ピエロの怒りの理由
白い壁に白い床と白い天井という殺風景な部屋は十人ほどの子供が詰めればギリギリ入れないことも無いような狭さで三段ベットを強引に詰め込んでいて、それ以外は何もないような寂しい部屋であった。
アフリカユニオンの南東に位置するそこは砂漠地帯から少しだけ外れた場所に存在した。人が登れないような高い壁はおおよそでモビルスーツの1.5倍の大きさを誇り、モビルスーツでも簡単に破壊できない造りになっている。
施設は大きく分けていくつかの部屋に分けられており実験体用の就寝部屋。その就寝部屋から唯一のまっすぐな道に実験部屋が並んでおり、その奥に警備用区画と研究区画に分けれれており、一番入り口一帯が表面上だけのビジネス区画になっている。
その研究所で行われている研究こそ『人類の進化』についてであった。かつてギャラルホルンも人類の進化という定義で実験を何度となく行ってきた。ここはその最果ての施設で会った。
しかし、造られたこの施設もほとんど存在理由を保てずにいた。いくつも連れてくるヒューマンデブリに対して生きて成功体は0というのが現状でもあった。
そんな寂しい場所しかペペロにとっての故郷というべき場所は存在しなかった。物心がついたのは三歳の頃で自分の一個上の兄のような人は彼が四歳の頃に実験の最中に亡くなってしまった。
実験中の薬品投与が過剰だったためが原因だったらしく、白衣の男たちは大して問題視もしておらず、そのまま焼却炉へと送られていった。それがペペロにとって一つの切っ掛けになったのは確かであり、あの人のようになりたくないという気持ちは自然と大人たちへの復讐心を募らせていった。
実行に移したのは彼が五歳の頃であった。
実験部屋へと向かう道中は常に警備員が連れていくのがいつもの事だった。その後ろからついていくのがいつもの事で、ペペロは後ろから警備員の右首筋を思いっきり噛み付いた。
離してなるものかという必死な思いで食らいついていき、警備員の男は苦しみながら彼を振り落とそうとするが、ペペロは殺されまいと必死になっている。ようやく異変に気が付いた他の警備員がやってきた頃にはペペロに噛み付かれていた警備員は既に息を引き取っており、ペペロは容赦なく警備員のホルスターからハンドガンを抜き取り、ほかの警備員の額に容赦なく銃弾を浴びせていく。
気が付けば警備員は全滅しているが、それで気を緩める状況ではないことぐらい五歳のペペロにでも良く分かっていた。
部屋をすぐにでも出ていくとそのまま警備員室へと向かう。幸い警備員が持っていた端末から居場所は分かっており、迷うことなく警備員室にたどり着くと警備室のシステムをすべて破壊して、そのままモビルスーツ格納庫に辿り着いたペペロは近くにあったグレイズに乗り込みそのまま出ていこうとしたとき、彼の中に存在した復讐心が再びくすぶり始めた。
モビルスーツに乗って施設の一部目掛けて片手斧を容赦なく振り下ろした。ペペロは内心笑いながら復讐心を満たしていく。しかし、そんな心は簡単に満たされるものではなかった。壊せば壊すほどに復讐心は満たされるどころは増していく一方だった。
ペペロは壊していく過程で一筋の涙を流していた。どうして自分がそんな涙を流しているのかが不思議でならなかったが、その理由を考える以上に破壊衝動が襲い続けていたのだった。
ペペロは故郷としての最低限の心が存在していたのだ。生まれた場所も知らず、育てられたのはこんな最悪の環境と言っても過言ではなかった。それでも、ここはペペロにとっては故郷と言ってもいい場所で、兄同然のように過ごしてきた思い出の地でもある。
涙をどんどん流していき、そして苦しみを覚えながらその全てが復讐心という一つの心へと集まっていた。
気が付けば周囲が焼け野原になっており、全てを壊してもなお収まらない破壊衝動にペペロは次の何かを求めた。
しかし、それは同時にペペロに新しい手段を思いつかせる至ってしまった。
―――――生き残る事。そして、破壊すること。
それだけがペペロを行動させる唯一の行動原理であった。
ペペロはその後地球圏でも有名な研究員になるための努力を始めた。それに際し彼は住民IDを手に入れる必要があったが、その為に彼が取った行動は時分とよく似た人間を見つけ出そうと考えた。そして、髪の色こそ違ったが自分そっくりの人間を見つけ出すと物陰に連れ出して首を絞めて殺した。遺体は見つからないように重りを付けて海へと捨てた。
