【完結】地球の玄関口   作:ターキィ

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宇宙からこぼれた殺人事件

実にくだらない出来事だった。いやホント。

 

 

さて、その日もその日で別段滞りもなく列を進めていた。

入国者と時々会話を弾ませながらも、その便の仕事も終えて次の便の準備(つまりは昼寝)でもしようか、というところであった。

突然、悲鳴が響き渡った。何事か、と警備員らが飛び出しそれに私も続く。

悲鳴の主の元へと行くと、真っ白になった植物型人種がいた。彼(彼女?)はピクリとも動かない。

その横にへたり込んでいるのが悲鳴の主だろう。グリフォンのような姿の女性であった。

「し、死んでるわ!間違いないの!」

確かにその植物人種はまるで草木が枯れたような体で息絶えているかのようだ。

「おやおや、事件ですかな」とそこへ現れるのが二人組の男たちであった。両方ともカラカル型人種だ。

「警備員さん、付近の人々を集めていただきたい。事情聴取ですよ」

「警察を呼んだ方が……」と警備員。全くその通りだ。

「まあまあ、実はこのお方、銀河を股にかける凄腕の名探偵なんですよ」

背の低い方のカラカル型人種の男が言った。そこで背の高い方が名乗る。

「どうも、ハッキリ言って私は名探偵、ヒラーク・ローイッタと申します」「私はその助手で医者のアメリトン」

なんとも謎の二人組だ、さながらシャーロックホームズのようである。

 

