夕暁のユウ   作:早起き三文

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第38話 宇宙を駆ける(後編)

「まずい!!」

 

 アムロのGペガサスのコンソールの燃料計が警告のランプを点滅させる。

 

「エネルギーが!!」

 

 GペガサスはガンダムMK-Ⅴへ大振りでビームブレードを振るうと、アムロはその勢いを生かして機体を前方へ押し出すように加速させる。

 

「逃げる気か!? アムロ・レイ!!」

 

 ヤザン機の後方へ猛スピードで飛び去るアムロのガンダムをヤザンは機体を反転させて追いかけようとする。

 

「推力を全開にしてどうにか追いつくか!!」

 

 ヤザンはサブ・フライト・システムの推力を全開にしてアムロ機を追撃しようとする。強烈なGがヤザンの身体に襲いかかる。

 

「しとめられる!!」

 

 強引な加速でGペガサスへ追いついたヤザンはライフルの照準を定めようと機体の腕を動かしたその時。

 

「これは!?」

 

 ヤザンは勘ともいうべき物で機体をアムロのガンダムから遠ざけようとする。そのヤザンの動きと同じ瞬間にアムロのGペガサスが反転し、その両手からビームを放つ。

 

「しまった!!」

 

 そのアムロの攻撃に対して、ヤザンは防御装置でもある運搬機「タクテカルウェイバー」を使用するのが一瞬遅れてしまう。Gペガサスからのビームがヤザン機を運搬するタクテカルウェイバーの後部ブースターへ直撃した。

 

「俺が小細工にはめられるとはな!!」

 

 高出力で噴かしすぎた運搬機のブースターがビームの直撃により制御が出来なくなる。その乗っているヤザンの機体があらぬ方向への大推力に振り回される。

 

「逃げようとしたのはトリックだったか!?」

 

「半分は本音だったよ!! ヤザン!!」

 

 ビームの反動で体勢を崩したヤザン機を尻目にアムロは自機の背をガンダムMK-Ⅴへ向ける。今度こそGペガサスが戦線を離脱しようとするようだ。

 

「本気が混じっていたから、だからこの俺が騙されたか……!!」

 

 歯噛みをしながら、ヤザンは離れていくしていくアムロ・レイの機体を悔しそうに睨み付けていた。

 

「ティターンズのヤザンが伝説のアムロ・レイを退けたぞ!!」

 

 ラムサスが通信回線を無差別にしてそう怒鳴る。そのラムサスのその声に敵味方から歓声とも悲鳴ともつかないどよめきの声が上がった。

 

「どうです、隊長?」

 

 得意気な口調のラムサスの声が通信機を通してヤザンの耳へ入る。

 

「いつからそんなパフォーマンスの腕を身に付けたんだよ? ラムサス……」

 

 ヤザンはそのラムサスの言い放った台詞に、自機の状態を確認しながらコクピット内で苦笑する。

 

「駄目でしたかい?」

 

「俺がアムロ・レイを退けたって言うより」

 

 どうにか戦闘行動が続行できそうなコンディションのガンダムMK-Ⅴの様子に安心しながら、ヤザンはラムサスへ言葉を返す。

 

「むこうさんに引いていただいたっていうのは言うんじゃねえぞ、な?」

 

「分かってますよって!!」

 

「ハッハ……!!」

 

 そのラムサスの答えにヤザンは満足げな笑い声をコクピット内に響かせた。

 

「アドルは?」

 

 ヤザンは今度はハンブラビ隊の新人の事をダンケルへ訊ねる。

 

「帰艦させましたよ」

 

「疲れてたか? アイツは?」

 

「初陣であそこまで出来れば上出来でしょう」

 

 ダンケルはハンブラビの機体の中で軽く肩を上げたようだ。

 

「いいんじゃねえかい……」

 

 ヤザンは軽くそう呟いたあと、ラムサス達へ再度口を開く。

 

「ケツに火の付いた奴らの所へ加勢してくる」

 

「俺達も続きます」

 

「無理はするなよ」

 

「隊長こそ」

 

 ヤザンのガンダムの後方へ二機のハンブラビがモビルアーマー形態のまま追従する。そのままヤザン達は近くの宙域でエゥーゴのZⅡ部隊に苦戦を強いられている量産型ガブスレイの部隊の支援に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ギィァーア……!!

