機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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少しづつですが話が進んで行きます。


アカシックレコードⅡ《命の使い方》

 

 アインが異変に気が付いたのは艦に帰還する直前の事だった。

 いつの間にか接近していたメテオが鹵獲していた辟邪が、アルミリアのレッドクイーンの間に立ちふさがり戦いを起こしている。急ターンするエンペラーは素早くメテオに近づいていく。

 この時点でアインの脳裏には二つの考えがよぎっていた。

 一つ目は、ファントムブラッド隊の旗艦である『ヴァルハラ』が近くまで接近しており、状況を静観している場合。この場合は、艦から離れることは敗北を意味する行為。

 二つ目は、ヴァルハラが近くまで接近していない場合である。こちらの場合は戦場に向かえば状況の打開はあっさり終る。

 しかし、一つ目の場合は他のモビルスーツの動きが気になる所。二つ目の場合はヴァルハラの距離が気になるところである。実際、アインは一瞬の間に葛藤と悩み、最後にはヴァルハラが近くには来ていないという考えのもとで急接近を果たす。しかし、そんなエンペラーのコックピット内でククナの声が凛として響く。

「アイン。上方向より一機のモビルスーツが接近中よ」

 アインはそれが誰なのか、思考する前にすでに理解できていた。

「来たか!?サブレ・グリフォン!」

 エンペラーの上をとる形でエデンが追加ブースターを切り離す所が見えた。背中のネオ・ファンネルを切り離し、リングファンネルと共にアインを囲むように走らせる。アインは速度を殺し、旋回しつつエデンの方へと機体を走らせる。ファンネルとすれ違いエデンに向けてエンペラーはビームサーベルを抜き抜刀の要領で切り裂こうとする。しかし、エデンも負けじとビームサーベルでつば競り合いにもつれ込む。

 アインはサブレ達がどのようにしてこの場所を特定できたのかをふと思考する。

 

 サブレ達は三方向に散りながらヴァルハラから射出された広範囲索敵用機雷を仲介しながら十分という速度で調べだしたのが結論だった。

 

 アインは後ろから接近しているファンネルに常に警戒心を最大まで高めつつ、右方向に機体を移動させていく。サブレはあえて距離を置きながらライフルに切り替えつつエンペラーとの距離を置く。

「アカシック・レコードを探すだけならあそこまでする必要があったのか!?」

 サブレの叫びはアインに届く、アインは不敵な微笑みを浮かべながらも接近するタイミングをうかがっていた。

「我々の意向に従わないモノを殺すことは当間だと思わないかな。君達もギャラルホルンだってそうやって生きてきたじゃないか。君はあのコロニーでその真実に触れたはずだ。一度『物』としての『生』を与えられると中々逃げられない」

「だとしても、俺はあきらめるなんてできない。俺があきらめ事は、信じて戦い死んでいった者達への……冒涜だ」

「死んでいった………者達か」

 アインはサブレが吐き出した答えに対して不思議な苛立ちを抱えていた。その苛立ちが彼が両親を知らないことから来ているとは彼は知らない。生まれてすぐに亡くなった両親、ギャラルホルンから裏切られ、愛する人と愛する子供と幸せな毎日は訪れることは無かった。アインは知らない。自分がククナを愛する理由が知らない母親の代わりなのだという事が。

「生を知るから死に苦しみを覚えるんだよ。すべての人は生死の苦しみから解き放たれるべきなんだ!」

 ビームサーベルを右手に、左手にビームライフルを構えながら左右にファンネルの攻撃を的確によけながら、当たりそうな攻撃はサーベルで打ち落としていく。そんなエンペラーに対してエデンは左足で蹴りながら攻撃を弾く。

「死だけしかない世界なんて『無の世界』と同じだ!人は命の使い方を知ることが生きるってことじゃないのか!?人は死ぬ瞬間にこそ自分の生きた意味を知るんだ!鉄華団は『命の糧』を戦場の中に見つけて生きてきた。お前も……!」

「俺にとって命の糧なんてものは無かった。あるのは復讐心と心の穴を埋める空白だけだ!お前に分かるか、失うからこそ辛いのだと。だから我々は決めたんだよ。生死を排除した世界を!」

(それはお前だけが望んでいる世界じゃないのか?)

