私は今、もちもちとつくしんぼを一人で摘んでいる。
何故一人ぼっちで、と聞かれれば、それにはちょっとした訳があるのだ。
本日は近くの河川敷に来ていた。
この日は帝国の祝日、建国記念日らしく帝国の企業の一部である宇宙港もお休みなのだ。
それで、なぜ河川敷に、というとこれは我が友人佐藤につくしんぼ取りに誘われたからである。
「以前なら誘っても絶対来なかったのに」そんな時もあるのである。ホントよ。
しかしながら、結構朝早くに来たつもりであるのだが、もう数人ぐらいが取っているのを見かける。
誰も彼も年配のご婦人であるので、私たち若い二人が浮いてしまっている気もする。
「そんな事気にするまでもないでしょ」
そう言われればそうであるのだが……ともあれ天気も良いのでいい気分転換にはなりそうだ。
「つくしって言ったらやっぱり、卵とじでしょー、おひたしでしょー……そういえばそれ以外に何かある?」
考えてみると、つくしんぼ料理は卵とじとおひたし以外はあまり聞かない。
炊き込みご飯なんかどうだろう、と提案してみるも「うーん、ご飯かー……ご飯は白ご飯がいいからなー」
そんな事をだべりつつもちもちつくしんぼを摘んでいると、近くにいた人が橋の下辺りを指さして騒いでいた。
どうかしたのかな、と橋の方に目をやると、やや、あれは宇宙人だ。
「あ、宇宙人?」
それもマウデン家の人間である。一体何をやっている、いやキメているのだろうか?
「ちょっと見に行ってみようよ。あんた得意でしょ!」
まあ苦手ではないのだが……実際興味が無いわけではないので行ってみる事にした。
近づいてみるに、やはりマウデン家の人間(?)のようだ。何やら箱を見つめている。
こちらに気が付くと、挨拶をしてくれた。礼儀は正しいのだ。
「やあどうも地球市民よ。お初にお目にかかる。私はマウデン家の臣民、イェッタービゥムである」
あ、どうも……と二人して頭を下げる。
「実は、この四つ足の動物が、これはきっと飼育放棄をされているのだろうか、どう思うかね」
彼(便宜上彼としておく)の前の箱には、痩せこけた子犬が一匹、礼儀正しくお座りをしていた。
「なんて事を!!」佐藤は怒りを露わにする。「……あっ、あなたではなくて、捨てた人に、ですね」
「私も同じ気持ちである、我が祖国マウデン家領でも、このような事は稀にだが、起きる」
ああ、情けなや、と嘆息を漏らすイェッタービゥム。
彼らの星であっても、こういうペットに関する問題があるのだろう。
それで、彼は袂(どこ?)から飴玉のようなものを取り出す。多分例のカーマルマミン酪酸だろう。
「その通り、もちろん薄めるが、少しは気付けになるというもの。害は無い」
更に日本で買ったと思しき水筒を取り出し、水を入れたコップに飴玉を噛み砕いて混ぜ、子犬に飲ませた。
「私は……私も、幼い頃は動物を飼っていた。しかしながらだ、幼き故に、不幸な目に遭わせてしまった……」
少し想像に難いが、彼も小さな頃に動物を飼っていたが、段々と世話も雑になっていき、最後には事故で死なせてしまったのだという。
それを語る彼の表情はわからないが、声色には強い後悔の念が感じられた。佐藤も険しい表情だ。
「こんな事をして、贖罪になるとも思えないが、ここで会ったも何か運命的なものだろう、可能ならば我が国に連れ帰りたいが……」
「そうですね、この子があなたを選んだのだと思います」
佐藤は言った。
「……おかしなことを言う、それは地球の考え方か? 面白い考え方だ。ふふ、私が選ばれたのだな」
飴玉が効いてきたのか、子犬が元気を取り戻して来たようで、彼の触手をペロペロ舐めている。
「こうして見ると、初めは不気味なヤツだと思っていたが、可愛いものだ」
お前の方が不気味だろ、とは今は言わないでおこう。私の顔を見て考えを察したのか、佐藤はクスリと笑った。
「さて、これは空元気だから、しっかりと栄養を取らせないと。詳しい者はあるかね」
「ええ、私はこういう関係の仕事に就いていますから詳しいですよ!」
「それは心強い」
長い触手で箱ごと子犬を持ち上げると、佐藤と二人歩き始めた。
「じゃあちょっと一緒に色々と見繕ってくるね」
それについては大賛成ではあるのだが、つくしんぼはどうするというのだろうか。
「ん~……じゃあ、適当に摘んどいて」
いやちょっと、ねえ、私一人で、ひどい、寂しいなぁもう。
そういうわけで、一人つくしんぼをもちもちと摘んでいる。もう夕方だし、粗方取り尽くしたので座っているだけだが。
遅いなぁ、多分私の事忘れてるよなぁきっと。グスン。