機動戦士ガンダムE   作:グランクラン

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選び取った未来編最終話となります。
サブレが選び取った未来。その結末が描かれます。


選び取った未来XIII《また逢う日まで》

17

 

 赤子の泣く声が聞えてくるとうたた寝していたらしい母親は顔を上げる。隣で泣く赤子を抱きしめながら母親があやしていると、窓の向こう側で虹が見えた気がした。

 窓から顔を覗き込むと、一瞬だけだが天使のような影が虹の向こう側に見え、身を乗り出してのぞき込みが、それは一瞬の事で、もう見えない。

 気のせいだったのか。

 母親は窓を閉め、未だに泣きわめく赤子をなだめる。

 テレビの向こうではニュースキャスターが原稿を読むのに苦戦しているようで、見ていて微笑ましい気持ちにさせられる。

 赤子は窓の向こうを見つめて泣き止み、虹の向こう側へと両手を楽しそうに伸ばす。

 見えない何かを求めるように。

 もしかしたら先ほど見えた気になった天使を赤子も求めているのかもしれない。

 母親は愛おしそうに見つめ、赤子は楽しそうに笑う。

 サブレはその姿を見ると安心して再び旅立っていく。

 多くの世界が生まれた、虹の彼方は本来のカタチへと昇華していく。アインとククナの魂もあるべき形へと向かっていった。

 これで大丈夫だろう。

 最後の二人を導く必要性がある。

 そう思い、サブレは真のアカシックレコードへと向かう。

 一面が鏡面のような湖に出ると、そこには一人の女性が立ち尽くし、サブレの登場を待っていた。

 エデンが右膝をつき、サブレの中から出てくるようにエヴリー・ロンが姿を現す。

「行こう。僕が君を守るから」

「でも………」

「大丈夫だよ。彼なら………ううん。彼等ならきっとこれから先の時代だって歩いていけるさ。信じよう」

「そうね」

 エヴリー・ロンはアイスの手を握りしめ、アイスはエヴリー・ロンの方を見つめながら微笑む。

「今度は僕が君を守るから」

 二人はサブレの目の前で青い鳥に変わると、世界の向こう側へと旅立っていく。

 サブレはどうしても自分がやっておきたいことを果たすため、ある世界へと旅立っていく。

 

 褐色肌の中年の男性は幼い少年に語り掛ける。

「三日月。オルガを見なかったか?」

 そう尋ねる少年は首を横に振るだけ、二人は部屋一つ一つを調べ始め、サブレはそんな姿を微笑ましく見つめながらオルガ・イツカが眠る場所へと向かう。

 ガンダム・バルバトスが眠る場所で、温かい場所で気持ちよさそうに眠る彼の額に触れながらサブレは後悔の記憶を強く呼び覚ます。

「俺が出来ることはこれだけだ」

 そうすると、オルガはまるで悪夢を見ているように寝苦しさを顔に移す。

「オルガ?」

 三日月のオルガを探す声が近づいてくると、サブレは物陰に隠れる。

 オルガは三日月のしつこい声に目を覚ます。

「大丈夫?うなされてたけど」

「ああ?なんか………嫌な夢を見たような気がする」

(いつか分かる日が来るさ。生きてくれ。そして………)

 サブレはエデンと共にこの地を離れていき、今から戦い始める友人を想う。

「いつか………もう一度逢う日まで。俺はいつだって待ってるから」

 旅立っていく。

 この地ならサイガもうまくいくだろう。

 そんな思いと共にサブレは帰っていく、自分の還るべき世界へと歩き出す。

 

 何も無くなった空間を多くの人々が眺めて三十秒も経っていないだろう。しかしまるで空間を引き裂くように虹の光が出現し、光は裂け目のように広がっていき、その奥からサブレの乗るエデンが帰還する。

