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三日月は決して目の前を走っているFという男を見失うわけにはいかない。逆に言えば、ここで振り切ることができれば木星帝国側からすれば戦局のバランスを崩すことができることになる。
ある意味左右で始まっているビスケットとモンタークの一戦を占うことになる。
走っていくたびに顔につけている布がなびき、かすかに金属の顔がチラチラと見えてくる。Fは後ろを走っている三日月を一度だけチラ見すると、Fは両サイドにあった柱にワイヤーをとりつけ力任せに柱を崩し三日月の進路上に倒すことに成功した。
右側の柱が先に倒れ始め三日月はそれをスライディングの要領で柱が倒れるスレスレの隙間を縫うようにかけぬけていき、左側の柱は三日月にではなく、目の前の通路をふさぐように倒れようとしていた。さすがにこれを回避することは距離的にできそうに無い。
だったらと三日月は腕に隠しつけた鎖分銅を使って天井に叩き込み、めり込んだところで力いっぱい自分の体を浮かせて上側の隙間へと体を滑り込ませる。
さすがにFも三日月の行動力は計算外だったらしく、驚きを隠せないでいると、そのままロビーまで辿り着く。
Fは二階の手すりに足をかけ、大きく跳躍するとワイヤーを使ってシャンデリアに乗り移ると、三日月に向けて叩き落す。三日月は鎖分銅を使ってシャンデリアを横側から叩きつけ、軌道をギリギリで逸らし、Fはその間に西区画へと移動しようとするが、三日月は三階へと跳躍する為に、二階の天井に鎖分銅を叩きつけ、そのまま体をうまく使って三階の方まで移動し、そのまま天井に再び鎖分銅を叩きつけて場所を移動する。三階に降りると西区画へと移動するFに向けてハンドガンを向け容赦なく引き金を引く。
さすがにFも後ろを向いてすかさずハンドガンの弾を弾くが、その隙に一気に距離を埋め、三日月は右側頭部目掛けて蹴りつける。
Fは弾丸を弾くのに神経を使い過ぎてしまい、回避することも受け止めることもできなかった。
頭部への激しい痛みを受け、Fは苦痛の表情を浮かべながら体を壁へと叩きつけられた。
三日月はすかさず追撃を仕掛けるが、Fは腕に隠したボウガンで矢を射出すると、三日月はそれを左手で受け止めつつ鎖分銅をFの顔面目掛けて飛ばすと、Fは鎖分銅を回避しつつ鎖分銅をつかんで三日月を強引に近づけ腹目掛けて蹴りを入れる。
三日月の体は反対側の壁に激突し、ほぼ同時に駆け出していきナイフとナイフがぶつかり合って刃と刃がぶつかった瞬間に火花を散らし、にらみ合いお互いに跳躍して距離をとると、喋れない三日月と怒りによりテンションを上げ過ぎてしゃべることすらしなくなったFによる沈黙の戦いが始まっていた。
Fは裕福な家の生まれだったが物心がついたころには彼は地球圏と火星、木星間の微妙な関係に疑問を抱いているような賢さの欠片を見せているような子供だった。しかし、この子の家庭が裕福でギャラルホルンとも綿密なつながりのある家であることがこの子の考え方が家族からすれば危険な思考であることは既に分かり切ったことであった。
選び取った家庭教師とギャラルホルンの思想を反映している学校へと通わせる毎日はある意味拷問等しい意味を持っていた。
ある意味での洗脳行為であり、ある意味でFを追い詰めていった。
学校で勉強し、家に帰ると家庭教師による洗脳行為に付き合う毎日はFに過剰なストレスを与えていった。
そんな毎日は結果からしてFに殺人を決意させるに至った。
父親と母親の目を盗んでキッチンまで忍び込み、隠してあったナイフを取り出すと、そのまま寝室まで忍び込むとまず両親の両手両足を自分の部屋のシーツと倉庫にあったロープを使い、口をガムテープで塞いでまず父親の心臓の近くに力いっぱいナイフを押し付ける。
さすがに父親はすかさず目を覚まし痛みで苦しみ悲鳴を上げようとするが、ガムテープが悲鳴を邪魔してしまう。
しかし、そこは子供の力である。どんなに力を込めても少しづつしかナイフを押し込めない。それが逆に父親に長い苦痛を与え、少しづつ死を実感させる。
痛みがマヒしてくると、父親は内心息子に命乞いをするようになった。
今更そんなことで助かるような状況ではない。しかし、くしくもこの時暴れたときに隣で寝ていた母親が目を覚まし、驚きのアクションをとる瞬間にベットから落ちてしまう。逆にその行為が母親の両手を自由にする。
息子を父親から剥がしベットから叩き落す。父親はその時には既に死に絶えており、息子への恐怖と怒りが複雑にまじりあい、息子が落としてしまったナイフを拾って殺そうと試みる。
馬乗りになってナイフを振り上げたところでようやく異変に気が付いた執事をやっていた四十代前半の男がやってきた。
