15
時を同じくして要塞内部の撤退を指示していたテラは、ある資料に目を通していた。その資料にはアインが隠れて建造していたガンダムアークの資料であり、様々なモビルスーツの資料も同時に見つかった。
アークの資料には細かな所で様々なモビルスーツのデータが書かれていた。
加速システムは零と呼ばれるモビルスーツが、システム周りは簡易性を求めつつ、スピードを持たせるため、直感的な操作を求める為にクラウン・クラウンと呼ばれるモビルスーツが、機動力はブルーレイが、遠距離武装にはレッドクイーンが選び取られている。
Fの体を回収しなければと思う反面、三日月と呼ばれる人間と戦って生きているとも思えない。しかし、それは救う理由にはならない。
「優先させるべきか悩むな。まあ、オズボーンに任せるか」
そう一人で呟きながら、部隊の動きが一点に集中している事に気が付く。
ファントムブラッド隊旗艦ヴァルハラへと向かっている。
「ふむ。堕ちるのは良いとして、死んでもらっては困るのだがな。しかし、サブレ・グリフォンは応援に行けまい。となれば………せめて鉄華団のメンバーが駆け付けるまで彼らを守る必要があるわけだ」
そこまで言った所でビスケット・グリフォンと別れてしまったことを失敗したと認識した。
ジャックの方を一度だけ見てみると、ジャックはテラが何を言おうとしているか分かったのだろう。大きなため息を吐き出す。
「嫌だな。負けて、勝手に生かされて、その上おめおめと目の前に助けに行けと?」
ものすごく不満げに告げると、テラはやれやれっと頭を左右に振りながら仕方がないっという風な表情に変わる。
「その勝手に生かした相手が勝手に死なれてはお前も困るのではないか?それに、なんだかんだ言って気になっているのであろう?お礼を言いに行くついでに助けてくればよいではないか。鉄華団が来るまでの時間でよいのだぞ?」
「………なんでそんなことを」
最後の抵抗とばかりにブツブツ呟きながら表情を曇らせる。しかし、最後の一押しとばかりに突きつける。
「それとも……会うのが気まずいのか?」
「別にそんなんじゃないし!!」
つい反抗的に返してしまうが、憤慨しながら振り返って救出に向かう。
「助けて見せるし!見てろよ!!朝飯前だって証明するからな」
「おう。行って来い」
そう言いながらテラは歩きながら手元の端末を操作し、オズボーンに連絡を取り始める。
ビームサーベルとビームカタナがぶつかり合い、一秒に満たない時間膠着し、再びお互いの距離を離す。
スラスターの出力、細かい動きまでがほとんど同じ。
「しかし、新しいエデンはユニコーンガンダムをモチーフにしているようだな。というのなら、フレームは全てサイコフレームで作られているという事か。それはこちらも同じことさ」
そう言うとアークの肩や胴体の装甲がスライドし、内部のサイコフレームが見えてくる。
虹色を放つエデンに対し、真っ黒な色をしているサイコフレームが姿を現す。
全身が白というより灰色に近い色合いで、武装や背中のバックパックは赤で染め上げられている。そこに黒が加わると邪悪なイメージがある。
少なくともサブレには箱舟というより、悪魔のようなイメージが強い。
「ペペロをそそのかすのも大変でね。システム周りの最適なパターンを見付けさせ、同時にスピードに特化させたブースターの開発。武装や機動力はブルーレイとレッドクイーンを参考にした。おかげで完成させることが出来た。ククナが勝とうとしていないのは分かっていたのでな」
「そこまで分かっていたのなら。どうして………」
やるせない気持ち。そこまで分かっていたのなら、分かり合う道だってきっと彼にはあったはずなのだ。
こんな方法ではなく。
「勝たなくてはいけなかった。それ以外に自らの正しさを証明する手段など無い!」
そう言って背中のキャノンでエデンの視界を一旦埋めると、アインは距離を詰めてシールドで守ったエデンを蹴り飛ばす。
今度は左右に大きく揺れる中、意識を目の前に居るガンダムアークへと向けるが、アークは両腕で刀をコックピット目掛けて振り下ろす。
それをエデンのシールドが反射的な速度で防いで見せ、エデンを後方へと大きく移動する。
『ファンネル使用不可。残り武装はライフルとサーベルとバルカンのみです』
「見ていればわかる。いちいち言うな!」
