4
「サブレ先輩。今なんて言ったんですか?」
ファントムブラッド隊のほぼ全員がピリピリした空気を放ち、全体がプレッシャーで圧迫されたような感覚を与える。
まるでサブレはそんな空気がまるで分からないという風に、目を瞑り、聞き流す。そして、同じことを繰り返すだけ。
「ファントムブラッド隊を解散する」
ゼム・ロックやイオリやメアリーやメイデンは分かっていただけに黙っている。
「解散対象は明楽とシノを除いたパイロットだ。サラ達は今後「フリー・ライセンス」を行使し、自由に戦闘に参加しろ。これは俺からの卒業証書だと思ってくれ」
「卒業?」
サラや他のメンバーがぼそりと呟き、サブレはファントムブラッド隊結成秘話を語りだす。
EDMの幹部へと招集を受けたサブレは真っ先にEDMの代表室へと呼び出しを受けた。
代表室にはマハラジャとアルベルトが既に待機状態になっており、サブレは部屋の中に入ると、警戒心を一段階上げながら代表席へと近づく。
アルベルトが無表情半分と真剣な表情半分な顔をしながら重い口を開く。
「サブレ・グリフォン。君に実験部隊を任せたい」
そういってサブレにタブレットを手渡し、サブレがそれを受け取るとタブレットの中にはサブレ・チルドレンのメンバーが映し出されていた。
サブレ・チルドレンと言っても、メイデンと当時まだメンバーに入っていなかったシノは映されておらず、怪しむような表情を二人に向けるサブレ。
マハラジャがアルベルトが口を開く前に声を出す。
「怪しむな。これでもお前の所属先に問題があるんだ。お前は優秀ゆえにどこでも入ることが出来るだろう。本来ならいくつか試したいことがある」
そういってマハラジャはサブレのタブレット画面を机のパソコンから操作する。タブレットの画面内容が変更していき、画面内にはEDMが抱えるいくつかの計画が書かれている。
『フリー・ライセンス契約』『遊撃部隊』etc.
サブレは軽く十個は存在している。サブレは一つ一つの計画に目を通すが、サブレはため息を吐き出しながらマハラジャの方を見る。
「これ。どこまで本気?」
「全部ではないが、いくつかは採用してもいいと思っている。しかし、採用するにも実験する必要がある」
「なるほど。それで実験部隊ですか?」
アルベルトが口をはさんでくる。
「その通りだ。『フリー・ライセンス契約』『遊撃部隊』の実験を行う。まずは遊撃部隊だ。その後にフリー・ライセンス契約の実験を行おうと思っている。それに伴い、サブレ・チルドレンの適性を調べてほしい」
サブレは「適正」という言葉に反応し、アルベルトは意にも返さない様子で続ける。
「サブレ・チルドレンのパイロットセンスの高さは注目に値する。しかし、サブレ・チルドレンには精神的な問題を抱えているようにも思える」
「年齢的な問題ではなく?」
「ああ、精神的な問題だ。特に………お前に依存しているという意味ではな」
サブレ・チルドレンはサブレに対して依存しきっている傾向にある。なんでもできるサブレ、そんなサブレについていこうとする気持ち。
サブレにもそれは分かっていたが、サブレはそれを否定したい気持ちも存在していた。
サブレ自身はそれを精神的にではなく、年齢的な原因だと信じていた。
マハラジャが二人がピリピリした空気に水を差す。
「まあ、実験部隊だ。何年かかってもいい。彼らが卒業できたと感じた際にこちらから声をかける。あくまでもお前が決めるんだ」
それがファントムブラッド隊結成の秘密である。
「さて、問題は部隊名なんだが………独自部隊だからな、コードネームは必要だろう」
サブレは三十秒ほど悩む。
「………ファントムブラッド隊……」
ファントム―――――幻。
チルドレンゆえに血である。
幻の血。ファントムブラッド。
存在しないがゆえにファントム、子供たちの卒業を待つがゆえにブラッド。卒業すれば存在は消滅することになる部隊である。
「それがゼム・ロックやここに居る一部のメンバーで話した結果の結成秘話だ。実際に実行に移したのは兄さんが幹部に昇進してからだがな」
サラはどこか納得できないような表情でサブレを睨みつける。
「だったらシノさんはともかく。明楽が先輩の保護下に入れているんですか?」
「お前たちは明楽に『フリー・ライセンス』なんて与えてどうなると思っている」
