13
明楽とシノが手分けして連結部の破壊へと赴いていた時、クレアは黙って姉の元へと行こうとしていた。
姉を止める為、死すら覚悟して歩き出そうとした。
銃なんて使った事はおろか、持ったことすらない。
しかし、これだけは誰にも譲れない。譲ってはいけない。
そんな覚悟と共にクレアはノーマルスーツを着て、ヴァルハラを降りてそのまま細い通路に向けて体を投げ出す。
体を丸めて、回転させながら細い通路へとたどり着く。モビルスーツからの攻撃を受けなかったのは幸いで、クレアはそのまままっすぐに暗い通路へと飛んでいく。
サブレはファンネルをミサイル形式で、武装タンクと呼ばれるコンテナから三十個ほど射出し、そのすべてを木星帝国モビルスーツ群へと飛ばす。
最前線で粘っているスニーの元へと向かう。
「ジャニー、ノイン!お前達は補給艦一隻と共に木星本国へと向かえ、お前たちの速度なら十分かからずにたどり着ける!」
「でも……」
ジャニーが口を開き、抵抗しようとするが、サブレの一声がそれを阻害する。
「いいから行け。さっきから向こうで嫌な感じがする。どのみちアインがコロニー前で粘っている以上お前たちが出来ることは無い!」
そう言いながらサブレはそのまま敵陣へと突っ込んでいき、スニーは補給艦と共に姿を消す。
遠くにまとまっているモビルスーツ群に向けて大型ビーム砲を容赦なくぶちかます。其の姿を遠目で確認していたのはアインだった。
「死にたくないなら出てくるな!死にたい奴だけ目の前で立ち塞がれ」
そう言いながら敵を蹴散らしていく姿を、舌打ちしながら眺めていたアイン、周囲を飛び交うモビルスーツを打ち落としていく。
仕方がない。
そんな思考がアインの脳裏をよぎり、後方に待機していたモビルスーツ群に指示を出す。
死ねという指示を。
「後方に待機しているモビルスーツ隊にエデンの相手をさせろ。エデンの武装をぎりぎりまで削るんだ。エデンの性能も見ておきたい」
しかし、アインは実際の所前半の指示はともかく、後半に関してはあまり期待していなかった。
まあ、装備を削ってしまえばまだましだと思えたからだ。墜ちた機体の倍の数を自分が落とせばいいだけの話だと感じたからだ。
ミサイル・ファンネルと共に両腕のガトリング・ファンネルが周囲を飛び、次々と打ち落としていく。
サブレの方も次々と落としていくが、さすがに木星帝国の精鋭部隊。簡単には落ちたりしない。
タンクにしがみ付いてタンクの外壁が剥がれ落ちそうになる。振り払い、ミサイル・ファンネルで落とそうとするが、それでもなおしがみ付く。
「ほう。意外と耐えられるものだな」
重宝しておいた方が良かったかもしれない。そう思ったが、今更だと判断が付いた。
だったら全員死んでおいた方がいいと冷静な判断を下し、サブレの方へと突き進んでいくが、同時にサブレもアインが近づいてくるのを感じ取った。
後方に待機している艦や部隊に敵モビルスーツの波が押し寄せようとしているのを視認すると、サブレは後方へと戻ろうとする。しかし、それを前方から突っ込んで来ようとしているアインが邪魔をする。
「ここまで来ておいて、逃げられると思うのか!?サブレ・グリフォン!」
「あくまでも邪魔をするのか!?アイン!」
エデンとエンペラーが衝突しような距離になった時、サブレの脳裏に姉の元へと向かうクレアの姿が見えた。
「一人じゃダメだ!兄さん!」
その思念がビスケットの元へと届くことになる。
ビスケットがサブレから思念を受け取ったのはそのすぐあとである。
「え?クレア?イオリ!クレアさんはどこに!?」
「え?えっと………あ!?後方ドアが開閉された痕跡が!」
「俺がクレアさんを追いかける!みんなは迎撃戦を続けてて!」
そう言うとビスケットはハンドガンの準備をしながらクレアが出ていった後方ドアへと急ぐ。
後方ドアはすでに開けられており、ビスケットはそこから飛んで移動する。背中につけておいた個人移動用スラスターの推力で移動しつつ、細い通路へと足を進めていく。
ビスケットはクレアが入ったかどうかすら分からなかった。
「まあ、考えればここしか人が入るような道は無いし、それにクレアさんの行きそうな場所には心当たりがあるし」
きっとククナの場所だと判断できた。
この場所に来た時には既に決めておいたのだろう。
「危険すぎる。一人で行くなんて」
そう思い通路を歩いていきながら、ククナがおそらくいるのであろうコロニーレーザーコントロールルームへと足を進めていく。
しかし、そんな中一人の女性の悲鳴と複数の兵士の声が聞えた。
「クレア様。申し訳ありませんがあなたを見つけ次第殺せというのが皇帝最後の指示でしたので」