こうして堂々と行動できるようになったのは彼が十歳になる前の事であった。
まず入るための学力を鍛えなければならなかったが、それこそ一朝一夕で身につくことではなかった。その為にもまずは入学すること出会った。入学さえしてしまえば専用の研究室を持つことが出来る。そんな際、彼は体の不調を訴えるようになった。
入学すること自体はカンニングすることで何とかしのぐことができたが、問題の体の不調は簡単には解決できなかった。
彼の体の不調の原因はテロメアと呼ばれる細胞が通常の人間以上に少ない事であった。それの理由も簡単に分かった。ペペロは『ある人物』のクローンとして開発をうけたことが理由であった。
ペペロはあの研究所で作られた実験体であったこともこの時なんとなく理解してしまった。どうすればテロメア問題を解決できるかと考えている間に彼はその場しのぎの解決方法を編み出した。それが肉体から新しい肉体への移動だった。自分の肉体に対する執着心を早々に捨て、新しい肉体を同じ方法で作りつつ、テロメア問題を解決できる肉体を作り続けた。
もちろんその間に研究員としての別の研究も続けている間に彼はある薬品開発も同時に進めることになった。それはギャラルホルンからの要請であった。
きっかけはラスタル・エリオンが調べていたとある場所での出来事だった。そこはイズナリオ・ファリドが調べられたら困る場所だった。それに際しイズナリオが使用した手段がバイオテロでありその手段の提供者こそペペロ。
ペペロは殺人ウイルスを使う方法を思いつきそれを実行に移す機会をずっと探していた時イズナリオを見つけ出した。証拠になる人間たちを殺しつつ周辺を無期限で封鎖する方法を思いつき提供する手段を探し出すことになる。
しかし、ペペロはそこまで考慮することも無く短絡的な手段を思いついた。それこそが最悪のシナリオとも言うべき手段であり、同時にペペロにとって予想だにしない結末を生み出すことになった。
ペペロはイズナリオに接触することも無く、自らの意思でバイオテロを引き起こし結果から見れば成功した。
しかし、ペペロにとって想定外の事態が起きたのだとすれば、それはラスタルが予想以上の速度で犯人に目星をつけたことだろう。それによってペペロの所属していた研究所は封鎖を余儀なくされた。その時動いたのがイズナリオだった。
イズナリオとの水面下との取引を行ったのが所長だったのだが、一連の話を聞いていたペペロは所長をイズナリオに売り飛ばすことにし、結果から見れば作戦は成功しペペロは所長に責任をなすりつける。しかし、ラスタルは一連の行動にセブンスターズがかかわったとわかれば世間体にも傷がつく、ラスタルは研究所を火事を装って全滅させることにした。
ペペロにとってその行動は予想外だったが、そこにさらに意外な結果を生みだした。
ペペロは撃たれその場で倒れたとき、肉体からまるで魂が抜けるような感覚を覚え、別の肉体へと憑依することに成功する。
この瞬間からペペロは『独自精神生命体』と言うべき存在にまで昇華してしまった。そして、その瞬間からペペロも『呪い』に気が付いてしまった。
『進化』を知る実験の中で生み出されたペペロ、ある意味実験は成功したのかもしれない。しかし、同時にそれは失敗だったといえるだろう。だからこそ、幼い頃に言われた言葉をペペロは屈辱と共に覚えている。
「結局この実験体も『失敗作』という事か?」
「じゃないのか?別にいいじゃないか、また作ればいいわけだし」
その言葉は例えでも無ければ嘘というわけでも無いという証明にもなった。
おそらく兄同然として育った『あの人』もペペロ同じ『作られたクローン』だという事も、ギャラルホルンの闇の深さにも気が付いた。
自分の正体を知り、進化したと確信したときに彼の胸の内に宿ったのは復讐心ではなく向上心だった。
彼は自らをギャラルホルンを作り替える者だと信じ前にすすみ続けることにした。
その為ならどんな人間たちを敵に回しても構わない。
―――――私は、『アグニカ・カイエル』なのだから。っと………
「それが『ペペロ』という男の正体か?」
マハラジャはアルベルトにそう尋ねながら手元の書類を机に叩きつけ視線をアルベルトに向けると、生真面目なアルベルトはまっすぐと視線で返す。
