夕暁のユウ   作:早起き三文

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最終話3 蒼い宇宙

  

「だが、それでも十何年もかけて、成果ゼロか……」

 

 雨が強く降り注ぐなか、その身を雨に濡れるにまかせつつ、サマナは深くため息をついた。

 

「縁が、ないんだろうな」

 

 サマナの諜報員としてのプライドからして、それは少し寂しい気分である。

 

「どうにか彼女、女ということだけがわかったのみ」

 

 雨が、謎の渦を巻いてサマナの髪を強く揺らす。

 

「そして、マリオンかマリオスか……」

 

 人名、男性名と女性名の代表的な名前。

 

「それすらも解らない」

 

 彼女が「マリオス」と同じ位に、「マリオン」であるという証拠がある。

 

「ユウ隊長……」

 

 その声には、無論に死した昔の隊長は答えない、その代わりに。

 

 雪、か……

 

 妙な天候不順の中そう呟いたのは、最原初のラプラスタイプ「サマナ・フュリス」である。

 

「綺麗だな……」

 

 すでにユウ・カジマが死んでから二十年近くが経過し、その間にも様々な人達がこの世を去っていった。

 

「アムロ・レイにシロッコさん、アルフさん、確かアンジェロという男もそう……」

 

 時代の終わり、その言葉が彼サマナの脳裏へと疾る。

 

「でも、僕は生きている」

 

 時代の立会人になれということか、そうパプテマス・シロッコのような事をサマナはその舌に乗せた。

 

「ゴップ提督も死んだ、原初のラプラスタイプと言えども不死ではないということか」

 

 それでも、彼は生き続けているし、歴史をその目で確かめている。

 

「ニムバスさんや、マリオンさんの墓参りにでもいこうかな……」

 

 最近、フィリップも調子が良くないらしい、その事が彼の気をより重くさせていた。

 

「でも、僕は」

 

 雪が、豪雪にと変わり始める。

 

「生きている」

 

 

 

――――――

 

 

 

 雪の中、端正な顔立ちの少年がコスモスに囲まれた二つの墓へと花を添えている。

 

「もし……」

「はい?」

 

 その遠慮がちな声に、少年がクルリとその身を翻す。見ると少年の片目には眼帯が付けられている。

 

「何か、オジサン?」

「その二人の墓は誰?」

「僕の両親です」

「そう、か……」

「謎の病気で……」

 

 そう言ったきり、少年は実と初老の男の顔を実と見やる。

 

「何か、宇宙の妖花を引っこ抜いた時に受けた後遺症みたいです」

「宇宙の妖花、ノイエ・ローテか」

「そう、確かそういってました」

「俺のせいか」

「はい?」

「いや、なにも……」

 

 それきり、少年と男はその口をつぐみ、二つの花に囲まれた墓の掃除を始めた。

 

「あまり、哀しまないね」

「別に……」

 

 大人びている、そういう言葉がよく似合う少年だ。

 

「感情を処理できないのは、格好悪いと思っているから……」

「ハハ、まあね……」

「何が可笑しいんですか?」

「いや、正論だと思って」

「正論?」

「感情のままに動いて、自滅した男を俺は知っているからね」

 

 片目の少年、その残された目が真実を探るかのように、男の顔を睨み付けた。

 

「オジサンの名前は?」

「俺はな」

 

 その時。

 

 ファサ……!!

 

 コスモスの海が、強く揺れた。

 

「ユウ・カジマさ……」

「ユウ・カジマ……」

「可能性を、見誤った男だよ」

 

 蒼い光、コスモスに男の身体が包まれ。

 

「オジサン……?」

 

 初老の男の姿を消し去り。

 

 ファ……

 

 花が、紅く蒼く白く黒く天へと舞い。

 

「リディ隊長」

「何だ、レーン?」

「花であります」

「花……」

 

 大空を光で埋めつくし、そして。

 

「ハマーン、シャア、ラプラスの花だ」

「左様で、ミネバ様……」

「総員、左舷に注目!!」

 

 戦艦の左舷、そこには蒼い宇宙の光が舞っている。

 

「蒼い宇宙、ですか……」

「そうだ、バナージ」

「僕も歳をとったもんですな、ミネバ様」

「もう、何歳だっけな?」

「とうに三十を越えています」

「私も、すでにオバサンだよ」

「フフ……」

「私達の時代は終わったのだよ、バナージ」

「はい、ミネバ様」

「宇宙の蒼は、新しい世代のものだ」

「はい、ミネバ様……!!」

 

 光は宇宙へと、大輪の蒼い心を咲かせた。

 

 

~了~

 

 

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