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壁という壁を破壊していき、サブレとテラは数秒程度で一気に議会までたどり着いた。
高さはモビルスーツほどで一階と二階で構成されており、一階は滑らかなスロープのようになっており、登りやすいように階段と段差毎に用意された長テーブルが半円状に広がっている議会一面にびっちりと広がっている。二階は記者などが立ち入ることが出来るように余計なものを取り払っている。
これだけ見ると普通の議会堂にしか見えないが、ここにサブレとテラが壁を粉砕しながら姿を現すと違和感しか残らない。
一階一番上の中央の壁とドアを粉砕しながらまずテラが砂煙から姿を現し、その後を追うようにサブレが姿を現した。
テラは腰から取り出したハンドガンをサブレの上に設置されている鉄でできた長細いパイプのような物を撃ちつける。パイプは破壊され、サブレの頭上から落ちてくるが、本人はまるで意に返さず、そのままパイプを回避しつつハンドガンをテラへと向けるが、テラはその間に一気に中央テーブルに辿り着いて身を隠していた。
サブレはこのままでは身を隠すことすらできないと踏み、近くの長テーブルへと身を隠す。
サブレにはテラが中央フロアでの出来事をおおよそで把握していた。だからこそ迂闊に踏み込めない。
テラは死角からの攻撃を完全に回避して見せた。
それだけではないはずだと考えていた。サブレは自身は傷つけたあの目に秘密があるのではないかと考えてもいた。
サブレは物陰から飛び出していき、一気に近づいてみる。
人体が出せる速度には限界がある。それを超える為には二つのアプローチがあるとソニアは提唱した。
ひとつが体の中に機械を埋め込み薬と共に強化する方法。古来から人はこの方法を使って人体強化を行ってきた。しかし、ギャラルホルンがトップに上がってからは厄祭戦の影響を考えて表での研究は控えてきた。
もう一つが外部デバイスを装備に搭載し電気信号による疑似的な強化を得る方法。この方法は最近になってソニアが中心になって開発したもので、初の実戦はサブレ・グリフォンが海賊相手に行った。後にこのシステムはネオ・ガンダムに搭載した次世代型OSに搭載され、サイコ・フレームによる脳波送受信システムの効率化と電気信号による反射速度の向上が目的だった。これはパイロットの学習能力を外部デバイスの力で無理矢理向上させるのが目的だった。
実際最近になってEDMのパイロットたちの技術向上の裏にある事情はそこにあった。
サブレは現在もこのシステムを使用して高速戦闘を可能にしている。しかし、サブレにはこの戦闘方法がテラにも通用するとは思えなかった。
もし、テラの戦闘方法が未来を予知する類のものであれば、高速戦闘など意味をなさないだろう。それでも、サブレが前に出ていった理由はたった一つだった。
テラの力の秘密を知る。そして、この戦いに勝つ。
前へと走り出し、まっすぐに敵の隠れている場所へと突き進む。しかし、攻撃は右側から見たことも感じたことも無い衝撃が襲った。
爆発でもなく、衝撃波のような感じたことも無い鈍い痛みがサブレの全身を襲い掛かった。咄嗟に横に飛んだお陰で骨が折れる事態だけは回避したが、体を起こして立ち上がるのに数秒かかってしまい、立ち上がってすぐに衝撃が来た方向へと視線を向けるとそこにはテラが身を隠しており、片手に何かを持っている。
「君と戦う事をどれだけ考えてきたか分かるかね?君がどんな力を持っているのかはある程度分かっているつもりだ。ならこちらは広範囲攻撃で対抗するしかない。人を超える速度で突っこんでくる場合、攻撃を受けてからでも回避できる性能があるとしても、広範囲に迫ってくる攻撃まで対抗できまい」
おおよそでその攻撃の選択は間違っていない。