機体を走らせて、背中のキャノンに警戒しながら回り込み、背中のキャノンを破壊しようとライフルを構える。
しかし、引き金を引くと同時に身をひるがえして回避する。背中のキャノンの矛先をエデンに向けるとエデンの眼前をキャノンの熱線が通り過ぎる。
『今の戦い方を続けていたら死にますよ』
「言わなくてもわかってる!」
コックピット近くの装甲が多少焼け焦げており、そのまま機体の速度を緩めず一旦コロニーレーザー方面まで駆け出していく。
アインも後に続くように足り出すが、サブレの脳裏にヴァルハラの状況がよぎる。
ヴァルハラの両エンジンが止まり、もう離陸は不可能な状況になっている。
消火に急ぐ者、周囲ではサラ達がいまだに奮戦しているがそれ以上のモビルスーツが集まりつつある。ブリッジに居たメンバーも要塞内部からヴァルハラ内に侵入しようとしている白兵部隊と戦うのに必死になっている。
このままでは落ちる。
サブレの中で確信に変わっていく。
「届いてくれ」
そう思う一方でビスケットがヴァルハラへと戻る光景。同時に青いガンダムが近づいていく光景。
「敵か?いや………敵意を感じない。明楽かな?」
明楽があの元ヒューマンデブリの男を『助けた』のだろう。文字通りの意味で。
命をではなく、魂を救った。
「なら俺は鉄華団が来るまで時間を稼げる。しかし、ヴァルハラは持たない………なら」
ビスケットへと脳波を送る。
「兄さん。逃げろ!」
その言葉はビスケットへと届いた。
明楽とシノが到着したとき、ヴァルハラのいたるところから火が噴き出していた。
「おいおい!大丈夫なのかよ?」
「大丈夫に見える?」
シノの言葉にサラがすぐさまに反応して見せる。すると、レオもすぐさまに反応。
「最初の内は外からだけだったのに、気が付けば要塞内部からも出てくるようになった」
明楽とシノがそのまま外へと出ていき、サラとレオと共に外の敵を迎撃していると、ビスケットがクレアと共に帰還する。
「ビスケットさん!?どうしたんですか?」
イオリがすぐ様にビスケットに駆け寄るとビスケットの腹から血が流れている。アトラが驚きながら治療し始め、クレアは悲しみからうつむいたままで、するとビスケットとクレアの脳裏にサブレの声が響き渡る。
『兄さん。逃げろ!』
ビスケットは通信機に接続し全メンバーに指示を出す。
「艦長より全クルーに命令。全時刻をもってヴァルハラを放棄。クルーはシャトルで脱出。モビルスーツ隊はシャトルの護衛を」
「ですが。シャトルでは近くの艦に回収されるまでどれだけかかるか。その時間守り切れません」
「大丈夫だ。イサリビ改が近づきつつある。それに回収してもらう」
サラの当然の疑問。ビスケットが同時に見たイサリビが近づきつつある状況。サブレが教えてくれたことだった。
「全員急いで」
シャトルに乗り込み、一機一機がヴァルハラから出ていく。周辺のモビルスーツを破壊しながら防衛状況になると、シャトルに目せ帝国製のモビルスーツが近づいていく。
明楽がカバーに入ろうと機体を走らせるが、明楽よりはやくブルーレイがモビルスーツを落とす。
「ジャック………さん?」
「勘違いするなよな。テラに言われたから助けに来ただけだからな」
まるでツンデレのような事を言われて明楽は「クスクス」っと笑い出す。
ジャックは顔を真っ赤に染めながら木星帝国のモビルスーツに向き、明楽はジャックに背中を預ける形になる。
「………ありがと」
「?なんか言った?」
「言ってない………」
「何て言ったのか教えてよ」
「分かっていているだろ!?」
明楽とジャックがそんな言い争いをしている間にビスケットとクレアが最後のシャトルに乗り込み、誰もヴァルハラに居ないことをゼム・ロックが確認すると、シャトルは勢いよく出ていく。
すると、まるでヴァルハラはそれを待っていたように爆炎に包まれていく。
全身が炎に包まれると、そのまま沈んでいく。
皆が沈黙に包まれ、落ちていく艦を眺める事しかできなかった。
何とも言えない感覚が皆の心を満たし、少しづつではあるがイサリビ改が近づきつつある。
助かったという感覚と、寂しさをにじませる感覚が複雑な心境を作り出し、そんな感覚を吹き飛ばすようにユージンの声が聞こえてくる。
「お前達!大丈夫か?」