 

 マウアー機からのフェダーインをとっさにZⅡを可変させ、その勢いでそのビームの射線から機体をそらすブルー。そのZⅡのすぐそばを高出力のビームが疾り抜けていく。

 

「やるじゃない!!」

 

 ブルーのZⅡが急旋回をした直後に可変し、マウアーのガブスレイへビームライフルを向ける。

 

「あの坊やへ良いところを見せるつもり!?」

 

「ジェリドにつりあわなくてはね!!」

 

 ZⅡからのビームをかわしたマウアーは機体を可変させ、ガブスレイの格納ポケットからビームサーベルを取り出す。

 

「あの坊やのどこにそんな魅力が!?」

 

 マウアーからのサーベルによる斬撃をかわしつつ、ブルーも自機からビームサーベルをガブスレイへ抜き打つ。

 

「ティターンズを真の平和維持の組織へ導ける男!!」

 

「あなたは恋する女か!!」

 

 二機のビームサーベルが交差して、ビームの火花を散らす。

 

「いいじゃないさ!! エゥーゴ!!」

 

 マウアーが一旦ZⅡから離れ、腰だめにサーベルを構え直す。

 

「あんたには気になる男はいないの!?」

 

「いるにはいる!!」

 

 ガブスレイをサーベルをブルーは寸前でかわす。かすかに機体へそのサーベルのビームがかすった。

 

「もしかして、あのユウ・カジマ!?」

 

「ティターンズのあなたが彼を知っていたか!?」

 

「悪い男ではないだろうな、ユウ・カジマは!!」

 

 ガァン!!

 

 再び二人のサーベルが重なる。ビームサーベルの出力が増大されていく。

 

「だが、あのユウ・カジマでは!!」

 

「あなたはあの誠実な男に不満が!?」

 

「広大な目で世の中を見ていない!!」

 

「ティターンズのあなたにあの彼の何が解って!?」

 

「あの男には世の中を変えられないのよ!!」

 

 ZⅡとガブスレイのバイオセンサーが熱を帯始めた。その二つの機体が白く発光し始める。

 

「私たちニュータイプとは違う!!」

 

「自信を持って言えるものね!! ティターンズのクセに!!」

 

「女は自身がニュータイプであると実感ができる生き物よ!!」

 

 その機体達が顔を向け合う。両方の頭部からバルカンがお互いのその顔へ発射される。

 

「効くわけないでしょ!!」

 

「お互いにバリアーか!!」

 

 離れながら、二人は叫び合う。

 

「ユウ・カジマは過去に生きる男!!」

 

「あなたに彼を評価する資格があって!?」

 

「ジェリドがいなければ気にはなる男ではあったわ!!」

 

 ZⅡからのビームライフルをマウアーは肩からのビーム砲で相殺する。

 

「あのユウ・カジマは良くも悪くも連邦の軍を象徴しすぎている!!」

 

「人の気になる男を評論する!! 生意気な女!!」

 

「小さな善意しか心に抱けない男よ!!」

 

 ブルーが距離を詰めながら格納してあるサブマシンガンを取り出す。そのマシンガンのビームの連射がガブスレイに向けられる。

 

「くっ!!」

 

 放たれるマシンガンのビームをマウアーはガブスレイの機動性を駆使して何とかかわし続ける。

 

「何!?」

 

 突如としてマウアーの脳裏にジェリドの苦痛に歪む顔が浮かんだ。

 

「ジェリド!?」

 

 そのマウアーのわずかな隙にガブスレイがビームの連射に捉えられる。装甲が抉られる音がマウアー機のコクピットへ響いた。

 

「ジェリドが死ぬ!?」

 

 サブ・ビームマシンガンがガブスレイの装甲を撃ち抜いていくのも気にせずにマウアーは機体を可変させ、ZⅡから距離を取った。

 

「ジェリド!!」

 

「逃げるか!! ティターンズ!!」

 

 離れていくマウアー機を追いかけようと、ブルーも自機を可変させ背部のブースターの出力を上げながら、限界までスピードを上げるガブスレイを追尾した。

 

 

 

 

 

 

 

「順調だな……」

 

 シロッコは自手製のガンダムタイプのモビルスーツを宙へ浮かせたまま、主戦場からやや離れた場所でグリプスの宙域全体の様子を見渡している。

 

「まもなく、例の親書通りにエゥーゴから停戦の合図が来る頃合いであるな」

 