「ええ、サブレ達の報告を受けたうえで捜査した結果です。間違いありません。彼はアグニカ・カイエルのクローンでしょう。最も、それを知ったのは彼が研究員時代『ルーク・ファム』と名乗っていた時代でしょうけれど」
ルーク・ファム―――――この名前こそペペロの最初の名前になった。
「ルークの前の名前は存在しないのか?」
「ないでしょうね。あるとすれば被検体が彼の名前だったのではないでしょうか?」
マハラジャは小さく「フム」っと息を吐き出し、もう一度手元の資料へと目を通す。情報局と元ギャラルホルンの情報ベースを探り出し、一か月かけて追いかけた結果でもある。
実際に研究所にも足を運び何もなくなった研究所後念入りに捜索した結果でもあった。
「しかし、まさかアグニカ・アグニカのDNAマップが存在していたとは。全く………これだからセブンスターズは嫌なんだ」
セブンスターズへの不満を口に出し始めるマハラジャに対しため息で返すアルベルト。
「セブンスターズが問題ではないでしょう。そもそもの問題はギャラルホルンというより社会情勢にあるのだと思いますよ。結局人間一個人の考え方そのものに問題があるのか、それとも集団における考え方に問題があるのかで別れるのだと思いますよ」
マハラジャは一瞬だけ思考すると思いついたことを口にした。
「独裁政治と独裁者の違いという話か?分からんでもないが……結局のところでそれは人間の考え方の限界の問題だろう?」
「まあ、そうでしょうけれどね」
「どうしようもないだろう。誰しもが仮面を着けて生活している。みんなが一つになるなんて誰も納得しないだろうしな」
憂鬱な気持ちを抱きどうしようもない問題を前に投げ出すしかない人間の限界にあきれ果てる。しかし、それを解決しようとすれば『人間』という存在の枠を完全に破壊しなくてはなならなくなる。それは『化け物』に成るという事だ。
―――――『人間』から『化け物』になるか。『人間』として永遠の『闘争』に身をゆだねるか。果たして選択肢とはそれしかないのだろうか?
マハラジャはそれ以外にあると信じサブレに全てを任せることにした。彼だけがマハラジャが見える戦いなどを移す盤面の中で予想もつかない行動をとる。一見すると計画に入れずらいかもしれないが、しかし、そのデメリットを覆すほどのメリットをサブレは持っていた。
「あの時、俺はサブレに何かを感じ取った。『未来』かそれとも『可能性』なのか。分からないが、確かに感じ取った強い何かがあったのは事実だ」
小さい頃、ドルトで仕事をしに来ていたマハラジャの腰辺りに手を回してまるで助けを求めるような目でこちらを見ていたのは間違いなく少年のサブレ・グリフォンだった。小さい少年なのに力強い目でこちらを見ていたのは印象深い。
「助けてください」とも「手を貸してください」とすら言いはせず力強い瞳でこちらを見るだけ。
その後マハラジャはサブレの家庭事情を自ら調べ、自分とサブレ達との間にある血縁関係に気が付き、息子として引き取る覚悟を決めた。
(あの日から何が変わったのだろうか?あいつを引き取ったあの日から何かが変わったのだろうか?きっと変わったのだ。しかし、同時にあの怒りを抱えるピエロを止める役目はサブレではない。サブレにはサブレの役目が存在しているはずだ。だとしたら、ペペロを止める役目は………)
そこまで思考したところでマハラジャは盤面を動かし始める。盤面の上にある駒をあれこれと動かし、ある意味可能性の高い未来と選択するだろう可能性を導き出す。そのうえで全く予想もつかない動きをするだろう駒を配置していく。
(おそらくそろそろマクマードが動くだろう。目的は『アレ』の破壊だろう。サブレもあちらに行くだろうし、主力艦隊をサブレ達の援護と木星帝国への侵攻部隊に回すとして、問題はペペロだ。まあ、手は打った。こちらはこちらの問題だ。策は全て打った。あとは敵がどう引っかかるかだ)
最後の戦いは静かに始まろうとしていた。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。今回はペペロ過去のお話になりました。次回はククナのお話になると思いますのでお楽しみに。
次回のタイトルは『悪は背負う』になります。お楽しみに!