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イサリビは木星帝国の本拠点であるコロニーエータントへと航路を向かっていた。エータント周辺はデブリと小惑星が鬱陶しく浮かんでおり、視界が悪いのと時折反応する固有周波数が反応して警報が鳴り響く。
何度目になるか分からない固有周波数の警報、ユージンは鬱陶しいという表情で警報をその場で切ってしまう。
「本当にこの先で……なんだ?オズボーンだっけ?そいつに会えるのかね」
ユージン達はサブレからの仕事の依頼で木星帝国の本拠点、そこで待っているオズボーンと接触し、ペペロの正体と殺害を依頼されていた。
不安が無いと言えば嘘になるが、だからと言ってここで引けば鉄華団の名折れ、その上これ以上役に立たないと思っていた自分達の活躍のチャンス。
それに、鉄華団の最後の舞台と思えばなんということは無かった。
これで本当に終わりにしよう。後悔も、無念もこれで最後にするとみんなで決めた。
死んでいった仲間達、家族達への弔いをここで終わりにする。
そして、モンタークは角笛の生き残りとして、ギャラルホルンの闇を覗き、闇を消すために戦う。
警報がしつこく鳴り響くことにもう違和感はなかったが、違和感を感じ取ったのはモンタークと三日月だった。
「ユージン・セブンスターク!すぐに艦をデブリに寄せるんだ!」
モンタークの声にとっさに反応して見せた。
「近くのデブリの隙間に隠れろ!」
イサリビ改は小惑星とデブリの隅に入り込み、側面が『ガリガリ』という削られる音が聞こえてくる。
それとほぼ同時かもしれない。ビームの着弾音とピンク色の強烈な光が見えてくる。
小惑星とデブリ越しに響く衝撃にブリッジに居るほぼ全員が身構える。その後、格納庫より二機のモビルスーツが飛び出していくのが見えてくる。
バルバトスとガフェインがデブリと小惑星を掻い潜りながら、ビームが飛んできた方向へと突っ込んでいく。
ガフェインがビームを飛ばし、デブリを壊すとそこにはピエロのような風貌のモビルスーツが佇んでいた。
そんなモビルスーツをバルバトスが大型ビームメイスで叩きつけ一気に決着をつけてしまう。
「よし!なんだ!雑魚じゃねぇかよ」
そう言いながら現れたのはダンテとチャドとエンビの三人である。EDMの最新モビルスーツである『ガンジュ』が援護の為出撃している。しかし、そんな事とは別に、三日月とモンタークは嫌な沈黙を続けている。
「どうしたんですか?三日月さん」
エンビがそう尋ねると、長い付き合いであるダンテとチャドはなんとなく嫌な予感に周囲への索敵に入る。
しかし、周囲には多数の固有周波数が確認できるだけで、それ以上はまるで感じない。そんな状況に対する答えはあっさり出てきた。
周囲に展開している固有周波数が急に動き始める。
三日月達の元へと集まっていく。
「へぇ~僕たちの存在に気づけたんだ」
そう言いながら現れたモビルスーツの数はゆうに三十は超えるだろう。そのほぼ全てがピエロタイプのモビルスーツであった。
「名前は『クラウン・クラウン』なんだぁ」
「貴様らしい名前だな」
しかし、この状況をおかしいと思ったのはほぼ全員だった。
「おかしいだろ!そもそも木星帝国の戦力は三つに分けてあるはずだ。なのに、どうしてこんなに残っているんだよ」
「別におかしなことは無いだろ?本拠地だって戦力を残しているだろうし」
ダンテとチャドの会話にペペロが入り込んでいく。
「いや、戦力は本拠地には残っていないよぉ。これは僕が個人で用意していた戦力だよ」
「だとすればどこかに本人が居るとみていいんでしょうね」
ペペロの言葉にエンビが反応するが、それに対してモンタークが尋ねる。
「本物はいるのか?」
「いるよぉ~全部本物だよぉ」
ダンテ、チャドやエンビが「はぁ?」っとあっけにとられたような声を出し、モンタークはやはりという表情を浮かべる。
「だと思った。おかしいと思ったのは先ほどの会話だ。今回の戦いは総力戦だ。両勢力が最大まで戦力を絞り切っている。そんな状況で本拠地に回す戦力があるのなら要塞方面に戦力を回すはず。だからこそEDMは我々で対処できると踏んだのだろうしな。しかし、この戦力はEDMやオズボーンの予想を超えている。という事は木星帝国の中に裏切り者がいるはず。それはお前しかいないだろう。それに、問題は全部が本物という意味だ。私が思い描く意味とは全く別物だと思うが?」
モンタークの言葉に頷くこともせず、否定もしないペペロに対し、三日月は感じたことを機械を通した脳波で周囲へと伝える。
『このほぼ全ての機体から全く同じ脳波を感じる。一機だけ違うみたいだけど』
そういう三日月の視界の先には武者鎧が刀のような装備を握ってこちらを睨みつけていた。
