俺達はきっとあの日から変わっていない。
初めて俺達が出会ったのはEDMの教習学校初日の事である。初日と言っても入学式や堅苦しい説明があるわけでは無い。ただ縦に広い視聴覚室という名前の部屋に四月に入学した全生徒が集められている。
とは言っても俺が入学したときの全生徒数は百人程度しかおらず、生徒はまばらに散っている。当時の俺は兄である『ビスケット・グリフォン』と別れた直後というだけあって誰かと一緒にいる事が無かった。
この時はメイデンがいるとは思わなかったし、メアリーやイオリとも知り合っていなかった。しかし、俺が初日から知り合うことになったのが、『テム・フォース』であった。
先生が部屋に入ってくる三十分ほど前になると本年度の生徒の半分が集まっていた。
その時、正面のドアを勢いよく開ける音と一緒にテムの明るくどこまでも響き渡る音が聞えてきた。
「グットモーニング!エブリワン!!ハウワーユー」
聞きかじったよな言葉が聞こえてくると俺はふとそちらの方を見てしまう。正面のドアには明るい茶髪の若者が立っていた。
一瞬だけそちらを見て確認すると俺は窓の外へと視線を移す。すると声は少しづつ近づいてくるのが分かった。
「ハロー!ハロー!ボンジョルノ!!」
最後のはイタリア語だろ。というツッコミが脳裏をよぎり顔を一瞬だけ正面を向こうとすると俺の目の前、鼻先にテムはいた。
いたというより今にもキスしそうな距離を維持しつつにっこり笑っていて俺は驚きのあまり後ろにこけそうになる。
「何なんだお前は!」
苛立った気持ちをそのまま正面に居るテムにぶつけるが、テムはまるで気にもしないようにニコニコしているだけだ。
「やっと見てくれた!俺の勝ち!」
「何の勝負をしているんだ!だいたい初日から大暴れしているのはお前だけだぞ!」
「ありがとう!」
「言葉のキャッチボールを受け取れよ!お前の行動の問題点を指摘しているところだぞ!なぜお礼を言う!?」
「ありがとう!!」
「お前は何がしたいんだ!!」
周囲の目はあっという間に俺とテムの方へと向きガヤガヤとざわめき始める。すると、どうやら新入生はあっという間に集まっていたらしく、教師が部屋に入るや否や大きな怒鳴り声で「静まらんか!!」っと叫んできた。
周囲は委縮する様に静かになっていき、テムだけが元気よく「はーい!」っと言いながら俺の隣に座る。
俺はテムから距離を取ろうとするが、テムはくっつき虫のように近づいてくる。イライラする時間を過ごしていくと最初の挨拶が終わったのちそれぞれのカテゴリーに分けられる。
どうやら俺とテムは同じ場所で学んでいるらしく、全く同じモビルスーツの訓練施設へと分けられた。シュミレーションマシンに乗り込んで初期型のシュミレーションをクリアすることが最初の課題になった。
シュミレーションの内容自体は簡単な一本道に配置されたモビルスーツを撃破もしくは撃退させながら一番奥へと進んで行くことだ。
最速でクリアしたのが俺で数コンマ遅れてクリアしたのがテムだった。
それからすべてのシュミレーションが終えるまでの間テムは興味津々の様子で俺の方をじっと見ており、俺はそんなテムから視線を全力で逸らす。
全てを終えた後、教師は「内容をフィードバックしてくるまで大人しく待って居ろ」と言って室内から出ていった。すると、テムは俺の服の裾をつかむと勢いよく立ち上がりシュミレーションマシンの前まで連れていく。
「一戦だけ!!」
要するに戦えという意味だと解釈するのに時間がかかってしまう。笑いを偽ることすらできず、露骨に嫌そうな表情を作るがテムの表情が「あきらめない」と告げている気がした。
「一戦だけだぞ」
そう言ってシュミレーションマシンに入り込んで起動画面に映る。隣のシュミレーションマシンの番号を記入しつなげるとマシンのほうで対戦モードへと自動で切り替える。
周辺は荒れた荒野で所々が高くなっている。テムのモビルスーツは見えていない。
開始の合図と共に俺はモビルスーツをまっすぐ荒野の中を移動していく、移動して数分で正面からエイハブリアクターの固有周波数が見えてくるとやや西の方から近づいてくるのが分かる。
