機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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君を想う編最終話になります。


君を想うⅤ《終わりを願う》

 

 メテオの右側のメインカメラに最後の瞬間まで握りしめていた流星号のマークが張り付く。シノは呆然としながら、両手をひたすら先ほどまでシャトルが存在した空間に伸ばす。

 涙を流し、視界を少しずつ狙撃したモビルスーツの方へとみる。

 赤を基調とした女王をモチーフにした機体だった。

 レッドクイーン相手に憎しみと怒りが沸々と湧き上がり、メテオはレッドクイーンに切りかかっていく。

「よくも……!よくも!ヤマギをぉ!」

 アルミリアは内心すっきりする思いを抱え、突っかかってくるメテオをランスで捌ききる。ゼロ距離で殺し合う二人の脳波は共鳴し合い周囲の覚醒者たちへと異変を告げる。

 明楽とジャックもほぼ同時にシノとアルミリアが殺し合う波長、憎しみと怒りが混ざり合った吐き気を誘うような気配であった。

「アルミリア!また余計なことを!ペペロだな」

「シノさん!なんでこんなことに」

 二人はシノとアルミリアの元へと急ごう思考を切り替えようとするが、後方で戦っているサブレとアインの死闘が激しさを増していく。

 どちらに加勢に行くかで悩み、お互いに邪魔だと判断すると、そのまま二人は戦闘を続行するという結果に終わってしまう。

 サブレはシャトルがヴァルハラの周囲までたどり着くが、状況はまるでよくならないと感じた。シノは先ほどから同じ場所で戦っている。明楽も平行線をたどるだけで、しかし、この戦闘宙域に入ってから感覚が敏感になっているのか、ある戦力がこの宙域に近づいていると感じている。

「後一分だけ持ちこたえてくれ!」

 サブレの大きな怒鳴り声がファントムブラッド隊の気持を切り替えさせ、サブレは戦闘に集中しようとする。しかし、エデンの右足が吹き飛ばされ、機体姿勢を整えるが、エデンを捕まえようとハンドファンネルがすさまじい速度で近づいてきて、エデンを捕まえようとする。

 エデンはシールドを犠牲にする形で逃げ出すが、後方から襲い掛かかってくる攻撃に背面に装備しているウィングの片翼が吹き飛ぶ。

 サイコジャマーの影響下、ただのファンネルや機体に作られたサイコフレームにノイズが走っている。

 サイコジャマーの対策は比較的簡単ではある。

 同じサイコジャマーを搭載すればいいのだが、エデンにはまだ搭載されていない。左腕がビーム攻撃で吹き飛び、ライフルでハンドファンネルを落とそうとするが、先にライフルを落とされてしまう。すぐさまにビームサーベルに切り替えるが、機体のバランスがとりづらくなる。

 サルガの計算であと三十秒ほどかかるという結果がはじき出される。

「サルガ!あと三十秒だけ持たせる。協力しろ!」

『了解』

「ガンダム!!俺に力を貸せ!!」

 サブレの瞳が虹色の輝きに変わると、アインはここで因縁を終わらせるため黒い瞳を鈍く輝かせる。

 後何秒だろうという気持ちが一秒一秒を数えそうになる。

 イオリは必死にシノへと心を繋げて落ち着かせようとするが、イオリの声はシノには届かない。

 深い悲しみは怒りと苦しみを周囲に与え、シノとアルミリアの戦いは複雑な物になろうとしていた。

 しかし、そんな静寂を破る様に数えきれない艦隊が戦場に姿を現す。

 ククナは戦場の様子を確認していたが、さすがに現れた数に対してこちらの戦力で潰し合えば戦争の長期化は免れない。出来る事なら引いてほしいとも思う。

 ビスケットは同じように戦場に辿り着いたイサリビ改へと通信を繋げた。

「ユージン?」

「ビスケットか?なんなんだよこの状況は!?」

「それが……ヤマギが死んじゃって………それでシノが!」

 ユージンが視界を戦場の奥へと向けると、もはや冷静さを完全に失ったシノが半狂乱の状態で戦い続けていた。

 状況はすぐさまに理解して動いたのは三日月とモンタークだった。

 二人に続くようにチャド達も機体を動かしてシノの元へと向かう。モンタークがアルミリアを遮る。

「止めるんだアルミリア!」

「アハ!アハハ!アハハハハハ!!」

 アルミリアは楽しそうにただ笑うだけ、この状況にジャックが動きチャドやダンテが二人係でシノの機体を押さえる。ジャックがアルミリアを押さえながら後退していき、三日月が暴れるシノを押さえる為コックピット目掛けて拳を叩き込んでシノを気絶させる。

