アカシックレコードⅠ《テイワズの意地》
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「アカシック・レコードの居場所を教えてほしいのだけれど」
そう言ってククナはアジーの乗るハンマーヘッドへと圧力をかけていた。
木星複合企業である『テイワズ』に所属していたアジー・グルミンはこんなことが起きるのではないかと想像していた。
二代目ハンマーヘッドは現在、アステロイドベルトのポイントEで『ある場所』への案内する役目を受けた。その案内するべき相手ではなく、敵対するべき相手である木星帝国所属のアイン・ダルトンであった。十機のモビルスーツに囲まれ、そのうちの三機はガンダム・フレームであった。
赤いドレスのような射撃兵器を身に纏い、両腕にビームランスを持ち、背中からシールドを装備している。女王と騎士を足して二で割ればこんな形になるだろうという姿をしている。アジーはこれが報告にあったレッドクイーンであることは間違いない。アジーが知らない装備を搭載しているところを見れば、ガンダム・レッドクイーンの改修機であることは間違いない。
もう一つ青いガンダム・フレームもアジーが報告から聞いていた機体情報と少しだけ違っていた。
細いシルエットに両手には両刃剣をイメージて造られた剣、背中には移動速度や俊敏性を高めるための翼が付いており、それ以外の武器は見られない。シンプルである分、純粋な強さがにじみ出る機体であると判断できる。ガンダム・ブルーレイの改修機であることは確認できる。
しかし、肝心のエンペラーは特に変化があるようには見えない。それでも脅威であることにはまるで変わりない。
アジー達の目の前にある脅威を前にして、戦うなんて選択肢は愚かでしかないと分かってはいても、それでもここで逃げたり頭を下げて軍門に下って情報を提供するなんて言うことはテイワズの意地に関わると本能が悟っている。
逃げるなんて選択肢はありえない。しかし、戦って勝てるとも思えない。それでも、戦うしかない。
「断る。ここで引いたらテイワズの名折れだよ。何より姐さんや名瀬やラフタ達に申し訳断たないからね。あんた達に情報を渡すぐらいなら最後まで戦うさ」
彼女たちはアジーの言葉を受け一段と気を引き締める。
ククナは微笑みながらアインにまっすぐに指示を出す。
「アイン。母艦は落としちゃ駄目よ。それ以外は殲滅しなさい」
ハンマーヘッド周辺に展開していた旧テイワズモビルスーツである獅電が前へと出居ていく。
この獅電はパーティクルドライブを強引に搭載したせいで技術こそ追いつきつつあるものの、性能ではまるで追いつかない。あくまでも付け焼刃に過ぎない。
モビルスーツの数も、性能も、実力も追いつかない状態では勝ち目など無い。しかし、ガンダムフレームに一矢報いたいという気持ちが大きい。辟邪が格納庫にあるにはあるがアジーは既にパイロットをやめて八年である。
「エコー。私が行くからここは任せたよ」
「でも、アジー」
「最悪の場合はあんた達だけでも逃げな」
そう言ってアジーはブリッジから出ていこうとする。しかし、エコー達は真剣な面持ちでアジーの方をじっと見つめる。
「逃げるってどこに?逃げ場なんてないでしょ?アジーが戦う事を決めたんならあたしたちも戦うだけだよ」
アジーは唖然とする気持ちを抱きながら自分がバカなことを言ったとすぐに反省する。
「ここは任せるよ」
そう言って部屋から出ていった。
「勝てるとは思わないよ」
そう言ってハンマーヘッドから出ていくと既に開戦から五分でモビルスーツ隊の半数が落ちており、アジーは舌打ちしたくなる気持ちを押さえながら辟邪を小惑星の後ろに隠れている霊電の背中目掛けてビームサーベルを突き刺した。
