さて、となると、きっと私が駆り出される事であろう。
なので局長にその旨を伝えると、意外な反応をされた。
「いや、今回は雇っているよ。君にも業務があるだろう」
なるほど、それは安心だ。遠慮なく仕事に戻れる。
ではない!それではお話が終わってしまうではないか!
「え、いや、もうほら、連れてきたし」
「あ、どうも」といつの間にか日本人ガイドらしき人物がいる。
彼には帰ってもらった方がいいだろう。
それに以前は皇太子殿下もご案内したのだから私の方がいいと思うけどなぁ!吉田もそう思うよね?
「え?あ、ああ。そうかな、まあそうかも……」
ほらね。
「う、うーん、そこまで言うなら君にやってもらおうかな……」
そうでなくては。
「えっと、では私は」
「代わりに入国管理をしておいてくれ」
「えっ」
そういう訳なので、私が案内する事となったのである。
「俺は別に案内なんてしたくなかったのに」
吉田もついてきた。ほら、私一人だと心細いし。
「じゃあなんで案内をするなんて……」
まあいいだろう。「よくない」
局長が会合を開いたと言っていたが、一体何の会合なのだろうか。
と、宇宙港から出たとたんに領主たちは不満を言い出した。
「ひえー!なんだこの暑さは!馬鹿なのか!?」
「宇宙港内の暑さで嫌な予感はしとったがのぉ……」
何が馬鹿なのかはわからないが、彼らにとっては結構な暑さだろう。
とはいえ20度前後なので地球人的には全く暑くないし、まだまだ暑くなることもあるのだが。
「まあ我慢できんこともないねんけど、こんな真夏によう呼んだな」
全くその通りである。真夏ではないが。
「時期はまだ初夏でございます……失礼、完全に慣れてしまっていて……」
局長が謝罪した。まあもう随分長くいるものね。
「うっかり屋さんズラねぇ」
「乗り物を手配してありますのでそちらへどうぞ」
と差し示した方向にはバスが来ていた。……なんだか社内の様子が変だが。
領主たちが続々と乗り込み、私と吉田が最後に乗ると、その異様さに驚いた。
「さ、寒い!冷房効き過ぎっていうか冷蔵庫かこれ!?」
「特注のバスだよ。冷蔵車とも言えるかもね」
社内の温度は5度である。無論我々は夏服であった。
「ちょっと、上着を持って来ても……」
「いいや、時間がないから我慢してくれ」
「えぇー!」えぇー!
「寒いなら私にしがみついているといい」
やったぁー!吉田と二人で遠慮なく局長にしがみつく。
「何してるんだこいつら……」
「さぁ……」
と若干呆れられ気味ではあったが、背に腹は代えられぬというものである。まだ寒いけど。
「ちょっといいズラ?」とトリエスちゃんが手を挙げた。
「会合って、一体どんな会合があるズラか?」
「せやな」
「そうだぜ、わざわざこんなところに呼び出すだなんてな!」
「せやせや」
ラスの親父はなんなのか。
「……ええ、それはまさしく、地球の未来の話です」
うーん、えらく重大な会合に立ち会ってしまったようだ……。
極寒のバスを20分ほど耐えきって、ようやく目的地についた。
ホテルの大広間で、なんだか式典でも始まろうか、とでも言わんばかりの様子で、中はやはりガンガン冷房が効いていた。
でもやっぱ5度よりは暖かい。
「それでは、ご着席ください」
ぞろぞろと、彼らの名前が書かれたプレートが置かれてある席にそれぞれ着いた。
テーブルにはプレートの他に、美味しそうな食事が置かれている……と言っても良く見ると和食が多いので、雰囲気に合っているかは微妙である。
「これ食べてもいいのかい?」とミヤックが指差した。
「ええ、どうぞ」との返事を聞く前にサバの味噌煮をもう口に放り込んでいる。
「ん~!うめえのなんのって、長旅で腹減ってたからなぁ!」
それを見た他の当主らも食べ始める。
「塩辛いが、中々いけるのぉ」「塩辛いねんけどな」「しょっぱいズラ」
「日本人はこんな塩辛いもの毎日食って、舌が馬鹿になっちゃわないか心配だな!」
悪かったな、塩っ辛くて!
「皆さま、そのままお聞きください。我々がなぜ地球に来たのかは覚えていますか」
おお、実は私も気になっていたのだ。
「もちろんそれは、良質な小火器と好戦的な戦闘奴隷の為ズラ」
「経済的に搾取する事が目的じゃのう」
そ、そんな恐ろしい理由が!?
「いや、王侯貴族の保護じゃなかったっけな?」
「皆さん方、地球人が同席しているからと脅かさないでください」
あははは、とエイリアンジョークで和気藹々な空気を醸し出しているが私と吉田は冷や汗は出るし身体は冷えるし冷え冷えである。
「ふん、本当のところは金だ。投資による発展と貿易による関税で、戦費の穴を埋めるための計画の一環だな」
そう答えたのは機械ガウラ人の長、管理AIイゾートリである。
「我が帝国と似たような国体の日本とイギリスが拠点となったのは結果的に願ったり叶ったりだったのは、我が輩たちの嬉しい誤算だがな」
まあ投資のようなものだろうか、それを惑星規模でやるのだから、宇宙時代というのは凄い時代だ!
「左様、かの銀河大戦は賠償金だけではとてもじゃないが損失を埋めることが出来なかった。そこで進められたのがこの拡張計画です」
銀河大戦が起きたのは1890年代から1960年代後半ぐらいまでの長い期間だというから、投入された財も相当なものだろう。
星間戦争は(特に移動に)時間がかかるのである。
「それが響いて俺たちゃ貧乏ってわけ。参るよなぁ」
はぁ……と皆が一斉に溜め息を吐く。それを踏まえて彼らの服装をよく見ると、綺麗とは言い難いもので袖口なんかは破れているのも散見される。
「それで幾つかの惑星と、そしてこの地球の日本とイギリスを拠点として財貨を得るという試みは無事成功しております」
例の石灰貿易だけでも相当な関税を得られたのではないだろうか。
「天皇の存在も大きいもので、この天皇家は我が皇帝家よりも長い歴史を誇っております、エチオピアのソロモン朝も同じくに。彼らの威光によりこの地球は栄光と安寧を手にしていると考えられているでしょう」
それは驚きである。天皇家の歴史は最長でおよそ2600年、短くても1500年以上はあるので改めて考えてみても立派なものである。
「ところがどうであるか!」
局長はいつになく熱が入っている!
「市民は不況に苦しみ、人心は乱れ、天皇を始めとする王侯貴族らは象徴などという牢獄に囚われておるではないか!こうなれば我が帝国の直接統治の方が良いのではないかと考えましてね」
議場がざわついた。ミヤックが局長に問いかける。
「って事は、エトゥナ・プランを見直せって事かな!」
「左様でございます」
するとトリエスちゃんが立ち上がった。表情はかなりキリッとしており、仕事モード全開である。なんだかカッコかわいいぞ、なんて言ってる場合でもないが。
「それはオラの管轄ズラから、どういう事なのか説明してもらうズラ」
彼女の目はギラリと鈍く光っているようにも見えた!