 誰もが安心する声を放ち、エデンは素早く仲間達の元へと向かっていく。エデンは少しづつ通常モードへと変形していき、二本角へとアンテナを変形させていく。

 クレアは待ちきれずシャトルを飛び出し、サブレはコックピットから飛び出していき、クレアを受け止める。

「危ないだろ」

「あなたが心配だったから」

 その温かさを感じ取り、二人だけの空間が広がっていくような気がしていく。勿論それは錯覚で、そんなことは無いのだが、まるでエデンが気を利かせるように二人の体を周囲から隠すように両手で優しく包む。

「大丈夫だ。もう………大丈夫だから」

 抱きしめる彼女に言い聞かせるように、まるで自分に言い聞かせるように何度もつぶやく。

「お姉さんは………ククナとアインは別の世界へと生まれ変わる。今度の世界ならうまくいくことを願おう」

「うん」

「これからは一緒だ」

「うん」

「もう君を一人にしない」

「うん!」

「結婚しよう!」

「うん!!」

 力強い言葉と共に二人は強く抱きしめ、永遠のような時間が流れる。

「帰ろう。帰るべき場所に」

 

 それから、木星帝国最高議長であるオズボーンによって木星帝国は解体され、オズボーンによって太陽系共和国が樹立され、太陽系共和国太陽系議会初代議長にはクーデリア・藍那・バーンスタインが選ばれた。

 太陽系議会の参加人数は最高議長を含めても四人のみ。

 地球議会最高議長であるタカキ・ウノ。

 火星議会最高議長であるアスナ。

 木星議会最高議長であるオズボーンの三名と太陽系議会の最高議長とアルン議会の最高議長を兼任しているクーデリアの全四名である。

 ルールとして、太陽系議会の最高議長は地球議会と火星議会、木星議会とアルン議会の最高議長だけが集まり、話し合う。

 金星や一部のコロニーも参加を求めているが、太陽系議会が正確にまとまるまで保留という形になった。

 木星の参加には一部で非難も起きたが、木星帝国の軍事力は太陽系連邦軍が全て押収するという形で決着を迎えたのと、賠償として旧経済圏に金を支払うという形で納得させることになった。

 なにより木星帝国を無暗に外せばむしろ新しい争いの火種になると判断したのも大きかったのだろう。

 あの戦いの終結から一か月、様々な思いやしがらみを乗り越えて、クーデリアはアルン中央広場で記者会見を開こうとしていた。しかし、今日はあいにくの雨模様。

 そのため場所を移し、議会本会議場の中で行う事になったが。しかしビスケット達はそうもいかない。

 今日は長引かせていた元鉄華団メンバーの葬儀の日でもある。

 ライド、雪之丞、ヤマギやそれ以外にも多くのメンバーをアルン墓地へと埋葬する手筈になっていた。

 こちらは雨でも行う。

 それに、これ以上メリビットの家族を待たせるわけにはいかない。メリビットはアルン第三都市で農場と孤児院を経営しながら、アフリカンユニオン出身のファンの孤児たちもそちらで済むことになり、ファンは農場でとれた小麦粉でパン屋を経営することにしたらしい。

 この一か月で下準備が進んだとはいえ、これからが大変な時期なのに、これ以上待たせるわけにはいかない。

 何より、多くのメンバーが気持ちの整理を付けたがっている。

 たった一人を除いては………ノルバ・シノだけはいまだに完全に整理がつかない状態が続いていた。実際、葬儀にはシノは参加していない。

 

 雨がしつこいと感じる日が来るとはビスケットは思わなかったが、今日くらいは晴れてほしかったと心から思う。

 一つ一つの墓に花束を添え、一人一人が仲間達に別れの言葉を胸につぶやく。

 中には永遠の別れに涙を流し、ある者はそっけないそぶりをしながら端っこで涙を流している。

 タカキも今日の為にクーデリアに告げて休みを取っており、葬儀にわざわざ参加していた。そんな中、ビスケットにユージンが近づいていく。

「シノは参加しない………か」

「仕方ないよ。まだ気持ちの整理がつかないだろうし」

 シノは逃げていた。

 ここに来れば現実を直視しなければならないし、それを避けての行動だろう。

「今はどこに居るんだ?」

「?テム・フォースっていう人に預けたってサブレが言ってたけど?詳細は知らない。サブレは大きな計画に組み込まれているらしくて、完全に別行動なんだよね。明楽は明楽でメアリーと一緒に行動中みたいだし………最近皆バラバラなんだ」

