7
シノはヤマギに会い、ヤマギの気持ちを確かめる為にひたすら進み続けた。その為には、自分が強くならなくてはならない。弱く誰かに頼らなければ生きていくこともできない自分ではいられなかった。
「もう………いいんだよ」
マクギリス・ファリド事件が終った直後のノルバ・シノは自殺しないだけましというような評価が下されるような状況だった。
仕方がない。
誰もシノを責めてはくれず、いっそ死んでしまえた方が気持的に楽になれたほどだ。
シノはどうしようもない苦しみの中で生きていたが、彼にに声をかけたのがサブレだった。
「アンタが望むなら火星までの護衛が俺が受けよう。でも、アンタの中に前に進もうとする意思が残っているのなら、自分がどうしたいのかをきちんと決めることだ。後悔しないようにな」
その時はシノには何を言っているのかは分からなかった。
しかし、夜になって一人で考えていると、ビスケットが前を向いて生きていく姿を、自分の今の姿を見たときヤマギはどう思うだろうかっと。
嬉しそうに駆け寄っては来るだろう。しかし、傷ついた自分に気を使うように生きることになる。シノはそれを嫌だと思った。
もし、会うのなら胸を張ってい会いに行きたい。
シノは次の日には病院の反対を押し切ってEDMの本社へと向かい、サブレに会いに行ってEDMに就職する手続きを踏んでいった。
シノは自分で決めた道を進んで行くことに決めた。その先にヤマギと交わると信じ続けて―――――、今はそれしかできない。
焦りながら進む道を確かめて彼らは戦場まであと十分というところまで来ていた。
ヤマギはシノとの思い出を頭の中で思い出していると、大きな爆発音と衝撃がヤマギの意識を現実まで引き戻す。シャトルの内蔵されている歳星の格納庫の中で脱出の準備を待っていた。
しかし、その爆発のした方向は要塞の第一連結部の方向だった。
「おい!オヤジから連絡はあったのか!?親父は………!」
何人かが動揺していると、一人が大きな怒鳴り声で周囲の動揺を鎮める。
「分かっているだろ!オヤジは役目を全うしたってことだ!なら俺達は俺達のもう一つの役目を達成するしかない!この歳星をコロニーレーザーにぶつけて破壊する」
数人が「そうだよな……」と呟きながら奥へと消えていく中、歳星の整備長がやってきてヤマギ達に話しかけてくる。
「ヤマギ君。君たちは逃げなさい。歳星がコロニーレーザーにまっすぐ向かっていけば、敵の注意はこの歳星の方を向くだろう。君たちはその隙にこの宙域から離れなさい。今我々が持っているモビルスーツをすべて君たちの援護に向けよう」
「でも、僕たちだってまだ戦えます」
「いや、ダメだ。君達は生きてほしい。勝手な言い分かもしれないが、巻き込んで済まない。オヤジもいざとなったら君達を逃がすつもりだった」
ヤマギは食い下がろうとする、ここで果てるつもりでもあったからだ。そうでなければシノに会えそうになかった。
しかし、どうしようもない。整備長達は引くつもりがないぐらいは分かっている。
下唇を噛みながら受け入れるしかない。
ヤマギ達がシャトルに乗り、多数のシャトルが歳星から多くのモビルスーツと共に出ていくのを確認すると、歳星はそのままコロニーレーザーへと突き進む。
ヤマギはシャトルが歳星から遠ざかっていく姿を遠目で確認すながらテイワズ製のモビルスーツ多数がシャトルを護衛する形で、宙域からの脱出する為に進んで行く。
歳星がコロニーレーザーへと突き進んでいく中、多くの木星帝国製のモビルスーツが歳星を取り囲み、その攻撃で歳星のあちらこちらから火の手が上がり、それでも止まることなく突き進む。
格納庫の中にすら火が昇っていき、マクマードの邸宅も瓦礫の中へと沈んでいく。
歳星がコロニーレーザーにぶつかる前に戦闘宙域に一隻の戦艦が姿を現した。
ヴァルハラの視界の中で歳星はコロニーレーザーと衝突した。
ククナは第一コントロールルームの中へと入っていく、いつの間にかこの部屋を任されていたアインが姿を消している。そこを見ると、どうやらファントムブラッド隊が近づいているようだ。
コントロールルームの操作盤越しにコロニーレーザーの照射準備に入る。射出する場所を選択し、太陽系の地図上に照射しやすい火星を選ぶ。火星のクリュセを選び取り、チャージタイムに入る。
同じとき、ジャックは第二格納庫で出撃の時を今か今かと待ちわびていた。
しかし、ジャックの視界の端でアルミリアが木星本国へ帰る前のペペロと話し込んでいる姿を目撃していた。
「………でよぉ。いいかいぃ?」
「何をやっているんだろ」
のぞき込むとそのままペペロが薬品の入った注射器をアルミリアの細い右腕に注入する瞬間であった。
「止めた方がいいのかな?でも、あとで目を付けられたくないしな~まあ、関係なさそうだし良いかな」
