1
木星帝国がいたから、鉄華団がいたから、テイワズがいたから、ギャラルホルンがいたから俺達はここまでこれたのだろう。
彼らが敵であり、味方であってくれたから俺達は未来を選ぶことが出来た。
様々な人々の生き様があって、色々な人々の死に様がここまでの道になっていったのだろう。
生き様と死に様を俺は忘れない。
辛いとも言わない。苦しいとも言わない。聞かれて、言い訳をしたいわけでも無い。ただ、胸にしまって前に進むだけ。
味方も、敵も、全てが俺の道になっていく。
誤解なくそう言える。
「多くの人と関わり、多くの人と戦って、多くの人の死に様を見てきたからこそ俺、サブレ・グリフォンはここまで来れた」
そう言えて、そう思えてしまう。
救えなかった人があまりにも多く、それゆえの後悔が今の俺を突き動かす。彼等の生前の後悔が未来を創ることが出来る未来を。作りたい。
そして、俺達生き残った人間はまだ見ぬ進化の先に辿り着く。
誰のせいでもない。みんなの責任で、人類の責任なのだ。
選び取った未来に責任を取り、俺達は向かうべき未来に進むだけ。
これから語り、思い出す為の物語。
2
EDM総司令本部では多くのEDM士官たちによる最終防衛作戦への最終準備のチェックに追われており、アルベルトはふと上を見ながらため息をはきだしてしまう。
現在マハラジャ・ダースリンは自室にこもってある人物を仲介し、木星帝国の代表者と今後の話し合いをしている。
正直に言えば、最終作戦を前にしてそういう事をしないでほしいとアルベルトは思う。
そういう事は最終作戦前にあらかじめ終わらせてほしかったと苦言を述べたが、アルベルトの前で準備と言って怠けていたマハラジャ、そんなマハラジャのケツを叩いて話し合いの場所を持ったのが先ほどだった。
まあ、あくまでもマハラジャはクーデリア議長への橋渡し役に過ぎないが、彼女は現在タカキ議員と共に太陽系法と呼ばれる法律作りで手が離せない状態になっていた。
だからこそ、ぎりぎりまでマハラジャはクーデリア議長に押し付けられないかどうか、そのラインをうかがっていた雰囲気がある。
押し付けられないと判断してようやく重い腰を上げたのだろう。
「全く………少しは自分が代表であると自覚してほしいんだがな。それは、高望みなのかな?」
アルベルトは内心「自分はあの人に理想を押し付けているのだろうか?」っと思い、同時にしっかりしてほしいという気持ちもある。
無理難題を告げているようには見えない。代表として少しぐらいはしっかりしてほしい。
何年も前、娘代わりにサブレ・グリフォンを血縁上の養子として引き取った時点で、サブレへの最低限の愛情はあっただろう。
あの人は才能がある。才能ある人を引き付けるだけのカリスマという才能が。しかし、同時にあの人は不幸を背負ってしまいかねない性質もある。
始めてアルベルトがマハラジャと出会ったのは、ギャラルホルンへと入隊して半年後の同期共同訓練での出来事であった。
しかし、訓練などと言っても結局は貴族が目立ち、貴族が上官によりいい場所を求めさせるための出来レース。八百長とも言って間違いはないだろう。
金の無い者は下っ端やまともな部隊には送られない。
アルベルトは優秀であるがゆえに、貴族達がはびこり、自分達の見栄の為の就職活動に興味など見せなかった。
ここで無駄に優秀な所を見せれば、他の貴族はきっと鬱陶しく思うだろ。
アルベルトは無駄に優秀な所は見せず、貴族達の引き立て役に徹した。
だからだろう、他の貴族が就職活動に精を出している時間、アルベルトは静かに訓練場から逃げて行く。
しかし、そんなアルベルトに話しかけてきた人物がいた。
「そこのお前。先ほどの訓練、明らかに手を抜いていただろう」
アルベルトが手を抜いて、手を抜いていることに不満を抱いているとその人物は見抜いた。
「お前さえよければ俺の元に来ないか?」
「あんたは………?」
「俺はマハラジャ・ダースリンという」
迫力のある表情や立ち振る舞いに気圧されそうになりながら、自分の才能をあの出来レースの訓練で見抜いた彼についていこうと思えた。
それがアルベルトとマハラジャとの出会いだった。
マハラジャによれば、ラスタルも密かに狙っていたらしいが、ラスタルにも貴族としてのかかわりがある。イオク・クジャンの面倒も見ていたラスタルにはイオクの部下探しも兼ねなければならなかった。
それが後々にも響いてくる。
この時、もしラスタルがマハラジャより先に話しかけることが出来たら………ラスタルの結末は違ったのかもしれない。
結局でマハラジャとラスタルの決別を決定的なものにしてしまったのは、アルベルトが二人の決別を決定的なものになってしまったと言っていいだろう。
