【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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本編。
イントロダクション


地球に宇宙人らが訪れてより、早くも三ヶ月が経過した。

初めて邂逅した時における地球の首脳部の混乱は想像に難くない。

しかしこの宇宙人らという者どもはよくある娯楽作品のように我ら地球人類に対して敵意を見せることは無かった。

ただ、彼らは一つの要求をしてきた。

『開国せよ』とただ一言。要するに国交を結びたいという話であった。

なんとも社交的な連中ではないか、と侵略の恐怖に怯える心配は無くなったが、

次なる問題というのがその交流の出入り口である。

我こそは、という国はまずいなかった。

当然、自分たちよりも遥かに優れた文明の国境に自ら進んで接してやろうという国は無いし、

そもそもその宇宙人を受け入れられるだろうか、国交には観光客の出入国の条項も含まれていて、

素性の知れぬ彼らが何をしでかすかの見当も皆目つかないというわけなのだから、

これを快く受け入れられる国という物はなかった。

何か思うところでもあるのだろうか、アメリカを始めとする移民国家は特にこれを嫌がった。

しかし、港を開かなくては、客人の機嫌を損ねることになる。

そこで国連は幾つかの方針を打ち出す。

一つ、島国である。

二つ、先進国である。

三つ、ある程度の治安が保障されている。

理には叶っている。

島国であることは渡航者による無断の越境を防ぐため。

そして、これらの管理を満足に行えるのは先進国でなくては不可能であろう。

三つ目に関しては言うまでもない事だ。

裏で何があったのかはわからないが、これらは明らかにある二つの国に役目を押し付ける形になっていた。

即ち、イギリスと日本であった。

 

さて、ここから少し私の話をしよう。

手っ取り早く言ってしまえば、私は運良く(いや、悪くだろうか)日本の方の地球の玄関口で働くことになったという訳だ。

以前は空港に勤めていたものだから、その関係で引っ張り出された。

異星人を相手するのは緊張もあるが、正直、ワクワクするものだ。

しかし不満があるとするならば、さほど給料が上がらなかったという点であろう。

 

そうして迎えた今日、日本がこの星の玄関口となることを宇宙人らに通達して丁度三ヶ月目、ついに門戸は開かれた。

大きな窓から眺めると空から降りてきた一番最初の宇宙船からゾロゾロと異形の者ども(人類から見れば、だが)がタラップを下っている。

送迎バスは彼らが乗り込むのを今か今かと待ち構えている様子だ。

この広大な宇宙港が僅か3ヶ月で完成し、運用が始まるのだから宇宙人の技術というものは我々の遥か先を行くものだという事が改めて実感できる。

技術といえば、我々職員、それから観光客らにはイヤホンマイク型の翻訳機が支給される。

この技術もまさしく魔法とも言えよう、原理はわからないが、試してみたところ地球の言語でも瞬時に翻訳してしまった。

しかも正確なニュアンスまで訳してくれるので魂消た。もはや英会話教室に行くこともないだろう、英語教師にとっては不幸な事だ。

このように、宇宙人連中からある程度の技術提供があったのが日本とイギリスの嬉しい誤算である。

進んだ技術をこんなに簡単に渡してしまってもいいのだろうか、とも思うが、やはり宇宙人というのだからきっと我々とも価値観や正義が違うのだろう。

あるいはこの程度の技術は彼らにとっては大したことのない物なのかもしれない。

 


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