機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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君を想う三話目になります。辛い話になるとは思いますが最後までどうぞ!


君を想うⅢ《誇りの向かう先》

 

 後に鉄華団になるCGCに入ったばかりの頃、右を見ても左を見ても怖い男ばかりだった。ヤマギには怖かったし、誰も信じられないという状況で始めて自分に声をかけてきたのがシノだった。

「どうしたんだよ?ついて来いよ」

 そういって手を引っ張ってくれたシノをヤマギは心を開き始めた。

 そうやってオルガ・イツカ、三日月・オーガス達と出会いいろんな人達と出会えていく。しかし、そんなみんなはかつての最後と信じた戦いで死んでいった。

 ヤマギはこの戦いを最後と決め死中に突き進むことを決めた。いつの日か、ヤマギの前を歩いていった人たちと同じく、その道を自分も進みたい。せめて、それだけがシノに会う方法だと信じていた。

 しかし、彼は知らない。シノやビスケットや三日月が生きていて、ヤマギの事を心配しているとは知らない。

 集中するあまり過去を思い出していると、隣から鉄華団のメンバーがヤマギの右肩を揺らす。ヤマギの意識が一気に現実へと引き戻される。

 テイワズの中心メンバーの一部が負傷したマクマードと共に戻ってくると、いよいよ作戦を実行に移す時が来たと判断し近くまで近寄ると、ヤマギの近くにいたテイワズのメンバーがマクマードのそばまで近づいていく。

 心配そうな表情を浮かべるメンバーに対し、マクマードはあくまでも大丈夫だと周囲に言い聞かせ左腕を押さえていた右手を離し、隣に立っていた幹部がマクマードの治療に入った。

「お前達はそれぞれの連結部へと急げ」

「親父はどうするんだ?」

「俺は一番連結部へと行く。それと―――――」

 そこまで言うとマクマードは胸元に隠しておいたカードキーを取り出してヤマギへと渡す。ヤマギはそれをおっかなびっくり受け取ると、マクマードの方へと視線を向ける。

「これは……マクマードさんに返したはずですが?」

「それはお前さんがクーデリアの譲さんから託された物だ。お前が持っているべきだ」

「しかし、これは敵の狙いの一つでは?だったら壊した方が―――――」

「いや、このカードキーの内一つはコロニーレーザーを自爆させることが出来るらしい。それを確かめるまでは壊すわけにはいかない。だから、お前さん達はカードキーの使い道を探り、自爆できそうならコロニーレーザーを自爆させてくれ。出来そうに無いならそのカードキーを破壊してくれ」

 ヤマギはカードキーを握りしめ黙ってうなずく。

 マクマードは部下が持ってきたノーマルスーツに着替え始める。ヤマギを含めた多くのメンバーがハンドガンやアサルトライフルの準備を始める。

 マクマードがノーマルスーツを着ると、準備を終えたメンバーが行動を始める為四つに分かれて行動し始める。

 外ではモビルスーツ隊が木星帝国のモビルスーツを強奪しながら戦闘に入っており、木星帝国は混乱状態もあり行動が大きく遅れている。

 この状況を利用しない手はない。それがマクマードが決めた作戦でもあった。

 ヤマギは鉄華団のメンバーと共に下へと向かうためエレベーターへと向かうが、さすがにエレベーターの前には木星帝国の部隊が張り込んでおり簡単には乗り込めさせてはくれない。

「ヤマギ。通気口からなら下に降りれるんじゃないか?」

 ヤマギは来た道を途中まで引き返し、小さな個室の中へと入って通気口の出入り口を見つけ出す。一人一人が入っていく中、遠くから嫌な声が聞えてきた。

「こっちにテイワズの残党がいるぞ!」

「ほかのメンバーも早く!」

 中に入ったヤマギが最後に残った二人に声をかけるが、しかし、二人はアサルトライフルを構えてドアのところで戦い始める。

「俺達はその小さな通気口には入れない。ここで敵を食い止める!」

 そんな声と共にアサルトライフルの銃撃音が響き渡り、前に進むたびに小さくなるが、唐突に音が鳴らなくなる。ヤマギが下への道に入った時、奥の方から木星帝国の声が聞えてきた。