「君たちはここで死ぬ。どうしてこの場所まで来たのかは謎だけど。これ以上通すわけにはいかない」
Fの冷静で冷血な声が三日月の警戒心を最大値まで上げるのには十分であった。
囲まれている状況でどこまで戦えるのかは誰にもわからず、勝ち目があるとは思わない。それでも………。
「君たちを超えていかなければいけないのなら我々は戦うだけだ。そもそも君達の目的は……?」
モンタークの疑問にペペロはヘラヘラ笑いながら答えて見せる。それは全員がゾッとするような答えだった。
「復讐………なんてのはつまらない答えだよね。僕の目的はねぇ。全部だよ!!ウイルスを使って滅ぶとかあるよね~それと同じだよ。このモビルスーツは自爆することで周囲にウイルスを巻くことが出来るんだぁ。それをさぁ、地球や火星や要塞で使えばどうなるかなぁ?」
『人間?あんた』
「でもさぁ!ぞくぞくしない!?ワクワクしない!?みんなが苦しんで死んでいくんだよぉ!いいよねぇ!!大切なモノを奪われる苦しみを僕に見せてよぉ!」
ペペロの狂気を体中で受け止める。
どこまでも、どす黒い狂気、それを止めることが出来るのかは誰にもわからない。しかし、この時、ペペロは一つだけ見抜けていないことがある事に気が付かなかった。
モンタークは出立する前にシノへと訪れていた。
妹である『アルミリア』がしてしまった事、それを知っているからこそ会いに行った。その結果で殺されるとわかっていても、そうされても仕方がないとわかっていても。
「話があるんだ」
シノ向けて話しかけると、シノは死にそうな目でモンタークを睨みつける。
こういう目をされてしまう事はモンタークには分かり切っていた。
「許してほしいとは思わない。こんなことを頼める義理は無いとは分かっている」
シノの脳裏には「妹を助けてほしい」という言葉が来るのだと確信していた。だからこそシノはそれを断る算段を立てていたが、モンタークの頼みはそれを超えていた。
「妹を殺してあげてほしいんだ」
「はぁ?なんであんたが」
「妹はもう引き返せないだろう。それに、妹はマクギリスを本気で愛していたのだろう。なのに、俺は妹を追い詰める事しかできなかった。それに、これ以上私には助ける術が見つけられない。きっと記憶をなくしていても心が覚えているんだろう。だからこそ、君の大切な人を殺したんだと思う」
モンタークは「許せなかったんだろう」と呟き、同時にシノはヤマギが死んでいく光景を思い出す。同時にレッドクイーンの事も思い出す。
「幸せになれなかったからこそ、目の前に幸せになろうとしている者が居ると、憎しみで行動してしまうのだと思う。そんな妹を私は救えない。救う術もない………だからこそ」
「アンタに言われるまでもない」
冷たく接するシノにモンタークは頭を下げる事しかできなかった。
オズボーンは港の個室でイサリビ改の到着を待っていた。
ペペロへの監視役が姿を消してからはオズボーンは多少の焦りを感じており、一刻の猶予もない。ペペロが完全に行動を起こす前に、こちらが先手を打ちたいと考えていたからだ。
しかし、先手を打ったのはペペロだった。
固有周波数がコロニーの周囲へと散開しており、それが動いていると範囲レーダーが示している。
オズボーンはペペロが犯人だと確信を得る。
「ペペロ!一体何をしている!?」
周囲の動く物体へと通信を強引に開く。その動く物体がモビルスーツだと確信したのはこの時である。
「何のこと~?」
「一体どうやってそれだけのモビルスーツを用意した!?全戦力は三つに分けられているはずだ!なのに………」
「僕が自前で用意しただけさぁ。それに………君はもう少し自分の心配をした方がいいんじゃない?」
「!?」
危機感を後方のドアの方から感じ取り、物陰に隠れるのと同時にドアが爆発させられる。
部屋に入ってきたのはピエロ姿のペペロ………が五人。数にも驚くが、それ以上に驚くのは一つ一つに命を感じる事である。
それぞれのペペロが全く別の動きをしており、機械じみた動きをしてくれた方がオズボーンはある程度納得のできる解釈があっただろう。
「驚くのも無理は無いよぉ。でも、全部僕で、全部違う命なんだぁ」
全員が同時に喋るので、違和感が半端ではない。
「貴様………何が目的なんだ。何がしたいんだ」
ペペロは少しの間だけ黙る、五人のペペロは不気味な微笑みを見せながら一斉にしゃべりだす。
「僕だけがいる世界だよぉ!僕たちだけがいる世界!み~んな殺すんだぁ!ウイルスでみんな殺してぇ~みんな苦しめばいいぃ!」
サブレやアインはまだ人間らしさがあると思ったオズボーン。アインは人の浅はかさや愚かさに嫌気がさしたゆえの行動だとサブレはオズボーンに語り、サブレ自身は人を信じた上の行動だとオズボーンは知っている。
