機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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明楽VSジャック決着です。明楽なりの答えが聞ける話になっております。


選び取った未来Ⅶ《デブリと称された未来》

11

 

 叩き起こされ、大人たちに殴られながら戦う。生き残りたいのであれば一人でも多くの敵を殺すしかない。それがヒューマンデブリの毎日であった。

 一日一日を全力で生きる。

 生きていることを実感できる毎日であり、所詮デブリ―――――ゴミ。使い古されたら、役に立たないのなら殺されるだけ。殺されたくないのであれば―――――一人でも多くの敵を殺す。

 歯を食いしばりながら生き残り、両手を血で染める。

 そんな毎日は唐突に終わりを告げた。

「大丈夫かい?」

 そんな言葉と共に差し出された右手を、優しさと同情を『12号』と呼ばれたヒューマンデブリは、殺意と怒りで返した。

 そんな同情が欲しいわけじゃない。

 自分達は生きているんだ。

 自分達の『生きる』という事を否定するな。

 そんな思いが、そんな心が殺意と怒りを滲ませて、男の命を奪った。

 『12号』と呼ばれ、生まれたときから名前など無い。親も知らず、愛も知らず。知っているのは相手を殺す事、食べて、寝る事。

 それ以外はいらない。

 みんな殺してやる。

 そんな殺意と衝動で戦う兵器と化した『12号』の目の前に悪魔が現れた。

「お前の生きる場所を与えて上げましょう。戦って死ぬ場所を与えてあげるわ」

 同情しているわけでも無く、かといって見下すわけでも無い。ただ、見ているだけ。

「私の計画の為に戦いなさい。そうすれば、戦いの中でも死を与えてあげる。約束するわ」

 その言葉は『12号』に新しい居場所を与えた。

「あなた『12号』というの?呼びにくい名前ね。『ジャック』と名乗りなさい。さあ。ついてきなさい」

 『ジャック』にとって生きる場所が出来た。

 

 瞑想をしていたわけでは無いが、昔を思い出していて、これから向かう死地の事を想う。

 ようやく死ぬことが出来る。仲間達の所に行くことが出来る。

 一緒に行こうと信じて、死んでから一緒に旅だとうと信じた仲間達。家族とも違い、友とも違う。やはり一番いい言い方は仲間なのだろう。

 誰一人家族を知らないヒューマンデブリ仲間だった。

 いつ死ぬのかしら知らない者達。

 ジャックは第一連結部で待機しており、宿敵が来るのをずっと待っていた。

 きっと彼ならばここに来てくれると信じ、戦って死にたい。

 ククナの本来の計画を話されていた数少ない人間の一人として、ここで戦って死ぬこと。あくまでも、戦って死ぬ。

 それがジャックの計画。

 さあ、来い。そんな気持ちと共に昂る感情を押さえながら、ブルーレイは戦う時を待っていた。

 

 明楽は要塞側面を移動しながら侵入場所を探し出していた。

 いくつか入る場所を見付けたのは良いが、モビルスーツが周囲を散開して邪魔になっている。

 周囲を散開しながら、モビルスーツを撃墜しながら侵入口を探し出すと、細い道を移動していく。

 第一連結部周辺の地図を展開しながら、現段階の居場所を照らし合わせて表示させる。

 明楽が大きな『№1』と書かれたドアの前まで来ると、明楽はそのドアを開ける。ゆっくりと開きながらその奥に居るジャックの姿が少しづつではあるが見えてきた。

「ヒューマンデブリ廃止条約の陰で起きたあるコロニーを占拠した一連の事件。その事件の裏で起きた別の事件。ある宇宙海賊への条約違反行為に対する制裁は熾烈を極めた。乗組員全員と摘発に向かった全メンバーが行方不明になった」

 ギャラルホルンが隠していた真実。

「ギャラルホルンは当時、戦力になりそうな人間たちを集めており、元ヒューマンデブリも決して論外ではなかった。EDMとの条約を破って宇宙にメンバーを上げ、ヒューマンデブリを回収する。EDMの目がコロニーの事件に向いている間に行われた事件は、ギャラルホルンの手で封印された」