ギャラルホルンという組織を維持することで、無理に変えず、今という時間を続けていくことを決めたラスタル。
今のギャラルホルンを変え、変革の先にある別の社会を作り、未来という時間を切り開くことを決めたマハラジャ。
どっちが正しいとは言えない。
平和と秩序を維持することならラスタルが正しいだろう。しかし、夢や自由を求めるのならマハラジャが正しくなってしまう。
しかし、人は結局の所で未来にしか進めない。
過去は覗くものであって、未来とは夢見るものであって、今とは過去から未来への通過点に過ぎないのだから。今や過去という時間に人を固定することはできず、人は未来にしか進むことはできない。
アルベルトは偶然未来へと進む人を見出し、ラスタルは見いだせなかったというだけの話である。
ラスタルは今を重要視して、マハラジャは未来を重要視した。なら、アインはどこを重要視したのだろうかとアルベルトは思う。
サブレは後悔ゆえに未来を望み、アインは過去を見ながら未来を望む。同じ未来を望む者同士、違う未来を望んでいる。
アルベルトは顎下に右手を添えながら左手で右肘を持つように添える。考える。
サブレもアインも後ろめたい感情から未来に進もうとしているのに、どっちが正しかったのだろうか。
いや、正しいも間違いも無い。
今、アルベルトにできるのはサブレを信じて作戦を組むことしかできない。
「しかし、あの時の子供が世界の未来を左右する存在だとは思わなかったが……」
マハラジャがサブレを見出したのは決して偶然ではなかった。
マハラジャはアルベルトを見出して以降、様々な人間が様々な人間を勧誘していき、マハラジャの一派はラスタルが無視できないぐらいに大きくなっていく。
ゆえに、ラスタルはマハラジャを殺そうと考えるくらいに思い詰めるようになった。
自分の信じる信念と友人の板挟みになるラスタル。
結果としてはラスタルは信念を選んだ。しかし、それは失敗することになる。
イオクの父親を殺してしまい、EDMの創設を促す結果になり、脅威を放り出すことが平和と秩序を維持することになると判断してしまう。
マハラジャと共にEDMに移った人物の一人が故郷であるドルト2のスラム街に帰郷した際の事、両親の死に涙する双子の兄の後ろで力強い目を彼は見た。
サブレ・グリフォン。
その時の少年の名前で、のちにマハラジャが養子に居れた少年だった。
後に、サブレの事を知ったマハラジャはサブレを引き取ることになる。
3
マハラジャがサブレの仲介の元、木星帝国のある人物を呼び出した。そのある人物とは『オズボーン』である。
マハラジャの画面ではオズボーンとサブレが映し出されており、かれこれこの画面の状態が一時間も経っている。
「しかし、君の判断には理解しがたい。自らが所属する木星帝国を売り飛ばすような真似が良くできるものだ」
マハラジャは心底感心した。みたいな感情を表情に出すが、オズボーンは実際の所でマハラジャがこんな感情を抱いているのかは疑問だと思っている。
オズボーンは無関心や無表情をよそいながらあくまでも、自分達は対等なのだと表現しながら話し合いをする。
「売り飛ばしているわけで無い。私は木星の未来を考えて行動してるだけだ。それに木星帝国とて一枚岩ではない。私は元々今回の戦争には反対の立場だった。ゆえにテラは私を議長に推薦していたところはある。この戦争は負ける可能性が高く、負けた場合は多くの木星国民が議長の采配にかかっていることも。だからこそ………私はこの戦争でククナを討つことさえできれば、木星帝国議長として太陽系議会への参加を表明してもいい」
それがオズボーンが出してきた条件だった。
「あんたは………オズボーンさんは木星を太陽系議会へ参加する事で、木星帝国を壊すことで世界を平和にしたいと?」
「そう言うことになるのだろうな。実際、平和になる為には話し合いだけでは足りないというのは分かるだろう?他の惑星も三つの惑星が加われば自然な流れで前へと進む。その為には平和の為の礎が必要だ。礎………生贄と言ってもいい」
サブレは小さく「生贄」と呟く。
この生贄こそが『皇帝』や『ククナ』なのだろうとサブレは思い、マハラジャは当然だろうなという表情を浮かべる。
「というより、ククナという女の狙いが自らを憎しみの対象とすることで人類が生き残れるかどうかを試す事だろうな」
「試す?」
「ああ、あくまでも試す。これに我々が失敗すれば、アインの計画を遂行するだけだ。彼女は二つの計画を同時に進めているだけなのさ」
マハラジャの言葉にようやくオズボーンはククナの計画の全貌を理解し、アインがそんな彼女と一緒に居る理由を把握した。
「なら、アインはそんな彼女の望みを否定しながら、自分の計画を進めても失敗さえしなければ同意していると理解しているんだな」
