【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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小さな望み

 

近頃、銀河の事情はあまり芳しくはない。

地球の台頭による軍事拡張競争は、各地に戦火をもたらしていた。

 

 

宇宙戦争についての報道は盛んに行われている。

何故なら、最近の国内というのが平穏そのものであり、帝国の加護による外交の安定やメディアに睨みを効かせる宇宙人らなどによっていつものくだらない報道が出来なくなったからである。

メディアは新しい飯の種を開拓すべく、宇宙に飛び出した。それに応じて戦場カメラマンの出入国も増えている。

ある時、ボロボロになった敗戦国に行った戦場カメラマンが戻って来た。

「やあ、ただいま。久々に日本人の顔を見たよ」

こういう手合い、即ちマスコミ関係の人間は手榴弾やらなんやらを持って帰ろうとしたりとロクでもない人物が多いのでよく詰問しなくてはならない。

色々と質問を投げかけると、なにやら様子がおかしい、何かを隠しているようである。

「いやぁ、はは、ここまでスルっと来れたからいけるのかなぁって思ってたけど……」

それは私も問題だと思う。誰か改善してくれ!

「実はその……」

と彼のコートの下から出てきたのは宇宙人の子供であった。

見てくれからして爬虫類人種のようだが、身なりというのが襤褸切れを纏っている。

「この子は戦争で両親を亡くした。見立てによれば、都市には原子爆弾が使われたようでね……」

この子の故郷の町は戦争で灰燼と帰し、政府もその機能を失い、凄惨を極める状況となっているらしい。

その様子を撮影していたところに、この子を見つけたのだという。

「この子が私の後からついてきて、見捨てられなくて……」

そういう事なら気持ちはわかる。しかし書類もパスポートも無いのでは入国は難しい。

そも一体どうやって出国したというのか。

「出国時には、『その子はここを出た方が望みがある』と言われて……」

なるほど、せめて子供だけでも、と。となると同じような境遇の子はいるかもしれない。

どうやらこの場でどうこうを決めるのは無理そうである。

私は上司に相談すべくその場をラスに任せて、彼ら二人を特別室を案内し、オフィスに引っ込んだ。

 

「ああ、その国はもう無くなった」

そう言う彼は私の直接の上司である、マウナカタ・ホノルド氏である。珍しく(?)青い毛皮だ。

ともなれば国籍はどうなるのだろうか。

「無国籍じゃないかな。いずれにしても征服した国にとってはどうでもいい問題だろう」

やはりそうなるのだろうか。国籍がないのであれば、難民申請を通すのも難しい。

「しかし不幸なものだ、故郷を失った上その場を離れなくてはならないとは。いっその事討ち死にすればその子も幸せだっただろうに」

まあ、その子が幸運だったか不運だったかはこれから決まる事である。

とにかく、無国籍だからと捨て置くわけにもいかない。何か方法はないかと考えを巡らせる。

「一つだけ方法はある、まあ日本語で言うところの『ウラワザ』みたいなものだが」

ホノルド氏は神妙な顔をして言う。裏技、という事はきっとグレーな行いである。

「違法ではない、が褒められた行為でもない。国籍を取得させればいい」

それはその通りなのだが、日本国籍を一朝一夕で取るなどというのは不可能である。

「誰が日本と言った。宇宙を探せばあるだろ、すぐ取れる国が」

果たしてそんな国があるものだろうか……。

「探して、それでダメならその時考えればいいじゃないか」

……よし、探してみよう!

 

数時間後、日が落ち業務時間が終わってからはラスや吉田、メロードなんかの手伝いもあり、数百ある天の川銀河の国々の国籍法を調べ上げた結果、なんと一朝一夕で取得できる国が見つかったのだ!

名前をガウラ帝国というらしい。

「……すまん、忘れてたんだ、そんなに怒るなよ、ウフフ」

ホノルド氏はともかく、なんでラスとメロードは教えてくれなかったのか。

「すみません、クラウカタ警備員が……見惚れていたので……」

「が、頑張る姿が、素敵で……つい……」

……怒るでホンマに。

「しかしなぁ、俺たち日本人には考えられないよな、そんなに手続きが簡単だなんて」

全くである。この帝国の法典というのは先進国の割には良く言えばかなり大雑把、悪く言えば地球の中近世レベルなのである。

遵って国籍の取得も容易である、しかしこの場合は二等臣民になるようではあるのだが、入国には問題ない。

「この時間じゃ受付できないから、また明日になるな。あの部屋には色々置いてあるから、一日ぐらいは寝れるだろう」

特別室の彼らに今日はそこで宿泊するように伝え、解散となった。

 

帝国の大使館は入国ゲートを通らなくてもアクセスできるところにも窓口が存在する。

なぜこのような作りなのかというと、やはり星間航行が長旅になる関係なのだろう。

彼らを連れて、受付へと向かう。

「すみません、わざわざこんな事を」

全くである。こんな事は私の業務範囲ではない、とは口に出しては言わないのだが。

窓口で事情を話すと、ホノルド氏が話を通してくれていたのか、既に書類の準備がされていた。

カメラマンはすぐに書類に書き込み始める。

職員は「久々の仕事だよ!」と言うので随分退屈していたらしい。ここには誰も用事がないのだという。

書き終えた書類を取ると、子供の顔写真をその場で撮る。そんなのでいいのか。

そうして、その子に向かって三つの誓いを立てるように言った。

「まず一つ、皇帝に忠誠を誓うべし。二つ、みだりに暴動を起こす事なかれ」

子供も復唱する。

「そして三つ、臣民籍を脱したい場合は再び最寄りの役場まで訪れて下さい」

それも誓いかよ!とにかく手続きはこれでおしまいのようで、その子に臣民証という小さなカードを渡した。

「ああ、ありがとうございました」とカメラマンは深々と頭を下げた。

そうすると、子供が私に手を差し出す。

私の方も手を出すと、その小さな手で私の手を握った。

「きっとありがとう、というのを伝えたかったのでしょう」

カメラマンはそう言う。左様、礼ぐらい言ってもらわないと甲斐が無いというものだ。

彼らは嬉しそうに入国していった。

「しかし、帝国の二等臣民ともなると大変だろう」とホノルド氏は言う。

臣民の義務というものがあるのだろうか。

「いや、それは忠誠と遵法以外は免除される。問題は月の惑星外臣民生活補助金が半額しかもらえない事だ。日本円だと15万円前後だな。とても足りるかどうか……」

何それ。財源どうなってんの。ていうか私も臣民になりたい。

 


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