あれから十五年が経った。
木星帝国との激突、多くの別れと前を向く戦いは終わり、俺達はそれぞれに未来を選び取った。分かれて進んでもきっとこの世界のどこかでまた会えると確信している。
きっと今日はその最初の一ページになるだろう。
弟であるサブレが帰還を果たそうとしていたからだ、今日は第一期調査隊が帰還する日である。だからだろう港では大混乱の真っただ中、何せ第七期調査隊が今日出立するのだから。
あれから世界は外宇宙への調査隊を派遣する一方で、太陽系内の治安維持をおこなってきた。
僕ビスケットは太陽系連邦軍の大将にまで上り詰め、今ではアルン防衛部隊の全権を任されている。
港の大きな窓に近づき、見上げていると、視線の先にはコロニーの倍はありそうな大きさな新型移動型コロニーが出発を前に第一期の到着を待っている。
後ろからの声に気が付いて振り返ると、暁が軍服をきちんと着こんで現れる。
「後五分で到着だって義父さ………大将!」
聞こえるように大きなため息を吐き出し、顎先を撫でる。すっかり髭面になった自らの顔はきっとしかめっ面に見えているだろう。
「全く。仕事中は対象と呼べっていつも言ってるだろ?どうして守れないんだ」
「だって。いつも義父さんって言ってるから………何だったらパパって呼んだ方がいい?」
俺は背筋が凍る思いをし、それが表情に出る。なんて恐ろしいことを思いつく息子なのだろう。この発想は三日月でもアトラでもない。明らかにサブレの発想だ。
さてはこっそり連絡を取り合っていたな。
新型アリアドネの通信テストで遊んでいたな。
「そんなに嫌な表情しなくてもいいじゃない。俺ってパパって言うような時期がないからそう言うのに憧れる」
「その年でパパなんて言われると………な。それにいい加減暁も大人なんだから少しは自立しないと」
「うっ!父さんだっていい加減体重落とさないと健康診断にまた引っ掛かるよ!」
「最近は鍛えているんだ!体脂肪率も落ちているし!」
必死に弁明しているみたいになってしまったが、実際体脂肪率は落ちている。まあ、体重も変わらないけどさ。
しかし、髭面なってからみんなから「誰?」っと言われるようになった。
腕などもさらに太くなり、落ち着いていると本当に誰か分からないっと言われるようになった。
「あ!?義父さん!」
「だから!!」
仕事中は義父さんと呼ぶなっと言おうと思ったが、そんな言葉は吹き飛んでしまう。第一期の船が帰ってくると、第七期の船との大きさが目立つ中、一機のモビルスーツが七期モビルスーツに近づいていくのが見えた。その姿を見て安心してしまう。
エデンが舞い、七期の船に近づいてそのまま降下していく。
俺達の目の前に降りてくると感慨深さで言葉が出ない。暁はニヤニヤしながらその姿を見ていたが、そんなことが気にならないくらい俺の心は目の前のガンダムに夢中だった。
第一期の船から一人エデンに乗って舞っていると、大きな船を確認する様に移動する。側面には『第七期調査隊』っと書かれており、俺達が乗っていたあの船とは違い街中はさらに進化したように見える。
エデンを好奇の目で見ている人々の姿を楽しげに確認すると、懐かしの気配のする方へと降りていく。
エデンが足を地につけると、ガラス越しに髭面の厳つい男がいた。なんていうか………熟練の手練れを思わせるその風格に兄なのだととっさに思えず、同時に否定したい気持ちになった。
「昔はかわいらしかったな」
どこで間違えたのだろう。
こんなに昔に戻りたいという気持ちにしてくれる兄に驚きがある。
エデンを格納庫の整備士に任せ、自らはそのままパイロットスーツを脱ぎ捨て、予め持ってきておいた外宇宙探査隊用の軍服へと着替える。
すると、エデンから金属の塊が抜け出し、サブレに近づいていく。
「なんだ、ついてくるのか?ついてきてもいいが………勝手に同化するなよ?」
『分かっている。我々も君達を理解しているつもりだ』
「ならいいけどな」
『それに、エデンにもそこまで同化しているわけでも無い。人間の生態をよりよく知ることは今後の交流にもなる』
二人で脳波で交流しながら大きなロビーに出ると、厳つい髭面の兄へと再会を果たした。
さあ、少し虐めてみよう。
「……………」
どうやら言葉が出ないようで詰まらせていると俺は言ってあげた。
「どなたですか?」
「忘れられた!?」
激しいショックを覚え、厳つい髭面が面白い顔つきへと変化を遂げ、俺は内心爆笑を隠せずにいると、兄は怒りで肩を震わせながら睨みつける。