「真後ろじゃないだけましか……」
俺はモビルスーツの進路をやや西の方へと傾けるが、同時に敵もこちらの動きが読めたのか鋭く俺から見て東の方へと移動し始める。俺は西に移動しかけていた機体を強引に東の方へと変える。
スラスターを吹かせようとペダルを踏んだところでテムの機体が物陰から現れた。テムのグレイズは既にライフルを構えており、照準を俺のグレイズの右膝目掛けて銃口が火を噴く。今更方向転換が出来るわけでは無い、しかし、この状況を回避する手段は一つしかない。
本来正面から銃口を向けられた時の対処法は横に飛んで回避するか受け身をとるかの二つであるが、正面にスラスターをふかしている状態ではどちらも使用できない。
俺が選んだ選択肢はまっすぐ前に突き進むことだった。
敵がコックピットを狙ったのでなければ正面に走れば照準を狂わせられる可能性がある上、たとえ当たっても最悪タックルを決めることが出来ればそのまま決着をつけることが出来る。
しかし、実際に正面に突き進むことは勇気のいる行為で、正面から攻撃を受けようとしている際に人間はどうしても回避しようと体をうごかしてしまう。それに逆らうように俺は正面に機体を走らせた。
テムの銃口は右膝に当たらずそのまま俺は斧を取り出して右肩に叩き込もうとするも、テムは銃撃が無理だと瞬間に判断し素早く斧に切り替えて叩きつけようとする。斧と斧がぶつかり合うとシュミレーションマシンとは思えないほどのリアルの衝突音が周囲に響いた。
ぶつかった斧はお互いに反発し合い後ろにのけぞってしまう。俺はグレイズの足に力を籠めて踏ん張る。テムも同じように踏ん張っているとテムは先に仕掛けてきた。
テムは俺のグレイズを横なぎに斬りつけてくるが、俺はスライディングの要領で攻撃の下へと潜り込みそのまま上へと殴りつけるかのように左の拳を叩き込む。テムのグレイズは一瞬だけ空中に浮くと踏ん張れず後ろに倒れてしまう。
俺はそのまま斧を振り下ろすがテムはギリギリのところで左腕を犠牲にする形で斧を受け止める。斧は左腕に突き刺さる形挟まってしまい、テムはそのまま右腕で構えている斧を横なぎの要領で斬りつけようとする。このままでは俺は負けてしまうだろう。
逃げる何て選択肢はない。一度逃げれば俺の武器はライフルしかなくなる。しかし、ライフルで勝てるとも思えない。そんな中俺の視界には左腕に突き刺さった斧が見えた。
イチかバチかの賭けではあるが……。
俺はグレイズの両腕を突き刺さった斧へと向け、斧はそのままの要領で左腕を切断しそのままコックピットへと突き刺さった。
その瞬間正面の画面に『WIN』という文字と共に少しづつ暗くなっていく。シュミレーションマシンから出ていくと正面には教師が恐ろしく怖い表情をしながら俺とテムを見ており、俺とテムは満面の笑みと共にその場から離脱しようとした。しかし、ガッチリと俺とテムの肩に太くごっつい手のひらがまるで万力のごとく締め付けてくる。
「初日早々に問題を起こすとはいい度胸だな」
教師の怒りの一言は俺に恐怖を刻みつけるのには十分だっただろう。しかし、テムはそれでもなお楽しそうにしながら教師の方へと向いた。
「先生あそこで美女が先生を見ていますよ」
お前は何をバカなことをと思いながらそんなことに先生が引っかかるとは思えず、いるはずが無いだろうと思っていると、実際にチャイナ服のような露出度の高い薄着を着た女性が目の前のゴリラのような教師を誘惑していた。
目くばせを飛ばし、明らかに露出度を上げていきながらどこかへと姿を消そうとしており、教師も実際にそちらを見ながら唖然としている。そして、その隙に俺とテムは姿を消した。
あれから一週間が経つと周囲は一つのグループを作るものであふれるようになっていた。
肝心の俺はいつの間にかテムと一緒に行動するようになっており、俺は鬱陶しいと思いながらもテムと行動していた。
テムは自分のペースでしか話をせず、俺は適当に聞き流しているだけだった。そんな中俺はこのころにはメイデンと再会し彼とも一緒に行動することになった。
