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もし―――――、そう考えてしまう事は多い。
もし、鉄華団が違う選択肢をしていたのではないかっとふと考えてしまう。しかし、何回やり直しても、あのままでは何も変わらないだろう。きっと鉄華団の仲間達ならきっと同じ選択肢をしていたはずだ。
後悔はやはり後悔でしかなく。
可能性も、IFも、このままでは何も変わらない。
皆で同じ後悔と過ちを繰り返す。
それを変えたい。そんな不毛な未来。後悔と罪を繰り返す輪廻のような未来を変えたいっと願ったのは、ノルバ・シノの上司で在り、鉄華団時代の仲間であるビスケットの弟であるサブレ・グリフォンだった。
憎しみも、怒りも、喜びも、愛すらも飲み込み、生きていく。しかし、ノルバ・シノにはそれはできなかった。
目の前で大切な人を、ヤマギを失った時、どうしようもない深い怒りと憎しみが心を満たし、頭の中をかき乱す。息が荒れ、同じ記憶が繰り返される。その内自分が何をしていたのかが分からなくなり、気が付けば………鉄華団時代の仲間達に捕まる形で連れ去られていた。
錯乱し、派手に取り乱して仲間達にきつく当たった。
分かっている。
彼らの所為ではない。
未熟だった。その為に大切な人を一人失った。
失って気づくとはよく言ったもので、ヤマギを失い一人で苦しんでいると自分を見ている女性に気が付いた。
イオリはシノを抱きしめた。
シノにとってそれは特別な瞬間だったのかもしれない。
愛することを知った。失う辛さも知った。守ることの大切さも知った。
だから戦う。大切な人の為に、憎しみを晴らすために戦う。
だから、目の前にレッドクイーンがいる。
二本のランスを構えて、大きなドレスを腰につけ、まるで女王のように佇むその姿と、それを裏切るかのように不気味に細かく動く姿が、シノの精神を奮い立たせる。
アルミリアの精神は限界に到達しようとしていた。
機体もそれに応じるかのように、現すかのように不気味に動く。まるでブリキの人形のように。
女王のブリキ人形のように動く不気味な姿、槍を一心不乱に握りしめ、見つめる目は女王というより獰猛な猛獣と言った所だろうか。
女王の姿をした獰猛な猛獣が襲い掛かろうと、深い息を体中から吹き出しているように見え、そんな姿をシノはこう例えた。
「まるで……悪魔みたいだ」
そんな言葉が今の自分の精神状態から発せられたことが奇跡のように思え、無駄に冷静になっていく。
精神が彼女の姿を見る度に冷静に陥っていく。
しかし、それでも憎しみも怒りも決した失ったわけでは無い。むしろ、そんな姿を見る度に怒りと憎しみが沸きあがてくる。
どうしようもない状況だとわかっていても、今更目の前の敵を殺したところで、滅ぼした所で、ヤマギが返ってくるわけでは無いっと分かっている。
しかし、それでも殺さなければ心が持たない。
そうでなければ、シノを見つめるイオリに答えることもできない。
永遠に彼女を傷つけ続ける。それだけは嫌だった。
失う以上の苦しみを永遠に彼女にも、何より自分自身につきつけねばならない。
だから、戦おうと決めた。
「ぶっ殺してやる!!」
シノのメテオは襲い掛かる。
愛を、憎しみを知る者同士、殺し合う。狂気の戦いが始まった。
薄暗い部屋。
アルミリアは、帰ってきてくれることを祈っていた。愛する人が返ってくることを、一緒に罪を償おうと。決めたのに、帰って来たのはやり遂げた男の顔をした兄だった。
兄の口から発せられた言葉、マクギリスを殺した事だった。
どこか後悔しながらも、やり遂げたという表情にアルミリアは…………彼女は、絶望した。
父も、兄も、周囲も喜び、まるで悪魔が死んだような答えが待っているだけで。誰もが、アルミリアを同情し、慰める。その度に、そんな憐れみを受ける度に、アルミリアの心は一つ、一つ壊れていく。
知りたい。知ってみたい。愛する人が、マクギリスの事を………全部!