その人物こそ後のテラである。
ロビー一階まで落ちていき二人の戦いは周囲の部品を破壊しながら戦っていた。
かれこれ戦闘が始まって三十分以上が経過しており、機械の体であるがゆえに疲れを知らない二人の戦いは常に全力で周囲を考慮しない戦い方は既に人の領域を超えていた。
テラが改造したFとゲイナーが改造した三日月。人として、機械としてある意味人が改造できる究極と言ってもいい存在の戦いは自然とある人物が興味を抱いていた。
白髪をなびかせ二人の戦いをドローン越しにずっと関している人物は、後ろで遊んでいる子供達や落ち込んでいる二人の女性には目もくれずひたすら二人の戦いを見ていた。
ソニアはドローンから得られる状況を解析機に回し、二人の速度や戦闘経過をコマ送りで記憶しており、解析機は二人の改造率をたたき出している。
二人の戦いと並行してエイハブ粒子の結晶化を起こしている小さな実験を起こしており、小さな筒の中でエイハブ粒子を結晶化する為に様々な試行錯誤をしており、小さな結晶ができている。
しかし、ここまでが限界であった。
これ以上大きくはならず、下手に大きくしようとすると逆に爆弾に早変わりする。
地球圏では許してくれない実験なので火星に来たかったという理由が一つと、サブレ・グリフォンが何か違う何かを感じたというのがもう一つの理由だった。
しかし、サブレ・グリフォンは戦闘の邪魔をされることを嫌がり、ドローンによる撮影なんかすれば後でドローンをすべて破壊してくるぐらいである。
破壊したドローンの数は二桁を軽く超える。
そんな二人の戦いを傍に見ながらソニアはふと思う。
人という概念を機械という形で超えた二人、その対象でサブレは人という形をどのように超えたのかを比べるためでもある。
サブレという次世代の可能性と旧世代の可能性を追求したFと三日月。
ある意味人という有をほとんど持たない無の存在。体のほとんどを機械で補い、人間としての機能を機械で補うのではなく、機械が人の形を成しているという点ではサイボーグというよりアンドロイドと言ってもいいだろう。
元の人間をモチーフとしているといったほうがきっと正しい体を三日月とFは持っている。
しかし、三日月・オーガスは元々死んでいる肉体を蘇生するという目的の元で使えなくなった臓器や脳の一部、人工筋肉や皮膚ですら機械やナノマシンで補う。それは鉄華団崩壊時の戦闘での肉体へのダメージが原因だった。
では、Fは何なのだろうとソニアはふと考えてしまった。
クレアの意見によりテラがサイボーグ開発に関わっていたことは分かっていた。
ではどこでFはサイボーグになったのだろうかっと、そう思った時、テラがサイボーグを施したかもしれない推測を考えたとき、テラとサブレが戦った事件を思い出し、その際にテラと組んでいたと思われる人物を探り当てた。
地球のアーブラウ出身者であることが分かり、名前は『ミラー・フェンサー』で機械の製造業で有名な会社であったことも把握できている。
しかし、彼は8歳の時に両親を殺している罪で追われている身であることも分かっている。問題があるとすれば母親の死に方だったからだ。
「確か……父親はナイフによる攻撃により生じた出血死で、母親が拳銃による自殺だったわね」
当初ギャラルホルンは子供が犯人だと疑わなかった。しかし、のちに母親の死因になった拳銃からは母親の指紋しか検出されなかった。
のちに息子への疑いは母親の方へと移動したが、EDMは一貫して息子による殺人と第三者による介入を主張した。
しかし、ギャラルホルンは一貫してその主張を拒否して母親の無理心中と判断した。
「あの時の男の子が?でも……年齢が」
そう判断したとき、手元の資料をめくっていると一つのページに辿り着いた。
『肉体増強剤』と書かれたページには副作用で肉体の急速な成長と老化と書かれており、それを開発したのはフレアというクレアのお母さんであることも。しかし、この薬は彼女の手で封印された禁薬である。
もし、それをテラが開封したのなら何のためにっと考えつつ、サイボーグ技術と一つにつなげると嫌な予想が浮かび上がった。
その執事はその様子をまるで疑問に思わないような表情で一貫しており、母親はナイフで息子へと迫っており、息子の両手は血でたっぷり、ベットの上には父親が心臓一帯から大量の血を出して絶命している。
そんな状況を見れば十分であり、執事はどうしたらいいかとふと頭を働かせた。ここで息子を捕まえることは簡単である。しかし、かといって母親をを殺すのも何か違う気がすると。
かといって血走った母親を助けるのも違う気がして気が引けた。
母親の方は数年前に雇った執事などまるで興味など無く、息子を殺すことだけに集中しきっており、血走った眼が思考を妨げていると普通に判断できた。