 若干ながらもティターンズが優勢と見えるそのグリプス宙域の戦闘を黙ってシロッコは眺め続ける。

 

「まあ、この戦いに勝っても……」

 

 シロッコはその顔をティターンズの宇宙での最大拠点「ゼタンの門」の方向へと向けながら、コクピット内で一人呟く。

 

「ネオ・ジオンが楽をさせてくれんだろうな」

 

 そう口ごもるように呟きながら、シロッコは自分がティターンズへ加わった理由について思いを巡らせていた。

 

「地球の重力へ引かれた……」

 

 シロッコはその視線をゼタンの方向から、青く輝く地球を見下ろすように向ける。

 

「はたしてその理由だけで地球圏へやって来た事に、自分も他者も納得が出来るものなのかな……?」

 

 シロッコ機の近くをティターンズのモビルスーツの編隊が帰還していく。補給へ戻るようだ。そのモビルスーツ達の姿にちらりと視線を向けた後、シロッコは薄く目を閉じながら思索を続ける。

 

「自分の能力の限界とやらを模索してみたかったか、なるほど……」

 

 その両眼を地球を覆う海へ向けながら、シロッコは自分の最新鋭機の運用データの収集具合をコンソールに映す。手際よくその作業をこなしながらも脳内では思索は続ける。

 

「その理由ならば、私自信は納得が出来るのかもしれんな」

 

 シロッコは下唇を軽く指で押さえながら、自分のその言葉に納得がいったように微かに頷く。眺め続けていた地球の輝きに眩しさを感じ、再びグリプスの主戦場へとその視線を移す。

 

「地球か……」

 

 シロッコは眩しく輝く人類の故郷の名を口に乗せた。

 

 ――宇宙には心が満ちているの――

 

「何……!!」

 

 シロッコはその声に驚き、コクピット内を見渡す。

 

「女、いや……」

 

 シロッコの額から一筋の汗が流れ落ちる。

 

「複数の女の声の幻聴……!?」

 

 シロッコは勢いよく再度地球へ目を向けた。その視界に入るのは地球上のオーストラリア大陸。その大陸には人類初、ジオンのコロニー落としで出来た巨大なクレーターの姿がある。

 

「あそこから聞こえた……?」

 

 海水が入り込んで青く輝くクレーターをシロッコは実と見つめている。

 

 ――宇宙にはユウが満ちているのよ――

 

「ユウだと……?」

 

 知り合いの男の顔を脳裏に浮かべながらも、ガンダムのコクピット内でシロッコは何回か深呼吸をする。

 

「久々の戦場であるゆえ、気が立っているのかもな、私は……」

 

 深呼吸を終えたシロッコは視線を地球から離す。もう謎の女の声は聴こえない。

 

「む……!!」

 

 気を取り直してグリプス宙域へ視線を向けたシロッコは、その宙域のはるか遠方に推進機能が破壊されたと思しき重武装モビルスーツの姿を目に捉えた。

 

「パラス・アテネ、レコアか……?」

 

 シロッコは新型の推進機を搭載したガンダムをその漂流している機体へ接近させようとした。涼やかな音と共に光の粒子がシロッコ機から放出される。

 

「今度はこっちが助ける番か、レコア……」

 

 その廻り合わせにシロッコはコクピット内で微かに苦笑する。先程聴こえた女の声はすでに彼はその頭の中から振り払っていた。

 

 

 

 

 

 

 可変機能が故障してモビルスーツ形態が取れなくなったジェリドのガブスレイがカミーユのZガンダムへしつこく追いすがる。

 

「ジェリドめ!! 素早い!!」

 

 モビルアーマー形態の高機動を生かしてガブスレイはZへ一撃離脱の戦法を繰り返す。ジェリド機からのビームガンが脚へ被弾したことにカミーユは忌々しげに呻く。

 

「しかし……!!」

 

 ジェリド機から「何か」を狙っているような気配を感じているカミーユはZのウェイブライダーへの変形をためらっている。

 

 ゴゥーアァ!!

