【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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エスケープ・フロム・ジ・アース

現代だというのに疫病が蔓延し、蝗害が襲い、さながら歴史上の戦乱の前触れの如き様相を呈している。

こんな時、外来人種ならばどうするだろうか。

 

 

新型肺炎ウィルスの蔓延は他人事ではない。

我々宇宙港職員には清潔が義務付けられている。

とはいえ、マスクなんて今や高価なものは手に入らないので、『魔法のレシピ』とガウラ人が語る消毒液を使用している。

「これはいいものだ。あらゆる疫病をこれで防いだ歴史がある」

メロードがこっそり教えてくれたが、その正体は蒸留酒に薬草を入れ水で薄めたものらしい……要するに香り付き消毒アルコールである、何なら薬草も要らない。

ペストの時代、蒸留酒で食器などを洗っていたポーランドは流行を免れたというので、きっと帝国にもそういう歴史があったのだろう。

なお、地球では帝国の蒸留酒も薬草も手に入らないためスピリタスと、香りの似た柑橘類の皮で代用しているらしい(消毒以外の用途に使いたいものだ、例えば……飲んだり)。

ところで吉田の方もマスクは手に入らなかったようで、身体に消毒液を念入りに吹きかけている以上の対策はしていない。

「粘膜から感染するというからな、スマホも拭いとこう」

「おいおい、お前らそんな装備で大丈夫か?」

エレクレイダーである。マスクをしている。お前要らないだろ。

「念には念を入れてな」いや要らないだろ。しかしよくマスクなんて手に入ったものだ。

「盗んだわけじゃないぜ、行きつけの薬局で取っといてもらったのさ」

薬局って、薬でも飲むというのかロボなのに。

「飲まないけど」なんなのか。

 

来航する客たちにも消毒液が配布されているし、至る所に設置してある。

他にも対策は為されている様子でもなければ、感染拡大を過度に心配している様子ではない(荷物はしっかり消毒されている。元から設備もあるし、人より高価である事が多いので……)。

そもそもの身体の構造が違うため感染しない、または感染しても症状が出ない(それはそれでマズいが)、感染するかどうかわからないなどの理由である。

ただし、全ての人種が感染しないわけではないようで、出国ゲートにはいくつかの哺乳類人種が殺到している。

代わりに、入国ゲートに現れるのは怪しげな連中である。

「新型肺炎ウィルス、実に興味深い!」

生物兵器専門の軍人と名乗る者らがちょくちょく現れ始めている(毎度思うがこういう奴らは一体どこから嗅ぎつけるのか)。

「インフルエンザも中々のものだが、しかしこの新型ウィルスは潜伏期間も魅力的だ!」

他人事だと思って言いたい放題である。とはいえ死亡率はインフルエンザに劣る。

「そこだよ、体力の弱い者、それも老人ばかりが力尽きている……うむ、これは少子高齢化改善の役に立つ!」

自国民相手に散布するのか……こういう時々現れる倫理観がぶっ飛んだ人にはいつも驚かされる。

「そうと決まれば早速採取だ!君はお大事にな!」

ルンルン気分で入国していった……。

 

後日再び彼(彼女?)の顔を見る事となる。

「地球を、出よ……!」

何やらマスコミやら医療関係者をぞろぞろと引き連れて何かを言っている。

「ああ、あれか?感染したらしいぜ、新型肺炎ウィルスにな。この俺みたいにマスクをしねーからだろーな」

エレクレイダーが言う。いやお前はロボだから……まあいいか。

ロボが言う通りあの人物は感染したという。しかも潜伏期間も殆ど無しに発症したのだという。

これはどういう事なのだろうか。

「きっと身体の構造の違いだな。あの種族にはかえって強力に作用したんだろうよ」

なるほど、感染しない、のではなく却って強く症状が出たのだという。

だとすると、このまま帰しても大丈夫なものだろうか……それともひょっとして、感染した状態で帰るのが目的なのだろうか?

それにしても考えてみれば、宇宙人らと頻繁に接触する我々にとって未知の症状は他人事ではない。

「だろ?マスクしとかなきゃ。何枚か譲ろうか?」

こういう場合は、遠慮なく貰っておこう。

 


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