「でもよ。もったいなくねぇか?遊んでからでも」
「放してください!」
どうやらここまで来てすぐに兵士に見つかったらしい、ビスケットも出ていきたいところだが、白兵戦すらまともにこなしていないビスケットには、人質を取られたまま戦う術がない。
しかし、助けない理由にはならない。
一瞬でかたずけなければと心に覚悟を決める。
その時だった。見知らぬ声がした。
「何やってるわけ?」
「ジャック様!?連結部の防衛任務があるのでは?」
「連結部なら全部落ちたよ。君達も早く逃げた方がいい。今はまだ無事でいるけど五分もしないで要塞が崩壊し始めるよ」
そこまで言われたのだろう。ジャックという名の少年の冷静な声と反対の慌てふためく兵士たちの声がビスケットにも聞こえてきて、それと同時に要塞が大きく揺れる音と衝撃がビスケット達を襲い掛かる。
壁や天井から破片が落ちてくると、兵士たちはジャックの言葉が嘘ではないと確信し、そのまま逃げていく。
ビスケットは出ていくべきかどうか悩んでしまったは、ジャックという少年の声がビスケットにも届いた。
「そこに隠れてる人。出てきたら?」
ばれていると確信し、ゆっくりと姿を現す。
「ビスケットさん」
どこか居心地を悪そうにしつつも、ジャックから離れるようにクレアはビスケットの後ろに隠れてしまう。
「どうしてあなたが私を」
クレアが言っている意味が分からず疑問顔をしていると、クレアは耳元で真実を告げる。
「ブルーレイと呼ばれているガンダムタイプのパイロット。お姉様の手駒の一人」
そこまで言われればビスケットの警戒心も最大値まで引き上げられた。
「ふ~ん。あんたがエデンのパイロットのお兄さん?そうは見えないけど」
「よく言われるよ。俺の方が弟っぽいって」
それは真実。
昔からそう言われ続けてきたし、今だってそう思っている人は多い。それを否定するつもりも、肯定するつもりもない。ただ認めなければならない。
自分がどれだけ弟に依存してきたのか。
それが弟をどれだけ苦しめてきたのか、今ならよく分かる。家族の依存がサブレという人間の性格や人格に影響を与え続けてきた。
それをいやした人物は多くいるだろう。オルガも、サイガも、クレアも、レレも、アスナだってそうだ。
「それが理解してるならいいや。どうやら、ある程度は認めてるようだし」
そう居ながら振り返るジャック、疑問の顔をする二人に対してジャックは予想外を告げる。
「ククナの所に行きたいんでしょ?案内してあげるよ。今はシャトルに向かっているはずだし」
そう言って歩き出すジャック、どうしたらいいかと悩んでしまうが、少なくとも彼には敵意を感じないというのは二人の共通した意見だった。
なら一緒に行動した方がいいだろうというのが最終的な考えだった。
歩いて三十分もすれば目的地に辿り着き、広い格納庫に寂しく鎮座しているシャトルがむしろいように見える。
そんなシャトルのドアでククナはまるで待っていたと言わんばかりに座って待っていた。
「まさかジャックが連れてくるなんてね。その様子だと、違う結論を出せたようね」
ジャックは「ふん」っと言いながら近くのコンテナに座りこむ。
クレアが一歩前に出る、ククナはただ微笑むだけで表情の先が見えない。
ビスケットだけが警戒していると、クレアはゆっくりと口を開く。
「お姉様。どういうつもりなのですか?何をしたいんですか?」
ククナは黙っているだけで、それ以上を使用としないが、ビスケットはサブレからおおよその理由を聞いていたし、自分の中でも結論は出て居た。
ビスケットがクレアから一歩前に出ると真実を告げる。
「ククナさん。あなたはわざと負けるつもりなんですね?」
クレアは驚き、視線を姉の方へと向け、ククナは神妙な表情でうなずくだけ。
「木星帝国の中に居る戦争肯定は予想以上に多いのよ。それを抑え込んで、地球に樹立されるであろう新しい政府機関の提示する妥協案に乗るとは考えずらい。少なくとも皇帝は納得なんてしない。むしろ、その条件を利用してうまく地球を乗っ取るでしょう。私はそれがどうしてもいやだったのよ」
だから殺したと冷静に告げる。
冷静過ぎて冷たさを感じるが、それだけククナにとって父親………皇帝などすでに親ですらなかったのだろう。
しかし、そこまで言われれば誰にもわかる。
「でも、私はある時気が付いてしまった。私がどうしようもなく父親に似ているっという事にね」
愛に溺れて、愛に死ぬ。
そう思うたびに、クレアの母親であった彼女フレアが本当の母親だったらどれだけよかったのかっと思わずにはいられない。