「奴らは通気口の奥へと進んで行ったぞ!回り込め」

 ヤマギは急ぎ足で進んでいく。降りた先の部屋は小汚い倉庫のような部屋であった。小部屋から反対側の部屋を通じて再び通気口へと入っていく。

 一人、また一人と倒れていく中ヤマギはようやく第一コントロールルームの前へとたどり着いた。

 第一コントロールルームの自動ドアの隣の装置にカードキーを通すと、ドアが無音で素早く開き始める。ヤマギが中に入って確かめようとするが、それをたった一人の人物が反対側から声をかけてきた。

「やはり、そちらが我々の求めるカードキーだったか……そのカードキーは我々が貰い受けよう」

 右手を伸ばすその人物はアイン・ダルトンだった。

 アインから向けられる真っ黒な無の瞳の前にヤマギは恐怖を覚えてしまった。後ずさりしてしまう。アインはまた一歩前に踏み出す。

 後ろに居た鉄華団のメンバーが一歩前に出るとアサルトライフルをアインの方へと向けて、容赦のない引き金を引こうとするが、さらにその後方からFがすさまじいまでの速度で近づいてくる。鉄華団のメンバーが銃口をFの方へと向けるが、引き金を引く前にナイフが斜めに体を切り裂き、ハンドガンで顎下から頭を狙撃した。

 ヤマギは恐怖のあまりカードキーを手から零してしまう。慌てて拾おうとするが、Fが襲い掛かろうとするため、ヤマギは慌てて数歩後ずさりする。

 鉄華団のメンバーがヤマギの盾になる様に姿を現し、ヤマギを連れた状態で撤退していく。その姿を最後まで見届けると、アインはカードキーを回収する。

 Fの方を一旦見ると、Fはアインに一睨みするとそのまま鉄華団を追いかけていく。

「どうせペペロ辺りから余計なことを聞いたのだろうが……」

 そういってコントロールルームの電源を入れると部屋中の仮想デスクトップが部屋中を明るく照らしていく。気が付けば部屋中が仮想デスクトップだらけになっていく。

 アインはククナへと連絡を飛ばした。

「ククナ。コロニーレーザーの操作施設を抑えた。?このままここで待機していればいいのか?」

 ククナの奥からは銃撃戦の音だけが聞えてきた。不安になりながらもこの場所を死守することだけを考えていた。

 

 時間は少しだけ巻き戻る。

 階段が終わってすぐククナはアインの元へと急いだ。手首を負傷しているようで、手首をおさえながら歩いてくる。

「やられたわ。オズボーンの狙いがマクマードを生かしていくことなんて……しかも、自分が撃ったという明確な証拠を隠されてしまったわ。やられたわね。何を狙っているのかしら?」

 アインが冷却材を用意しククナの手首に当てる。会談の部屋からテイワズのメンバーがやってくる。

「申し訳ありません。ククナ様。まさか、マクマードがカードキーを隠していたとは」

「もういいわよ。今更だし、それにカードキーを手に入れる事は確実にしておきたいしね」

 そこまで行ったところでアインが自ら名乗りだす。

「なら俺が行こう。ククナは手首を負傷しているし、コントロールルームのどちらかに張っていれば必ず来るはずだ。うまく戦力を減らしながらコントロールルームまで導けばいい」

 そういって姿を消し、アインとすれ違う形で皇帝がマクマードを追いかけたという連絡を受けた。

「マクマードはどちらに向かっているの?」

「それが第一連結部へと向かったらしく……」

「この要塞を破壊するのが目的かしらね?なら他の連結部にも部下を向かわせているかもしれないわ。あなた達は他の連結部に向かいなさい。私は皇帝の援護に向かうわ」

 この言葉を全員が真に受ける中、ククナの本心は別の所にある。このゴタゴタを利用して皇帝を暗殺しようとしていた。

 ククナはとりあえずハンドガンを別に用意しそれを隠しながら人の居ない道を選んで先にすすもうとする。

 その頃、オズボーンはある連絡用デバイスを片手に格納庫へとたどり着く、格納庫三階から窓越しに格納庫の様子を見ており、いくつかのシャトルが出立の準備に明け暮れていた。