そんな中テム話を聞き流しながら俺は二人と一緒に廊下を歩いているときだった。俺は手元の教科書を見ていて正面を見ておらず、同時に空いても話に夢中になっていたのだろう。俺は曲がり角でメアリーとぶつかってしまった。その際にメアリーが持っていた数種類のパンと牛乳が地面に落ちてしまい周囲にぶちまけてしまう。
俺は倒れてしまったメアリーに手を伸ばそうと腕を動かそうとしたところでメアリーからの罵倒の言葉が襲い掛かった。
「ちょっと!ちゃんと前を見なさいよね!!」
その言葉に俺の反骨精神を刺激してしまい、とっさに怒鳴り返してしまう。
「そっちころ話をしていて見ていなかったんじゃないのか!?」
「何よ!?私が悪いっていうの!?こういうことは男子から謝てくるものじゃない!?」
「男子だから先に謝ると思ったら大間違いだ!大体お前を女子として扱ったら他の女子がかわいそうだしな!」
「何ですって!」
二人で睨み合い怒鳴り散らし合う中、後ろから見知って声が聞えてきた。
「何をしているか!!そこの五人!」
メイデンは小声で「五人?」と数え周囲を確認する。喧嘩をしている俺とメアリー、楽しんでいるテムとメアリーの後ろで慌てているイオリがいる。最後の一人が自分だと気が付いた途端メイデンは駆け出していき、俺とテムも同時に走り出しイオリを引き連れる形で逃げ出した。
今思えばこの時から俺達は一緒に行動するようになった。
翌年になると俺とテムは上層部からの指示で実戦に出るようになり、その過程で明楽を助けたりもした。そんな中、俺とテムは変な噂になっていたらしく名前は分からないが凄腕のパイロットがいつも一緒に行動しているらしいっと。
それを知ったのはサラ達と知り合ってからだった。
サラとレオとマークは別々にだが俺に接触してきて、ほぼ同じような事を訪ねてきた。この時の俺はテムとは別にメイデンと行動しているため、彼らはメイデンが噂の強い人物なのだと誤解していたらしく、俺はテムの事を知られることを嫌がったため彼らの誤解を解こうとは思わなかった。
彼ら三人と会った後、俺はメイデンと別行動をしていると後ろから見知った声が聞えてきた。
「ハロー!ボンジョルノ!グーテンターク!」
「いろいろな言葉混じっているぞ」
「サンキュー!」
「会話をするつもりがないのか?」
「どう思う?どう思う?どう思っちゃう!?」
イライラしながら話をしていくと俺は引き離そうとその場から駆け出していく。テムは後ろからぴったしくっついてくると、いつの間にか競争に変わっていき、俺達は校舎内をマラソンしていた。
「ついてくんな変態!」
「変体?何を変体」
「変態!分かりずらい言葉で遊ぶんじゃない!」
「編隊?部隊を編隊するの?ついに一緒に行動してくれると!?」
「お前はもう死んでしまえ!」
「絶対嫌だ!死ぬときは一緒がいい!」
「気持ち悪いことを言うんじゃない!お前と一緒に死ぬなんて死んでも御免だ!」
「やったー!」
「喜ぶな!」
そのまま学校から出ていくと俺達は裏山の登って逃げていく。しかし、結局のところで決着がつくことも無く、今回も引き分けという結果だった。
この勝負に限ったことではなく、最近はモビルスーツの対戦から実際の競争に至るまで俺とテムが勝負して決着が付いたことは無い。
「お前マジで死ね」
「一緒に?」
「一人で」
「自殺すんの?」
「言葉のキャッチボールってこういう事じゃないぞ!お前はこっちがキャッチボールを望んた時にノックをし始めて!こっちがノックを望んだ時に限ってキャッチボールを始めるんだ!?」
「俺ですから!」
「納得!すごく納得する話!でも、こっちはごめんだ!」
「嬉しそう!」
「嫌がっているんだって気が付いてくれよ!」
もはや懇願しなければ届かないのではないっと思えるほどであったが、こいつと行動するようになって既に一年以上。ずっとこんなやり取りを繰り返している。
この直後に俺はテムに「今後俺が面倒を見ている奴に勝手に話しかけるな」っと忠告を聞き入れたことだけがテムが守った約束だった。
しかし、のちにこの約束は破かれてしまうことになる。
そうして過ごしているといつだっただろうか。テムは俺の確信をつく一言を放っていった。
