私の調べた限りでは、なのであまり当てにしないでいただきたい。
政府の判断により研究の存在が秘匿されている、または調査に対して虚偽の回答をした、などの可能性は排除出来ない、という点も付け加えておこう。
原子力そのものの研究は様々な分野において活用されているようだ。
特にエネルギー分野においては多くの研究の基礎となっている。
逆に兵器としての利用は全くと言っていい程活用されていない。
原子力時代
一般的な宇宙文明は原子力の時代を通ってきている、そしてその時代を生き抜いた。
これは致命的な原子力災害や核戦争が起きなかったことを表す。
多くの文明は放射線の恐怖に怯える事なく、原子力に替わるエネルギーを発見し、原子力時代を終えた。
またこれは、一致団結により繁栄を手にした宇宙文明が現在のところ多数派であるというのも理由の一つとして挙げられる。
核戦争が起こり得る状況になかったのだ。
放射線の防護
宇宙線防御は星間航行の基礎技術であるため、放射線を気にする必要のない極僅かな種族を除いて、宇宙線を完全に克服している。
それらに加えてX線、ガンマ線、中性子線などの各種放射線も克服している。原理は当然企業秘密である。
放射線の人体への影響については経験則や動物実験などで認識していた、にも拘わらずこれらが軽んじられたのはこの防護技術の発展の為である。
当たらなければどうという事は無い、と他に予算が必要な研究へと資金が回されたのだろう。
また、研究そのものをタブーとする文化も存在する。
兵器としての原子力
前宇宙時代ではそうでもなかったが、宇宙時代になってはこの原子力の軍事利用はエンジンなどの使用に留まっている。
荷電粒子砲を始めとする粒子兵器などを放射線研究の延長線として核兵器と見做すのならば別だが、全く性質が異なるため一括りにされることはそう多くない。
宇宙艦隊戦における原子爆弾
まずは宇宙艦隊戦の大まかな説明をしよう。
広大過ぎる宇宙では、敵艦隊との遭遇に半月から1か月を要する。もちろん、これは敵の移動経路を完全に読み取った場合である。
そうでなかった場合では数か月以上の時間がかかる事さえもあるという。索敵だけでだ。
会敵後、戦闘が開始され、ゼロ距離から1000万kmの範囲で戦う。
長距離では超光速兵器、光子兵器、FTL強襲(転移系のFTL航法を利用し直接敵艦に宙間魚雷やミサイルを叩き込む戦術)などが使われる。
中距離では上記に加えてレールガン、電撃兵器、近距離では砲撃、宙間魚雷、ミサイル飽和攻撃、近接距離では移乗攻撃やパイルバンカー、対艦光子刀剣が使われるという。
さて、原子爆弾の出る幕はあるのだろうか。答えは否である。
長~中距離において使えないというのはわかるだろう。砲弾として使用するにしても、起爆装置に加えて核燃料も搭載しなくてはならない為、非常に狙いやすい的となってしまうのだ。
宇宙時代のレーダーは高性能で、しかもほとんど遮蔽物の無い宇宙空間、大きければ大きい程砲弾としては不利である。
近接距離での原子爆弾は移乗攻撃や物理攻撃の邪魔になってしまう。その上、原子爆弾の威力にもよるが宇宙戦闘艦の装甲を貫くのはそう容易い事ではない。
また、差は国にもよるが通常弾薬に比べ高価である点、放射線によるダメージは期待できない点、管理と保守の煩わしさ、他の強力な兵器に比べ費用対効果が薄い、文化によってはロマンを感じない、気味が悪い、臭い(放射線を鼻腔で感じることができる種族が存在する。めちゃくちゃ臭いらしい)などの意見もある。
空襲、地上戦での原子爆弾
これについても、やはり放射線がネックとなるようだ。
地上戦においてこれを使用するとなると、対放射線防護装備を用意しなくてはならない、相手が使用するしないに関わらずである。
自軍の士気にも悪影響を及ぼし、占領地民の怒りも買う、また堅牢な要塞にはあまり効果がない、など使用に躊躇する条件を数多く満たしている。
ガウラ帝国では要塞を破壊する貫通兵器との併用も考えられたが、歩兵部隊の方が安価で強力との結論が出たそうな(元々、歩兵信仰の国ではあるのだが……)。
ただし、民間人や非武装地帯などのソフトターゲットに対しては多くの軍隊がその効果を認めている。
人道的か否か?
宇宙では兵器が人道的か非人道的かについて考慮されることはほとんどない。鉛筆でも人を刺すという非人道的な使い方が出来るのだから。
要は使い方であって、兵器そのものに人道も非人道もないと考える国が多いようだ。
ただ、放射線を不浄のものと考える国や文化は少数ながら存在するという。そういう文化に言わせれば非人道的であろう。
そもそもの話をすると、人道、人権という価値観自体が存在しない国も結構な数存在する。
治安が良く社交的で優しくて温和な民族ほど人権思想は芽生えず、育たない。理由は書かずともわかるだろうが、これほど皮肉な事も無い。
地球人と原子力
先も書いたように放射線そのものについては地球の科学の遥か先を進んでいる。
しかしながら、人体への影響に関しては進んでいるとは言い難く、むしろ遅れていると言っても差し支えない。
これも先に書いたのと同じく、需要がなかった為である。天然痘が消えた今、天然痘の予防接種が無くなったのと同じ、と言えるかもしれない。
一方、地球人類は何度も繰り返し被曝してきている。
マンハッタン計画の人体実験を始め、広島と長崎、冷戦期の核実験に、東海村、チェルノブイリなどの原発事故、子供用の実験キットにウランが入れられていたり、チョコレートや歯磨き粉に混ぜられたりなどの放射線グッズ。
天の川銀河にここまでの事をした星は他には僅かにしかない。なぜならそのような星は殆どが既に滅んでいるからだ。
核開発競争と多くの原子力災害を起こしておきながら今日まで生き残っているのは少なくとも天の川銀河では稀有な事例である。誇ってもいいだろう。
ちなみに
宇宙港がある日本に存在し、交通の便もそう悪くない広島は人気の観光スポットである。
その影響なのかは不明だが、地球人のステレオタイプとして赤い帽子とTシャツを着用した姿が定着しつつある。