【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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ピカの惑星

地球文明は宇宙諸国に比べて全く遅れているのかと言えば、そうではない部分もある。

マヤ人が高度な天文学や暦を発展させていたように、地球の科学にも優れた分野は存在する。

一つが空母機動部隊戦術、そしてもう一つが保健物理学である。

 

宇宙人向けの調査では、日本の一番人気な観光スポットは福島で、次いで広島、長崎と続く。

これが世界の一番人気となると、プリピャチが最も人気だ。『そういう出来事』は宇宙では稀だからである。

ようやく学者の入国制限が部分的に解除された頃、私はあるキツネ型人種の生物学者と話すことになった。

「実に興味深い事なんですよ」と彼は言う。それはどうしてか、と言うと、

「大抵の文明というのは核分裂爆弾を誰かが使用した時点で滅亡へと真っ逆さまへと転落していきますからね」

一発でも実戦で使えば相互確証破壊は崩れ去り、全面核戦争によりその惑星は崩壊し、良くて文明の退行、最悪死の星と化すのだという。

「当時、アメリカ合衆国にしか手が届かなかったというのはある意味では幸運ですよ。そして、あなた方日本臣民の忍耐強さもね」

他人から言われると確かにその通りだとは思う。戦後の状況を見るに米国とは最初から事を構える必要はなかったのだから、

日米同盟はある意味では当然の帰結ではある。(仏印進駐やらフライングタイガーやらがあったので開戦は時間の問題だったが)

臣民、というのは宇宙諸国において日本は『神聖帝国』として認識されているからであろう。皇族の存在が理由だ。

「普通の国ならこう思うでしょう、いつか報復してやろう、こう考えます。そして、全面核戦争が始まる」

しかしそうはならなかった。『いつか』がまだ来ていないだけかもしれないが(いつぞやのエビ大名を思い出す話だ)。

彼らの国はというと、原子力兵器を使おう、という発想にはならなかったようだ。

宇宙諸国の大半の国がこの賢い選択をしている、強大な軍事国家でさえも!

先ほど述べたように原子力兵器を母星の上で使った種族は全て死滅しているからである、この地球人を除いては。

「我が国では放射線の発見と共にそれを防ぐ繊維を開発しました。既にしていた、というのが正しいかもしれません」

得意げに黒い鼻をひくひくさせて言う。

「しかしそのせいなのか、放射線の生物に与える影響というものは無視され続けていました。防げるのだから無いのと同じ、という事ですかね。人気もなかったですし」

宗教上の理由で動物実験さえも行われなかった、と彼は語った。

確かにこの分野は地球、とりわけアメリカ、旧ソビエト諸国、日本は進んでいるかもしれない。

アメリカはマンハッタン計画における障碍児や黒人に対する無差別なプルトニウム投与実験と原爆投下後の調査、

旧ソビエト諸国は米国内のスパイの情報やチェルノブイリの原発事故、

日本も原爆、東海村臨海事故や福島第一原発事故など、人体への影響を知る機会が多かった。

地球人(しかも日本人)としてはかなり複雑な気分ではあるが、未来の科学の役に立てるのであれば良しとしよう。

「こういう事言うのは、なんですけどね、ここは我々毒物劇物研究者にとっては天国のようなところですよ!」

満面の笑みを見せる。本当にそういう事は言わない方がいいと思うのだが。

彼は満足したのか書類を受け取り上機嫌で去っていった。

なんだかなぁ、と思いつつも、私たちの今現在は奇跡の上に首の皮一枚で成り立っていると実感させられたような気がした。

 


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