おお!普通に怖い。
「またからかったね!あと新型アリアドネで遊んだだろ!」
「暁?喋ったのか?」
「言ってないよ!オジサンとの会話は何も言ってないし!」
三人で面白い会話をしていると、ようやく二人の視線は俺の少し後ろに漂っている金属の塊に移った。
金属が漂っているという変わった状況にさすがに対応できず、口を開閉を繰り返している。
「面白いな~」
『説明したらどうだ?』
そこまで言われて俺は仕方がないななんて言葉を吐き出して口を開く。
「これは俺達は『エルス』となずけているんだけどな。金属生命体だと思ってくれ。今回の帰還に付き合うっと言ってな」
兄は「そっか……」っとつぶやきながら渋々納得する姿を面白く見ている。
「変わらないね。見た目も」
「外宇宙探査隊は老化が遅いからな」
そんな事を言いながら俺達はアルン市街へと歩き出した。
アルン市街への車に乗り込み、暁とは一旦別れて行動しサブレが助手席で窓の外へと呆けている。
「そういえば、あのおっさん亡くなったんだっけ?」
あのおっさん。マハラジャさんは三年前に亡くなった。
「うん。病死。治療すれば長生きできるって言われたんだけど、嫌だって断ったんだ。それでも長生きした方だよ?でも………」
サブレも何も言わなくてもマハラジャさんが治療を断った理由は理解したらしく、何も聞いてこなかった。
マハラジャさんはきっと親友は娘の元へと早く逝きたかったのだろう。
「シノは行方不明だったけ?イオリも一緒に」
「うん。メアリーは何も知らないの?」
「知らないってさ。まあ、子供じゃないし無事でいるでしょって意外と達観してたけどな」
「へぇ~意外だね。もう少し焦っているのかと思ったけど。まあ、多分地球に居るよ。降りていくところだけは最後に確認できたんだ」
「じゃあ、今もどこかを旅しているのか、それとも永住場所で過ごしているか。いや、意外と地球から離れているかもしれないぞ」
「いや、それはないよ。宇宙に出たら目立つし、それなら俺達の元へと情報が来てもおかしくないよ」
アルン市街に足を踏み込むと大きなメインストリートへと車を移動させる。
「明楽は向こうに残ったの?」
「ああ。惑星ヘラーっと呼んでいる場所にな。なんでも調査が難航しているらしくてな。そうそう。向こうは第三期も合流しているはずだけど」
「じゃあ。クッキーも合流してるんだ」
クッキーは第三期で出立していき、外宇宙の生物調査を調べる為に。今では明楽とメアリーと一緒に居るに違いない。
「?クラッカは聞いた?」
「いや何も………」
「クラッカはね大学の教授だよ。今は火星の新生物調査をテーマに論文を書いているらしくて、若くして教授に抜擢されたって有名だよ」
サブレは「クラッカが教授?」っと驚愕の表情で制止しており、俺はしてやったりという気持ちになれた。
「すごいでしょ?クッキーに負けないんだって意気込んでたんだよ?死んじゃった桜おばあちゃんも喜んでいるだろうな」
つい涙ぐんでしまったが、それでも前を向く。
「ほかのみんなも頑張っているんだよ。チャド、ダンテ、エンビも結婚して農場や孤児院をしながら子育てに忙しいし、アトラはもう専業主婦一筋だけどね。そうだ。サブレの子供にも会いたいな」
「ああ、一年ほど滞在予定だからな。この後会わせる」
そう言っていると、俺はクレアさんは帰ってきていないのかっとふと思う。
「クレアさんは?一緒に帰ってきていないの?」
「?いるけど?子供と一緒に合流するってさ」
「じゃあ、お墓で合流できそうだね。アトラも来るって言ってるし」
そんなことを言っていると俺達は墓地に辿り着いた。
墓地の中を二人で歩いていると、サブレは『マハラジャ・ダースリン』と書かれた墓の前に小さな花束を置いて黙祷する。
きっと思うところがあるのだろう。
ないわけが無いのだ。
ある意味父親なのだから。
そんなことをしていると、アトラが息子のサヴァランと共にやって来た。
「パパ!」
「サヴァラン!」
黙祷を終えたサブレが俺の方へとジト目を向ける。
「自分の息子にサヴァランって………どうなんだ?」
「別にいいでしょ?俺の子供なんだからさ。可愛いでしょ?まだ五歳だけど。マハラジャさんも抱っこしたんだよ。ねぇ?サヴァラン」
「うん!」
楽しそうな表情をしている姿を見てサブレも微笑んでいる姿を見ると、マハラジャさんの楽しそうにサヴァランを抱っこする姿を思い出す。