警備員らが近くにいた客たちを集めて、怪しい人物だけを何人か連れてきた。

まずは第一発見者であるグリフォン人種(厳密に言えば上半身は猛禽類のようだが下半身は爬虫類っぽい)、メウベ人の女性。

「あの、私は“偉大なるマードレ”といいます……その、驚いて……」

彼女はまだ落ち着かないのか、指を頻りに動かしていた。

メウベ人の姓は特殊で、地球人からすれば称号か渾名のようなものにも聞こえる。少しかっこいい。

ヒラークが彼女に問いかけた。

「ではまず、仏さんを発見する前は何をしとりましたかね」

「ええっとその……言わなきゃダメでしょうか……」

マードレはなんだか言いづらそうにモジモジとしている。

「出来れば、お願いします。アメリトン、メモの準備を」「はいよ、ヒラーク」

アメリトンは懐から手帳と鉛筆を取り出した。

「あの、私はその……お、お手洗いに、行ってまして……それで戻ってきたら、見つけたんです……」

恥ずかしそうに顔を手で覆いながら言った。確かにこれは言いたくはない。事件とも関係なさそうだし。

「もちっと前は、どうされてましたか」

「入国審査を終えて、お手洗いを探してました……ずっと我慢してましたから……」

「ふむ……なるほどね……」神妙な顔をするヒラーク。人の生理現象について聞いておきながら一体なにがなるほどなのか。

「ヒラーク、どうも彼女じゃなさそうじゃないか」

アメリトンが言う、私もそう思う。

「ま、それはまた後ほど。ではお次はどちらかな」

次なる人物は紫色の塗装の機械人種であった。

「どーも、こんちわ。俺様はティバセプトロン。気軽にティバちゃんって呼んでちょ」

一体誰が呼ぶというのか。「ではティバちゃん」呼んじゃった。

「この仏さんが発見されるまで何しとったの」

「俺様はちょっとキャバクラのねーちゃんと電話しててよ」

機械文明にキャバクラがあるとは驚きだ。本当に驚いた。

「それでよぉ、聞いてくれよ探偵さんよぉ……! 俺様があんなに尽くしてやったのにさぁ!」

彼はその場に崩れ落ち、啜り泣きを始める(比喩ではなく、涙腺機能が付いている!)。

「これ以上はアメリトン、君の領分だよ」

どう考えても面倒事を押し付けているだけだ。

「全く、人使いが荒いんだから」とアメリトン、おっさん同士なのに満更でもなさそうなのがなんか嫌だ。

「そいでね、お次は」

そこへ飛び出して来たのが四つ足のユニコーン(元より馬は四つ足だが)のような容姿の女性であった。

「私はバルキン・パイ!こっちは相棒のニンニ!」

そう言って彼女は超能力で浮かせたユニコーンの人形を見せてきた。この人種、エウケストラナ人は知性よりも先に超能力を手に入れた稀有な種族なのだ。

遵って、感性や人生観もかなり特殊な人種である。ただ基本的には善人ばかりの国だ。

「それではバルキンさんとやら、事件前の出来事をちょいちょいと教えてくんない」

バルキンは太陽のような笑顔を見せて、それこそ、『ニカッ』を絵に描いたような笑顔を見せた。

「いいよ!私は16年前、惑星エウケストラナのルベリー共和国、マリディア県イガート町に生まれたの。もちろん、赤ん坊の頃の記憶はないんだけど、私が3歳の頃、妹が生まれたんだ。両親は彼女にバルキン・レイって名前を付けたわ。レイっていうのは『幸せ』って意味!素敵でしょ!でも彼女、先天性の重い障害を持っていて、長くは生きられないだろうって。それで、この辺りから私の記憶があるんだけど私ってお姉ちゃんじゃない?だから、妹の為に何でもやってあげた。ずっと妹を優先してたから初等教育学校のクラスメートとも友達にはなれなかったの。で、10歳ぐらいの頃にこんな生活に嫌気が差して家出とかしちゃってね、笑っちゃうでしょ!中等教育学校も半ばって頃に、妹の病状が悪化して、両親も仕事があるから、私がずっと病院に通ってたんだ、部活動もやめちゃったんだよね。それで去年、忘れもしない、あの日はすごい雨で、道が混雑して両親がお見舞いには来られなかった。私と妹二人だけ。妹は私にこう言ったんだ、『お姉ちゃんごめんね、お姉ちゃんの人生も無駄にしたよね』って。妹は知ってたんだ、私が家出したって事も、部活動を辞めたって事も。妹には内緒にしてたのにね。それでね、私は妹に『無駄なんかじゃない、大好きな妹の為だもの』って言ったら、妹はニッコリと笑って『ありがとう、でももう心配はいらないよ。これからはお姉ちゃんだけの人生だから、もう辛い涙は流さないで』って。それでそのまま天国に行っちゃった。妹の最期を看取ったのは私だけだったんだ。悲しかったんだけど、なんだか肩の荷が降りたみたいな気持ちがして、不思議だったよ。だから、妹の分まで、私だけの人生を送ろうって、アルバイトしてお金貯めて、そしてこの地球って惑星が発見されたから、ここで新しい人生を歩むんだ!ってね!で、地球行きの宇宙船に乗って入国審査も無事に通って、悲鳴が聞こえたところに駆け付けたってわけ!どう?これでいい?」

非常に長く、ヘビーな話を聞かされて場の空気は一気に氷点下である。

「あの、気をしっかりね、一緒にトイレ行く?」

マードレが一応、慰めてるっぽい、トイレの話しかしないなこの人。

「俺様もいるから、な、今度飲み行こうよ」

ガソリンでも飲むというのか。

「ま……まぁ、よしとしましょうざんしょ残暑お見舞い申し上げます、なんつって」

氷に塩を注ぐようなことを言う。

なんだか妙に濃い人物が多いような気もするが、こんな連中入れたっけなぁ、と記憶を辿る。

最近は濃い連中に慣れ過ぎているのかもしれない、しっかりしなくては。

「こんなもんかな、こんなもんだろう」

ヒラークは一人で勝手に納得しているが、バルキン・パイの半生ぐらいしかわからなかったのではないか。

「さて、犯人っちゅうのがこの中にいますね」

らしいが、そもそも私が疑問に思うのが、例の植物人種は本当に死んでいるのだろうか?

また、監視カメラにも特に異常はないと警備員がこっそり教えてくれた。

ではこの植物人種は一体。

「こんな事をやりそうな人物はバツンと当たりがつくぜ、それはズバリあなただ」

とヒラークは私を指差した。はぁ?

「実に怪しいですからね、入国管理局の人間という立場を利用し、この人物を殺害した……」

どういう理屈でそうなったかはわからないが、周りはみんな軽く引いている。

「流石は、ヒラークだ」そう、このおっさんを除いて。

宇宙流のジョークだろうか、にしてもさほど面白くはないのだが。

「あはは、それってあなたたち流のジョーク?」と笑うバルキン・パイ。いいぞ、もっと言ってやれ。

そして如何にもな風に顔をしかめて、頭を抱えるティバちゃん。

「あの、真面目に考えませんか……」とマードレ。

名探偵が聞いて呆れる、彼らの国には論理とかそういうのが無いのだろうか。

「なんともはや、私の推理をお聞きになりたいようですな」

全くその通りだ、どうすればこの結論が出るのか。

「それでは私の推理をご覧いただいちゃったりなんかして」

と彼が口を開いた時、遺体(と思われていた物)が動き出した!

マードレが「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げ、場は騒然とした。

「はぁ、よく寝た。おや皆さん、お揃いでどうかされましたか」

そう、この植物人種は寝ていたのだ。みるみるうちに身体が緑を取り戻していく。

この人種は寝ている間は白くなる体質なのだという、私も初めて見た。

つまりはマードレの勘違いだった、というわけだ。では推理ってなんなのか。

「おあとがよろしいようで」と言ってサッと足早に立ち去るバカ二人組であった。

……一体、どうしてくれるのだこの空気を。

 


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