【完結】地球の玄関口   作:ターキィ

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ガウラの軍旗祭:軍旗祭へ行こう

さて、待ちに待った軍旗祭の日がやって来た。

朝早くから車を出し、高速道路を使って向かう。宇宙人はまだ免許を取れないので私が運転だ。

 

 

「思ってたよりも乗り心地は悪いな」と助手席の毛玉が文句を垂れる。

休日なのだが翻訳機を一応持って来ているので、もちろん通じている(ま、翻訳機など無くてもガウラ語は喋れるがね)。

だが彼は忘れたらしく、何もつけていない。ガウラ軍の駐屯地に行くのだから問題は無いだろうが。

高級車じゃないんだから、と言っても「高級車に出来るんなら大衆車でもやるべきでは」などと抜かすのだ。

わざと差を付けて値段を変えているのだからという考えはきっと資本主義に支配されているのだろう。

そういえば帝国の交通機関はどうなっているのか気になる。

「別に、大部分は鉄道だ。鉄道と言えば『トトリパの戦い』の話が聞きたいか!?」

聞きたくないと言っても話すつもりだろう。

曰く、謀反の意を示す反社会的企業が秘密裏に作り上げた装甲列車とガウラ帝国軍の軌道戦車との戦いだという。

軌道上で行われた超高速の戦いは銀河ひろしと言えど他に類を見ないのだとか。

そもそも、装甲列車ならともかく戦車に無限軌道を付けたままレールの上に乗っけようというのがおかしな話だ。

そんなものを実戦配備したのはおそらくガウラの他にあるはずがないだろう。絶対にないと断言できる。

「それに、我が帝国軍の伝説的戦いぶりは宇宙時代にも変わらないのだ」

何がそれに、なのかはわからないが宇宙戦争は正直興味がある。まあ無かろうと彼は勝手にしゃべってくれるだろうが。

「第二次銀河大戦でのガウラ帝国は同盟軍を牽引する素晴らしい手腕を見せた」

西暦で言うところの1890年頃に起きた第二次銀河大戦……なんというか、漫画か何かに出て来そうな単語だ。

古からの銀河の支配者を名乗るクートゥリューを中心とした軟体人種の連合と哺乳類、爬虫類、鳥類人種を中心とする銀河同盟軍が戦った人種戦争である。

この際、軟体人種側は怪電波を飛ばして宇宙に散らばる原始文明らを仲間に引き入れようとしたのだ。

神話とも形容されるこの怪電波は天の川銀河の隅々まで広がった。

「だが連中は、知的生命体の大半がヌメヌメでもフニャフニャでもないって事を忘れていたのだよ」

軟体人種以外には効果が薄く、もし仮に触発されても悪夢にしか感じなかったとかなんとか。

しかしながら軍隊の方はそんな間の抜けた事はせず強力無比であり、同盟軍らも苦戦を強いられていた。

「そこでだよ、ガウラ帝国軍は新兵器を投入した……正確には同盟国のピール首長国だが」

……とにかく、銀河大戦で中心的役割を果たしたのがガウラ帝国であるという事らしい。

この地球でもデカい面をしているのも納得だ。尤もアメリカやロシア、中国と比べるとこいつらの方がマシなのだが。

 

駐屯地近くの駅に行くと、大勢の人間が並んでいた。

直接行くことは出来ず、最寄りの駅にてバスに乗らなくてはならないのだ。

メロードはここまで大勢の地球人がいるのに気圧されたのか、少し大人しくなった。

列を見る限り、単なる興味本位の家族連れからミリタリーマニアにSFファン、明らかに雰囲気と目の色が違う怪しい人物など様々だ。

外国人の数も多いが、宇宙人もそれなりにいるので白人や黒人でさえも日本人の中にいて目立たないのは面白い光景だ。

有料駐車場に車を停め、列に並ぶ。かなり時間がかかりそうだ。

「これはまた凄い行列だ、みんなガウラ軍に興味津々という事か」

一部はそうだろうが、大多数は軍と言うより文化や人に興味がありそうだ。私も軍よりは人(あとモフモフ)に興味がある。

ガウラ人である彼はやっぱり目立っていた、周りからチラチラと視線を感じる。

「なんか見られているんだが……」と耳打ちしてきた。当たり前だろう、と返す他ない。

ついに他の客らは話しかけてきたが、翻訳機を忘れたために、あたふたしている。

こちらに目配せして助けを求めるも面白いので放っておく。

「ごめんなさい、にほんごわからない」と懸命に返す様は可哀想だが可愛らしい。

 

ようやくバスに乗り、基地まで向かうと入り口には警備兵が立っていた。

バスを念入りにチェックして、異常がないかを確認すると、再びバスは動き出す。警備兵たちは笑顔で手を振ってくれていた。

人員が少ないためか兵舎などはこじんまりとしているが、兵器の格納庫や滑走路は恐ろしく広大である、隣でメロードが目を輝かせていた。

「凄い!あれを見て!あの戦闘機はねぇ!」と大いにはしゃいでいる。

基地内をバスが進みつつしばらくすると、滑走路に出た。

そこには屋台がズラリと並び、航空機や戦車も展示されていた。土嚢で作った簡易の陣地には機関銃や迫撃砲らしきものなども並べられている。

そして何より、どこを見ても人、人、人だらけである。これでは一度はぐれては二度と合流できないだろう。

すると、不意に片手の指の隙間にふわっとしたものが滑り込む。

連れの毛玉が私の手を取って繋ぎ(と言うより握り締めている、所謂恋人繋ぎ)、「こうしておけば大丈夫」とにこやかに言った。

私は下を向いて、その手を握り返した。

 


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