返答に困る内容だけにサラを含めた全員が明楽を見ながら納得するしかできなかった。
「元々、明楽にはフリーはよくないというのが俺の判断だ。俺、もしくは誰かの監視下に置いておいた方がいい。だが、お前たちは違う。一人でも戦い、生き抜くことが出来ると信じている。
サラが反論しようとするが、サブレの表情や気迫が反論を許さない。
決定事項で、今更変更は聞かないのだろう。
「ヴァルハラは今回の任務の後に別部隊に託されることになる。最後の作戦はあくまでも俺達で実行する。お前たちはフリー・ライセンスとして自由に動け」
その言葉を反論できる者はいなかった。
5
月面都市アルンを含めた最終防衛ラインでは木星帝国侵攻主力部隊が集結しており、EDMの防衛部隊もまた最大戦力を集めていた。戦力比は五対三。しかし、木星帝国は戦力差をモビルアーマーで覆そうとしており、作戦行動の合図を今か今かと待ち構えていた。
EDMのコロニーレーザーも出力を上げていき、木星帝国の主力隊も準備を整えながら戦う時を待っていた。
アルンでは避難が行われており、クッキー達は地下シェルターへと誘導されていた。
閑散としたアルンの街並み、アルンのほぼすべてのエネルギーをコロニーレーザーへと向けているが、それでもコロニーレーザーの出力のチャージ具合は木星帝国製より低い。
アルベルトの目の前にあるモニターにはチャージ率が描かれており、未だに三十%しか溜まっていない。
ため息を吐き出しそうになり、艦隊の準備にせわしくなく動く部隊の方を見る。
本来であれば既に準備を終わらせておくべき状態である。
「いつまで準備に時間が掛かるんだ!本来であれば準備を終えているところだぞ!!」
同じ時間、火星の方でも地上と宇宙の双方で作戦の準備が行われようとしており、木星帝国は回り込む形で火星議会のあるクリュセを目指していた。
EDMの主力隊もある程度行動を読み、渓谷に部隊を整えていた。
EDM地上部隊への牽制にと集められた木星帝国宇宙主力部隊も集まっており、EDMと交戦に入ろうとしていた。
クリュセでは避難誘導が行われており、火星議会ではアスナが避難指示や市民を落ち着かせるための行動に打って出ていた。
アスナの元へとレレが近づいていき避難を推奨する。
「避難した方が良いと思いますが。あなたはそれでも……」
「残ります。市民の皆さんの避難を優先してください。私は最後までここに残ります。信じているから」
そういいながらアスナは窓の向こう側を見る。
空の向こう側で作戦へと向かおうとする愛する人を想う。レレも同時に思う。
「「どうか………勝って」」
ククナは完璧と言ってもいい布陣に納得しており、ククナは指令室から一旦出ていき休憩室でコーヒーを購入する。
コーヒーを一口飲み込み、部屋のドアが開いた音が聞えた。
「アイン?どうしたの?エンペラーの装備に不満が?」
ククナはエンペラーの装備や整備に関しては文句なく完璧に仕上げたつもりだった。強化装甲も用意した。
モビルスーツニ十機分の大きさを誇る強化装甲。バックパックにはブースター以外に、ミサイルポットやファンネル・ミサイル。両腕にはワイヤー装備型のガトリング・ファンネル。両足には大型ビームサーベル型のバスターライフル。胸や頭部にも拡散ビーム砲が装備されており、少なくともアインが負ける要素は無いと思えるほどである。
「あなたはあれでもまだ不満?」
アインはククナに抱き着き唇を奪う。
「約束は守ってもらう。俺がサブレ・グリフォンを殺せば俺の計画を遂行する」
「ええ、約束するわ。あなたが勝てば人類を滅ぼす計画に賛同する」
ククナは唇を奪われながらも冷静に返す。あくまでもそういう約束である。
「でも聞かせて。どうしてあなたはそこまでして人類を滅ぼしたいの?」
ククナが抱く疑問。
謎と言ってもいいこの疑問にアインは沈黙しながらも、濁ったような瞳をククナに向ける。
「呪い………過ちといった言葉を呪いという言葉で済ませようとする。確かに呪いは存在した。その呪いがサブレ・グリフォンという才能を借りて実体化もした。それ自体は認めるところだが、実際の所で呪いを作り、人類の進化を否定したのは人類そのものだ」
人類は進化を否定し、変わることを恐れた。