 明楽が後退しやすいように周囲の敵に攻撃している、その間にシノを連れて後退していく。明楽とモンタークがサブレ救出の為に間に割って入り、全戦力がヴァルハラを中心に終結するが、このままでは戦局は長期化した挙句、共倒れになりかねない。

 サブレが再び大きな声上げながらある存在に語り掛ける。

「アカシックレコード!そばまで来ているんだろ!?」

『そこまで叫ばずとも全員が揃った段階で救出するつもりでしたよ』

 誰もが声の主を探す中、EDMの主力隊の真後ろに現れて、主力隊を不思議な光で包み込み、そのままEDMの主力隊を引き連れて撤退していく。

 

10

 

 アカシックレコードの中心地でEDMの将官達とユージン達は驚き、アカシックレコードが現状の説明をしている時、サブレは半壊したエデンを前に立ち尽くしていた。

 エデンはユニコーンとフェネクスに挟まれる形で鎮座しており、改造の時を待ちわびていた。

 サイコジャマーの影響下で戦うならサイコジャマーを手に入れるしかない。

 しかし、現状装備ではエデンにはサイコジャマーを装備出来ない。これから装備できるようにと最後の改造を行おうとしていた。

 サブレがその場から歩き出していたころ、ある場所ではシノが三日月ともめていた。

「なんで止めたんだよ!!」

 三日月は何も答えないし、何も言おうとしない。

 シノの気持ちを理解できるからこそ、同時にあのような方法でしか救出できなかったからこそ、たとえ殴られても文句は言わないと決めていた三日月。

 チャドやダンテ達も後ろからシノを宥めようと試みる。

 サブレとビスケットが部屋の中に入ってきたのはこのタイミングだった。

 あと少しで殴ると言ったタイミングで部屋の中に入ってきた二人、焦るビスケットに対し、サブレは冷静にシノと三日月の間に入る。

 シノは振り上げた拳をサブレの左頬にぶつけ、ビスケットがシノの襟を捕まえてそのまま壁に叩きつけてしまう。

「み、みんな辛い!シノだけじゃないんだ!!」

 ビスケットの言葉にシノが意識を現実に引き戻す。しかし、同時にヤマギが死んでしまったという現実も襲い掛かってきた。

「でも………でもよ。あいつは何で死ななくちゃいけないんだよ……」

「分かっているよ。でも………どんなに嘆いても……還ってこないんだよ」

 ビスケットはサヴァランの事を思い出し、苦しみで表情を曇らせる。

「みんな辛いことを抱えているんだよ?だからこそ………」

 そこから先の言葉が出てこない。

 シノは苦しみのあまり部屋から出て行ってしまい、部屋の中に静寂が訪れ、ビスケットは一筋の涙を流すだけだった。

 シノは一人フラフラしながら個室の中へと入っていき、ベットに腰を落としながら嘆きのあまり部屋の電気を付けない。

 すると、部屋のドアをイオリが開ける。

 シノはそちらの方を見ようともしないでいると、イオリの方から語り掛けてきた。

「シノ………さん。起きているんなら部屋の電気は付けた方が……」

「………いい。もう……どうでもいい」

 どうでもいいという言葉がイオリの心に突き刺さり、イオリは部屋の中へと一歩だけ入っていく。

(きっとあの人を失ったばかりの私もこんな感じだったんだろうな)

 何もかもをどうでもいいと思い、手元で失う気持ち、どうでもよくなってしまう。

 だからこそ見過ごせない。同じ気持ちを味わっているからこそ、そう思い歩き出し、シノの目の前へと立ち尽くす。

「そんなことは言わないでください」

「………どうでもいいんだよ」

 イオリは黙ってシノを抱きしめ、シノの顔を自分の胸へと押し付ける。シノは驚きながらもイオリから感じるぬくもりに涙を流し始める。

「うっ………ううっ……なんでなんだよ」

「…………」

 イオリにはこれ以上何も言えなかった。いう資格も無かった。でも、こうして少しでもシノが癒されるならと思い、ただ黙って抱きしめるしかできなかった。

 

 同じ時間、サブレは一人で改造を受けるエデンを高い所から見つめていた。エデンはすっかり装甲をはがされ、フレームがむき出しの状態になっていると後ろからクレアが声をかけてきた。