 疑問に思いながらもサブレが口に出せなかったのは、ククナはともかくアルミリアはそれを想っていそうだったからだ。

 彼女は知っている。

 失う恐怖を、苦しみゆえの憎しみを彼女は知っているのだから。その先を望んでもおかしくはない。彼女は命の使い方を彼女はそこに決めているのかもしれない。

「それでも!」

 サブレはネオ・ファンネルを引き戻しつつアインを寄せ付けないように一定の距離を保つ。

 地上で使用する際にはネオ・ファンネルはケーブルをつなげる必要があるが、宇宙で使用する際にはケーブルを使用する必要が無い分、思う存分動かすことが出来る。しかし、動かし続ければ無線で動かしている分、エネルギーの消費量を考える必要がある。

 実際ファンネルのエネルギー残量は半分を切っており、心元無くなっている。

「死を見続けてきたお前なら分かるはずだ!目の前で死んでしまうからこそ苦しんだと!」

「それでも……!俺は生きると決めたんだ!あいつらの分まで歩き、足掻き、あきらめないと決めた!」

「この覚悟は人類には重すぎるんだ!すべての人間がお前のように強く在れるわけじゃない!」

 ファンネルの攻撃を掻い潜り、エデンとの距離が五十メートルに入ろうとしたところで、エンペラーはファンネルを周囲に展開させる。

 サブレの周囲を殺意が囲む。

 全身をチリチリするような感覚が襲い、サブレの脳神経から放たれる警告がダイレクトにリングファンネルとネオ・ファンネルを動かし、ネオ・ファンネルが充電の為に一旦腰に戻ると、リングファンネルは周囲から襲い掛かってくるビームの乱射からエデンを守る為に周囲にIフィールドを張る。

 視界が真っ白に染まっていく。

 

 アルミリアはメテオから繰り出されるジャマハダルの連撃をしのぎ切ると、右側に構えているランスを突き出し、メテオはジャマハダルで攻撃を弾きながら右肩に乗せた拡散ビーム砲が光る。

 アルミリアは拡散ビーム砲の一撃をシールドで受け止めると、視界が真っ白に染まってしまう。アルミリアは苛立ちの理由を知らない。

 彼女は全てを忘れることを選んだ。

 復讐の為に戦い、その理由を忘れることを選んだのはつらかったからだ。

 戦い、忘れて、なおも戦う。

 彼女が求めた物をアインは知っている。彼女は知りたかったのだ、かつて愛し、罪を共に背負うと決めた人がいた世界を。

 モビルスーツの小さな空間に居ると、座席に座り、操縦桿に触れると感じ取ることが出来た。しかし、同時に感じる悲しみと怒りの矛先がギャラルホルンへと向くのはそう難しくはなかった。

 生きる理由なんてものはどんな所からでも見つかるものだ。

 彼女は見つけたのだ。生きる理由と戦う理由、死ぬ理由を愛した人と同じ戦場の中で戦い、忘れて死ぬと。辛かったから、忘れても戦っていたかった。

『ここに居ればなにもかも忘れても辛くない気がしたから』

 しかし、忘れても覚えていたのは憎しみだけだった。

 戦いの中で憎しみを覚えることの方が多く、心の奥から沸き上がる衝動をいい加減彼女は抑えられなかった。

 アルミリアは怒りに任せランスをふるう。

 シノはレッドクイーンからの連撃に舌打ちをしながらもしのぎ切っていた。

「くそが!このままじゃヤマギに顔合わせができないんだよ!」

 あの日、サブレが告げた言葉がシノのすべてを変えた。

『このまま火星に逃げ帰るのもありだと思うぞ、大切な人たちに慰めてもらうのもありだ。ただ、あんたに前にすすもうとする気持ちが、大切な人と次会った時に胸を張れるようになりたい。そんな、気持ちが少しでもあるのなら、大切な仲間と向き合う際に胸を張れる自分でありたいのなら、俺の元で強くなってみないか?』

「強くなるって決めたんだよ!!ヤマギに会うまでに俺はもっと強くなる」

(俺の前を常に歩き続ける二人がいるんだ。サブレと明楽はこの一か月で劇的なほどの進化を遂げた。サブレと明楽、ビスケットは時折瞳を虹色の炎を輝かせる時がある。そんな二人の変化は進化の証なんだろ。でも、俺には何もないんだよ……このままじゃ俺はヤマギに会えない!あいつに向き合えない)

 ジャマハダルでレッドクイーンからの攻撃を凌ぐことを止めた。ランスを右足で蹴りつけつつ、ジャマハダルの一撃をレッドクイーンの右肩に叩き込む。右肩に突き刺さったジャマハダルが高速で回転し始めると、レッドクイーンの右肩を吹き飛ばした。

「嫌い………嫌い、嫌い、嫌い!」

 気がおかしくなるのではないかというほどの思考がアルミリアの脳裏を鋭く襲い、吐き気と憎しみからくる頭痛がアルミリアの操縦技術を貶めていた。

 そんな状況を戦いながら眺めていたジャックは内心「あちゃー」っと叫びたい気持ちに駆られてしまった。

「あれはダメだね。まあ、元々ククナ様とペペロが調整していたから能力を使えていたわけだし、精神的に不安定だしな。最近」

 最近になってアルミリアは精神的に不安定になりつつあった。その傾向はこの戦いで如実に表れつつある。

 苛立ちと共に抱える頭痛。操縦技術の低下を招いている原因はそこにある。

 アインはさらなる強化をククナに進言していたが、ククナはこれ以上強制的な強化はアルミリアの精神を崩壊させるだけだと考えていた。

(確かに、このままだと使い物にならないよな~)