 

 ガブスレイのフェダーインがカミーユ機のハイパー・メガランチャーに直撃した。ランチャーが火花を上げながら真っ二つに折れ曲がる。

 

「お前の得物を取ったぞ!!」

 

 カミーユは喝采を上げるジェリドの声が自分の耳を打つ感覚に顔を歪ませながらも、その自分の頭を必死に働かせる。

 

「肉は斬る羽目になるとは思うがな……!!」

 

 コクピットの中で腹を括りながらカミーユはZをウェイブライダーへと可変させた。

 

「今だ!!」

 

 その時を待っていたジェリドは残りの燃料の事を無視してカミーユ機の上部へ取りつこうとZガンダムへ機体を突撃させる。

 

「やはり!!」

 

 だが、カミーユのウェイブライダーはガブスレイの下部クローアームをかわしきれない。Zのスラスターに異常が発生していたようだ。

 

「取ったぞ!! カミーユ!!」

 

 ジェリド機がウェイブライダーの上に取り付く。そのまま機体下部のクローをZガンダムの機体へ食い込ませる。

 

「捻り潰す!!」

 

 ジェリド機のクローアームに力が入り始める。カミーユの耳へZの機体がきしむ音が響いた。

 

「させるか!!」

 

 カミーユはウェイブライダーのビームサーベル格納部分からそのサーベルを強制排出させる。サーベルが回転しながら光の粒子を撒き散らし、ガブスレイへ向けて射出される。

 

「何だとぉ!?」

 

 そのサーベルはZの装甲もいくらかは切り刻みながらもジェリド機のフェダーイン・ライフルを両断し、そのままコクピットの付近へ突き刺さった。

 

「モニターが!!」

 

 ジェリド機のメインモニター、およびサブ・モニターが大きく損傷する。ガブスレイの全天視界モニターシステムの半数以上が死滅した。

 

「どこだ!! カミーユ!!」

 

 全身から汗を流しながらジェリドは残ったモニターからZの姿を確認しようとする。

 

「後ろだ……!!」

 

 背部モニターは全滅している。ジェリドは脳裏を疾ったその感覚に慌てて機体を旋回させようとする。

 

「終わりだ!!」

 

 ガブスレイの背部についたカミーユがモビルスーツ形態へ可変しながらサーベルを取り出す。ビームサーベルの出力を増大させてジェリド機を突き刺そうとする。

 

「かわせない……!!」

 

 ジェリドは恐怖を感じながらも必死にカミーユの攻撃をかわそうと足掻く。その唇が震えるジェリドの脳裏にマウアーを始めとする戦友達の顔が浮かんだ。

 

「ジェリド!!」

 

 ブルーのZⅡの追尾を無視しながら、マウアーのガブスレイがジェリド機とカミーユ機の間に割って入った。

 

「マウアー!!」

 

「邪魔を!!」

 

 Zガンダムの最大出力のビームサーベルがマウアー機のコクピットを貫通した。

 

「マウアァー!!」

 

 ジェリドが絶叫する。その刹那。

 

 ファサ……

 

 羽が羽ばたくような音と共に紅い宇宙がその宙域を覆った。

 

「……っ!!」

 

 その紅い光を見た瞬間、咄嗟にカミーユはマウアー機を貫いたビームサーベルの光が消滅するように「命じる」

 

「お前を守るって言ったろ、ジェリド……」

 

 力の無いマウアーの声がジェリドの耳へ入る。コクピット内のマウアーは肩から血を流しながらも、命に別状は無いようである。

 

「マウアー……」

 

 ジェリドはモニターが死んだガブスレイから、いや、全てのモビルスーツの姿がその視界から消えさった紅い宙域でマウアーとカミーユの生身の姿をその両目で見る。

 

「無事か? ジェリド?」

 

 カミーユからもジェリドのそのままの姿が見えるようだ。

 

「何故? 手加減を?」

 

 そのジェリドの問いにカミーユは軽く首を振った。

 

「お前達を殺してはいけない気がした」

 

「お前に情けをかけられる筋合いはないんだよ、カミーユ……」

 

「誰かが俺にそう言ったんだ、ジェリド」

 

「誰だよ、それは……」

 

「女達が……」

 

「女だと……?」

 

 徐々に紅い宇宙の光が消えていく。

 

「停戦信号……」

 

 元の漆黒の宇宙へ戻ったグリプスの宙域に幾多もの信号弾が上げられているのを、カミーユ達はその目で見る。

 

「カミーユ!!」

 

 ブルーのZⅡがカミーユ機の近くへ寄ってきた。

 

「通信機が壊れていたの? カミーユ?」

 

「俺の? Zガンダムの通信機が?」

 

