【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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地が震える

 

地震は日本人にとっては日常茶飯事だし、日本の他でもイタリアや南米諸国では地震は頻発する。

宇宙においても、煩雑なテクトニックプレートを有する惑星では進んだ地震学を有しているが、地震が全く起こらない星の住民は、この震える大地に慄くのだ。

 

今回の便の入国者も半ば、というところに差し掛かったところ、突如として窓ガラスなどが音を立て震え始めた。

もちろん、この施設は耐震性も十分に考慮されているため被害という物はなかったのだが、

一部の入国者たちが大パニックを起こし、それを収束させる作業に追われた。

なんでも、彼らの惑星では地震なるものが起きることが無く、まさしく天変地異の如く感じられたのだという。

「この星は大丈夫なのかね!?」と幾度となく問い詰められる。

そこで私が地学だのプレートテクトニクスだのの説明をし始めると、「難しい話はよくわからない」とそっぽを向かれるのだ。

何処の人間も非常時は一緒だな、と思いつつも彼らに安心してもらうように説明を続ける。

逆に地震になれた人種は「へへ、結構揺れましたね」と若干興奮気味に伝えてくる。

警備員らガウラ人も地震の存在は知っていたようで興味深いような表情をしていた。

さて、それから数日後、入国者の内訳が微妙に変動した。地質学者だ。

オカピ(コンゴに生息するキリンの仲間)に似た哺乳類人種の地質学者が上機嫌でやって来た。

「ここまでテクトニックプレートの境目が密集してるとウキウキしてくるよ」とは彼らの言だ。

しかし、勝手に人様の列島を見てウキウキされても何とも言えない気持ちになる。

実際、地震で(正確には地震後の津波や火災で、だが)多くの人命を失ってきた歴史があるのだから、

そういう物言いは如何なものか、と言うと彼も神妙な面持ちで「そう、だからなんだよ」と言った。

「私たちの国もそうさ、流石にここまでプレートが密集してはいないが、地震によって苦しめられてきたよ」

彼の目は遠い祖国に思いを馳せているようであった。

「でもな、わかるだろ?結局のところ『彼ら』の事を知って、そして共に生きていく他にはないって事ぐらい」

ある種の諦めとも言うだろうかね、と付け加えた。日本人というものも心の奥底ではそう思っているのかもしれない。

そしてそれは実践されてきた。法隆寺の五重塔や江戸時代のわざと崩れやすく作られた民家など、古来より地震と共に生きてきた日本人の『彼ら』に対する歩み寄りであった。

無論現代においても、耐震構造の研究や高度な住民退避システムの構築など様々な方面から為されている。

自然災害も自然現象だ、これを止めることは出来ない。

「ま、あんたがた日本人も頑張れよ。我々も協力しよう」と言い、彼は入国していった。

さて、これだけならば良い話で終わるのだが、無論、観光客にも地震の件は伝わっている。

とある人物はこう言った。「この国は地面が震えるそうだね、次は一体いつ起こるんだい?」

それは自然現象ですからわかりません、と答えると、「わからないって事は無いだろ、なぁ?」と食い下がる。

私は適当に、起こるといいですね、地震が、と話してさっさと判子を押して書類を返した。

次なる人物は「私がいるうちにその、『ジシン』とやらが起こらないように祈っていてくれ」と宗教的な装飾品を掲げ震えていた。

自然現象ですから、それに大きな地震の後は余震がよく起こりますよ、と答えると、「ああ、神よ……」と肩を落として去っていく。

そしてもう一人印象に残ったのは「大したことないですね、私の国なんてもっと凄い地震が起こりましたよ!」と得意げに話す人物だ。

自分の不幸を自慢げに話す奴があるか。やっぱりこういう人物はどこにでもいるのか、と私はげんなりとした。

 


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