「しかた………なんじゃないか?そういう………もんだろ」

 ユージンの言葉に頷きながら同意して、ビスケットは花束を置く暁の姿を遠目で見ていると、光が差し込んで見えてきた。

 ふと全員が空を眺めると雨は上がってしまったようで、一筋の光が墓石の雫に反射して光って見えた。

 

 宴会場でみんなが悪酔いをしていると、まるでその場は花見でもしているかのようなカオスを映し出す。

 ビスケットは酔いを醒まそうとこっそり部屋から出ていき、裏口から出ていくとこれまた偶然かサブレと明楽とテムが三人で話していた。

「じゃあお前達も決めたのか?」

「そりゃあ先輩がいないと活動できないし」

「同じく!」

「独立しようという気持ちはないのか!?」

「「ないです!!」」

「即答するな!全く………本当にその気なのか?『外宇宙探査隊』に志願するという事は最低でも十五年は帰ってこないんだぞ?」

「メアリーは付いていくって!」

「特にそう言う後悔無し!」

 テムと明楽の自信満々の声にサブレがため息を吐き出し、二人はその後もこそこそと話している。

 話の内容を全部聞いた限りでは、『外宇宙探査隊』は移動型大規模コロニーとかなりの数の軍隊を載せて向かわせるらしく、クレアやメアリーもついていくつもりらしい。

「そういえば、テラはどうなったんですか?」

 明楽のもっともな疑問にもサブレは特に隠し立てせずに答える。

「どうやらペペロの研究所の残骸を回収して、三日月やモンタークと共に姿を消したらしい。時期的に考えれば一緒に行動しているのかもしれないが、オズボーンは放っておいてもいいだろうってさ。まあ、可能性の話をすればだけどな……」

 ビスケットは声をかけるわけにもいかず、そんな勇気が来るわけもなく、ただ茫然としていると、軍の車両が三人を連れて行った。

「サブレ達…………何も言わないで行くつもりなのかな?」

 そんな気持ちが心のしこりになっていた。

 

 もう………土星は過ぎただろうか?

 そんな思いがふとテラの心をよぎり、それが後悔ではなく寂しさなのだと気が付いた時、死んでしまったFや去っていく故郷を想っての事だと把握できた。しかしそんな寂しさは旅立ちには不要だと斬り捨て、大規模移動コロニーは太陽系は離れる為移動を続けている。

 中にはゲイナー一派も参加しており、三日月やモンタークも参加していた。

 皆、今の世界には関われない者達ばかりで構成されている。

 モンタークの足元に黒い髪の少年が存在する。

 彼の後悔。アインのクローンの記憶の一部を引き継いだクローンアイン。

 彼を育てる事、それが彼の次の目標でもある。

 次の時代の事は次の世代に任せよう。そう決めた時、そう決めた時、自然と後悔は無かった。

 ゲイナーはあの後、まるで見届けたのを待っていたかのように息を引き取り、テラは彼らを拾った。

 さあ、行こう。

 そう一人で口を開き、見えぬ旅へと旅立っていく。

 きっと、地球に帰ることは無い。それでも彼らは歩いていく、罪と罰を背負いながら。

 