「大丈夫ですか?」

 サブレの左頬を優しく触れながらクレアは心配そうな表情で見つめ、サブレは微笑みながら「大丈夫だ」と答える。クレアは少し前からシノのやり取りをイオリと共に見ており、心配していた。

「責任だからな」

 サブレの言う責任という言葉をクレアは詳しくは聞かなかった。

 というより、聞けなかった。

 サブレはかつて鉄華団のメンバーを助ける過程の中で、色々な人々に助けを求めることになった。

 蒔苗に会いに行って鉄華団メンバーの保護を頼み込み、兄であるビスケットやノルバ・シノのメンタル面での治療を手伝い、鉄華団が今後生活する上で不自由が無いようにギャラルホルンに圧力をかける。

 それ自体は全く後悔はしていない。

 しかし、その結果がノルバ・シノの不幸な結果の一つになったのなら、サブレはそれを猛省するべきだと感じ、だからこそシノの拳を黙って受けた。

「誰かを助けたかったからなのではありませんか?」

「違うよ………俺はただ…」

(俺はただ……オルガとの約束を果たしたかっただけだ。それすら破ってしまったら俺は………オルガの事を忘れてしまうような冷たい男なのだと証明しているような気がしたから)

 だから彼らを助けた。

 自分勝手な理由で助け、自分勝手な理由で放り出しているのだから、自分はそんな事で感謝される筋合いは全くない。

「でも………誰かを助けて感謝された以上はそれを受けるのが優しさではありませんか?」

「そうかもしれないな」

 結局の所でサブレは素直になれないでいる。

 目の前に居る困っている人がいれば手を差し伸べたくなり、助けてと声を出している人がいれば声を掛けたくなる。

 それをお人よしだと認識したくなく、自分の自分勝手な理由で人の運命を変えているのだと勝手に解釈する。しかし、それでもサブレが助けたという事実は変わらない。

 感謝する人もいれば、避難する者もいるだろう。それでも、感謝する者が居る以上彼は誇るべきなのだとクレアは思う。

 誇ってもいい所なのだと。

「それに、あなたに託して亡くなってしまった者達も、あなたがそんな風に自分達の事でいつまでも引きずって生きてほしいとは思わないでしょ?あなたは多くの人を助け、助けられなかった分だけ後悔している。そして、助けた分だけ後悔している。でも、私はそんなあなたが大好きなんですよ。レレやアスナさんだってそんなあなただからこそ好きになり、振られても前を向けるんです。それは後悔ではなく喜びに変わっていてほしい」

「喜び?」

「はい。「よかった」っと。皆に「助けてよかった」っと思える戦いなのでしょう?後悔を終わりにする戦い」

「そう………かもしれないな」

 後悔をここまでにする戦い。後悔の終わり。

 前に進む為の戦いであり、後悔の終わりの為の戦い。

 亡くなった彼らと彼女たちの分まで前にすすむために、みんなが後悔の先にあるハッピーエンドを目指すための一歩。

 後悔は夢となる。夢は未来を変えることが出来る。

 多数の未来の中からそういう未来を見付けてみたい。

 死んでしまった人が死ななくてもよかった未来。助けられなかった人が生きている世界。後悔の先にある果ての無い道。サブレが見つけようとしている将来である。

「笑ってくれてもいい。「あの時ああしておけばいい」とか「助けておけば違ったかもしれない」とかそういう未来を探したいだけなんだ。オルガやサイガが生きている世界を見付けたいだけなんだ。後悔なんだ。俺は後悔で戦っている」

「笑いません。前に向く為なんでしょ?」

 

 ビスケットは三日月と共に星々を眺めながら説得を試みている。

「どうしても会わないつもり?アトラだってもう三日月が生きているってなんとなく気が付いているんだよ?なのに……」

『ビスケットが居れば大丈夫だよ』

「そういう問題じゃないんだよ。アトラを幸せにできるのは……」

『それは分かっている。でも、暁を幸せにできるのはビスケットやアトラ達だ。俺にはできない。今の俺は普通じゃないし、暁は俺を知らない。それならそれでいい。俺とアトラの子供だって分かってもらえるならそれでいい』