そんなことをしているとアインがパイロットスーツを着て格納庫の中へと姿を現すと、ちょうどアルミリアに薬品を撃ち終わったペペロと鉢合わせる。
「ぺペロもどきの研究員がこんなところで何をしている?」
「いえいえ。研究を快く思わない現場主義者殿にはまるで理解できないことですよ」
お互いがお互いを不気味に思っており、ペペロもアインもお互いに信頼できずにいる。むしろ、お互いの計画の障害になるのではないか、と警戒心を高めていた。
それは決して間違えてはいない。
同じ組織に所属はしてはいても、幹部のほとんどは何を考えているのかは誰にもわからない。それはククナとアインにとっても同じことである。
しかし、アインには確信に似た思いを抱えていた。
ククナはいざとなったら自分の計画に賛同するだろうという確信。それは、決して間違えておらず、ククナは自分の計画が失敗したときはアインの計画を進めるつもりであった。
「だからこそ、勝たなければならない」
勝つことでしか計画を進められない。
ペペロのシャトルが出立する所を見届けるとアインはエンペラーに乗り込む。
アインが乗り込むところを確認したオズボーンは自らの端末へと視線を向け、端末に表示されているアイコンをタッチする、するとある人物へと向けて自分の連絡先を飛ばす。
そんな中、ククナの元に集まってきた多くの幹部の前でククナは宣言する。
「皇帝陛下はEDMの策略によって遣わされたマクマードの手で殺された!このまま彼らの侵略を受けてもいいのか?いずれは私達の家族にさえ手を出すだろう。愛する者を守る為、何より我らの故郷を守る為に立ち上がろう!」
宣言が終わり、多くの将兵たちが戦う準備を始めた頃に歳星がコロニーレーザーへと向けて動き出す。
現在コロニーレーザーはチャージ中であり、チャージ中に本体がダメージを受けた場合は内部から崩壊する可能性がある。
「今すぐチャージを停止、本体防衛の為にモビルスーツを派遣しなさい」
「しかし、現在歳星から出立したシャトルとモビルスーツが宙域からの脱出を図っておりますが?」
「そちらは一旦無視よ。コロニーレーザーを防衛することに集中しなさい」
部下たちは一旦チャージを停止して、全てのモビルスーツに防衛に集中する様に指示を出し始める。
アインはククナの指示が出される前に歳星を落とすためにジャックとアルミリアと共に出撃していた。
アインはエンペラーの背中についている新しいハンドファンネルを開放すると、ハンドファンネルは手のひらの砲台からチャージされた圧縮ビームを歳星の側面へと放つ。
ジャックはブルーレイの連撃で後方のエンジンを狙う。しかし、歳星も最後の最後まで武装を使って反撃を試みる。
アルミリアはランスで前方から攻撃するが、これといった打撃を与えられないまま時間だけが無情にも過ぎ去り、接触する直前には危ないという判断の元多くのモビルスーツが歳星から離れる。その瞬間にアインはサブレの接近を感じ取る。
「来たか!?サブレ・グリフォン」
アインがヴァルハラ出現場所を向く瞬間と歳星がぶつかった瞬間はほとんど同時であった。
8
歳星がぶつかる瞬間をその目で目撃したビスケットは唖然とした表情でその最後を目撃した。
「ま、間に合わなかった?」
食堂で口を両手で押さえながらアトラも目頭を熱くさせる。クレアがアトラの背中から抱きしめる。
「大丈夫」
元鉄華団のメンバーにとっては思い出深い場所。
そんな場所が無残にも破壊された瞬間は見ていてつらい。しかし、この状況で一機のモビルスーツが無断で出撃する。
それに気が付いたのはイオリだった。
「メテオが!?シノさんが無断で出撃しました!」
ビスケットが驚きと共に視線をメテオの方へと向け、同時に明楽とサブレが連続で出撃していく。
「俺と明楽でシノの援護をしながらシャトルを回収する!兄さん達はサラ達と一緒に艦の防衛に集中!」
「わかった!そっちも気を付けて!」
サブレが遠ざかっていく様を見届けながらサラ達が接近してくるモビルスーツ隊の多さに目移りをしそうになる。
「流石にこれだけの数を相手するのは無理だぞ」
レオの愚痴をサラが「全部を相手する必要性はないでしょ?あくまでも先輩たちが戻ってくるまで耐えるしかない」と言って全員が気持ちを切り替える。
同じ時、ククナは全モビルスーツ隊にシャトルの確保を命じていた。
「シャトルには多くの技術者がいるわ。コロニーレーザーや第一連結部がダメージを負っている。修理要員を確保しておくべきだわ。他のモビルスーツ隊にも徹底させなさい」
既に確保に動いていたサブレの妨害にと機体を走らせていた
「サブレ・グリフォン!少し君を預からせてもらおう」
「邪魔をするな!アイン!」
エデンを囲む形でハンドファンネルが周囲を漂う。同時にサブレは嫌な気配をファンネルから感じ取った。
周囲を漂わせていたリングファンネルの動きが一部で悪くなっていく、そしてリングファンネルがハンドファンネルに捕まってしまう。そのままリングファンネルが握りつぶされてしまう。
