宇宙時代に突入したとしても、地球上のあらゆる問題が解決したわけではない。
相変わらずアフリカでは混乱が続き、中東においても平定されたとは言い難いのだ。
ガウラ帝国はついに介入の意思を明確に示した。当然、地球の国際社会には緊張が走る。
この頃は既に日英は帝国と同一視されているらしく、我々に対する非難の声も上がっているという。
帝国が最初に目を付けたのは、中東、さらに言えば、イスラエルとパレスチナであった。
一番厄介なところから潰そう、という事なのだろうか。
今日の宇宙港は一段と緊張が走る。何でも、噂の陸軍がこの空港に降りてくるというのだ。
直接降下することは出来るが、やはり混乱と非難を招くという事らしい。
そうなると、宇宙船の発着設備の存在する日本とイギリスに降り立つほかないのだ。
降りてくるのは第25独立混成師団の歩兵連隊、砲兵大隊だと聞いている。
機甲部隊もいるらしいが、そちらはイギリスに降り立つそうな。
それぞれ海上自衛隊、英国海軍に護衛されパレスチナへと向かう。
当たり前だがイスラエルは大激怒で、パレスチナ側は大喜びだ。
イギリスもこの介入には懐疑的なのだが、最終的にどういう事になるのかは帝国次第という事になるだろう。
言うまでもないが、以上は私が海外ニュースだのなんだのを調べて出した推論である。
さて、我々の職務というのは彼らの入国審査である。
有事なんだからパパッと済ませて欲しいものだが、形式上必要だという帝国郵船の主張に従ったらしい(こんな有事に喧嘩などするな!)。
発着場にはこれまでとは違う、武装の付いた巨大な輸送艦が到着していた。
ぞろぞろと兵士たちが歩いてくる、全員ガウラ人だ。
流石に武装と荷物は置いてきている様子で、彼らの軍服というのが、なんとも時代錯誤にも見える近代の歩兵のような出で立ちである。
靴の上に白いレギンス型の脚絆を付け、ベージュ色のズボンとトレンチコートのようなものを着ている。
さながら近代のオスマン帝国歩兵か、はたまた第一次大戦のフランス軍歩兵のような軍装で、かなりお洒落ではある。
帽子は被っていない、思えば帽子を被ったガウラ人を見たことが無いので、おそらくは帽子を被る文化風習そのものが存在しないのだろう。
彼らの一人目が私に差し出したのは公用パスポートと検疫証明書だけであった。彼だけは服装が少し豪華だったのできっと将校であろう。
「全く申し訳ありません、我々の身内の喧嘩に巻き込んだようで」と馬の青鹿毛にも似た毛色を持つの将校は一礼した。
問題はないとの旨を伝える。むしろ公用パスポートと検疫証明書だけなので楽なのだ。
「失礼ですが、パレスチナとイスラエルについてはご存知でしょうか」と将校。
私も詳細には知らないが、日本で一般的に知られている概略を話す。
「はぁ、なるほど、聞いていた話よりもずっと複雑そうですね」彼は、またか、とでも言いたげな表情だ。
「銀河でもよくありますよ、FTL文明か否かは関係なく、こういう事はあります」
顎に手を置いて目を瞑り、しばらく考え事をしている。「きっと、あなたとはまた会う事になりそうですね」
はぁ、と思わず声を出してしまった。それからもう一つ、と彼は前置きをしてこう言う。
「皇太子殿下が回られたところというのは、どこでしょうか?」
後日、日英のみで放送される帝国郵船が運営するニュース番組『帝国日報』にて戦闘の様子が報道された。
ガウラ軍は制空権を完全に掌握し、順調にイスラエル軍を切り崩しているようだ。
技術格差があるとはいえ、小銃と擲弾、野砲で武装した歩兵部隊に機甲部隊が完膚なきまでに叩きのめされるとは驚きだ、世界中が震えあがるだろう。
テレビの映像が切り替わると、今度はパレスチナ軍との戦闘で、ガウラ軍の機甲部隊(驚くべきことに第二次大戦期の重戦車に似ている)は彼らを蹂躙している様子だ。
つまりはあの辺り一帯を全て占領する気なのだろう。確かに一番手っ取り早い方法だが、まさか実践するとは。
これを目撃した世界は、一体どうなってしまうのだろうか、混迷は避けられないだろう。
しかし気になるのはあの将校の言葉だ、また会う、とは再び彼らが訪れるという事だろうか。
確かに一度占領する程度で何とかなる問題でもない気がするが。
今更になって思う事がある、彼ら、つまりはガウラ人は何しにこの地球にやって来たのか。
彼らは何を考えているのだろうか。