バルバトスたちが戦局の一部を引き受けると、コロニーレーザー一帯ではさらに厳しい攻防戦が繰り広げられていた。
後方からくる攻撃を掻い潜り、壊れた木星帝国製の艦の中へと隠れる。アークのキャノンが艦ごと吹き飛ばそうとするが、エデンはそれを使って再び身を隠す。
漂うデブリを掻い潜り、再び捨てられた艦のそばまで寄ると、今度は中ではなく外の物陰に隠れる。
同時に周囲を漂っていたモビルスーツを艦の中へと入れてやる。
間の奥からする反応にアインが一瞬で反応し、攻撃をすると艦の推力に火が点いて周囲を明るく照らす。
サブレはギリギリまで気配を消しながら一気に近づき、サーベルで斬りつけると思いきや至近距離でマグナムの引き金を引く。
しかし、アインは直前で攻撃に気が付きエデンのライフルの銃口を上へと多く蹴り上げる。
攻撃が逸れたことで隙が生じるが、エデンは素早くライフルを捨て、サーベルに切り替えると、シールドでアークの視界を潰すと、サーベルで襲い掛かる。
アインは殺気から攻撃手段を推察し、カタナを使って攻撃を受け止める。
「お前は何のために戦う?何のために人類を滅ぼそうとする」
「人類は一度滅ぼすべきだ。同じことばかりを繰り返す!何度でも!」
「その原因は貴様にあるはずだ!!」
エデンがアークを蹴り飛ばし、艦をライフルで攻撃するとアークは赤い目を更に光らせる。
「貴様に何が分かる!?耐えたんだ!二千万年もの間耐え続けた!!もう我慢ならない!滅ぼす!そう決めた!行け!ファンネル!」
アークから射出されたファンネルが一斉にエデンに襲い掛かる。
攻撃の隙間を掻い潜る様に回避し続け、ライフルで襲い来るファンネルを落としていく。
「我慢した!?耐え続けた!?お前が………お前たちが邪魔しなければまだ違う道があった!それを邪魔したのは貴様だ!!」
「そうさせたのは人類だ!自らの欲望の進むまま多くの犠牲を強いる。意味のない犠牲をだ!」
「それは貴様も同じことだ!意味のない犠牲なんだ!」
左腕はサーベルでファンネルからの攻撃を弾き落とし、右腕ではライフルで一つ一つ落としていく。
「もう失わない!その為の勝利と、その為の犠牲だ!!人類に、世界に教えてやる!お前たちがしてきたことをそのまま返してやるっと!!!」
「そんなことはさせない!させてたまるか!!!」
エデンから放出される謎の衝撃はファンネルの動きを完全に止める。
「ええい!厄介な!一度離れた端末まで支配できるのか!?」
「お前の思い通りにできると思うなよ」
アインは目の前の画面からコロニーレーザーが放出体勢に移行できたことを知る。
後は中から操作するだけだと理解し、エデンの後ろにある艦へとランチャーで攻撃し、視界を封じている間にコロニーレーザーへと向かう。
サブレも後を素早く追いかけるが、追いつける気がしない。
コロニーレーザーの中へと入っていくアインを追いかけ、大きな砲台の中へと突き進む。アインはその奥にある小さな通路の奥へと入るが、エデンはその前で一旦止まり、ゆっくり奥へと進んで行く。
すると、古い町並みが残る場所に出ると、アインのアークが建物の陰に隠れて、アインだけがショッピングモールの中へと入っていく。
アークを破壊するべきかどうかで一瞬だけ悩むと、アインが何の対策も無しにアークを置いていくはずがないと考え、サブレもエデンを物陰に隠してそのままショッピングモールの中へと入っていく。
薄暗い建物の中はどれだけ昔の建物なのかが見当もつかない。あちらこちらがひび割れ、今にも崩れそうになっている。
「ここは宇宙世紀に作られた当時最先端と呼ばれたショッピングモールだ。しかし、時間が経てばこれもただのゴミだ」
どこかから放たれる声にサブレの警戒心は最大値まで高まり、殺気がした方向にハンドガンを向ける。
二階からアインが銃をサブレの方へと向け、サブレもアインの方へと銃を向ける。
「この場所は………この街は始まりの場所。お前もここを知っているはずだ。お前の魂が知っているはずだ」
サブレとアインがにらみ合う中、語られるのは二人の出会いの話。
どうだったでしょうか?次回でサブレとアインの決着がつくと思います。最終話まで本当にあと少しですが、最後までよろしくお願いします!
次回のタイトルは『選び取った未来Ⅻ《安らかな場所》』になります。お楽しみに!