話にモンタークは限界だった。
マクギリスの事はラスタルからおおよそ聞いていたが、しかし、心のどこかで信じたくないという気持ちがあったのは真実だった。
イズナリオが金髪の少年を好む特殊な性癖であり、マクギリスはその犠牲の上であのような歪んだ性格になってしまったのは知っている。だからこそ、本当にマクギリスはアルミリアを好きだったのではないかと悩みもした。
だからこそ、イズナリオと久々の再開を果たしたときは殺意さえ覚えもした。しかし、耐え続ける毎日もアルミリアの殺害で予想外の終わりを迎え。アインの暗躍とEDMの攻撃でギャラルホルンは長い歴史に幕を下ろし、愛していたかもしれない人は死んでしまい、立場も家族も終わりを迎えた。
決してそのすべてがペペロに原因があるわけでも無いが、マクギリスも結果からすればセブンスターズの立場を味わったわけだ。そのすべてを否定するわけにはいかない。きっとカルタ・イシューはそんな立場に関わらずきっと好意を抱いたと思っていた。
しかし、問題はなぜペペロはイズナリオに協力したのかという事だった。
「僕がイズナリオに協力した理由を知りたいんだろぉ~?教えてあげるよぉ」
モンタークの入った七つ目の部屋の中心にピエロの人形が口をパクパクしてモンタークを招こうとしており、次第に動きが速くなっていく。
モンタークは嫌な予想が頭の中に浮かび上がり、すぐに部屋から出ていき、柱の陰に隠れる。同時に大きな爆発が左右の部屋ごと破壊し、モンタークの近くにまでガラスの破片を飛ばした。
「ハハハァ!!面白そうだからだよぉ!!多くの人が苦しんで死んでいく光景を遠くから見ていてすごく面白かったぁ!ある女性は子供だけでも守ろうと助けを求め這いずり回りぃ、男性は愛する人の名前を叫んで死んでいくぅ。阿鼻叫喚でみんなが必死なんだよぉ……楽しいわけが無いよぉ!!ねぇ!」
モンタークの怒りはその言葉に限界を迎え、大きな怒鳴り声を張り上げた。
「ふざけるなぁ!!そんな理由でバイオテロを引き起こし、父親をはめたのか!!それだけじゃない、マクギリスの人生を狂わせる手伝いをしたのか!!」
「ハハァ……マクギリスだってきっと感謝しているだろうしぃ………そもそもぉ……そのマクギリスを裏切った君に言われたくないなぁ」
モンタークは声のした方向をようやく捉え、そちらの方へ閃光手榴弾を放り投げる。モンタークが装着しているマスクは閃光手榴弾対策の閃光遮断機能が付いており、そのおかげで閃光手榴弾の放つ光の中でも迷うことなく動くことができた。
すると、目の前に苦しむペペロの姿が見えた。その表情は苦しみとモンタークへの怒りを含むものだった。ハンドガンの攻撃があまり意味をなさないことをモンタークはよく理解していた。手榴弾をペペロの足元から見て少し右隣に向けて投げつけ、同時に左側に置いてあった消火器目掛けてハンドガンを打ち込む、視界が開けてようやく目を開けたところで消火器が小さな破壊音と共に周囲に白い粉を飛ばす、同時に右に反射的に移動してしまい、同時に手榴弾の所まで移動してしまう。
しかし、反応することなく大きな爆発と共にペペロの姿が完全に姿を消した。モンタークはペペロを確実に殺すため走り出した。しかし、ペペロは無く縁の中からハンドガンの引き金を思いっきり引く。
発砲音が聞えた瞬間にモンタークはすぐに飛び跳ねるように回避するが、弾丸の一発が左腕を貫通した。
「……今のは………死ぬかと思ったぞぉぉ!!」
微笑は消え去り、怒りで我を忘れるペペロと対照にモンタークはペペロの怒鳴り声を聞いて我に返り冷静になって微笑を浮かべる。攻撃が通じたことでモンタークの中にあった疑問に答えが出た。
「疑問だったのは発砲を受けても平気な貴様がどうして爆発だけは嫌がるのかっとな、それも貴様が薬品関係の研究職だと考えれば想像がつく。貴様は普段から素肌の上から特殊な薬品を使った薄い耐衝撃装甲を付けており、それを隠すための体型偽造と特殊メイクなんだろ?その怖いっと言ってもいいピエロメイクは耐衝撃装甲を隠すためのものだ。要するににその薬品は熱には弱い。それに、お前が語った話も半分近くは嘘なんだろう?元ギャラルホルン関係者ならバイオテロを起こした時点でラスタルの粛清対象だろう。父が止める前にラスタルが潰している。それなら貴様が生きているはずがない。しかし、バイオテロを使った薬品を作ってテロを起こしたのは貴様なんだ。イズナリオから依頼を受ける形でな。それが真実だ」
要するに全部が嘘だったわけでは無いが、モンタークを誘い出し冷静さを失わさせる罠だた。
落書きはあらかじめ書いており、視線や考えを落書きに向かわせつつ『今書かれた』と思わせることが目的で、本人はその隙に爆弾を設置した。そうすれば、モンタークが確認の為に部屋一つ一つを調べると思ったからだ。
実際にモンタークは部屋を一つ一つ確認した。
そのうえで、爆弾を回避したモンタークを殺すため暗視ゴーグルを使ってモンタークの姿を確認していた。しかし、モンタークは閃光手榴弾を使って視界を潰しにかかってきた。それが逆に暗視ゴーグルをつけていたペペロには強烈なダメージになってしまった。
だからこそ、手榴弾が投げられたことも、消火栓が破裂したことも反応しきれなかった。
「てめぇなんて所詮はギャラルホルン崩壊の為のおもちゃだぁ!!おもちゃならおもちゃらしくさっさと壊れればいいのによぉ」
ハンドガンを乱射させながらモンタークの方へと撃つと、モンタークは足をかすめながら弾丸を回避するため隣の建物に入っていく。
「死ねぇ!貴様なんて所詮はぁ!!」
そういいながらハンドガンのマガジンを交換する間にモンタークは部屋の中を物色すると、すぐ隣に消火器があることに気が付いた。モンタークは消火器を思いっきり持ち上げ、投げつける。ペペロは恐ろしい表情で消火器を撃った所でミスに気が付き、目の前で破裂すると破片がペペロの顔面にあたって鋭い痛みがペペロを襲い、苦しみながらハンドガンを落とし両手で顔を覆う。
モンタークは一気に部屋から出ていきハンドガンの引き金を引く。
「貴様だけは絶対に許さない!」
ハンドガンの弾はペペロの右胸にあたり、ペペロは後ろに倒れるだけだったが、モンタークはそれで死なないことはよく分かっていた。最後にとどめとばかりに手榴弾を二つほど投げつけると、手榴弾の爆発は弱っていた床を破壊して大きな穴をあけてしまう。
モンタークは大きな穴まで近づき下をそっと覗くとペペロの声が聞えてきた。
「いつかぶっ殺すぅ!」
そう言って足音は遠くへと消えていくのが分かった。
モンタークはゆっくりと壁に体を預けていると、ふと頭の中に飛行機の話が思いついた。
「まさか……ペペロの目的はテラのさつ……」
そこまで口にしたところでモンタークも一階を目指すために階段へと歩みを進めた。
モンターク対ペペロ戦
ペペロ逃走 引き分け
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次回は三日月対F戦になります。次回はFの過去も少しだけ話すと思います。この辺で言ってしまえば、ペペロはまだ登場するキャラクターなので!
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅧ《無を有する者達》』になります。よろしくお願いします!