【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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宇宙イデオロギー戦争

 

他人に自分たちの伝統や主義をとやかく言われることほど頭に来る事はない。

ましてや異文化の人間だと尚更だ、『政治的正しさ』などお構いなく叩きのめしてやりたくなる。

 

様々な人種が宇宙には存在する。人とは即ち知的生命体の事である。

しかし、人間以外の動物たちが知的生命体と言われることはほとんどない。

霊長目やカラス科、インコ科は優れた知能を持ち(そしてしばしば一部の人間を超える)、言語や手話を教えて簡単な意思疎通を行った例もある。

また、文化的行動を取る種もいくつか存在するし、手を器用に使うカワウソ、道具を使うチンパンジー、建築を行うビーバーなど、明確な線引きは意外と難しいものだ。

とりあえずは、この地球上では人間以外は知的生命体ではないという事になっている。

さて、とある宇宙人が動物と人の中間、『準知的生命体』という物を持ち込んだ。

地球上にこの概念が存在しなかったわけではないが、時々世間を賑す程度で注目されていたとは言い難い分野だ。

この連中は高度な遺伝子工学と社会学を有し、『知性化』なる技術を持っている。

動物に知性を与える技術で、彼らはそれを自国民、良き友人として受け入れている。

ここまで来ればわかるだろう、彼らが動物園を見て騒ぎ始めたのだ。

日本人にとっては、またか、とウンザリするところだろう、それはガウラ人や他の宇宙人種にとっても同じことだったようで、ガウラ人職員らがわざわざ知らせに来てくれた。

吉田も、「過激な環境保護団体なんかも宇宙にはいるんだな。宇宙人に親近感が沸くぜ」といった様子であった。

団体、なんて規模であればいいのだが、ひょっとすると国家全体こうなのかもしれない。

だとすると、意外と重大な問題である。

無論、ガウラ帝国を始めとする幾つかの宇宙国家とは防衛協定が存在するので戦争が起これば帝国が何とかしてくれるだろうが、それでも心配になる。

ガウラ人職員の一人に聞いてみると、「あれはなぁ……」とため息を吐くのだ。

曰く、数が多い上しぶとく、勝利は難しくないが終わらせるのが難しい、との事である。

 

騒ぎになってから数日、かの国、彼らはメギロメジアという、メギロメジア人入国者は増すばかりだ。それに強制退去も。

政治活動の為の入国は禁じられているが、かと言って入国事由を馬鹿正直に話すヤツもいるはずもない。

そこで、外務省が帝国につつかれたのか、メギロメジア人の入国禁止を発表した。イギリスも足並みを揃える。

もちろん、我々にはすぐ知らされ、メギロメジア人は問答無用で弾くこととなる。

そうなると、やはり彼らは怒り出す。

「どういうことだ!出入国の自由は保障されているはずだぞ!」

自由という言葉には、公共の福祉を侵さない限り、という不文律が常に付きまとうので、彼らの言い分はもちろん棄却する。

だが、我ら人類とガウラ帝国は彼らのこの狂信的とも言える信条を甘く見ていた。

遂に、彼らは日本とイギリスに対して宣戦布告を行ってきた。準知的生命の解放を謳って。

役人たちは大いに驚き、恐怖したことだろう、最後に戦争してからもう70年以上が経っているのだから、しかも相手は宇宙人である。

そして、戦争開始から数十分後、ガウラ帝国とその同盟国らが防衛協定に従いメギロメジアに宣戦を布告した。

これが、人類が初めて宇宙戦争に参加した戦いである(尤も、何もしてはいないのだが)。

この戦争の様子は世界中で報道され、地球人の宇宙人に対する畏怖と憧憬を強めた。

同盟国らは宣戦布告を予想していたのか、素早く艦隊を派遣し、メギロメジア主力艦隊を容易く粉砕した。

自衛隊員やイギリス軍兵士が駆り出されたという話は聞くが、結局のところ、入国者に「戦勝を祈っているよ」と声をかけられることがあるぐらいで、一般市民の生活に変わりはなかったのだ。

この戦争の教訓があるとすれば、例え宇宙時代になってもイデオロギーによる戦争は起こり得るので警戒せよ、という点と、度が過ぎるイカれたヤツはぶちのめすに限る、というものであろう。

 


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