「三日月」

 三日月の言い分はビスケットにだって分かる。アトラはともかく暁は今更三日月を親だとは思わないし、こんな親ではひねくれる可能性がある。

 別にアトラと一生を共にしたくないわけでは無い。アトラ達家族を想えば想うほど一緒にはいられない。

「ビスケット」

 アトラの声がしてそちらの方を見る、そこにはアトラがエプロン姿でサンドイッチを抱えて現れた。

 しかし、一瞬の事で三日月はすぐに姿を消し、ビスケットはため息を吐き出す。

「ご飯まだでしょ?一緒に食べない?」

「うん」

 サンドイッチに手を伸ばしているとアトラは別の通路を見つめる。アトラにはなんとなく誰が居たのかは分かっていた。

「三日月がいたんだね?」

「うん。説得したかったんだけど……」

「分かっているよ。暁の事を想えばってところ?『家族』を想うからなんだよね。家族に亀裂を入れたくないし、今の自分には『家族』を幸せにはできない」

「そんな事、俺にだってできないよ。重たい期待だよ」

 アトラはビスケットの肩に頭を預け、ビスケットは驚きと共にそちらの方を見てしまう。

「ビスケットはどこに行かないでね?三日月みたいに私達の中から消えていかないでね?」

「うん、約束する」

 ビスケットもそっとアトラを抱きしめる。二人は星々を眺めながら温め合った。

 

 明楽はシムカスのコックピットの中に落としてしまった菓子を探して体をコックピットの中へと突っ込む。

 座席の下の隙間に落ちていくのが確かに分かり、そこの隙間に手を突っ込んでいると、足を滑らせたのか体が逆さまになってコックピットの中へと落ちていく。

 両足をばたつかせながら起き上がろうと試みる、それでも体の体勢は変化せず、頭に血が上っていく。三十秒ほど抵抗を試みたとき、明楽の足を掴んで引っ張る人間がいた。

「全く、見ていたらだらしないわね」

 明楽の右手にはしっかりお菓子が握られており、明楽はホッとしながら助けた人間を見つめる、そこにはメアリーが腕組みしながら見下ろしていた。

「何していたのよ」

「お菓子が落ちたから拾ってただけ」

 メアリーは呆れながらため息を吐き、明楽はお菓子袋をそっと開きながらチョコレートを口の中に一口入れて弄ぶ。

「一口もらうわよ」

 メアリーは明楽の隣に座りながらチョコレートを一口放り込む。

「何?なんか用?」

「用が無かったら話しかけちゃいけないわけ」

 そこまで言われると明楽には文句のつけようは無い。黙ってチョコレートを再び口の中に入れる。

「シノさんとイオリの事を止めなくていいの?」

「いいわよ。あの子だっていつまでだって子供じゃないでしょ?私は結局の所であの子を子供として見たのかも。いつまでも大人になれない子供」

「かもね」

「あの子がどうしたいかはあの子が決める事よ」

「メアリーは?」

 メアリーは唐突に告げられる言葉に言葉を詰まらせ、返答に困っていると明楽が好奇の目で見ていると気が付き、怒りの表情で怒鳴りつける。

「どうでもいいでしょ!なんであんたにそんな事を言わなきゃいけないのよ!!」

「いいじゃん気になる。教えてよ!」

「絶対に教えないわ!あんたの事だからからかうだけだもの」

「からかわない!約束するよ」

 メアリーは明楽を黙らせようとふと頭の中によぎったことを実行に移すことにした。

 うるさい明楽に対し、メアリーはキスをして黙らせる。

「こういう事よ」

 メアリーは明楽の方に一歩近づくと明楽は顔を真っ赤にしながら腰を引く。メアリーは明楽が驚きと羞恥心で混乱していると気が付き微笑む。

「あんたでもそんな顔をするのね」

 

 きっと終わりは簡単に訪れる。

 誰も終わりを祈る。

 だから彼らは最後の戦いへと向かう。

 誰も知らない未来を見付ける為に。

 最終章は地球の戦いから始まる。

 ある人物達が話し合う所から語りだす。

 さあ、終わりの祈りは終わり、想う物語を終え、白紙の未来が始まる。

 

 

《君をもう編終わり 選び取った未来編開始》




どうだったでしょうか?次回から最終章になります。選び取った未来編はどれだけ続くかはまだ決まっていません。最終決戦なのでファントムブラッド隊結成の秘話やククナ達サイドの過去の話なども語るので多分ですが過去最長になると思います。
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅰ《三者会談》』になります。エデン最終装備は出てこないかな~多分。次回もお楽しみに!
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