速度を上げたという事は攻撃を紙一重で回避するしかないという事である。なので、ハンドガンやナイフのように攻撃範囲が狭まっている攻撃や爆発など事前に把握していれば対抗できる攻撃はともかく、先ほどのように発射された当初より広範囲へと向けられれば回避しようがなく威力を減らすことしかできない。
そんな攻撃を続けられたらサブレにも勝ちはまるでない。
しかし、サブレもまたマハラジャから攻撃のイロハを学んでいる。
瞬時に思考を切り替え、敵の攻撃パターンを脳内で算出して、攻撃方法を考え出していた。
「広範囲攻撃がどんな形で行っているのかまでは分からないが、あれだけの衝撃だ。連発はできない」
そう踏み、再び走り出す。しかし、音は立てないようにかつ素早く物陰をあちらこちらと移動しながらひたすら前に進んで行き、サブレはハンドガンを左側へと投げ込み自身は右側へと反応した。しかし、テラはサブレの方へと容赦ない攻撃を仕掛けてきた。
サブレはとっさに再び距離をとる形で跳躍し再び衝撃を受け流す。
(音より俺の方に反応した……?もしかしたら……)
脳裏によぎった考えがサブレに次の行動を起こした。
腰につけた爆弾を一つだけを起動させ、それを左へと投げ飛ばした。サブレ自身は動かずジッとしていると爆弾へとテラは反射的に攻撃を仕掛ける。
(やっぱり………そういう事か!でも、これで奴は……!)
そう思い、サブレは走り出し、ナイフを投げつけた。テラはそれに反応してナイフを叩き落したがそのせいで視界をふさいでしまい、その瞬間でサブレはテラの眼前へと迫って顔面に一発拳を叩きつけた。
「お前の力……おかしいと思ったのは先ほどの攻撃だ。お前はハンドガンより俺の方へと反応した。その時はお前の力が単純な予知なのかと疑った。でも、そんな演算処理能力がお前にあるのならそれはサイボーグと同じレベルの改造を施しているという事になる。しかし、ならお前のスピードや力が変化しているようにも見えない。なら改造していたとしてもそれは微々たるものだろう」
サブレは武器を蹴り飛ばし距離を潰して見下すように睨みつける。
「フェーズドアレイレーダーだっけ?旧式用語は、現代の技術のベースになったレーダー索敵システムで、これをベースに各戦艦クラスにはこれの発達させたものが使われている。ようするにあんたはこれの簡易ベースを搭載していて、三次元の測定と熱を発している物質を見分けているわけだ。だから最初のハンドガンには反応しなくて、爆弾には反応したわけだ。あの爆弾には爆発する五秒前から発熱する仕組みになっている。あんたはとっさに動いた方を爆弾だと誤解してしまったわけだ」
「たった少しの戦いでそこまで見抜かれたのか」
サブレとテラの戦いは銃火器を使った戦いではなく殴り合いに発展していった。
テラは皇帝が資産家だった頃よりの付き合いであり、Fやオズボーンを見出し、今まで戦略を練ってきた。
そのすべては皇帝の為であってそれ以外はどうでもよかった。しかし、そんなテラでも戦争の事態は反対の立場をとっていた。
そもそも失敗する可能性が高い戦い、それに木星帝国はEDM以上に複雑な事情を抱えている。そんな状態で戦いを挑めば負ける可能性があるとは分かり切っていた。しかし、それでもテラが戦いに踏み切ってしまったのはククナとペペロの後押しがあったからだ。この時点でテラはペペロとククナには戦争を使った目的があるのだと考えた。
「ならペペロは近くで監視していた方がいい」
それがテラの考えでククナは遠ざけることで危険から離していた。ククナは最低限の所で木星帝国そのものに反抗しようとはしていなかったからだ。むしろ、テラにとって一番危険なのはペペロだったからだ。
テラはペペロには木星帝国をないがしろにしかねない何かを感じ取った。
そもそも、イズナリオを木星帝国に紹介したのはペペロだったからだ。
地球圏で活動する上でイズナリオの活動は都合がよかった。しかし、テラとククナはペペロに対する疑いは半端なものではなかった。だから戦争が始まった際にオズボーンと話をした際にテラは忠告をすることにした。
