例の新人、スワーノセ・ラスは気難しさは私が出会った宇宙人の中では一二を争うものであった。
まあそういう人間もいるだろう、とは思うのだが。
ラスは毎日不機嫌であった。何らかの生物学的なアレなのか、と疑うぐらいだ。
しかしガウラ人にはそういうのは無い(発情期に類するものはあるらしいが)のだという。
仕事に差し障るほどではないが、いい気分ではない。
彼女に、なぜそんなに不機嫌そうな顔をしているのか、と聞いてみると「私は元々こういう顔です」と取り付く島もない。
それなら、この場所か、私が嫌なのかもしれない、と局長に相談することした。
「うーん、やはりと言うべきか否か……」
なんと、彼にはどうやら心当たりがあるらしい。
「なんてったって、エレバンの地方領主の家系だからね」
エレバン(『星の下』の意。アルメニアの首都とは関係ない)というのはガウラ人の母星であると同時に帝国の首星である。
そこの領主、というとファンタジーな感じだが、世襲制の県知事と考えるのが一番しっくりくる。
で、彼女はそんな領主一族、スワーノセ家の出なのだ。まさに名家のお嬢様である。
「素晴らしい一族なんだが、一体どういう訳なのか。虫の居所でも悪いんじゃないの」
だとすると、いい加減機嫌も直って欲しいものだが。
ガウラ人の事はガウラ人に聞くのが一番だ。というわけで警備員二人にも話してみた。
「ああいう言い方はよくない」とメロードは言う。それはそうなんだが。
「内地の人間はああだから。日本で言う京都の人間みたいな」
京都人のアレさが宇宙人に伝わっているのも興味深いが、やはり事情はどこでも同じなのだろう。
「しっかしよォ、なんだってこんな星に来たんだ? スワーノセ家と言えばエレバンの大穀倉地帯の領主だろ?」
エレクレイダーが疑問を投げかけた、それを聞くと彼女がここに来たのは実に不思議だ。
「さぁ、勘当でもされたんじゃないか」フンッと鼻を鳴らして言い放つメロード。
どうも彼は首星の人間があまり好きではないようだ。
「メロードは田舎者だからな。まあガウラ人の大半が田舎者なんだが」
確かにそれは言えてるが……とメロード。しかしだとすれば彼女もまた田舎の大地主ってことではないのだろうか。
「結局、驕り高ぶってるだけだろう」「そんなもんかねぇ……」
二人とて、意見が分かれるところのようだ。
そうなると直接本人に聞くが一番であるという事だ。私はその夜、彼女の寮を訪ねてみた。
「不躾ですね、いきなり来るだなんて」
やはり取り付く島は無さそうだ。しかしその理由を聞きに来た。
「別に、元々こういう性格なんです」
私はあまりにもそういう態度が続くと業務に支障をきたすし気分もよくないということを粘り強く懇切丁寧に説明する。
すると根負けしたのかポツリポツリと話してくれた。
「うるさいですね……別に、こんなところに来たくなかっただけです。私は、支配者の一族ですからこんなところでこんなことやってる場合ではないのに」
なんとも引っかかるというか、鼻につく言い方だがこの地球に来たのはかなり不本意な事らしい。
「お父様は、きっと私の事が嫌いなんです。でなきゃこんな原始文明に寄越したりはしません」
彼女はメロードと比べてみても比較的若いように見えるので、そんな彼女が単身この遠い星に来て寂しく思っているのではないだろうか。
「失礼な、16歳ですよ、立派な成人です」
帝国の暦では1年が255日なので地球の暦で換算すると……11歳ぐらいだろうか、地球の感覚だとかなり若い。
「帝国ではこれが普通です。もう結構でしょう?早いところ立ち去って下さい」
結局、ペッと部屋から追い出されてしまった。