 ギャラルホルンが壊滅した今になって少しづつ分かってきた真実。

「元々宇宙海賊はEDMの攻撃で壊滅状態になっており、風前の灯火に近かった。それをギャラルホルンは漁夫の利を狙って戦いを挑んだ。しかし、そのほぼ全部のメンバーが壊滅的な打撃を受けた。その正体は………」

 EDM本部の人達から聞いた真実。

 当時コロニー事件の裏で起きた殺戮と隠蔽の数々。陰謀が渦巻く中で起きた二つの勢力による奪い合い。

 木星帝国はヒューマンデブリを使ってギャラルホルンの内側にスパイを送り込んだ。

 ギャラルホルンはヒューマンデブリを使った戦力増強を図った。

 その結果。

「木星帝国の先遣部隊とギャラルホルンによる工作部隊による疑似的な戦争状態それが真実。それに際し先遣部隊が勝利を収め、ギャラルホルンの中へとヒューマンデブリをスパイとして送り込んだ」

 明楽の言葉を受け、大きく開いた空間の中に佇むブルーレイ。

 ジャックは集中しているのか、ゆっくりと目を開き、明楽の方を見つめる。

「それが俺。数少ない生き残り」

 それだけが真実。

 

 第一連結部の中は細いパイプがいたるところに伸びており、モビルスーツが一対一で戦うには十分な空間と言えるだろう。

 シムカスはショートアックスを両手で構え、ブルーレイはビームサーベルを装備している。

 先に攻撃を仕掛けたのはブルーレイであった。

 二本のビームサーベル。それを乱れ切りする様に突っ込んでくる様を、シムカスはショートアックスで攻撃を捌きながら素早くその場から移動する。

 シムカスはパイプを足場に跳躍し、壁に体を預けているブルーレイに切りかかる。しかし、ブルーレイは背中の翼から見えない衝撃をシムカスに浴びせ、シムカスは衝撃で体を反対側へと吹き飛ばした。

「僕達ヒューマンデブリにとって戦って死ぬことが当たり前だった。それを奪われる苦しみを体で受けてみろ!」

 ブルーレイの背中の翼は速度の上昇以外にも、圧縮したエイハブ粒子を物質的な攻撃手段になる。実際シムカスはパイプを破壊しながら吹き飛んでしまう。

 ブルーレイは目にも止まらない速度で突っこんでいくと、見えない壁にぶつかるような衝撃と共に音がコックピット内に響き渡る。

「な!?」

 背中に付いている大型シールドから発せられた見えない壁。通称ステルスシールドが三百六十度全域に張り廻られており、機体がぶつかった程度では壊れることは無い。

「そんなの俺だって分からない。でも、死ぬことが当たり前なんて悲しすぎるから」

 シムカスの斧で身動きが取れなくなったブルーレイに襲い掛かり、ブルーレイはそれを二本のビームサーベルで受け止める。

 ビームのつば競り合いで火花が目の前でちり、ガンダム同士の額がぶつかりそうになる。

「僕達にとって死ぬことでしか自由になる手段がないんだ。名前が無く。戦いしかない。上に居る『人間』を守るための『ゴミ』なんだ」

「それが………それが自分のしたい事なのか!?」

「そうだ………!」

 ブルーレイはシムカスを右側に吹き飛ばし、追撃する様に機体を走らせる。パイプを切りながらシムカスの視界をうまく塞いでいき、死角を周囲に作る。

 シムカスの周囲のパイプが死角になり、ブルーレイがどこから襲撃するのかがいまいち予想できそうにない。

 明楽は目を瞑り、精神を集中しながら周囲からくる殺気に神経をとがらせる。

 パイプが弾かれる音、スラスターが火を噴く音、それが周囲を飛び回り、シムカスの右下から一気に近づいてくる。

 明楽はシムカスの右足を犠牲にする形で隙を作る。

 ブルーレイはシムカスの右足の直撃を受けて、二秒だけ隙が生じてしまう。

 シムカスはその隙に斧をブルーレイ目掛けて振り下ろそうとする。ブルーレイもビームサーベルで対抗しようと手を伸ばし、お互いに急所目掛けて手を伸ばそうとする。

 

