【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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なんか、メロードが取材を受けたらしいのでご紹介しておく。


読み物:密着!地球の玄関口

あの日、日本は突然宇宙時代に突入した。

街には多種多様なる地球外人種が行きかう。二足歩行の哺乳類から、幽霊のような容貌の人種まで。

その中心となったのが、かの宇宙港だ。

これまで多くは語られることのなかったこの宇宙港に、遂に取材のメスが入る。

 

 

今回取材に応じてくれたのはガウラ人の若き警備員、メウロルド氏である。

彼はここに来る前には、今現在地球を騒がせているガウラ帝国陸軍の超能力兵部隊に所属していたのだという。

「みんなには、『メロード』と呼ぶように言っている。その、この『メウロルド』という名前はガウラでは女の子の名前だから……」

少し恥ずかしそうに彼は言った。

彼がこの星に志願した理由は「まだ知らない世界を見る」ためだというのだ。

遥か宇宙の故郷を離れこの地球にやって来たメウロルド氏改め、メロード氏。

「ここの生活も慣れたものだ。多くの日本人は親切にしてくれるし、冬になって豪雪が降れば過ごしやすくもなる」と彼は語る。

 

さて、彼と共に宇宙港に入ってみよう。

一見すると従来の空港とさほど変わりは無く、むしろこじんまりとした印象を受ける。

「宇宙船一隻に乗せられる乗客は120名だ」と彼は言った。

目的地によっては長い旅になるため、積載物の多くが物資であり、更に便数も少ないためターミナルも一つしかないのだ。

「ここから海王星軌道ステーションまで飛び、そこからFTL航法にて他の星系へと向かうのだ」

ざっくりとした説明だが、おそらくは詳しく話すことは禁じられているのだろう。

 

メロード氏の仕事は警備である。その日が特に何もなく終われば、それが一番いいのだ。

その日も彼は定位置につく。視線の先には入国審査を行う職員と審査を受ける入国者がいた。

「入国者の動向を見張っていて、職員が合図をすればすぐに向かうようになっている」

そうしているうちに、審査官がメロード氏に対してウィンクをする。

彼に今の合図の意味を尋ねると「ああ……今日も一日頑張ろう、って合図だ……」と恍惚の表情で答えた。

「あの人はそう、情熱的で、陽気で、聡明で、なんて魅力的なんだろう」

詳しい事情はわからないが、少なくともメロード氏はあの人物に夢中のようだ。

 

休憩時間を覗いてみよう。

多くの職員は宇宙港内のレストランで食事を取るそうだ。

全体的に見ても、一般的な地球の空港と比べると規則はかなり緩い。

「職員だって人間なんだから、その職員が食事を取って気にする人がいるのだろうか」とはメロード氏の疑問だ。

宇宙的価値観なのだろうが、言われてみると確かにその通りだ。宇宙にはクレーマーなるものはいないのだろうか。

その点も彼に聞いてみたところ「いないわけじゃないが取るに足らない」とのことだ。

「もちろん、こちらの失態ならそれ相応の対応はするけどね」と彼はにこやかに言った。

今日の昼食は十割蕎麦だ。彼の故郷、ガウラでは蕎麦に似た穀類がポピュラーな食べ物なのだ。

「故郷の味に近いものがこんな遠くの星でも食べられるなんて思いもしなかったよ」と彼は言う。

ガウラではその蕎麦に近い植物を麺はもちろん、粉にひいて焼いたり、実のまま煮て食べる。

なんだか親近感が沸くような話だ。

 

そうして、午後の勤務でも同じく警備だ。

彼は定位置についた。視線の先には情熱的なあの人が書類を覗き込んでいる。

「本当にあの人は、そんなに多く関わったわけじゃないはずなのに」

一見して男性か女性かわからない風貌のかの人物に、メロード氏は虜なのだ。

ふとして見ると、彼(彼女?)の表情が険しくなった。

ピピッとメロード氏の服についた受信機が鳴り「出番だ」と腰に下げた警棒を抜いた。青白い光を帯びている。

颯爽と走り出し審査中の客に警棒を振りかざし警告した。

「手に持ったものを地面に置いて、大人しく壁に手をついて、下手な真似はしないように」

その鰻のような容貌の暴漢は手に持った拳銃のようなものをメロード氏に向ける!

「動くんじゃねえぞ、毛むくじゃら!」辺りは騒然としていたが、パニックは起きていない。

しかしメロード氏は全く動じずに「銃を捨てて、手を壁について」と答えた。

「このケモノどもめ!」暴漢が引き金を引こうとしたが、カチッカチッという音がするだけで何も起こらない。

その隙にメロード氏は目にも止まらぬ速さで肉薄し、警棒で叩きのめしたのだ!

そう、彼は超能力を使ったのだ。

 

収監が完了するとオフィスを案内してくれた。内勤の職員たちがパソコンと睨めっこをしている。

ここでは多種多様な人種が仕事をしていた。日本人、ガウラ人はもちろん、ロボットや猫みたいな人種も存在した。

種族、思想を超えて、彼らは協力して仕事に取り組んでいる。

 

最後にこの宇宙港について聞くとメロード氏は快く答えてくれた。

「幸か不幸か地球の玄関口となってしまったこの国だが、きっとこれは素晴らしい事ではないだろうか。少なくとも、私はこの素敵な出会いに感謝している。是非ともこの宇宙港を利用してまだ見ぬ世界を目撃して欲しい」

宇宙港はこれからも行く人来る人の出会いと別れの物語を奏で続けるだろう。

 


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