【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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戦闘ロボットの憂鬱

『人権』というものをご存じだろうか。

どうやらこれは誰もが生まれながらに持っている物らしく、しかも憲法によって保障されているらしい。(我々労働者には関係のない話であるという事は労働基準監督署が仕事をしないことからも明らかである)

さて、生まれながらに持っている物というその『人権』とやらだが、

もしも、生まれながらに持っている物がそれではなく超粒子砲などであったのならどうだろう。

 

宇宙人というのは様々な種族がいて、爬虫類人種や菌類人種は話に出たと思うが、

他にも鳥類、虫類、哺乳類(人類もこの分類だろう)、植物類(言うまでもなく、『植物人間』ではない)、軟体類など様々な人種が存在している。

そうして、今回の話に登場するのが機械生命体で、所謂ロボットである。

もちろん金属探知機に引っかかる。しかし、機械人種だからとむやみに入国を拒否するわけにはいかないので、

彼らには検疫証明書とは別途の武装解除証明書が必要であった。

今度の客は、それを持ってはいなかったのだ。

書類が不足している、と言うと、彼はこう言った。

「わたしは武装とエネルギーユニットが直接繋がっていて取り外しが出来なんだ」

そんな事情を私に話して、一体どうしてもらおうというつもりなのだろうか。

「悪いがね、通してはくれないだろうか、ほら、エネルギーチップを払うよ、なぁ頼むよ」

と、恐らく彼らの通貨らしきものを机に置く。

「これは地球で言うところの金の延べ棒三本分ぐらいはあるはずさ」

日本円でざっと一億二千万円ほどの価値がある、と言うのだ。

私は頭がグラッと来るほどの衝撃を受け、椅子から転げ落ちそうになった。

「おいおい大丈夫かい、君には私のパスポートに判子を押してもらわないといけないからね、頼むよ」

それにしても、ロボットにしてはなんとも人間臭い人物である。

私は、これを受け取ることは出来ない、入国は規則上拒否しなくてはならず、上に話を持っていかないと変えられない、という旨を彼に告げる。

すると彼は落胆した様子で「そうかい……」と、返した書類とエネルギーチップを受け取りトボトボと戻っていった。

その日の業務終了後、私はこの出来事を上司に伝えた。

 

数日後、彼のような戦闘ロボットは可能な限りの武装解除と厳重な思想検査を通れば入国は可能、と規則が変わった。

その日から数週間の入国者は少し機械生命体の割合が多かった。そして、その中にも彼はいた。

「先日はどうも、上に掛け合ってくれたんだろ」

意気揚々といった雰囲気で話しかけてくる。私はただ上司に伝えただけだ、と答えると、

「なに、謙遜することはないさ。ほら、これを受け取ってくれ」

と書類と共に先のエネルギーチップを差し出した。

「ほら、こっそりポケットにしまっておきなよ。お礼だよ」

これは受け取れない、とエネルギーチップも返したのだが彼は書類だけを持って去っていった。

さて、こいつをどうしよう、と睨んでいると、次の客が入ってきた。

「おや、それはエネルギーチップ。なかなかいいやつじゃないか」

彼も機械生命体であった。このチップについて聞いてみると、

「確かに価値はあるが、有機生命体の個人じゃ百年かかっても使い切れやしないぜ。国に渡した方がいい」

との事であった。だが私は不思議とそんな気にはなれず(そもそも横領か収賄かでしょっ引かれるかもしれないのに)、机にこっそり大事に飾っておこうと決めた。

 


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