そう思い、彼女は治療だと言い訳して、お金を大量に持ち出して旅立った。
愛する人を追いかける旅に。そこで知った、マクギリスの出生と悲劇の人生の経過を。
呪ったのはギャラルホルンと両親全てだった。
何がマッキーは悪だ。まるで悪魔を殺したかのような喜びを示す父親たちに対する復讐心が湧き上がってきた。
「憎しみにとらわれているな」
そんな声をかけてきたのが、いったい誰だったのか今ではもう思い出せない。いや、そんな人間の表情を見ていたのかすら曖昧で、もしかしたら復讐で既に心は壊れていたのかもしれない。
「教えてあげる。復讐の仕方を……」
それは………まるで、ピエロのようだった。
ジャマダハルとランスが火花を散らし、シノは拡散ビーム砲を至近距離で撃つが、アルミリアは機体を逸らして回避して、蹴ることで距離をとる。
「何なんだよ………今の」
頭の中に見えてきたイメージ、アルミリアがたどった経緯。
進化したからこそアルミリアが放出しているイメージを至近距離で受信してしまっていた。
アルミリアの戦う理由、忘れていても、力だけがきちんと覚えている。覚醒者としての力が。
同情してしまいそうになる。
あの戦いにも正義は無かった。あったのはそれぞれの生きるための選択肢だけだった。
苦しみながら、戦い抜いて見つかった未来は金を持つ者達が権利を握る世界だった。それをEDMと木星帝国はそれぞれの理由からぶっ壊した。
木星帝国はある意味復讐だったのかもしれない。
地球しか見ず、木星などの他の惑星を助けもしない。そんな物達への復讐。
それに対しEDMは、仕返しと改革を目的に動き始め、両者はギャラルホルンをはさむ形で戦争を始めた。
ギャラルホルンは両勢力から影響を受けながら各地で悪事を働いてしまった。信頼は落ちてしまい、各経済圏はギャラルホルンからEDMへと権利を譲渡してしまう結果を招く。
ある意味アルミリアの復讐は成った。
しかし、心が晴れるわけでは無かった。
「―――――!」
心が壊れて襲い掛かる彼女のランスを紙一重で回避しながら、ジャマダハルの連撃で追撃する。かわしきれない攻撃が容赦なくレッドクイーンに切り傷を与える。
レッドクイーンは周囲にファンネルを展開するのと同時に、シノの脳裏にチリチリするような感覚を得た。周囲から感じる殺気をそういう感覚で感じ、どこからどう襲われるのかがはっきりよく分かる。
回避しながら再び距離をとるメテオ、それを追撃しようとスラスターを吹かせるレッドクイーン。ランスの一撃を回避しようと無理な行動が仇になり、足をパイプに引っ掛けてしまう。右肩のキャノンが吹き飛んでしまい、シノはジャマダハルで反撃を試みる。
ジャマダハルがレッドクイーンの左腕を吹き飛ばし、レッドクイーンはメテオを逃がすまいとシールドでメテオを固定する。
「―――――!」
「分かんねぇよ………何言ってんのか!!」
何を言いたくて、何を言っているのかがまるで理解できなかった。
分かるのは、脳波で受信できる内容だけ。憎しみ、怒り、呪詛の想い。
殺しても、何度殺しても足りない、満ち足りる事のない憎悪。
何度忘れても、心は覚えていて、その度に憎しみを増幅させる。
「―――――!―――!―――!」
ランスでコックピットを潰そうとレッドクイーンがランスを押し付け、メテオは抵抗しようと二本のジャマダハルで対抗する。
目の前で火花が散り、メテオが押されそうになる。
シノは左肩のキャノンを目の前でレッドクイーンに向けて放ち、レッドクイーンの顔の右半分が吹き飛んでしまう。体勢が大きく崩れ、メテオはレッドクイーンを逆に押し倒してジャマダハルを至近距離で突きつける。
形勢は逆転してしまい。
アルミリアは声にならない罵倒のような呪詛を吐くだけになった。
後はジャマダハルをコックピットに突き刺すだけで復讐を完了する。そう思った時だった、シノの中に本当に復讐を完遂させていいのかどうか悩みが生まれた。
決して憎しみが無くなったわけでは無い。
それでも、このままでは自分は彼女と同じになってしまうのではないか。
憎しみと復讐を繰り返す。
それは何も変わらない輪廻のようにも見えた。
ヤマギはそんな不毛な繰り返しを望むだろうか?