 どうするべきか、ベットの上で悩んでいると、アトラが部屋の中へと入っていく。

 三日月が旅立ったかもしれないこと、サブレと一緒に行けば会える可能性がまだある事、自分はいけないことを話すべきかどうか。

 すると、暁は眠たそうに両目を擦り、ビスケットのベットへと入っていく。

「ごめんね。暁がどうしてもビスケットと寝るって聞かなくて」

「ううん。甘えたい年頃だもんね」

 あっという間に眠ってしまった暁の頭を優しくなでると、ビスケットは意を決してベットに腰掛けたアトラに話しかける。

 三日月の事、サブレの事、自分が軍の中核から呼ばれており、アルンを離れなければいけないこともすべて話した。

 しかし、アトラの答えはあっさりしたもので、この場所に残るという決断だった。

「三日月が何も言わないで行ってしまったのも、きっと私達の事を想っての事だし、それを邪魔したくない。それに、暁を不幸にしたくないし」

 もう、長い事暁が寂しい思いをしていた。

 これ以上は離れない。

「でも、ビスケットはどうするの?このままでいいの?」

 アトラからのまっすぐな問いに俯きながら悩む。

「邪魔をしたくないし、できないよ」

「そうじゃないよ。そうじゃなくて、ビスケットは何も告げないでいいの?それで後悔しない?」

 そう言われてしまうと悩んでしまう。

 出来ることはあるだろうか?アトラからの声に自らの心を奮い立たせ、ビスケットは暁の頭をもう一度優しくなでる。

 

 ビスケットはメリビットの経営する孤児院と農場を訪れていた。

 農場ではちらほらと牛が放牧されており、孤児院の子供たちが遊んでいる。メリビットが寂しそうに三階建ての家の一階のベランダの椅子でゆっくりしており、ビスケットは後ろから話しかける。

 メリビットもビスケットの存在に気が付いて無理に表情を作る。

「わざわざ会いに来てくれたの?」

「ええ、気になったので。大丈夫ですか?」

 そんな言葉は聞くまでも無いが、とっさに口に出てしまう。

 メリビットは大丈夫だと言いながらどこか気丈にふるまえてさえいない。

「無理しないでくださいね」

「うん。あの子達の為にも強く生きないとね。それに………あの人はあの子達を守る為に命を懸けたんだし」

「メリビットさんだってその中に入っていると思いますよ」

「………ありがとう!」

 ようやくメリビットは心から微笑む。

「そういえば。何か用事があるんじゃないの?」

「あ!そういえば………雪之丞さんが使っていた工具一式がありませんか?お守りみたいなペンダントを作ってみたくて」

 

 あれから二か月、第一期外宇宙調査隊の出立の時が来ようとしていた。

 メアリーとイオリが別れを惜しむ中、サブレ達はあえて誰にも告げづに別れの時を迎えようとしていた。

「そういえば。シノはお前に任せていたからてっきりシノは来るんだと思ったが?」

「?来ないけど。ていうか連れてこないよ。面倒見たつもりも無いしね!!」

「分かってたけどな」

 クレアがその他複数の人と共に姿を現したところで、サブレが表情を引きつらせる。

「言ったのか?喋ったのか?」

「?みんな知ってたのよ。てっきりサブレが話したんだと思ったけど」

 その奥でビスケットが微笑んだのが見て取れ、みんなの別れを惜しむ中、ビスケットはサブレに手作り感あふれるペンダントを手渡す。

「?なにこれ?」

「真面目に仕事してくれますようにってまじない」

「何?皮肉?何も告げなかった事への」

「別に………怒ってないし、ふてくされても無いよ。だから…………ちゃんと帰ってきなよ?この場所に」

「分かってるよ」

 そう言ってサブレはカバンを持って通路へと飛び出していく。それに続くようにクレア、明楽、メアリー、テムの順番に入っていき。

 三十分後、コロニーと同規模の大きさを誇る外宇宙探査宇宙船は静かに動き始め、星の彼方へと旅立っていく。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

「「また逢う日まで」」




どうだったでしょうか?次回は設定集になり、その次がエピローグ回になる予定です。フライングでエピローグの話をすると、今回から時間は流れて大体約二十年前後が経過しており、それぞれが選び取った未来の先が描かれます。
次回は『設定集其の二』となります。
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