テラは木星帝国の首都コロニーの元老院議会場で後処理をしていたオズボーンを呼び出す。
二十台の好青年で髪は多少暗めの灰色をしており、全身細くスーツ越しには分からないがそれなりに鍛えられている。
多少釣り目でテラを呆れたように見ているオズボーンはテラへと近づいていく。
「何なんですか?木星帝国宣戦布告派を押さえるのに忙しいんですよ。そもそも、私は反対はだったんですから……」
愚痴を聞かせるように多少大きめの声でテラに近づいていくと、テラはオズボーンの方へと表情を向け、オズボーンはテラほ表情を見るなり多少は表情を引き締める。
「もし、私にもしものことがあったらオズボーン……分かっているだろうな」
「嫌な言い方ですね。まあ、分かっていますよ。そもそもそれが私が元老院議長を引き受けた条件でしたからね」
オズボーンはそもそも戦争には反対はであった。しかし、テラはオズボーンが持っている政治関連の力強さを見出し、元老院の議長を任せることにした。
同時にペペロの不気味さにテラは表情を一段と引き締め、改めるように泳がせていた視線を再びオズボーンの方へと向ける。
「いいか、ペペロに気を付けておけ。あれには嫌な予感がする。あれは木星帝国を食い物にしようとしているかのようだ。今戦争には興味が無いが、木星国民を我々のわがままに巻き込むことはできない」
「何をそんなに警戒しているのかはわかりませんが、いいでしょう。いざとなればペペロへの監視は私が引き受けるという事ですね」
「嫌、いざとなった時は監視ではなく………殺せ」
オズボーンは目を多少細め口元を引き締める。
「そこまでなのですか?」
「EDMが勝とうが木星帝国が勝とうが構わんが、ペペロが勝つという状況だけは避ける必要がある。あれが勝ては最悪の結末を引き起こす可能性がある」
「最…悪……ですか」
「ああ、それだけ危険という事だ。世界を滅ぼす結果になるかもしれない」
最悪の結果を招きかねない。
その言葉の意味をなんとなく理解しながらオズボーンは内心「やれやれ…」とつぶやいていた。
殴り合いと回避し合いを続ける事三十分が経過した。テラは勝てないと判断して早めのギブアップを決め込んだ。
体を大の字に広げ肩で息をする姿はとてもではないが年老いた人間には見えない。勝てなかった事への悔しさなど微塵も見せず、どこか晴れ晴れとした表情を浮かべ議会の天井を眺めた。
サブレにはどうしても聞きたいことがあった。
「どうして……どうして………勝とうと思わなかった」
最初からおかしいとは思ってはいた。勝とうと思えばいくらでも戦術がを用意することは簡単であっただろう。実際、彼はサブレの登場をある程度予想していた。
しかし、結果はテラの負けである。
だからこそ気になっていた。
「私には……この戦争に対する興味などありはしない。君の事を恨んでいてもだからと言って私が悪くないのかと言えばそれは無い。そもそも、君の逆鱗に触れてしまったのが原因だ。それに……この戦争を私は望んでいなかった。国民を犠牲にする方法を」
「だったらどうして止めなかったんだ」
「私に止められるのなら皇帝はいらない。あの人の憎しみを私には癒すことが出来なかった」
「憎しみ?」
「そうだ………あの人は地球を………各経済圏やギャラルホルンを恨んでいる」
遠い空を眺めるように独り言のようにつぶやいた。
「クレア様のお母様の事を君はどのくらいまで知っている?」
サブレは正直に「あまり知らない」と答えた。サブレはクレアからその辺の事情を聴くことをタブーだと考えてきた。それはクレアの父親の事を考えればの結果であった。その母親の事をテラが語ろうとしていた。
「クレア様のお母様であるフレア様は科学者だった。優しくそれでいて思いやっていて。いつだって微笑んでいる人で、研究内容も火星や木星のコロニーや大地で緑を増やしての環境改善だった。しかし、彼女自身は体が非常に弱く何時だって咳込んでいた。問題はクレア様を生んでから起きた。出産で体力を使い、その上病弱だったことも重なって彼女は倒れてしまった」