望むわけが無かった。
むしろそんな中にシノを陥れてしまったことを後悔するはずだ。
そう思った瞬間、シノは殺すことを止めようと手を離す。
ヤマギが、イオリが愛しているっと告げてくれた自分が、自分本位な行動で戦って居のかどうか、分からなかった。
助けたいわけでも無い。
モンタークに言われた通り、彼女を殺すことが彼女を救う唯一の方法なのだと分かっている。
どうしたらいいのか悩み、苦しみながらその場で呆然としているとレッドクイーンが動き出した。強引に動き出す。
メテオはとっさに距離をとってしまい、レッドクイーンが残ったファンネルを展開させメテオに追撃を仕掛ける。
悩みが生んだ一瞬の隙、それを見逃さないように、強引な攻撃が続く。
殺すしかないのかという想いが脳裏をよぎり、同時に殺せば復讐したことになるのではないかっという想いが鈍らせる。
最後の攻撃が出来ずにいると、レッドクイーンのファンネルを落としたところで、レッドクイーンがメテオの真後ろに回り込む。
もう殺すしかないっという気持ちでジャマダハルを構えるが、それでも腕が動かない。
目の前にランスが伸びるが、それより早くレッドクイーンのコックピットにビームサーベルが突き刺さった。
コックピットギリギリで止まったままの状態で止まり、レッドクイーンの後ろからどこか最低限の修理を終えたかのようなブルーレイが姿を現した。
混乱するシノ。
シノの脳裏には最悪の状態がよぎったが、そんなシノの予想とは裏腹にジャックはシノに話しかける。
「明楽に………よろしく伝えておいて」
そう言って振り返り立ち去ろうとする。そんなジャックを今度はシノが話しかけて引き留める。
「どうして……助けてくれたんだ?」
「別に………しいて言うなら、アルミリアが苦しそうにしてたから楽にしてやろうと思っただけ。あんたはついで」
シノは「あれは苦しみだったのか?」っと小さくつぶやく。
「いいんじゃない。復讐しないって決めたんだろ?ならそれを貫きなよ。でも、大切な人を守りたいなら………戦え」
戦わないことは不誠実にもなる。
大切な者を守りたければ、時に残酷になることも大切だと、ジャックはシノに教える。
「じゃあね」
そう言ってその場から去っていく。それと同時に大きな部屋の中に明楽が入ってきた。一足先に戦闘を終えた明楽がシノに近づく。
ちょうどジャックとすれ違う形になる。
「シノ先輩!早くしないと!」
シノは明楽が生きていることに安心してしまう。
シノは連結部までたどり着き、ジャマダハルを突き刺して何度も切りつける。
大きな爆発音と共にメテオとシムカスは現場から離脱する。
「さっき、ブルーレイが助けてくれてな」
「え?ジャックは何か言ってました?」
「お前によろしく伝えておいてくれってさ」
明楽は嬉しそうにしながらシノの前に立つ。
仲間たちの所に帰ろうとスラスターの勢いを人一倍強くする。
(なあ、ヤマギ………これでいいか?)
『いいんだよ。シノ。ありがとう。忘れないでね………僕達がここに居たこと』
ヤマギのそんな声が聞えた。
「ああ、忘れない。やっと………」
「先輩?何か言いました?」
「いや、なんでもねぇ」
そう言って明楽の横に並ぶと二人で帰還した。
やっと………心が晴れそうだ。
アルミリアの意識が少しづつ覚醒していき、苦しみも痛みすら感じない。それどころか、そもそも自分が誰で、なぜこんなことになっているのか分からない。
でも、どこか懐かしく思う場所で。
「もういいんだよ」
声が聞える方向に振り向くとそこにはアルミリアが一番愛していた人がそこにはいた。
「マッキー?」
優しくうなずき、マクギリスへと思いっきり抱きしめる。
記憶はハッキリせず、両親の事も、兄妹の事すらも思い出せず。あるのはマクギリスの事だけだった。
苦しみも、悲しみさえも今はどうでもよく。
「大丈夫だ。もう………行こう」
後悔が未来を変えるための戦いを、後悔が別の未来を創ることを信じて、死者は待ち続ける。
「行こう。アルミリア。別の未来へ行こう」
アルミリアは意味をよく理解できなかったが、それでも恐怖は無かった。マクギリスと一緒ならどこまでも行けそうな気がしたから。
頷き、歩いていく。
どこまで進んで行こうと思う。
「マッキー………愛してる!」
「私もだ。アルミリア」
そう言って二人は歩き出す。
別の未来へと―――――まっすぐに。
どうだったでしょうか?次回はクレアとビスケットサイドのお話になります。ククナやテラなどが話に関わってきます。
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅸ《愛してる》』になります。お楽しみに!