【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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白い黄金

惑星の構造、その生まれ方によってはその星の資源量というのも大いに変わってくる。

なので、意外なものがもてはやされたりすることもあるのだ。

 

 

「こんな惑星で、商機なんて見つかるものだろうか……」と呟くのがスナネコ型人種の商人であった。

失礼な事を言うものだ、と思いつつも、銀河にはまだまだ裕福な星があるのだろう、とも思う。

しかしながら意外とも言えよう、地球は割と裕福な方である。色々と原因はあるが、ガウラ帝国が資本主義嫌いなのも原因の一つらしい。

この帝国というのが銀河でも有数の、言わば銀河列強の一つであるので、すり寄る国々は市場経済を捨てるのだ。

そういう計画経済、社会主義的な体制でよく大国の地位を維持できているものだ。たまに来る商人らの話によれば金銭に関する制度がガッチガチに固められているとかなんとか。

ではなぜ、彼女はこんな惑星で、というのだろうか。

「需要がわからないし、製品規格も違う。考え方も、好みも。そこを何とかするのが商人なんだろうけど、僕じゃとても無理だよ」

はぁ、と溜め息を吐いた。「父さんは僕に会社を継がせるため、ここで修行をするよう送り出されたんだけど」

なんとも哀れな娘である。私にはアドバイス荷が重いが、一つ訊ねてみた。

「ええ?資源?まぁ、一通りは調べたけど……せめて近世に来れてたらね、金と銀があったんだろうけどさ」

宇宙でもやっぱり金銀は貴重なようだ。日本では、それこそ江戸時代には大量に掘れたが、今では大した量は出ない。

冶金技術が低かったため、中国に銅鉱石に混じったのが出て行ったという話も聞いたことがある。

「綺麗だし薄く延ばせるから、お菓子の包み紙にするんだよ」訂正、全く貴重では無さそうだ。ええ、お菓子の包み紙ぃ?向いてないでしょ。

どうも聞いた話だと、彼女らの星は金が掃いて捨てるほど取れるらしい。むしろ鉄や銅の方が貴重なんだとか。

どんな生まれ方したらそんな惑星になるのか、ていうかそんな星存在し得るのか、色々と疑問は尽きないが、この商人が嘘を言っているとも思えないのだ。

まぁ、細かい事は気にしないようにしよう、そもそもよく考えると目の前の宇宙人も割と信じ難いものだし。

「もっとよく調べるといいのかな……」彼女は肩を落として去っていこうとするが、足を止めてこちらに向き直った。

「君は何か知っている?この国の鉱石資源とか……」残念ながら、この島に豊富にあるものは一つしかない。

私はその資源の名を伝えると、彼女は耳と尾をピンと立て、大いに驚いた。

「君!君、君、君!なんて言ったの今!」慌てて懐からペンと手帳を取り出す。

驚いたが、私はもう一度口にした。「なんだって……ここは黄金の国じゃないか……!」

そう、日本でも豊富に存在する鉱石資源というのは、石灰である。

 

彼女の星は石灰など生物由来の資源がほとんど取れないというのだ(その為大理石ではなく金などを建材に使っているのだとか。羨ましい!!)。

また貝類やサンゴなどの殻を持つ生物も稀にしか存在しない。即ち石灰は全く取れない。

さて、日本列島ではこの石灰岩というのは掃いて捨てるほど埋蔵されている。

当然契約は成立、彼女はとある日本の石灰生産会社との間に同量の金と石灰を交換する契約を結んだとの事である(胡椒じゃないんだから)。

日本は巨万の富を得たかに思えたが、無尽蔵にも思えるほどの金が地球の市場に流入した結果、金相場が暴落した。大混乱である。笑い事ではない(でも笑っちゃう。ていうか誰か止めろよ!)。

一方で彼女の方はというと、石灰というのはかの星ではいくらあっても足りるものではないので大きな値下がりもせず莫大な利益を得たという。

 

しばらくしてから、やあやあ、と彼女は再び日本にやって来た。

「君にヒントを貰ったのを忘れていたよ」と彼女は私に地球製のアタッシュケースを渡す。

こういうのはこの場では受け取れない、と言うと、彼女はニヤリと笑う。

「今日はいいの。この大富豪、ミユ・カガンがついてるからね」

彼女は自身の顔を撫でるようなしぐさをした。そして視線を少し私の後ろに向けると、フフッと笑って立ち去って行った。

私が後ろを振り向くと、局長がいる。「今日だけだぞ」とでも言わんばかりの表情だ。

収賄、贈賄を憎むガウラ人にしては珍しいな、と思いつつもケースを受け取り、隅に置く。

私はその日は仕事に身が入らず、さぞ浮足立っていた事だろう。

ようやく仕事を終え、待ってました!と言わんばかりに猛ダッシュで帰路に就く。

家に帰りつくと、アタッシュケースを床に置き、その前で正座をし、ジッとケースを見つめた。

そうして深呼吸をし、ケースのカギを開け、ゆっくりと蓋を開ける……。

大量の石灰が袋詰めにされていた。

 


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