オルガが亡くなって兄さんやシノのフォローをしている間に俺は忙しくしていた。いや、実際は分かっていたのだ。俺は忙しくすることで無理矢理辛さを忘れようとしていただけなんだと。
しかし、テムはその辺を見抜き俺の後ろから襲い掛かってくると俺を拉致していた。
アルンにできたばかりのレストランで昼食をとることでテムは俺に対して手を打ってきて、俺は仕方なしにそれを承諾したときだろう。なんでこんなことをするのか気になって尋ねたときの返答はあっさりしたものだった。
「だってサブレは寂しがり屋だもんね。きっと誰かを守れないと知ったら落ち込むんじゃないかって思って」
笑顔で返された言葉に俺は絶句したまま言い返せずにいた。
小さな声で「そんな……ことはないさ」っと強がることしかできなかった。
「一人でいるくせに、ほんとは一人が嫌なんだよね」
俺の心をえぐるような言葉の刃を黙って耐えるしかなかった。
それがもう何年前の事だろうかっとブリッジへの足取りの中でそう思ってしまった。しかし、どうして俺は右に明楽を左にアトラという女性と歩いており、同じようにブリッジへと目指している。
目的地へと向かう航路の中、地球からの定期更新に是非アトラも誘おうとい言い出したのは誰だろうか?
実際アトラは最初こそ邪魔なのではないかっと遠慮しようとしていたが、最終的には参加することを快諾した。
ブリッジに入るとクレアをはじめ基本的なメンバーがブリッジに揃っており、ブリッジが狭く感じてしまう。俺はメアリーの隣で時間を確認していると正面の画面が起動しどこかへとル投げていることが明らかだった。しかし、画面に映った人物はハイテンションで語り掛けてきた。
「ボンジョルノ!グーテンターク!ドブリジェン!」
見知ったその声はテムの者であったが、俺は勢いよくメアリーが操作している画面を叩きつけることで通信を切断した。メアリーは驚きと共に怒りをにじませた表情で俺に怒鳴りつけた。
「ちょっと!壊れたらどうするつもりなのよ!」
兄さんが「そっちに怒るの?」っと驚きと共に俺とメアリーは喧嘩を始めた。周囲は突然の事で驚いていると再び通信画面が開いてテムが能天気な表情をさらす。
「ボンジョルノ!グーテンターク!ドブリジェン!」
「どれか一つに絞ったらどうなんだ!」
「ちょっと人の話を聞いてるわけ!?」
怒涛の勢いと共に変わりゆく状況は周囲の人間が唖然とさせてしまう。
「ねえねえ!聞いて聞いて!さっきロビーのおばさんが……!」
「お前はこっちの説教を聞く気が無いのか!?」
「ない!」
「断言するな!聞き流す努力ぐらいしたらどうなんだ!」
「絶対嫌!」
「ぶっ殺す!」
俺は画面目掛けて殴りかかろうとしたときメアリーとメイデンが急いで止めに入る。前と後ろから羽交い絞めにすると俺は暴れながら怒鳴り散らす。
「離せ!こいつは一回殺さないと気が済まない!!」
イオリがそんな状況でクスクスと笑い始めた。どうやら一連のやり取りが面白かったらしく久しぶりにイオリの笑う顔を俺達は見ることになった。
ほかにも笑いそうになっていたり、周囲の空気が明らか変わっていた。火星での長い戦いなどで雰囲気が柔らかくなっているのに気が付いた。
テムなりの励まし方なのだとわかってはいても咄嗟に反応してしまう。
ようやく落ち着いてから俺は改めてテムの方を見るとテムは笑っているだけ。
きっと「勝てよ」も「負けるなよ」っという言葉も、「死ぬなよ」と「生きろよ」という言葉すら不要なのだろう。
「「またな。親友」」
俺はその言葉を最後に通信を切り気持ちを切り替えて全員に指示を出す。
「後三十分で目標ポイントに到着する!最後の準備を整えるぞ」
俺の言葉と共に全員が声を上げてブリッジから出ていく。最終決戦が少しづつではあるが近づきつつあった。
《断章Ⅱ終わり 木星編開始》
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次回からいよいよ最終章の始まりです。
次回のタイトルは『アカシックレコードⅠ《テイワズの意地》』になります。お楽しみに!