中年の危機、思秋期、まだ私には縁のない言葉である。
しかしながら、そうでもない人物が一人、身近に存在した。
「お前は何者だ」
え、日本人ですけど……。
「違う、これは自身への投げかけだ。ホノルド、お前は何なんだ、なぜガウラ人なんだ」
私の前でうんうんと唸っているのは私の上司、マウナカタ・ホノルドである。
「今日でもう33歳だぞ!」
あ、お誕生日おめでとうございます。
「ああどうもありがとう。誕生日って祝うもんなの?」
地球では祝うけど……。
なぜ私が相手をしているのかと言えば、なんでだろう、としか言いようがない。
とにかく、便利屋みたいに思われているのは確かである。
「みんなが頼りにしてるって事じゃないか、私だって頼りにしている、それに比べて私はなんだ」
そ、そうですかぁ?……まあ悪い気はしないけどしょうもない事や面倒な事ばかり押し付けられる気がする。
彼はどうやらアイデンティティの揺らぎに陥っているようだ。
「こんな中年男の何がいい、独身なのも当たり前じゃないか」
気にしてたんすね……。しかし33歳で中年か、ガウラ人は寿命がどうも地球人よりも短いそうだ。
「魚釣りやゴルフなんてのもやってたが、最近はどうにも熱が無くって」
飽きた、という訳でもなさそうだ。
「そこでだ、新しい事を始めてみようと思う。君の意見も聞きたいのだ」
はあ。やっぱりそういう感じなのか。
別に私の意見なんて聞かずとも……とは思ったが面白そうなので付き合おう。
まず初めに向かったのは、カレーライス屋であった。なんで?
「こういう変わったものを食べてみれば、きっと心にも変化が訪れるはずだ」
そうなんすか……。そう言う割にはあまり進んでいないご様子である。
「いや、マズくて……穀物からも変な臭いがするしこんな香辛料の塊をありがたがるなんて変わってるよな」
……。
「ゴメン、今のは訂正させてくれ。私たちガウラ人は香辛料を慎ましやかに使う」
まあ別にいいけども。
「そしてこのコーラも舌がひりひりするし、福神漬けとラッキョウ、まるで酢が固形物になったみたいだ」
……。
「ああ、失礼、私たちガウラ人は酢も慎ましやかに使う」
思えば、メロードやその故郷の料理は全体的に味が薄かった。
舌の構造とか味蕾の数や性質が異なるのだろう。
無論日本人が塩味が好きというのもあるし、現代人が濃い目の味付けに慣れ過ぎているというのもある。
ん?それなら今まで何を食べて暮らしていたのだろう?
「そうだなぁ、スーパーで生魚を買って、それを焼いたりそのまま食べたり。後は肉や野菜もそうだな」
原始人かよ!まあ味付けが濃ゆくて食べるものが無いのなら仕方なかったってやつなのか。
「惣菜も買ってみた時もあったが、大抵は味が濃ゆくてな」
メロードやラスは割とよく食べてるみたいなので、彼らはすっかり慣れてしまっているようだ。
それはそれで生活習慣病が心配ではあるのだが……。
「それともう一つ試してみたいことは鉄道写真を撮る事だ」
はあ。まあ悪くない趣味だと思うけど。
「どうかな、何が面白いんだろう」
じゃあなんでやろうとするのか……。
「もちろん、一見面白くなさそうな事でもやってみたら楽しい事ってあると思うんだよ」
それはそうかも。
「さあ電車が来るぞぉ……あの敷地内にいるのは?」
先客だろう。しかし進入禁止の場所に入ってしまっているのはいただけない。
「文字が読めないのかな。犯罪をするというのは本人だけじゃなく環境も悪いんだ、家族や同居人、教育、経済状況、さもなくば…」
などと講釈を垂れているうちに電車はブワアアーンと通り過ぎてしまった。
「ああもう、行っちゃったじゃないか」
はぁと溜め息を吐く。
「もとより軍事的インフラストラクチャーである鉄道を撮影しようってのが間違ってる」
彼はせっせと撮影機材を片付け始めた。
何となくこの人が独身な理由が掴めてきた気がするが、まあそこは言わないでおこう。
「さあ、次は星を見てみようか」
天体望遠鏡を担いで丘の上に登っている。クソ寒い。
彼らガウラ人に合わせていると体力が持たないと思う時があるが、今がその時だ。
「たまにはいいと思うけどな」
早くも帰りたい心地である。
夜の闇の中で凍えていると、後ろから足音が近づいてきた。
「やあ……ホノルドさん……」
「メロード……くん……」
あ、メロードだ。
「どうしてここに……?」
「あなたと同じですよ」
彼も天体望遠鏡を担いでいる。
「星が出てきたみたいです、見ましょうよ」
「あ、ああ……」
何やらピリピリしたムードである……あっ、そりゃそーか。
「わからない、なぜその人がこんな夜更けに凍えている?」
「それは……私の自分探しに付き合ってくれているからだ……」
「なぜ自分探しを」
「今日が33歳の誕生日だからだ」
「そうですか……33歳の誕生日なら……仕方ないですね!」
仕方なくないと思うけどなぁ!もっと強く色々言ってくれ!もっと!
ところでそういう趣味的なものは同族たるメロードにも聞いてみてはどうだろうか。
「うーん……あそうだ、一つありますよ。今度の休みは空いてますか」
「空きまくってるよ!」
そういう訳で次の休日。
私はセーフティエリアで退屈している。
セーフティエリアというのは、サバゲーフィールドの安全地帯兼休憩所みたいなところである。
つまりはサバゲーに来ているという訳で、なぜか私も連れて来られたのだ。私はやらないというのに。
何人かポツポツと帰って来ていたが、しばらくすると試合が終わったのかゾロゾロと人が戻って来た。二人もだ。
「こんな遊びがあるとは知らなかったよメロードくん!」
「なかなか楽しいでしょう?」
二人はゴーグルをつけて、談笑しながら戻って来た。帰っていい?
「初めから彼に聞くべきだったなぁ」
全くもってその通りである。
「ガウラ人がどうして幸せになれる、戦争もしないで!」
よくわからないけど、彼が幸せを取り戻したようで一件落着だろう。
なんだかおっさんに振り回されただけであったような話だ。
でも、ガウラ人の精神性の一部が垣間見えた、ということでここは一先ず良しとしてくれないだろうか。