すると、更にその後ろからクレアさんも息子さんを連れて現れた。
「ごめんなさい。この子ったら色んな場所に興味を持っちゃって」
「たく。ほらこっちにこいジン」
「パパ!」
サブレの方へと走っていき、抱っこしてもらうとどこか楽しそうにしている。
「久しぶりだな」
そんな声と共に振り返るとそこにあユージンが立ち尽くしていた。
「あれ?火星本社方面に居たんじゃないの?」
「帰ってくるって聞いたら駆け付けるに決まってるだろ?そうだ。サブレ。開発部の奴らが新型エンジンのテストをしたいって言ってたぜ。協力してやってくれよ」
「ああ。構わないさ」
いつの間にか二人も仲良くなっているようで、なんて思っていたらサヴァランとジンがユージンの足回りではしゃいでいる。
そうしていると、ジンがユージンのポケットから財布を取り出し、そのままサヴァランと一緒に駆け出していく。
「あっ!?コラ!お前達!!」
ユージンは「返しやがれ!」っと叫びながら墓地内で走り回っており、楽しそうにしている。
俺はサブレの耳元で耳打ちする。
「知ってた?ユージンとサラ二回破局したんだよ」
「付き合っていたこと自体初耳だが?あの二人付き合っていたのか?」
「うん。今も付き合っているはずだよ。傍から見たら楽しそうに見えたな」
ユージンが駆け回っている姿を見ると、ふと笑ってしまう。
シノが薪を割ると後ろからイオリがお昼ご飯を作って現れる。二人は無人島で二人で過ごしていた。
明楽とメアリーの前の前でクッキーとクラッカはお互いに発見した新種を通信しながら見せ合いっこしている。
暁の目の前に雪之丞の息子が現れ、二人で格納庫へと向かう。
メリビットはダンテ、チャド、エンビ達が孤児院の子供たちとはしゃいでいる姿を見ながら微笑んで編み物をしていて。
タカキは久しぶりに会えた妹と食事に出かけていく。
きっとこんな毎日がこれから続いていくのだろう。
エデン・オブ・フォーエバー
世界は繋がっている。どこまでも際限なく。これがサブレが守りたかった世界で、これから生きていかなくてはいけない世界なのだから。
永遠などないっと知っているからこそみんなは諦めず進めるのだと知っている。
サブレはビスケットともにエルスの力を借りてほんの少しだけ別の未来を垣間見ることにした。
そこにはオルガがいて、ビスケットやサブレがおり、鉄華団のみんながいる。楽しそうに微笑んで、見たことも無い未来へと向かっていく。
別の未来へと飛翔する。
諦めないからこそ見えてきた未来だ。
彼らもつかめたのだろう。未来を。手に入れたかった未来を。一緒に。
「良かったよ」
「ああ。後悔はより良い未来へと変わる。それが分かった。間違っていたのかもしれないし、間違っていなかったのかもしれない。それはこれから俺達がこれからの世代と一緒に見つけていかなくちゃいけないんだ」
「うん。これからだって人間は争っていく。でも、いずれはたどり着けると信じてる」
「迷い。時に傷つけ合い。後悔しながらまだ見ぬ未来へとたどり着く」
アインに胸張ってこの未来でよかったと胸を張る為にも歩いていかなくてはいけない。共までも広がるこの未来を守り、生き抜く。
サイガは別の未来で手に入れたかったものを手に入れただろう。
サブレもまたそれを見届けることはできないけれど、きっと今度こそうまくいくっと信じる。
生きたことは無駄ではない。
生きていくという事は受け継いでいくという事で、受け継ぐという事は世界が繋がっている証明だから。
俺達は証明していくんだ。
この世界は繋がっているという事を。
さようならは言わない。
また逢う日まで!!
こんな長い付き合いになるとは思いませんでした。最後まで見てくださった方々本当にありがとうございました!当分はラインノベルの方でオリジナルを書く予定でペンネームは『中一明』という名前で行くつもり……というかもう書き出しています。こちらの方は時間が経ったらまた何か書きたいと思っています。まあ、書きたい話はあるのですが………とりあえずは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ別 リメイク版』でもまた書きたいなっと思います。
別の頃からお付き合いしていただいている方。そうでない方も本当にありがとうございます。サブレ達を見習ってさようならは言わず、この言葉で閉めようと思います。
また逢う日まで!!