その瞬間にサブレはハンドファンネルに搭載されている機能に気が付いた。
「そのファンネル……サイコジャマーが搭載されているな」
ハンドファンネルに近づけば近づくほどにファンネルの動きが悪くなっていく。ハンドファンネルの掌にジャマー効果が付与されており、手のひらが開いている間は前方方向に向けてジャマー効果が表れる。実際、ハンドファンネルの後方と前方では動きが倍近く違う。
二個目のリングファンネルが捕まって破壊されてしまう。
「まだだ。まだ戦える!」
同じ時、明楽はシノの後ろにくっついていたが、それを左側面からジャックのブルーレイが妨害に入ってきた。
「悪いけど戦ってもらうよ。あのシャトルはこっちで確保したいんでね」
「俺だって負けられない理由がある」
ブルーレイとシムカスがぶつかり合い、お互いに距離を測るような戦いを始めるが、ジャックの後方より木星帝国のモビルスーツが援護に入ろうとする。
「ジャック様。援護いたします」
「いらない」
ジャックの端的な拒否に驚きながらも食い下がるが、ジャックが恐ろしいまでの視線をパイロットに向ける。
「それよりもシャトルの確保をしろよ。ククナ様からシャトルの確保を優先せよって命令だろ?それに俺の楽しみを邪魔したら殺すよ?」
冷血な視線を前にパイロットは怯みながらシャトル確保に動く。
「これで邪魔は入らないよ」
明楽とジャックがぶつかって戦いが開幕する頃、シノはシャトルへと一気に近づいていた。
そんな光景をアルミリアは呆けてみていた。
ペペロが打った薬品のお陰なのかもしれない、思考が静けさを覚えている。だからこそだろう。アルミリアは自分の中にある苛立ちの理由が何なのかはまるで分らない。
しかし、苛立ちの遠回りな理由を目の前のメテオに感じ取った。
(なんなのだろう。この気持ちの原因は……)
アルミリアはメテオを狙撃しようと右側のランスのビームライフル機能で狙撃しようとする。しかし、瞬間的に視線がシャトルの方を向いたのが問題であった。
シャトルの方からする異様なほどの苛立ち。
彼女は忘れている。愛する人を失ったことからの苛立ちであると、自分以外の人間が幸せになることを許せない自分が居るとは気が付かない。
シャトルの方へと射線を移動させる。
「駄目ですよアルミリア様。シャトルは生け捕りにしろという指示のはずです」
近くにいたパイロットが慌てて制止に入るが、アルミリアは撃つ体制を変えようとはしない。
「一機ぐらい落とした方が彼らも投降する気になる」
「駄目ですよ。ククナ様はなるべく生かして捕らえろって命令です」
「なるべくでしょ?事故よ事故」
右側のランスからビームが射出されるがギリギリのところでシノが間に合う。シャトルとメテオの距離が肉薄し、ヤマギの目の前にピンク色に装飾されたメテオが現れた。
「まさか……シノ?」
「やっと………会えた」
シノの視界にも前方に座っているヤマギがきっちりと映っていた。
ヤマギとシノの再開はアルミリアの苛立ちを高めていく。アルミリアは右側のランスを先端がシャトルに向けて射出される。シノは辛うじて攻撃を退けるが、無理と咄嗟の行動が仇となり機体が数秒だけ動けなくなる。
アルミリアは左側のランスの先端をシャトルに向けて飛ばす。シノは内心叫びたくなる思いを抱いたが、エデンのリングファンネルが身を挺して守って見せる。
アインとジャックがアルミリアに文句を言おうと通信を開くがアルミリアの精神状態はすでにまともではなかった。
「ペペロ!何をした!?」
アインは忌々しい表情をペペロの消えた方向を向く。しかし、他の誰よりも早くアルミリアが動いた。
左側のランスから放たれたビームがまっすぐにシャトルへと向けられる。
リングファンネルが間に合うはずもなく、シノはすぐには動けない。他の誰もが悲鳴を上げそうな一秒間が流れる。
その瞬間シノの目の前にいたヤマギの口が動きシノへ何かをメッセージを向ける。
それが何なのかが分からないままビームがシャトルの上から下へと貫き、ヤマギの体を包むように炎が舞う。一瞬の出来事にシノは呆ける事しかできず、大きな衝撃と共にメテオが後方にぶつかる。
シノは口をパクパクさせながら目の前で起きてしまった出来事に思考が追いつかない。
シノの苦しみが分かってしまう分イオリは苦しそうに眼を瞑ることしかできない。
全員が唖然とする状況の中、覚醒者たちの脳を揺さぶるような脳波がシノからは迸る。
悲しみは人に進化を与える。それはシノもまた例外ではない。
遅すぎた覚醒が戦場に何を齎すのかは誰にもわからない。
………どうだったでしょうか?辛いお話になったと思います。みんなが望んでいなかった結果だからこそ辛さが高いですね。次回で君を想う編も終わりになります。
次回のタイトルは『君を想うⅤ《終わりを願う》』になります。