 幼い明楽の目の前で起きた戦闘は今になってなお印象に残っている。決して最新鋭とは言えない古めかしいモビルスーツ(今に思えば訓練用のモビルスーツだったと推測できる)。そんなモビルスーツが海賊のモビルスーツを次々に撃墜していく姿は印象に深い。

 母親が苦戦し、追い詰められていた集団を十分で全て撃墜して見せた姿は、明楽にとって『ヒーロー』に見え、憧れるには十分な姿であった。

 全てのモビルスーツを撃墜し、こちらを振り向くモビルスーツの姿は今もない瞳の奥に残っている。

 だからこそだろう。

 艦に辿り着き、助けられた人々の手の中で、助けてくれたモビルスーツから降りてきたパイロット、そんなパイロットが自分とそこまで変わらない年齢の少年だったと知った時、あまりにも衝撃だった。

 ヘルメットを脱ぎ、汗を飛ばそうと首を左右に振る姿に明楽は見入っていた。

 学校に入ると決めたのも、サブレについてきたのも憧れていたためである。

 サブレは憎んでも、殺意を抱いてなお誰かを救おうと手をさし伸ばし、その分だけ自分の心を傷つける。

 心も、身体もボロボロになったアフリカの戦いにおいて、サブレは自分の闇と決別した。

 切り離した。

 それを明楽は知っている。

 でも、だからこそサブレは進化した。

 歩き続ける中、今もなお多くの人を救おうと悩み、迷い、苦しみながら出した結論を信じて前に進む。

 そんな姿を一番近い所で見てきた明楽。

 だからこそ、負けるわけにはいかない。

 サブレが負けない限り、自分も負けない。

 しかし、そんな時、本当にここでブルーレイを落とすことに、ジャックを殺すことに疑問を抱いた。

 サブレは自分を救った。敵すらも救った。

 そう思った瞬間………ブルーレイのコックピット目掛けていた斧の攻撃を逸らしていた。

 

 ビームサーベルはシムカスの端に逸れ、アックスはブルーレイの両腕をに付いた武器を切り落とした。

「どうして?どうして殺さない!?」

「先輩を俺を救ってくれた。先輩を多くの人を救おうと努力している。敵すらも手をさし伸ばそうとする。そんな先輩の背中を見てきたんだ」

 傷ついている姿を見てきたし、それを助けられなかった。

 憧れているからこそ、背中を追い続けてきたからこそ、自分がどうしたいのかを考えられる。

「俺はお前を憎めない。死ぬことが救いだってわかっている。でも、それでも………俺はお前に生きてほしいんだと思う」

「ふざけんな!!」

 ジャックはそんな明楽の言葉に大きな怒りと共に返した。

「俺達からそんなに『死』を奪うのか!?俺達ヒューマンデブリにとって死ぬことが唯一の救いだった。楽になる方法だった!お前達『人間』は俺達から全てを奪い、その上身勝手な同情心で俺達を生かすのか!?」

「そうだよ」

 間髪入れず、「そうだよ」っと告げる明楽に驚きの視線を向ける。

「同情することが悪い事?可哀そうだって思う事はひどい事?虐げるつもりは無いし、かといって無責任なことはできないよ」

 明楽はサブレにはなれない。

 たとえ憧れていたとしても、なることはできないのだから。

 だったら、自分なりの生き方を見付けよう。

「生きてくれって言うつもりも無いよ。でも、俺は………生きてほしい」

「!?」

 複雑な表情を浮かべ、どうしていいのかが分からない表情へと変わっていくと、呻き声を上げながら飛び去っていく。

 明楽はショートアックスで連結部を攻撃していき、破壊していく。

 消えていった方向を眺めながら、ジャックの事を想っていた。

「先輩。俺………正しかったのかな?」

 そんな答えが出るわけでは無かった。

 戻ろう。

 そう決めたとき、明楽は仲間たちの待つ場所まで戻っていった。

 