「変わることで、今が変わることで立場が貶められることを恐れた。それがニュータイプなどの進化した人類を戦争の道具にしかできない結果に変わった。そんな人類が今更進化したなどと都合の良い結果があっていいはずがない。俺は………認めない」
今更。
アインの心情は結局の所でそこに行きつく。
「今更なんだ。自分達の都合の良い事実しか受け入れず、進化した人類を否定して、今という時間しか受け入れない。そんな人類が今更進化したいなど………」
「言いたいことは分かるわ。確かに今更かもね。でも………進化したいと人類が思っているわけじゃないでしょ?それがサブレ・グリフォンの決断なのではなくて?彼は強制的に進化することで前に進むきっかけに与えようとしているんでしょ?」
「そうかもしれない。しかし、それはあいつの理由だ。俺は………人類を許せない。我々を裏切り、自分達の事しか考えない愚か者たちを粛清する」
粛清という言葉のチョイスにククナ恐れを抱く。
過ちを無理矢理でも正したいサブレ。
過ちを犯した人類を消してしまいたいアイン。
前進を選んだサブレと粛清を選んだアインに全てを託そうとしている人類がいる。いや、人類が選んだのではない、周囲の人間たちが無理矢理でも選ばせようとしているだけなのだ。
はるか昔から続くこの物語を終わらせる瞬間が追いついている。
アインとククナが視界を決して外そうとしない中、要塞内に警報と共に声が響き渡る。
「防衛宙域に急速に近づく多数の反応在り!」
「行きましょう。人類の行く末を見届ける為に」
「ああ。人類を滅ぼすために」
アカシックレコードがEDMの侵攻主力部隊をグノーシス要塞戦闘宙域へと送り届ける。
多数のモビルスーツが散開していき、同時に地球と火星でも同じ状態になっていく。
ククナとアルベルトが立ち上がり声を張り上げる。
「この戦いで全てが決する!EDMの勇士たち!戦争に勝利して地球の未来を守る為!もう一度力を貸してくれ!」
「地球という星が在り続ける限り私達は不遇な目にあっていく。なら、地球は破壊しなくてはならない。私達木星の民こそが世界を支配するにふさわしいことをここに証明する」
「「全軍攻撃開始!!!」」
アルベルトとククナ号令と共にすべての戦力が全身し始める。グノーシス要塞からエンペラーガンダム最終決戦装備パーフェクトが巨大な体をゆっくりと前に進めていく。
同時にサブレのエデンもまた大きな巨体を前進させていく。
エンペラーを人型に例えるなら、エデンは戦艦のようなデザインである。
四本の主力砲。ミサイル・ファンネルとレールガンを巨体中に隠しており、大型ビームサーベルを五本ほど隠している。縦長の胴体にブースターを装備している姿は戦艦に見えてしまう。
しかし、ククナはコロニーレーザーの出力を七十五%で放射することにしたらしく、コロニーレーザーが輝き始める。
サブレのエデンがコロニーレーザーの前に立ち塞がろうとする。
「貴様一人で何が出来る!!」
アインの叫びに反論する様にエデンの巨体から幻のガンダム達が現れる。
数えきれないほどの幻のガンダム達がエデンを囲み、コロニーレーザーの眩しさに匹敵するほどの輝きを増す。
「ガンダム達!!俺達に最後の奇跡を見せてくれ!!!」
二つの輝きが衝突する中アインとサブレは虹の向こう側へとたどり着く。
鏡のような水と青空が反射して見える。
アインの前にはサブレが、サブレの前にはアインが立っている。
ここにはアイスとマイクが対立していて、サブレとアインが代表して口を開く。
「これで最後だ」
「ああ。人間の未来を決める戦い」
サブレは大きく息を吐き出し、真剣な面持ちと睨むような視線と声を張り上げる。
アインも大きく息を吐き出し、真剣な面持ちと睨むような視線と声を張り上げる。
「人間の未来は消したりさせない!!!」
「人間の未来は消して見せる!!」
人類最後の戦いが幕を開けようとしていた。
どうだったでしょうか?次の話から最終決戦スタートです。基本的には鉄華団サイドのストーリーとファントムブラッド隊サイドのストーリーが交互に始まります。
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅲ《ファントムブラッド》』になります。お楽しみに!