「あなたを愛するたびに、私があの人の母親じゃないのかと思わずにはいられない」
ククナのクレアに対する地合いの表情と「愛している」という言葉がクレアの胸に突き刺さる。
ククナがクレアをどこかで避けている理由。触れればその人の記憶を読むことが出来る才能。一回でも触れればばれてしまうから。計画も、想いもすべてが。
クレアは「嘘」っとつぶやき、今までの思い出がどんどんあふれてくる。
「嘘!だってお姉様は」
「嘘じゃないわ。愛さなかった日々は一度だってない」
「嘘よ!」
「嘘じゃないです」
ビスケットの鋭い一声がクレアの意識をビスケットの方へと向ける。
「地球に居たとき、あなたを殺すチャンスはアフリカに居たころにはいくらでもあったはずです。それでも、殺さなかった。それに触れれば分かるはずです」
ククナは観念したのか、シャトルから降りて、両手を広げて待つ。クレアは躊躇いながらも一歩、一歩近づいていきゆっくり抱き着く。
その瞬間にククナの想い。その真実に触れる。
愛していたからこそ遠くに離しておき、愛していたからこそ気になっていた。
「お姉………ちゃん」
その時、ビスケットの視界にそれは映る。ちょうどジャックからもククナやクレアからも隠れた位置に居る傷だらけの男だった。
それが誰なのかは分からず。分かるのは包帯で傷を強引にふさいでいる老人に見える。少なくともビスケットには身に覚えのない男。ハンドガンを片手に照準の狙いはクレアとククナだった。
ハンドガンで打ち落としても遅い。そんな技術が自分にあるとは思えない。
咄嗟に駆け出していき、二人を押した瞬間とハンドガンの発砲音は同時だった。
ビスケットの右腹部に小さな穴が開き、驚きと共に倒れるクレアとククナ。ジャックが驚いて振り返りハンドガンの引き金を容赦なく傷だらけの男へと向ける。
右腹部から血が染み出てきて、傷だらけの男はその場で苦しみながら腕を押さえる。その手には既にハンドガンは無く、ハンドガンは遠くに落とされている。
「皇帝陛下!?」
ジャックが驚きと共に声を上げる。ビスケットには初めて見る皇帝の姿と、腹部から感じる鋭い痛み。貫通したみたいで出血している。
クレアがビスケットの傷の手当をしていると、ククナが立ち上がって銃をとる。
「死んでいればいいのに」
そんな本心からくる殺意に驚くビスケットだが、皇帝と呼ばれた男は憎しみ、痛みに引きつるような表情をしている。
小さく「殺してやる」っとつぶやく姿は妖怪や悪魔のようにも見え、皇帝を撃とうとするが、それより早く皇帝の後ろから発砲音が皇帝を襲う。
皇帝の心臓近くから血のシミが浮かび上がり、その場に倒れてしまう。
暗闇の奥から出てきた人物はテラだった。
ククナは驚きしかなく、ジャックはある程度分かっていたため無表情。ビスケットもクレアですら驚きしかない。
「その表情を見られただけで生き返った意味があったな」
そう言いながらテラは自らの役目だとばかりに皇帝へとハンドガンを向ける。
「貴様!?裏切るつもりか!?」
「もうやめましょう。我々は負ける。この先にあなたの時代も、私の居場所も無いのです」
「ふざけるな!どいつもこいつも!」
「先に逝ってフレア様に会ってあげてください」
そう言って何度も、何度も発砲音を響かせる。
動かなくなり、テラはハンドガンをその場に捨てる。ビスケットのノーマルスーツ越しに手当てをすると、ククナに「行くよう」告げる。
「行きたいのだろう?愛している人の元へ」
ククナは自らの役目を既にこの地では終えていた。要塞が崩壊するまでこの場で時間を稼ぐ事、そしてクレアに真実を告げる事。
ククナは優しそうに微笑みながらシャトルへと乗り込んでいく。クレアがそれを止めようとするが、ジャックがそれを邪魔する。
「こんな………ダメなお姉ちゃんでごめんね?」
「お姉ちゃん!!おねぇちゃん!!」
「まだ………私を姉だと呼んでくれるのね。さようなら。幸せにね」
そう言ってシャトルのドアが閉まり、隔壁の奥へと言えていく。
「お姉ちゃん!!嫌ぁ!!!」
今生の別れ。
真実だけを告げ、彼女は最終決戦の地へと急ぐ。サブレとアインが最後の戦いへと踏み込んでいた時、鉄華団も最終決戦を終え、この地へと向かおうとしていた。
様々な人々の想いを終わらせる戦いは、悲しみも、憎しみも、怒りも、喜びも、愛すらも飲み込む。
どうだったでしょうか?次回は最終決戦の第一幕になります。サブレとアインの戦いの始まりを描きます。お楽しみに!
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅹ《楽園の獣》』になります。楽しみに!