 ジャックはブルーレイから降りていき、ハンドガンを取り出して自分の頭にピッタリつける。

 息が荒れ、引き金にかかる指が人一倍力が籠ると、パンっという発砲音。そんな音とは別にハンドガンの銃口が持ち上がるのが分かる。

 驚きと共に視界をそちらに向けると、そこには死んだはずテラの姿が有った。

 包帯で体中を覆い、杖を突きながら現れた痛々しい姿に怒りの表情を向ける。

「手を離せ!!死ぬんだ!」

「なら………余計に離せんな」

 抵抗をしていたが、テラの握る手は決して緩まずその内諦めた。

「生き残っていたの?」

「死ぬつもりだった。『あの男』の手によって生き返ったのでな。後は自由に生きようと決めた。しかし………」

 『あの男』という言葉に一人の確信を得た。

 ゲイナー。

 彼がテラを助け出したのだろう。何が目的かは分からないが、しかし、こうしてテラはこの場所までたどり着き、偶然この場所に居た。

「安易な死を望むか?ならその命私と共に歩いてみないか?」

「何の為に?」

「君の仲間達が生きた理由。君が彼らに出来る弔いを」

 ジャックは驚きと共にテラを見る。

「ヒューマンデブリと称された者達の分まで、生きた輝きを見付けてみないか?」

 ジャックは何も返さない。

「生きて、生き続けて。苦しんで、苦しみ続ける。その先に待つ答え。世界に償いながら、生きてみないか?」

 それはジャックにとって地獄の答えでしかないのだろう。いや、地獄の道の入り口である。

 しかし、ジャックは明楽の言葉をすぐに思い出した。

『俺は………生きてほしい』

 そんなことを言われたのは初めてだった。

「もっと早く言って欲しかった。俺は………何の為に生きてきたんだよぉ…」

 きっともっと早く言って欲しかったのだろう。

『生きていいよ』

 そんな言葉を。そんな当たり前の言葉をずっと待っていた。

 明楽がこの答えに辿り着いたのは、サブレの意地悪な言葉を聞いたからだ。

 サブレは答えを教えない。

 答えに見えるが、それは答えではなく、ヒントに過ぎないのだ。

 何故なら、サブレは「自分で考えろ」っといつだって言い続けてきた。

 考えるためのヒント。

 思考は迷路。

 壁にぶつかって、引き返してはまた考え直す。

 そうやって自分の答えや、その人が求めている何かを見つけ出す。

 ヒューマンデブリが求めていた言葉を、明楽はサブレの言葉から考え、導き出した。

 かつて、鉄華団に所属したヒューマンデブリ達はきっと生きていいのだと、生きたいと思える場所を得たのだろう。

「生きる理由は自分で決めなさい」

 そう言ってテラは要塞の奥へと足を進める。

 過去の罪を償うために、目を逸らしてきた愚かしさと向き合うために。

 ジャックは立ち上がり、テラと共に歩き出す。

 デブリの未来を見付ける為に。




どうだったでしょうか?ジャックが求めていた『死』は楽になりたいという意思の表れでもあります。ゴミのように死に続けてきたからこそ、ジャックは誰かに『生きていいよ』という当たり前の言葉をかけてほしかったんです。それだけでよかった。彼が求めていたのは、同情される事でもなく、手を差し出しされる事でもなく、そんな当たり前の言葉でした。明楽に言われたことで、生きていたテラに道を示されたことでようやく彼は生きることが出来たんです。
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅷ《愛ユエニ憎ム》』になります。お楽しみに!
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