【完結】地球の玄関口   作:ターキィ

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メイドインコスモ

 

宇宙文明は優れた技術を持っている。もちろん、優れた工業製品も。

もしも安価に手に入れることが出来るなら、どうして手に入れない理由があるだろうか。

 

地球の文化風習が銀河を股に掛けるビジネスマンたちにも浸透し始めたのか、商談をしにやって来る人が増えた。

輸入雑貨はもちろん、電子機器や加工食品、書籍、映画など、市場は宇宙製の物で溢れ返る。

街は、今や時代は宇宙時代だ、と言わんばかりの様相でガウラ帝国風のファッションや何処の星の物とも知れぬ携帯音楽プレーヤーを持ち歩く人間ばかりだ。

宇宙人制作の映画は私も見たが、何ともしみったれた脚本と演出で中盤にはポップコーンを買い足しに行く羽目となった。

テレビの中の文化人気取りはこんなものをありがたがっているのだから、日本人の舶来品好きもここに極まれり、といったところだろう。

最近はみんな景気がいいのだ。というのも、ガウラ帝国の方針だかが変わったのか、元からこのつもりだったのかは不明だが、内政干渉が強くなったのだという。

で、労働者に関する法律を始めとする悪法や悪政を軒並み除去されてしまったのだ。資本家にとっては嬉しくない知らせに見えたが、払う賃金以上に売り上げが入って来るので今では誰も文句ひとつ言わない。

もし彼らが日本を帝国に組み込もうとしているのだとしても、この待遇に加えて国体を維持してくれるのなら誰もが口を揃えて大歓迎と言うだろう。

 

さて、今日もまた商魂を漲らせたビジネスマンに出会ったのだが、それにしては今一不安げな面持ちであった。

「はぁ、売れるでしょうかね」とこぼすのは自動車会社の営業である。

「何せこの星には魅力的な車が沢山あるのですから」と、カメのような容貌である彼は続けた。

はたしてそうだったかな、と考えてはみるものの、魅力的な車と言えば高級車ばかり思いつく。

「何を仰いますか、私が言うのは大衆車ですよ」と鼻息を荒くする。

「考えてもみてごらんなさい、例えば、なんだったかな、軽自動車のSUVがあるでしょう?あれはいい車だ、丸くて柔らかいデザインもいい。我が国の安全基準を満たせば是非とも輸入したい」

きっと例の遊べる軽ってやつの事を言っているのだと思う。確かにあのデザインは可愛いものだ。

しかし私は、値段設定を間違えなければ目新しさからきっと売れるのでは、という旨を伝えるとやはり不安げにこう言う。

「デザインが受け入れられますかね」彼は商品のカタログを開いて差し出した。

いくつかの写真が載っているが、どれもこれも地球上では見かけないようなデザインである。

マッチ箱のような車や卵型の車など、なんとも形容しがたいようなものまでもが揃っている。

二輪車については概ね悪くないのだが(というか、二輪という特性上あまり凝ったデザインが出来ないのだろうが)、四輪車は残念ながら地球人の感性では受け入れがたいものばかりだ。

私が渋い顔をしているので彼は「そうですよね、やっぱり……」としょぼくれた顔をする。

あ、いえ、と慌てて取り繕い、この国で重要なのは機能面と値段だ、と励まして書類とカタログを返すも、暗い顔のまま彼は行ってしまった。

 

そしてお次に現れたのは、今度は先ほどの彼とは打って変わって自信に満ちた人物であった。

「この商品はねぇ、絶対売れるぜ!」頭にタコを被ったような軟体生物人種の営業マンはそう言う。

「君もこれを見てみろよ!」とカタログを手渡されて、開いてみると載っているのは工具であった。

おそらく品質は地球製の物を遥かに超えているのであろう。だが私は、これは売れないな、と考えていた。

「我が国の職人たちが作った高品質の工具さ」彼は自信満々の表情を浮かべている。

私は当たり障りのない事を言いつつ書類を返す。受け取ると彼は一目散に駆けて行った。

 

そして後日、自動車会社の営業が現れた。

「売れましたよ、予想以上の反響です」と笑みを浮かべている。

彼は嬉しそうにカタログを開いて見せて「これです、一番人気は!」と得体の知れない奇天烈なデザインの車を指差した。

もう3000台にも届きそうなのだという。宇宙的と言えば聞こえはいいが、こんなデザインの車が売れるとは。

「日本仕様に変えたので少し車幅が狭くなりましたが、パワーはそのまま、燃費もリッター170kmの低燃費を維持できました!」

加えてなんとかコントロールとかかんとか言っていたが、私にはさっぱりである。

とにかく、低燃費というだけ事は理解できた、物理的にあり得るのだろうか、と考えても実際に出来てるのだから考えても仕方がない。

きっと地球の自動車整備士がこれを解体して研究しようにもさっぱり理解が及ばないのではないだろうか。

「遥々来た甲斐があったというものです」彼は意気揚々と去っていった。

 

さて、読者諸君はもうお分かりだろう。軟体生物の彼は暗い面持ちでやって来たのだ。

「どうしてか、わずかにしか売れなかったんだ、君たちは見る目が無い」

すっかり意気消沈しているようで、なんだか気の毒な気もする。

「何故だ、この星で作られたどの製品よりも精巧で高品質なのに、グラム4000円もする合金を使っているのに」

参考までに、銀は1グラム70円辺りをウロウロしてるそうな。つまり恐ろしく高価な素材が使ってあるのだろう、金よりは安いが。

彼はこの星での営業の縮小を命じられたらしく、足取りも重かった。

なぜ売れなかったのだろうか、彼らにはわかるまいが、私たちには簡単な事だろう。

彼らには腕が幾つもあり、工具もそれに合わせて作ってあるが、私たち人類に腕は二本しかないのだ。

 


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