執事には息子が殺人に走った動機はおおよそで予測ができ、それを売らず蹴ることも簡単であった。
こうした場合、執事が助けると決めた人間は息子の方であった。近くの譚の中に隠している護身用の小さな拳銃を取り出すと、左腕で体を後ろから羽交い絞めにして、素早くこめかみに拳銃を当てて一切のためらいの余地なく引き金を引いた。
母親は力なく倒れ、その場に崩れ落ちた。
息子の前に立つ執事はまるで自分を助けてくれた英雄にも、真の父親にも見えた。
「来るか?私の為に戦う覚悟があるのなら、私の為にすべてを投げ出せる覚悟があるのなら私がすべてを与えてやろう」
その言葉は啓示のように聞こえ、少年は……幼いFは全てを投げ出す覚悟を固めた。
三日月の渾身のストレートパンチをFは受け止めつつハンドガンを頭めがけて打ち付けた。しかし、金属の体には致命的な攻撃にはならず、Fは一旦大きく距離をとり、そのまま側頭部目掛けて蹴りつけようとする。
三日月は右腕でうけとめつつ鎖分銅をFに向けて叩きつける。しかし、それを覚悟の上でFは反射的に小型爆弾を三日月目掛けて投げつける。
鎖分銅で攻撃している手前回避に思考を割くことができず、爆弾が目の前にやってきているのに体が動かない。
『何をやってるんだ?三日月』
三日月の思考にもう一人の人物である『昭弘』が動き始めた。昭弘はとっさに体の半分を動かして爆弾を蹴り上げた。
Fは悔しそうに爆発を回避しつつ鎖分銅を三日月から奪い取る。
『起きたんだ昭弘』
『久しぶりに起きてみれば……俺もやるぞ』
二人で一つの体をうごかす。だからこそ、本来ならできないような咄嗟の動きが出来る。視界と聴力を使った認識能力は三日月が、脳波を使ったレーダー型索敵能力で死角を潰すように反応する。
体の基本的な動きは三日月が担当し、反射的で危機的状況において昭弘は体をうごかすことができる。
ワイヤーを無理矢理外しハンドガンを奪い取り、一方的に追い詰められてしまうFは怒り上にテンションを一方的に上げていくと大きな怒鳴り声を上げた。
「化け物がぁ!!私は……俺は負けるわけにはいかないんだぁ!」
テラへの穢れなき忠誠心からくるこの行動の原点にはサブレがいた。
Fは数年前までは人間だった。
肉体を強化する特注の強化によって一気に成人までの成長を遂げ、かつ肉体の老化を止めると共に肉体強化用の実験を行うために海賊を利用した実践データの収集を目的としたテラとの共同の任務に志願して、テラを驚かせる。それが目的だった。
強くなった自分を見てもらう。そして、褒めてもらおう。
そう思った任務の途中に予想外の戦力がやってきた。
Fは自らの見せ場だと喜び、敵を倒した。しかし、真実はあまりにも残酷で、自分の目指していた力は幻だと見せつけられた。
たった一人の少年の手によって叩き潰され、テラまで追い詰められてしまった。
助けなければいけない。そう衝動的に動いた結果Fは命を落とした。
のちにペペロの手によって助け出され、テラによって蘇生処置されたFはサイボーグとしてよみがえった。
今度こそテラの力になる為に。
それもまた一人の若者の手によって幻想になった。
二人の戦いは拮抗し、ロビーは人が戦ったにしては荒れ果てていた。しかし、そんな現場にペペロが傷だらけで姿を現し、煙幕で場を覆う。
「F、撤退だってさ。テラ様……亡くなったらしいよ」
Fは衝撃のあまりその場で崩れそうになてしまった。
膝が急に笑い始め、怒りによって目の前にいる男への怒りへと変わっていった。それが的外れの相手であったとしても。
「お前は……お前たちは俺が必ず」
『そして……テラ様の目指す力の為に!!』
その間にペペロはまるで悪魔のような微笑みだった。
三日月はゆっくりと体を揺らしながら二階の西区画の奥へと歩き始めた。
一番奥の部屋にはビスケットが膝をついて死んだテトラの方を見て呆然としていた。
「あ……三日月」
真実に呆然とし、倒せたという真実がいまだに幻想なのではないかっと思ってしまう。三日月はゆっくりとビスケットの元までたどり着くと、昭弘が反応した。
『久しぶりだな。ビスケット』
「!?……そうだね昭弘」
三日月はビスケットの治療を始めた。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次の話ではサブレ対テラ戦になります。この調子でいけばウィー・ラブ・ユー編は全十話になると思います。最後の十話でラストバトル兼エピローグになると思います。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅨ《最悪の結末》』になります。