せめてという想いでエンペラーへと突き進む。エンペラーは走ってくる辟邪など視界にも入れようとしない。
「バカにして!」
そう言ってビームサーベルを振り上げるが、辟邪とエンペラーの間にレッドクイーンが入ってきた。左のランスで攻撃を受け止めつつ、右のランスでコックピット目掛けて突き刺そうとするが、それをアインが制止する。
「まてアルミリア。そいつ………アジー・グルミンだな。彼女はアカシック・レコードの居場所を知っている可能性がある。生かしておけ」
アルミリアは言われた通りとどめの一撃をやめ、右腕を狙って攻撃を仕掛ける。アジーも負けじと攻撃を捌こうとビームサーベルをふるうが、ビームサーベルとランスの総重量ではランスの方が勝っている。
ランスとの衝突で大きく弾かれてしまい、ランスからの攻撃を回避しようと上に大きく飛ぶが、避けきれない攻撃が右足に直撃する。
「くっ!」
「落としたくないんだから………大人しくしなさい」
右足を落とされたせいでバランスを失った辟邪は次の攻撃を回避しきれずに左腕を吹き飛ばされてしまう。
「逃げるなら……いいよ。このまま四肢を全部奪ってあげる」
両手にそれぞれ握ったランスの連続突きで左足を奪われ、胸の装甲の一部がはげ落ちる。次々と装甲が剥げていき、ついには右腕が吹き飛ばされてしまい、最後にはレッドクイーンに捕縛されてしまう。
「さて……アジー・グルミンを捕縛したし、一旦引くしかないだろう。船も全部潰せ」
エンペラーが踵を返し、冷酷な指示を飛ばす。
「ジャック!全員殺せ。アルミリア。そのまま彼女に仲間たちの最後ぐらい見せてあげると言い」
モビルスーツが一機ずつ落ちていき、最後の一機がアジーに手を伸ばしてまるで助けを求めるようなしぐさを見せる。ブルーレイが残忍な一面を見せる。剣でモビルスーツを一刀両断にしてしまう。アジーはコックピットの中で片手を伸ばし獅電の手に答えようとする。
アジーは見ていられなくなり目をつぶってしまう。そして、ブルーレイはその後方でナパーム弾で応戦しているハンマーヘッドへと向けて走り出していく。
「も、もう……」
心が折れそうだった。
それ以上攻撃を仕掛けられたらアジーには耐えられる自信が無かった。ハンマーヘッドの右側面の装甲が切り裂かれたことで内部がむき出しになってしまう。
「もう………やめ…て(ごめん。名瀬。姐さん。ラフタ)」
一筋の涙が流れたとき、ブルーレイが剣をブリッジ目掛けて振り上げた時間は全く一緒であった。
(役目も果たせず。報いることすらできない)
心の底からの絶望が襲う中、ブルーレイの前をビームの熱線が襲い掛かってくる。ブルーレイは驚きと共に後ろに飛び退り、すぐに攻撃が来た右側面を確認する。
そこには大きなブースターを付けたシムカスの姿があった。
「キタキタキター!」
ジャックは内心喜びを隠しきれず、むき出しの敵意をシムカスに向けた。シムカスはブースターを外してそのまま二次加速を掛けながらブルーレイへと向けて突き進む。
シムカスはビームアックスを二本に分けて持ちつつ、サブアームではブームライフルを二丁構えている。
シムカスが二丁のライフルでブルーレイをハンマーヘッドから引き離す。
「早いじゃん!いいね!いいね!殺し合おうか」
「いいよ。ただし、ここじゃない場所でね」
二本の斧でブルーレイへ攻撃を仕掛け、ライフルで退路を絞る。ブルーレイは左側によけながら細かく回避し続け着実に近づいていく。明楽は舌打ちをしながら近づいてくるブルーレイに向けて斧を振り下ろす。しかし、ブルーレイは攻撃を紙一重で回避してカウンターの一撃を加えようとするが、五本目のアームが伸びてビームサーベルを掴み攻撃を受け止める。
「へぇ………いいね。いい感じに強化してあるじゃん。じゃあ、俺も……!」