 ジャックは内心そう考えながらも、アルミリアの事をほんの少しだけ心配していた。

 彼女とはなんだかんだ言って木星帝国に入った時からの知り合いで、ダッグと組むことが多い間柄だった。

(まあ、アルミリアが決めたことだし、反対はしないけどさ)

 どうしようもないことだってある。それが彼女が決めたことなら今更文句が言えない。

 同時にアインは事態を打開する為に追加のモビルスーツ隊を呼び寄せようとしていたところで、ハンマーヘッドを守る様にヴァルハラが姿を現し、他のモビルスーツ隊も側面から攻めてきた。

 しかし、事態はアインの予想を上回りながら進んで行く。

 

 ククナは戦局が一定した頃よりエデンの戦闘データの収集に努めていた。もとより今のエンペラーではエデンの進化した装備より劣るだろうという事は分かっていた。それでも、ククナが進化させなかったのは、エデンに勝てる装備を作る為だった。

「やっぱりプランBで行くべきかしら?」

 一人そう呟きながら脳裏に装備の明確な形を思い浮かべる。しかし、そんな時間を邪魔する様に通信士の冷静な声が耳に届いた。

「ククナ様。本部から入電。歳星が木星帝国最終防衛ラインに接近中とのこと。歳星は降伏勧告を告げながら交渉を呼びかけているようです。本部はマクマードが持っている『鍵』を手に入れる為に交渉に応じるようです。ククナ様にも戻ってくるようにと」

 ククナはマクマードの思惑が読めた。

(なるほど。ここで『あの人』からの要請を無視すれば帝国を乗っ取るチャンスが無くなる上、ペペロの独走を許すことになる。かといってこの地でこのまま戦い続けてもアカシック・レコードの道が手に入る確証が今はもうない。マクマードはヴァルハラが接近しているであろうタイミングを計っていたのね。教えたのはゲイナーかしら?フフ。逆に言えばここを譲れば状態はこちらの思惑通りにすすめそうね)

 ククナはアインに向けて通信を開いた。

「アイン。ここは引きましょう」

 

「アイン。ここは引きましょう」

 そんな言葉と共にアインはククナの方に渋めの視線を送る。

「ここは譲りましょう。マクマードが木星帝国に接近しているの。こちらの思惑通りに進めるチャンスでしょ?」

 アインはエデンの方をちらりと見た後で思考するところをククナが畳みかける。

「それに、アカシック・レコードは後でも会いに行けばいいでしょ?彼を倒した後で……ね」

 その言葉を聞くと諦めるしかない。

 アインは機体をひるがえしながらジャックに撤退の合図を送る。すると、ジャックはアルミリアを回収しつつその場を後にした。

 

 静寂が戦場跡に訪れると、ハンマーヘッドとヴァルハラは並行しながら随意飛行に移っていく。シノがアジーを回収しつつそれぞれの艦に戻るのに時間はかからなかった。

 アジーがブリッジに辿り着いた所でようやく両方が話し合う準備を整えられた。

「ありがとう。ビスケット君。助かったよ。みんなもね」

「いいえ。間に合ってよかったです」

 アジーとビスケットが簡単な挨拶から入ると、すぐさまにアジーは真剣な表情でビスケット達と視線を合わせる。

「案内するよ。マクマードさんから聞いた『アカシック・レコード』の正確な座標まで。アカシック・レコードは一定の時間ごとに座標を移動しているんだ。今の座標は」

 と言った所でハンマーヘッドが停止する。同時にヴァルハラも停止するとアジーはある場所を指さす。

「ここがそうだよ」

 そういわれた瞬間に正面から恐ろしいほどの質量の反応を見せた。正面から宇宙の光景に灰色のシミのような物が浮かび上がり、それがどんどん広がっていく。

 全員が唖然としつつそのシミは地球以上の大きさへと変貌を遂げる。

 さすがのアジーもこの大きさは予想外で会ったようで、最大全長はざっと木星と同等なのではないかっと言うほどの大きさになった。

「良く来ました。ようこそ、アカシック・レコードへ」

 アカシック・レコードの案内に従って艦を進めていく両艦。その先に待つ真実と答えに向けて。




どうだったでしょうか?楽しかったと言ってもらえたら幸いです。少しづつですがクライマックスまで進んで行くことになります。次回はいよいよアカシックレコードから昔話を聞くことになります。そして、あの二機が客演することになるのでお楽しみに!
次回のタイトルは『アカシックレコードⅢ《真実の先へ》』になります。お楽しみに!
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