その姿をサブレはすぐに思い浮かべることが出来た。同時にクレアが話さなかったのはあまり知らなかったからだろう。
「皇帝は当時各経済圏とギャラルホルンに対してある申請を出した。フレア様を地球の病院に移すことを願い出た。しかし、地球の人達は所詮木星や火星の人々の事を同じ人という括りでは扱ってくれず、病気の不明も重なって彼女を受け入れてくれなかった。結局彼女は助かることなく亡くなってしまった。分かるかな君に……皇帝の悲しみの重さを」
しかし、サブレは皇帝の戦う理由を知ることになったが、同時に皇帝が娘を遠ざける理由にはなっても、殺す理由にはならない。
「ならどうして皇帝はクレアを殺そうとしたんだ?」
「それは……皇帝にとってクレア様はフレア様を蘇生させる際の体の受け入れ先でしかなかったからな」
蘇生という不気味な言葉に背筋をゾッとさせながらその先の言葉に耳を傾けた。
「蘇生……元々ペペロとククナと私の研究は蘇生させるためのものだ。脳のデータをクレア様の体に移すという強引な方法だったがな。クレア様を箱入り娘のように大事に育てていたのも全ては余計な知識を入れないためでもあり、勝手に動かれたら困るからでもある。あの人にとっては娘など愛する人を取り戻すための手段でしかない」
それはきっと人を人とも思わない外道とある意味同じことだろう。
サブレは握り拳を作るが、同時に遠くからやってくる自分と似た存在に体中の神経が逆立っていくのが分かる。
「来る……黒衣の騎士が」
そう思い立ち上がり上を眺めると同時に部屋中に爆発が起きて視界を一気に塞ぎにかかってくる。咄嗟に物陰に隠れる。
「来たか……」
テラがそうつぶやいたのを聞いたサブレは咄嗟に聞き返した。
「誰なんだ?」
「ペペロだろう。私を殺しに来たのさ。あれが今回の作戦についてきた理由も戦闘のどさくさで私を殺すためだったんだ。勿論君も同時にと思ったのかもしれない。あくまでも君はついでだ。本命は私の命だろう」
上から襲い掛かってくる黒衣の騎士と正面に現れるペペロ、どちらに対応するかを決めているとテラは予想外の提案を始めた。
「君は黒衣の騎士を討ちたまえ。あれが死ねばこの戦いも終わる。この街に憎しみを撒いているのはあれなのだからな。君は君の決着をつけるべきだ」
「だったらペペロはどうなるんだ?」
「あれの目的はあくまでも私だ。それに最悪の状況を何とかする術はオズボーンに託した。サブレ・グリフォン、ペペロの本名を君に告げておく。本質を見抜くことのできるマハラジャ・ダースリンならきっとそれだけである程度の真実までたどり着けるかもしれない。彼の本名は……マカロフ・ルイエルだ」
「分かった……きちんと告げておく」
そう言ってサブレは飛び立っていった。
テラは微笑みながら立ち上がりペペロの方を向く。
(後悔はない。打つべき手は十分打った。幼い頃、クレア様の教育係を引き受けたときから、あなたはフレア様に似て優しい人に育ってくれた。あなたが愛した人を見定めた今、後悔はない。憎しみが無いといえば嘘になるが、そんなことは既に些細な事だ。フレア様……もうじきそちらに参ります。さらばだ……F)
ペペロは爆炎の中からハンドガンの引き金を引き、発砲音と共にテラは倒れてしまった。
エデンと共に崩れてしまった天井から逃げるように去っていった。
少しだけ遅れてモンタークが現れたが、頭を打たれて絶命しているテラを見た後に悔しさゆえに唇をかみしめる。
「間に合わなかった……のか」
クリュセ事変最後の戦いが上空で始まった。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次でいよいよウィー・ラブ・ユー編も終わりです。
次回のタイトルは『ウィー・ラブ・ユーⅩ《赤い大地は緑の大地へ、憎しみは癒しに》』になります。お楽しみに!