明楽はジャックからの強力な脳波を受けると、嫌な予感を最大まで高める。ブルーレイの装甲の一部がスライド式に動き始める。肩と腰の装甲が動き、中から濃い青と電子機器のにあるような回路が刻まれているようにも見える。
「ガンダム・ブルーレイ・アクセル。ジャック!本気で行くよ」
「その前に聞いてもいい?君の苗字は無いの?」
「無いよ………だって俺……『元ヒューマンデブリ』だからさ」
「だと……思ったよ」
「そろそろ無駄話はやめようか。俺の目的は……戦って死ぬことなんだからさぁ!!」
明楽はそれも予想していた。
いや、その説明は正確ではないだろう。その予想をしていたのはシノだったんだから。
『鉄華団の頃に昭弘って奴がいたんだが、あいつの弟の話なんだけどな。ヒューマンデブリの一部には苗字が無い奴が多い。俺の知り合いでいえばアストン……とかな。そういうやつらは普通の生活を知らないからな。戦いだけが自分の居場所だって感じている奴も少なくなかった。俺も大変だったぜ。でよ……あのジャックってやつなんだけど。もしかしたら……ヒューマンデブリなんじゃねーかなって思ってな。サブレの奴から聞いたんだけどな。ヒューマンデブリの一部には普通の生活が分からなくて、海賊にまで落ちる奴もいるし、自殺した奴もいるってな。要するに幸せな生活に慣れないってな。あいつの戦いへの異常な執着はそこに原因があるんじゃないかなってな』
そこが明楽にジャックの事を知るきっかけになった。しかし、知ろうとしても火星や地球などの現在地球の政府が管理している全て惑星や都市を調べ、住民IDを全部調べ、テイワズが行方が分からなくなる寸前まで手に入れていた木星の住民IDも調べたがそれでも存在しなかった。
その結果。一つの結論に至る。
ジャックは元ヒューマンデブリである。
「ねぇ知ってる?」
ジャックと戦い始めてすぐ、斧と剣がぶつかった瞬間にジャックはそう尋ねてきた。明楽には知っているかと言われても何のことなのかが分からない。
「君の上司であるサブレ・グリフォンと親友だって言われているテム・フォースはヒューマンデブリ廃止条約締結が終わってすぐにヒューマンデブリの殲滅したことがあるんだよ」
明楽は『殲滅』という言葉を口にした。そして、その言葉が嘘やデマカセで言っている事ではないとは口調で理解できた。だとしたら、あの二人がそんなことをするだろうかっと。
二人を知っているからこそ明楽は無駄にそんなことをするとは思えない。テムは軽そうに見えてサブレ同様に一つの戦いに真剣になる人だと知っている。
「お前の言葉を嘘だとは思えない。でも、意味のない殺戮をする人だとは思えない。それを政府や上層部がひた隠しにするとは思えない。それは隠すだけの理由があるんだろ?多分、締結したばかりの条約が破棄されそうな内容が……」
ジャックは正直内心感心してしまった。
騙されるとは言わないまでも、多少は動揺すると思ったからだ。しかし、明楽はまるで動揺することなく、この話に対して自らの意見で反論した。
「いいよ。本当の事を戦いながら教えてあげるよ」
ヒューマンデブリを廃止する条約の締結はすぐさまに各方面へと連絡が付いた。しかし、それに対し意外なほど反対を示したのは一部のコロニー商社だった。
その中でも、ニューマンデブリを積極的に雇っていた小惑星と一体化しているコロニー、そこの商社は猛烈な反発を見せた。
しかし、反発やデモ行動に反して条約は素早く締結されてしまい。そこに居るヒューマンデブリが一斉に自由な雇用権利を獲得することになる。しかし、そこの商社は元ヒューマンデブリを一斉に解雇にすることで対応した。
その結果、ヒューマンデブリは路上にあふれるようになる。結果からすればヒューマンデブリは生きていく術を失ったことになり………そして、会社へと反逆を起こすことになる。