「停戦の呼び掛けが聞こえなかった?」

 

「そうだったのか……」

 

 カミーユは機体を翻して、ジェリド達の機体に目をやる。

 

「ジェリド!!」

 

「カクリコン!! あの停戦信号の合図は!?」

 

「さっきから通信が来ていただろう!?」

 

「そうだったのか……?」

 

「全く……!!」

 

 呆れたようにジェリド達の同僚は停戦命令を再度伝えた。破壊されたモビルスーツのパイロット達を救助するために派遣された両軍の内火艇がその宙域を通り過ぎて行った。

 

 

 

 

 

「終わったか……」

 

 エゥーゴのモビルスーツ運用艦「アーガマ」のブリッジでその艦の艦長であるブライト・ノアが椅子に座ったまま軽く息をつく。

 

「アーガマのモビルスーツ隊の被害は?」

 

「レコアのパラス・アテネが相当な損害を受けています」

 

「あの重いモビルスーツさんには動作に難があるからな……」

 

 ぼやくように呟きながらも、アーガマの通信士であるトーレス達からの報告にその両耳を立て続けるブライト。

 

「何でも、レコア機をティターンズ側のモビルスーツが助けてくれたという目撃情報が……」

 

「ティターンズが?」

 

「まさかとは思いますが、レコアさんは……」

 

「今さら……」

 

 そのトーレスの言葉に苦笑するブライト。

 

「この期に及んで、エゥーゴとティターンズの戦争が終わった時にスパイなど働く人間がいるか?」

 

「確かに」

 

「仲間を疑うんじゃないよ……」

 

 ブライトのその言葉に近くにいたクルー達が肩を竦めながら笑う。

 

「一人、いるじゃあないかよ、みんな」

 

「何です?」

 

「ティターンズでレコアの奴を助けてくれそうな奴が」

 

「ああ……」

 

 その言葉にトーレスが笑った。

 

「うちのアーガマにいた、コックのバイトをしていた生意気なニュータイプ……」

 

「アイツのメシがまた食べたい」

 

 そのクルーの言葉に再度アーガマのブリッジで皆の笑いが起こった。

 

「ま……」

 

 僚艦への通信を入れながら、ブライトは首を軽く回す。

 

「帰還したレコアに訊けばいいことだ」

 

「ですね……」

 

 他のエゥーゴの艦と通信を始めたブライトを尻目にアーガマのクルー達も仕事を再開し始める。アーガマのモビルスーツデッキへ出撃していった機体達が帰還をし始めたようだ。

 

 

 

 

「マウアー……」

 

 マウアーのガブスレイに牽引されながら、ジェリドはコクピット内で自嘲げに呟く。

 

「結局、最期までカミーユの奴には勝てなかったよ……」

 

「そう……」

 

「……」

 

 黙っているジェリド達のガブスレイの横をギャプランの編隊が追い越していく。

 

「命があれば次があるわ」

 

 ジェリドを慰めるマウアーの声は優しい。

 

「フフッ……」

 

 唇を歪ませるジェリドのその両目から涙が流れる。

 

「今のあなたの姿は見ないであげるわ、ジェリド」

 

「すまないな……」

 

「存分に涙を……」

 

 マウアーの声が耳へ触れるのを心地好く感じながらも、ジェリドはコクピット内で嗚咽し続けた。

 

 

 

 

 

帰投する両軍のモビルスーツ達の間を縫うように、エゥーゴの高級使節を乗せた艦隊がティターンズのグリプスⅡへ入港した。

 

 

 

 

 

 

「アムロ」

 

「何だい? ララァ?」

 

 アムロは自分の前に存在を感じている女性に声をかける。

 

「戦争は終わった?」

 

 その女性の言葉にアムロ・レイは黙って首を振る。

 

「シャアに終わらせる気がない」

 

「馬鹿な人達」

 

 鈴の音と共にララァと呼ばれた女性が笑う。

 

「シャアを止めてくれないか? ララァ?」

 

「無理よ」

 

「何故?」

 

「あの人には私が見えない」

 

「俺にも今の君が見えていない」

 

 女性が再び笑う。鈴が唱和するように鳴り響く。

 

「あなた達のせいじゃないわ……」

 

 鈴の音色と共にアムロの前から何者かが立ち去る音が流れる。

 

「ごめんよ、ララァ……」

 

 そう言いながら、アムロは静かに目を閉じた。


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