「あれ~?そこに居るのは~オズボーン君かなぁ~」

 そんなオズボーンにとって不愉快な声が聞えてくる。オズボーンは不愉快そうな表情を浮かべながら振り返るとピエロ姿のペペロが逆立ちしながら歩いてくる。

「貴様はなぜここに居る?お前の管轄は本土防衛だったはず。まさか、Fを連れてきたのは貴様か?」

「いいじゃないかぁ~、それより……皇帝陛下はどうしたのぉ~僕はぁ~てっきり君が連れて帰ってくるとぉ~思ったのになぁ~」

 オズボーンは白々しいことを言うと思いながら腕を組んでペペロの方を視線で確認する様に見る。ペペロの体には怪我したような跡は見えてこない。

「貴様は皇帝陛下を心配していたのか?」

 ペペロは一瞬だけ思考したような表情を浮かべると、再び不気味な微笑みを浮かべながら部屋から出ていこうとする。

「もちろんだよぉ~僕は皇帝陛下に忠誠を誓っているんだよぉ~」

 そんな白々しいことを言いながら部屋から出ていく。

「どういうつもりで嘘をついているのかいまいちわからん男だな」

 思案顔になるオズボーンはいまいち理解してなさそうな表情を浮かべる。実際ペペロの研究所は誰にも開けられたことは無い。そもそも、研究所というのはたいてい研究員を複数名を雇い入れるはずである。しかし、ペペロの研究所ではペペロ以外に雇い入れているところをオズボーンは見たことが無い。

 オズボーンは議長として様々な書類や施設に関する情報に目を通す事が多い。そんなオズボーンですら把握しきれないペペロに対する油断は命に直結しかねない。

 警戒心を高めながらペペロに対する考察を続ける。

 しかし、そんな時、大きな爆発が第一連結部方面から響き渡るころ、オズボーンはファントムブラッド隊が近づいてきていることに対する確信を得る。

 

 

 マクマードは弾切れしたハンドガンを空中に投げ捨てる。彼は第一連結部への最後のドアへと辿り着いた。手のひらサイズの端末で鍵を開けるとそのまま大きな部屋へとたどり着く。

 長い廊下を歩いて奥へと進んで行くと、マクマードは連結している支柱に辿り着く。支柱の周りに爆弾をくっつけていく、最後に支柱の所のキーボードにつなげるとキーボードを操作しながら爆弾と起爆装置を繋げてしまう。最後に起爆の為の操作へと移る途中に大きな発砲音と共にマクマードの右側腹部に鋭い痛みと共に赤い染みが広がっていく。左手で右側腹部を強く抑えながら振り返る。

 そこには恐ろしいほどの形相でマクマードを睨みつける皇帝の姿があった。

「貴様……!マクマード!!貴様さえ大人しく従っていれば」

 ハンドガンを握りしめる右腕が震えているのは会談会場でマクマードが皇帝の右腕を撃ち抜いたからだろう。マクマードは痛みで表情を暗くさせる。

 マクマードは体でキーボードを隠しながら右手でキーボードを入力している。皇帝は気が付いていないようで怒りの形相で近づいていく。

 憎しみ、怒りに突き動かされる皇帝に対する対抗策などマクマードには既に存在しない。そもそも、マクマードは皇帝がここまで追いかけてくるとは予想していなかった。

 片手ではうまくキーボードを打ち込めず、苦しんでいると皇帝はマクマードの右足、左足と連続で撃ち抜いていく。

 赤い染みがどんどん広がっていく中、マクマードはずるずると体を地面に近づけていく。痛みと同時に体中から力が抜けていくのが分かる。

 自分の体が死へと向かう中、マクマードのすぐそばまで皇帝が近づいてきながらマクマードの首に手を掛けて心臓に銃口を向ける。

「マクマード!大人しくカードキーをわたせ。そうすれば楽に殺してやろう。貴様とて苦しみながら死にたくは無かろう」

 キーボードを打つこむのは無理そうで、マクマードは正直諦めながらまっすぐと視線を皇帝の方へと向ける。

「………断る」

 心臓に一発発砲すると、マクマードの口から大量の血がバイザーを内側から真っ赤に染め上げる。虫の息に早変わりするマクマードとは別に皇帝の後ろの方から若い男の声が聞えてくる。