反逆は素早く終え、社長を射殺してコロニーごと乗っ取ることになった。その事態はすぐさまに政府へと通達された。担当政府である『AEU』は当時周辺の経済圏からの孤立を恐れていた。
すぐにでも交渉をするために役人をよこしたが、ヒューマンデブリ達が返答したのは役人を殺す行為であった。
AEUは『コロニーの運営権は君達には無い。すぐにコロニーの人々を開放すれば安全を保障しよう』という上から目線の言い方で、その言い方がヒューマンデブリ達の癇に障ってしまい、ヒューマンデブリは見せしめとして住民を虐殺することになった。
事態を重く見たAEUはギャラルホルンに依頼するが、当時のギャラルホルンは宇宙での行動権を持っておらず、話をEDMへと移すことになった。
EDMも交渉部隊を送り込む中、その部隊の中にサブレとテムが含まれていた。
交渉は案の定難航し、交渉は決裂することになった。最初はサブレとテムが向かうことは無いと判断、内部まで侵入した部隊は複雑になっている内装に惑わされ、あっという間に追い詰められた。
サブレとテムはこの事態を重く見た二人は自分達だけで解決することを決めた。
その結果が……殲滅という結果だった。
それは戦いというにはあまりにも残酷な結果だったと言えるだろう。EDM上層部とAEUの判断によって殲滅戦の指示が出されたのが二人が出撃した数分後の事であった。
「その結果がヒューマンデブリの殲滅ってわけ」
聞かされた内容に明楽はサブレ達がこの一件を隠すことに決めた理由を知ることになる。そして、その時のサブレがどんな思いで殲滅へと乗り出したのかがよく分かる。
これ以上の犠牲やヒューマンデブリ達のイメージが悪くなる前に事件を素早く終わらせる必要がある。
きっと断腸の想いで殲滅したに違いない。
「何が言いたいんだ?まさか、その時を恨んでいるってわけじゃないよな?」
「そんなことは言わないさ。でも、分かるだろ?俺のようなヒューマンデブリには幸せな生活なんて不可能なんだよ。普通の暮らしが普通にできる何て一般人のエゴだよ」
かつてサブレは明楽にこう告げた。
『急激な改革は、急激な変化は周囲の人間たちを良くも悪くも変化させる。悪いことを良い事に変えることは確かに良い事だ。しかし、それが幸せなことが不幸な事かは個人が判断することさ。押し付けられた幸せはある意味悪意に近いものがある。幸せとは個人で見つける事しかできない』
今思えばその言葉の意味もよく分かる。
幸せは結局なところでその人が自ら決めるしかできない。しかし、個人に任せていたら解決できないのも事実だった。それを受け入れていくしかない。
「確かにそうかもしれない。でも………それで、世界や社会を恨むのは間違っているし、そんな社会の中で溶け込んでいる元ヒューマンデブリだっているんだ。そんな人たちに失礼だって考えないのか?」
「だからだろ?自分達が不幸になっているのに他人が幸せになっている姿を見て面白く思うわけないだろ。だから……俺はヒューマンデブリとして………戦いの中で生きてきた人間として死にたいんだよ。一人でも多くの人間を殺して死にたい」
明楽はそれを認めるわけにはいかなかった。
そんな中、ジャックはいつの間にか後方で戦いになっているアルミリアのレッドクイーンとメテオの様子を確認すると、アジー・グルミンを回収する為に猛スピードで引き返していたアインをけん制する様にはるか上方から強力な攻撃がアインとアジーの間を切り裂くように現れた。
そこにはシムカス同様に大型ブースターを付けたエデンの姿がそこにはあった。
戦局が膠着状態に陥りながらも戦いが深刻な方向に向かおうとしていた。
どうだったでしょうか?面白かったと言っていただけたら幸いです。テイワズも関わってきていよいよ物語は佳境に差し掛かってきました。
次回のタイトルは『アカシックレコードⅡ《命の使い方》』になります。お楽しみに!