しかし、ペペロはどこまで言っても自分本位の行動であり、その極みだとオズボーンは思う。
サブレとアインは進化した人類の闇と共に戦っているが、ペペロは人間の闇と言ってもいい存在であり、それを倒すのもまた人間なのだと確信するオズボーン。
(確信した。ペペロは我々人間で殺すべきなんだ。この男は生きて居てはいけない)
そして、オズボーンはすさまじい速度で思考を回転させていく。
(いくらペペロが化け物じみた存在だとしても、無敵ということは無いだろう。という事はどこかに本隊が必ずいるはずだ。問題はどうやってこれだけの数を動かしているという事だが)
ここまで思考したうえで、外に居るモビルスーツのパイロットもここに居るペペロの量産タイプだと判断できる。
(どうやら、これがあの男が言っていたペペロの正体につながるらしいな)
マハラジャが告げるペペロの正体へとつながる道、それが目の前に居る複数のペペロ。
(間違いない。今、答えの道の上に居る。答えはこのコロニーにある)
まずはここを突破する必要があると確信するが、唯一の出入り口をペペロにふさがれている。下手に体を外に出せば殺される可能性がる。
手元にある武器で戦うしかない。
ハンドガン、手榴弾が数個とナイフ、これがオズボーンが持っている武器である。
「殺しちゃうよぉ」
ハンドガンをオズボーンに隠れている場所へと向けるが、オズボーンは引き金を引くより早く上へとスーツの上着を投げて見せる。
風になびくように浮く上着、とっさに五人は上着へと引き金を引く。
隙が生まれた。
確信と共に手榴弾をペペロ五体の足元へと向けて転がし、起爆の直後に駆け出す。生き残っているペペロから反撃を恐れず、ナイフを持ち出して、立ち上がる煙の中から起き上がろうとしているペペロの喉元、頸動脈目掛けて素早く切り裂きながら、ハンドガンで起き上がろうとしている最後の一体へと引き金を引く。
どうやら手榴弾で生きていたのは二体だけだったようで、他の三体は即死だった。
体の破片が至る所に散っている場面を目撃してもオズボーンの表情が崩れることは無い。
「戦って見せる。これは人間の愚かさと浅はかさが招いたことだ。これは人間の手で終わらせるべきだ」
進化した人類へと引き継いではいけない業だと確信するオズボーン。
戦いが終わる前に、サブレとアインが決着をつける前に終わらせる。たとえ………、
「私に味方が一人もいないとしてもだ!」
一人駆け出していくオズボーンの脚乗りは意外と軽やかだった。
三時間かけてたどり着いた場所はコロニーの中でもトップクラスに重要な場所である。
木星帝国の幹部のほとんどは研究職を本職としている人間で、ここはその研究区画が集められている場所である。
むろん、ペペロもここに研究所を置いており、ここ以外には作りようがない。それは、EDMや木星帝国に隠れてモビルスーツや自身の複製を作れるのは自分の研究区画だけ、オズボーンは確信と共に大きなドアの前へと佇んでいる。
傷だらけの体ではあるが、どれもが軽傷で済んでおり、たった一人でこの場所までたどり着いた。
「この奥が……この奥に」
「この奥に行けばいいんだな?」
オズボーンの言葉に重なる様に声が聞えてくる。それは、オズボーンには聞き覚えない声である。それも当然であり、その声の主はユージンだったからだ。
振り返ると、ユージンの後ろには元鉄華団のメンバーが集まっており、みんなが銃を持ちながら現れた。
「アンタがオズボーンだな。サブレ・グリフォンからの依頼で来たぜ」
「そうか………間に合ったのだな」
ユージン達はモビルスーツの相手を三日月達に任せ、自分達は任務を全うする為にこの場所まではせ参じた。
「といっても、ここまで来れたのは勘だったけどな。たまたま出入り口を探して、入ってみたら戦闘痕があったからな、後はそれを辿っただけだ」
ユージンは「勘が良かったぜ」とどこか得意げだ。
オズボーンはユージンに頭を下げる。
「どうか付き合ってくれないだろうか?人間の業を次の時代に引き継がないためにも、何より角笛の闇を暴くためにも」
「それが俺達の仕事だからな。鉄華団の最後の大仕事ってわけだ」
オズボーンは議長権限でドアを強制的に開けさせる。
ドアの向こう側にあるものは何か、それは誰にもわからない証明だった。
どうだったでしょうか?アインを進化した人類サイドのラスボスととらえるなら、ペペロは人間サイドのラスボスと言った所ですね。だからこそ、ペペロを倒す相手は慎重に選びました。絶望的な状況を演出しながらの選択でしたので、結構ギリギリまで悩んだところはありましたね。次回で鉄華団サイドの話は終わりです。
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅴ《人類の業》』になります!お楽しみに!