【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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オリンピック作戦:金銭を優先

 

さて、困った。

いや正直、あまり困りはしていないのだが、プレゼンに対して何も用意してきていないのだという。

対するミユ社には秘策があるようだ。

 

 

それで、我々に案を出せとは言うが、素人意見しか言えないのだが。

「それでもいいのです、残念ですがわたくしには皆目見当もつかないのです、はい……」

誰だこんな無能を寄越したのは!と言いたくなる気持ちを抑え、吉田にも聞いてみる。

「うーん、そもそもボランティアの内容も知らないし……」

ダメだこりゃ。まあ私も知らないのだが。

吉田がスマートフォンを一生懸命テチテチして調べたところ。

案内、競技の補助、運転、接遇、事務、救護、機器の操作、取材の補助、式典スタッフと、どれも素人にやらせるのはどうなのという代物ばかりだ。

ましてや宇宙人にやらせていいものなのだろうか。プレゼンが企画されたって事は政府も前向きに考えてるって事なのだろうが。

「そもそもがですよ、募集をしているにもかかわらず賃金を払おうとしないのがよくわかりませんです」

「それはもう、そういうものだとしか言えないな……オリンピックに関しては……」

この慣習は戦後すぐのロンドンオリンピックから始まったものらしいのだが、オリンピックにさしたる興味も無い私としては好き好んで苦行をしに行く理由もわからない。

ましてや、敗戦国だからと日本が参加させてもらえなかった回から始まった風習に拘る点も実に馬鹿らしい。

「そりゃあ、オリンピックの運営に参加できるのなら大変な名誉だと思う人もいるだろう」

スポーツ大会に熱狂する気持ちもわからないでもないが、だからってボランティアに行こうってなるのだろうか。

「ん~、お前さんの好きなアーティストとかの手伝いが出来るのならタダでもいいだろ?」

いや、そんな事はない。そもそもが素人が手伝おうなどというのが烏滸がましいのだ。寄付ならするが。

「お前は思ってたよりも嫌なやつだな……」

吉田は思っていたよりも割と良いやつのようだ。

まあ我々がボランティアするわけではないのでこんな事を話していてもしようがない。

「その点はいいとして、私としては理事だの何だのにはきちんと報酬が支払われている点が疑問です」全くその通りである。

「初めて知った時は耳を疑いましたよねぇ、あまりにも信じ難い、我が帝国の恥晒しです」

「いや、日本はお前さん方の帝国に加わった覚えはないぜ……」

そしてこのキノドクさんも実に嫌なやつである。そういう事は思っていても口には出さないのが地球の流儀だ。

「経済の為にやっているんですよね?もっと全体に金をばら撒けば、その分だけ経済が潤うのですよ?」

 

経済に明るくはないが、どんなに金を稼いでも使わなければ意味がないという事はわかる。

その点において、ミユ社ほど卓越した文明はいないだろう。彼らは数多くの場面で莫大な金を使い、そしてそれ以上の利潤を得ている。

「やあ、お久しぶりだね」と言うのはミユ・カガンだ。私にとっては忘れられない人物だが、彼女にとっても私は忘れられない人間のようである。

「だって君、君のおかげだよ。僕がこうして父さんに認められたのも君のおかげだもんね」

そう言われると照れてしまう。彼女は今やミユ社の幹部として職務を全うしているというのだ。

「それで、僕のプレゼンが見たいそうだね。どうせ帝国だろう?」

ご名答。お見通しのようである。

「帝国の貧乏性はなぁ、まあだから安定した経済と強大な軍隊を持っている訳だけど」

しかし先程から妙に近い。何なのか、パーソナルスペースが存在しないのがミユ社の社風なのだろうか。

彼女の手は私の腰に当てられている。私がその点を指摘すると、彼女は元々まあるいおめめを丸くした。

「嫌だったかい? ほら、あの例の帝国の警備員と、してたじゃないかスキンシップ」

いつどこで見られていたのか。まあモフるのは好きだし、嫌な感じはしないが……。

「別に他意なんて無いよ、僕には将来を約束した人がいるし」

そう言って彼女はフイッと私の方から目を逸らして前を向いた。

「でも、でもね、君…………君には恩があるから、僕と君とで特別な関係というのは本当だと思うな」

私の方を一度も向かずに言った。きっと照れているのだろう、私とて宇宙人の親友が出来るのは喜ばしい事だと考えている。

「さっ、プレゼンだったね。見せてあげるよ」

彼女はアタッシュケースっぽい箱からタブレット型の端末を取り出し、私に見せた。

まずは制度、機関から作り上げ、それぞれのスタッフの教育機関から何から何まで、地盤を整えようとしている。

キノドクさんが危惧していた物よりも遥かにまともであるが、これを実行するとなるとかなりの金額だろう。日本政府に払えるだろうか。

「その点は抜かりはないさ。足りない分はこちらが出すよ。もちろん、対価も貰うけど」

ニヤリと口角を上げる。ただまぁ、私の祖国なので出来ればお手柔らかにして欲しいものだ。

「この星は実にいい、まさに金脈と言える。このプロジェクトはその重要な一歩だ」

今回が成功すれば、その成功を経済的な橋頭堡しようという考え方なのだろう。地球が豊かになるのなら割と歓迎すべきことだ。

とはいえ、我々地球人も金銭を優先する質だが彼らの金遣いの荒さは少々激しすぎるかもしれない。

 


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