「皇帝陛下!アイン・ダルトンがカードキーを手に入れたという情報を!」

「本当に持っていなかったか……なら生かしておく理由は無いな」

 そう言うと真っ赤になったバイザーへと銃口を当て額めがけて銃の引き金を引いた。

 バイザーが粉々に砕けちり、マクマードの額に風穴があいてしまう。大きく目を開き体が支柱にぶつかってしまう。

 皇帝は振り返り若い士官の元へと急ぎ出入り口に足を掛けたところでマクマードの右腕が動き始める。

 頭と心臓は撃ち抜かれ体は動くはずがなく、動けるわけが無い。それでも、マクマードの意識ははっきりしていた。不思議と右腕が動いていき、キーボードに指を伸ばしていく。

 その腕にはまるで他の誰かの存在が突き動かしていくようであった。

 完全にドアを潜ったところでようやく皇帝はマクマードが動いていることに気が付いた。

「バカな!?貴様、どうして動ける!?」

 マクマードは自爆の為に最後のキーボードを叩いた。

 皇帝が何かを言っていたような気がするが、爆発音と隔壁を兼ねるドアが安全の為に閉まってしまって何も聞こえなかった。

 

 皇帝は大きな爆発音とは全く別の支柱が壊されたことによる突風に吹き飛ばされ、再び傷が開いてしまう。

 憎しみと怒りが留まるところを知らず、表情は歪み切っている。

 しかし、そんな皇帝の体を謎の新しい痛みが左胸から生じる。驚いて顔を上げながら発砲音のした方へと向けると、そこにはハンドガンを構えたククナが立ち尽くしていた。

「その様子ですと、どうやらマクマードは自分の目的を達することが出来たようですね」

 周囲には皇帝以外にも誰もいない所を確認しての犯行だった。

「ククナ!?貴様まで裏切るのか!?」

「裏切る?何を仰っているのですか?私達を娘のようにも思わず、私達を都合のいい存在として扱うのがいけないのでしょう。これは私達家族からの復讐です」

「ククナァァ!!!」

 それが皇帝の最後の言葉になった。

 

 マクマードは崩壊しつつある第一連結部の中で、支柱に体を預けながら瓦礫に埋もれそうになりながら体の感覚を失いつつあった。

 大量の血が周囲を漂っており、マクマードのノーマルスーツは真っ赤に染まり切っている。

 人間の体にはこれだけの血液が入っているのだと呑気な事を考えているが、それは完全に諦めているからだった。

「ようやく………あいつらの元へと逝けるな……」

 これで死んでいった息子達という名の部下の元へと逝くことができる。

 長かった。

『オヤジがいたから俺達はあそこまで行けたんだぜ』

『逝こう。オヤジ』

 マクマードは黙って視線をあげるとそこにはいないはずの名瀬やオルガ達が自分へと手を伸ばしていた。

 マクマードは一筋の涙を流しながらその手を握る。それだけで………幸せだった。

 マクマードの体が瓦礫に埋もれていくなか、第一連結部が崩壊していく。

 

 ああ、生きていた意味があった。

 お前たちにあえて本当に良かった。




どうだったでしょうか?楽しかったと言っていただけたら幸いです。まあ、今回の一件でマクマードと皇帝が退場になります。次回からはファントムブラッド隊が出現し状況がさらに混乱の一途をたどることになります。
次回のタイトルは『君を想うⅣ《遅すぎた覚醒》』になります。お楽しみに!

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