【完結】地球の玄関口   作:蒸気機関

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トラブル大名

偏屈な人物、怒りっぽい人物はどこにでもいる。見ている分には滑稽だが、実際に関わると質が悪い。

そしてその人物が強大な宇宙艦隊を持っていたとしたら、どうして我々地球人類の手に負えようか。

 

客の来ない空いた時間に、急に呼び出しを受けた。

なんでも、ターミナルに物凄く怒っている客がいるそうだ。

誰かが何か粗相でもしてしまったのか、と大急ぎで向かうと、エビ型人種が座り込み(どういう身体の構造をしているのか?)をしていた。

その近くでは同じ種族のボディーガードらしき二人組と警備員、係員が共に頭を抱えている。面白い光景だ。

吉田も同じく呼ばれていたのだが、「一体どうしろと」と溜め息を吐く。

この人物は数日前に私が入国させた人物であり、ああ確かに見覚えがあるな、と思いながら眺めていると、

「お前が入国させたんだから何とかしろ」と吉田に小突かれ、私は彼に話を聞いてみることにした。

「この国の政府の軟弱さと言えば、さながらムジェイルヌの尾っぽのようだな!」

このムジェイルヌというのがよくわからないが、非難しているという事は察することが出来る。

「つつけば引っ込むような軟弱者という事だ!どうして報復しようとしない!もう百年が経とうとしているぞ!」

報復とは誰にでしょうか、問いかけると触角をキチキチと鳴らしてこう言い放つ。

「連合国だ!それに図に乗りあがった朝鮮半島と国民党の連中にも思い知らせてやるべきだ!太平洋島嶼のクズどもも舐めた真似をしてくれる!」

彼がここまで日本の立場に憤っているのは、彼自身が叩き上げの封建領主(日本風に言うならば『大名』だろうか)だからである。

入国の際の書類、身分証にはしっかりと書かれてあった。そして彼自身の口からも聞いた、それでよく印象に残っていた。

地球には観光がてらに政治や軍事などを学びに来たらしく、その流れで日本の歴史に触れたのだという。当然、近現代史も。

「核分裂爆弾まで落とされて領土も理不尽に奪われなぜ黙っている、国家を自称するなら戦うべきだ!」

彼からすれば、終戦からの日本は国家として不適切な立ち振る舞いをしてきたのだろう、抵抗をしないというのは国民を危険に晒す事と同義であるからだ。

国を統治する立場として、強い憤りを感じたのだと思われる。

しかし国際情勢や立場から仕方ない部分もある、と伝えるも、納得できない様子でとんでもないことを口にし始める。

「軍事力が足りないというのなら、私の軍隊を派遣しよう、三個師団もあれば地球征服は容易だ」

いやそれは、と断ろうにも、勝手に一人合点して、

「そうだ!それがいい!すぐに派遣しようじゃないか!ガンマ線照射銃を装備した精鋭の遺伝子強化兵たちだ!」

流石に惑星を統治するだけの事はあり、それなりの軍事力をお持ちなのか何やら物騒な単語が飛び出す。

「すぐに連絡するから待っていてくれたまえ」と立ち上がり、懐(服を着ない種族なのに!)から何やら携帯機器を取り出して弄り始めた。

ふと脇に目をやると、係員も警備員も皆一様に青ざめた顔をしていた。

日本全体を考えると中々悪くない提案であるが、とんでもないことになるのは目に見えている。

なんだか頭が痛くなって来ちゃったが、私は何とか言い包めようと考えを巡らせ、

彼のキチン質の殻に覆われた背中に手を回し、実は報復の準備は整えている、とそっと囁いた。

すると彼は手を止め「それは本当かね」と聞き返してきた。

とても公には出来ないが報復は準備中であり、国民にも公然の秘密として通っている、と虚実を織り交ぜて話すと、

神妙な面持ちで携帯機器をしまってくれた。なんとか落ち着いた様子である。

「それは安心した、だがいつでも連絡してくれていい。政府にそう伝えておいてくれ」

そう言って名刺のような物を私に手渡し、出国ゲートの方へと歩いて行った。

ボディーガードの内一人は彼を追い、もう一人は私に感謝の言葉を述べてくれた。

だが一つ聞きたいことがあったので、彼に問いかけてみると、

「領主さまは例の事を知って、一時は何ともなかったのですが、空港に着て急に思い出したのか、怒り出したのです」

よくある事です、とボディーガードは言う。惑星の命運が電話一本であわや大惨事、というのがよくある事だと。

母星に紐で括りつけておけ!

 


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