オズボーンは改めてマハラジャの方を見ながらもう一つの本題に移った。
「あなたの口から改めて聞きたいペペロの正体」
「俺も聞きたいな。このペペロこそが今回の戦争の原因だと俺は直感しているんだが?」
マハラジャは数秒だけ目を瞑ると、重く、ゆっくりと口を開いた。
「ペペロの正体は………アグニカ・カイエルのクローンだ」
オズボーンとサブレはこの答えにはおおよその検討は付けていた。問題はこの正体と今回の戦争に結びつくのかという事である。
「アグニカのクローン。簡単そうに言うが、人類のクローンは長年に及ぶ禁止事項でもある。しかし、当時の地球圏にルールを無視して、かついざとなったら研究所をもみ消すことが出来るのはギャラルホルンだった」
オズボーンは「ならアグニカのクローン研究はセブンスターズが?」と尋ね、マハラジャは黙ってうなずく。
「その通り。もみ消すことが出来るのはセブンスターズぐらいのものだ。で、ここで問題がある。今更アグニカのクローンを作り何をしたいのかという事である。そこで、セブンスターズの当時のメンバーを調べ、それをしかねない人物に検討を付けた」
もったいつけるような物言いにサブレは若干イライラしながら話を聞いていた。
「結局の所で、誰が犯人なんだ?」
「イズナリオ・ファリド」
マハラジャの答えにサブレはある程度の納得はしていた。いや、実際の所ではイズナリオぐらいしか犯人に心当たりが無かった。
サブレの苛立ちの理由は、ある程度周囲が理解していながら勿体ぶって意味ありげな表情を上げているマハラジャに対してだった。
「イズナリオには特殊な性癖があった。あいつは少年を妾として引き入れており、マクギリスもその経緯でファリド家に入った経緯がある。その性癖は偶然出会ったが、カルタ・イシューにも見られた。イズナリオはそんな妾を安く手に入れようと考え、法律違反であるクローン研究所を作った。そのクローンのプロトタイプDNAの内の一つにアグニカ・カイエルのDNAが混じっていたというわけだ」
「なら、ペペロはそれを偶然知った」
「いや、偶然ではない。DNAの操作をしなければ長生きできないクローン。その操作の段階で研究員が気が付いたのだろう。それのデータをペペロにしてしまったのが原因だ。ペペロがどうやって研究所を潰してから生きてきたのかは分からないが、彼に似ている人物が様々な場所で見つけられている。おそらくだが、クローン研究所は彼が生まれてすぐに閉鎖、彼はその後ギャラルホルンの別の研究所に預けられた。そこで、彼は自らがアグニカ・カイエルのクローンだと知ったのかもしれない」
サブレには問題の前後までは理解できなかったが、少なくともアグニカのクローンとしてペペロの歪みはどこまで進んだのだろう。
「ペペロの肉体の秘密までは理解できないが、少なくともモンタークとの戦いで重傷を負ったペペロがまるで後遺症を見せずに今を生きているのなら、その辺が答えなのかもしれないな。不死身の肉体とクローンとしての肉体という二つの側面」
「そこにペペロの秘密がある………っとあなたは言いたいのだな?しかし、木星帝国議長である私でもペペロの研究所には入ったことが無い」
「なら、その辺が答えなのかもしれないな。ペペロの研究所の中に答えがある。奴が必要なまでに人に研究所に居れようとせず、入れていないのに研究として一定の成果を『たった一人』で出している」
マハラジャとオズボーンが同時に考え込んだところでサブレが口を開いた。
「ペペロに戦場に出てこられたら結構困るんだけどね」
「それには私に策がある。鉄華団のメンバーをこちらに送ってほしい。後は私が何とかしよう」
オズボーンの提案にマハラジャは乗ることにし、サブレ自身も否定はしない。
オズボーンは「それでは、戦争が終わったのちに」と告げて通信を切るが、サブレとマハラジャは真剣な面持ちで告げる。
「サブレ。この数年で答えは出たのか?この一か月間を戦い抜き、数年前の答えは出たのか?」
「ああ」
サブレは決断と共に告げる。
「ファントム・ブラッド隊は解散させる。最終作戦においてはパイロットは俺と明楽とシノで行く。元々はこのメンバーで進めてきた。このメンバーで終わらせる」
「『ファントム』、まさしく幻………か。本来は存在しない部隊。実験部隊であり、『フリー・ライセンス』の為の部隊。ふさわしい最後なのかもしれないな」
終わりの時が刻一刻、近づいている。
どうだったでしょうか?最終決戦前の前夜祭の一つです。もう一話ほど前夜祭を書きながら最終決戦がスタートします。色々な形で色々な話の理由が分かったりするのでお楽しみに!
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅱ《最後の戦いの始まり》』になります!お楽しみに!