「それでは一体、どういう考えを持っているのか、説明してもらうズラ」
「いいでしょう」
さぁ、戦いだぁ!「そんな事言ってる場合かよ……」吉田は溜息を吐いた。
「皇帝は先代の事業をお引継ぎになり、そしてこの地球の計画が皇帝として初めての事業ズラ。それを事も半ばで変えようというのは、余程の事があってのことズラ?」
「せやせや」
「ええ、余程の事でございます。この事業は、現在の計画では仕損じる恐れ大、と私は申し上げたい」
「根拠を述べていただきたいズラ」
「せやな、根拠や」
ラスの親父はなんなのか。
「ではまずお手元の資料をご覧ください」
資料には、地球の情勢、半ば凍結状態のエトゥナプランの事、地球の行政区域の変更についてなどが書かれていた。
また、パレスチナ統治の情報により地球人を抑えつける事の困難さと治安維持の難しさなども挙げられている。
「一部地域の治安が比較的良好であるのは奇跡と言えるでしょう」
そんなに言わなくても……。
「しかしそれではプラン通りに懐柔策を取るか、はたまた浄化を行えばいいズラね。その分お金はかかるけどズラ」
「お金かぁ……」またしても領主らが溜め息を吐く。そんなにお金ないの。
しかし局長は溜め息は無視して進める。
「懐柔は結構難しいと思われます」
日本の懐柔は成功しているのだが、そういえばイギリスや他の国についてはあまり聞かない。
「この星に来てそれなりに時間も経ちますが、未だ日英の懐柔も完全ではありません、それに……」
局長が資料のページをペラララッとめくった。
「お手元の資料、8ページにある各国の情勢です。中小国、特にオーストリアやタイなどは我らに恭順の意を示しておりますが、MI6と情報本部の調べによればロシア、中共、アメリカは隙あらば我々と事を構えんとしており、それに同調する国も必ず出てくるでしょう。そうなればもはや懐柔どころではありません」
日英の諜報機関も手中に収められているとは、もはや実質傀儡と言ってもいい状況である。
「我が軍の脅威になると言うズラか」
「いいえ、我が軍にかかれば換毛期の毛をむしるかの如く。しかしながら、地球人は容易く原子爆弾を使用します」
場の空気が一気に張り詰めた。やはり彼らにとても核兵器は特殊な扱いなのだろうか。
「これは冗談ではありません。原爆ドームはご覧になられたでしょうか、第二次世界大戦から二千回以上もこの地球上では核爆発が起きています」
「そいじゃ、間違いなく日本やイギリスが標的になるズラね」
「核は軍事施設には効果がないからなぁー。狙うとすれば都市だな!」
「うむ、でなければ農地か」
「そりゃアカン。困るで、畑に放射能は。除去するのになんぼかかるか」
ざわざわと騒ぎ立て始める。うーむ、現実となれば何ともおぞましい限りだ。
吉田もなんだか気分が悪そうな表情である。
「帝国軍には無意味ですが、市民を巻き添えにするのは本意ではありませんからね」
「防御する事は」
「可能でしょうが、世の中絶対という事はありません」
「しかしそれなら、余程譲歩しなくては懐柔は難しそうズラねぇ」
即ちこれはどういう事か。
元の計画では日本を東アジア、イギリスを西欧、オスマン帝国を復活させ中東や北アフリカの中心国にして纏め上げ(絶対上手くいかないだろ!)、(ガウラ人にとって威光を持たない賤しい地域である)南北アメリカを東西から挟撃する手筈であったという。
統治は現地政府に委任し、宇宙社会への参加と独立の保障、科学研究や経済面での提携を行い、その対価として上納金を貰おう、というのが元の計画である。
……いや、こんなの絶対赤字だろう。
「あのー、宇宙的な兵器で、パッとやっつけちゃったり、洗脳したりは出来ないのでしょうか……」
吉田が恐る恐る手を挙げて質問した。そしたら。
「貴様は案外恐ろしい事を考えるな、とても血の通った生物とは思えん!人の心とか、情けとかが無いのか貴様は!全くこの地球人めが」
と管理AIイゾートリに呆れられてしまった。ロボなのに!吉田とてきっとお前には言われたくはないぞ!
「はぁ、すみませんです……」
「それにそういう大型の兵器は動力費だけでも結構するズラ」
「全員殺してもいいけど、そうなると弁解が面倒だしなぁー!」
侃々諤々と様々な意見を交わす領主たち。その内、一人が手を挙げた。
「ちょいといいですかみなさん」
比較的年老いたようにも見えるこの人物はアソ家の当主である。
「この資料、見たところ肝心な部分が抜けちょるようにも見えるけぇのぉ」
「どこでしょうか」
「わしはこの地球の事についても一応事前に調べておいたんじゃが、この星は幾つか大きな原発事故が起きておるそうじゃのぉ」
「はい、しかしそれは解決に向かっているはずです」
「果たしてそうじゃろうか? 帝国の『劇物の令』の基準を適応するなら、相当な範囲の除染が必要になるけぇのぉ。果たしてそこまでの金があるかどうか」
「うーむ……」
「それに他の部分も少々乱暴で強引じゃ。帝国の『律令式目(と翻訳するのが一番近いだろうか?とにかく法律である)』を適応するとなれば、地球人の半分以上を逮捕せにゃあならん」
局長は渋い顔をして資料を見つめ熟慮している。しばらくすると顔を上げないまま口を開いた。
「そう言われれば、その通り……」
最初の勢いはどこへ行ってしまったのか、すっかり意気消沈している。
「お前さん、随分と地球人に……なんというかのぅ、失望感を抱いておるようじゃのぉ。少し休んだ方がよかろう」
地球の事情を顧みると、失望するのも彼らからすれば当然と言えよう。この日本でさえも、帝国に比べればスラムのようなものである。
彼らしくもないような気もするが、最近思い悩んでいたのはこういう事情があっての事だったのだろうか。
「へへっ、領主や総督が辛いってのがちったぁわかったんじゃないのかな!」
ミヤックが軽口を叩いたのを皮切りに、領主たちが次々と愚痴を言い始めた。
「農道の補修も金がかかるしなぁ」
「領民はうるさいし!」
「宇宙船のローンもあるし」
「娘が三人も生まれたし」
「そろそろ屋敷もボロボロだから、修繕しないと」
なんだか親近感が沸いてくるような感じだ!
しかしながら、総督府は別にあるはずなのだが、どうしてまた局長が出張る事となったのだろうか。
「総督府の一番上のお偉いさんがあと数年で退任だそうで、次に私が指名されたのだ」
そんな事があったとは驚きである。彼は深いため息を吐いた。「やはり、誰かに相談しなくてはね」
「そうですよ水臭い、この吉田にでも遠慮なく言ってください!」
吉田が頼りにならない時は、私が聞くことにしよう。「頼りになるよ!」
「ありがとう、二人とも」そう言って、彼は会議のテーブルに向き直った。
「会議はここまでに致しましょう。この後、地球の観光の用意があります、詳細はバスに戻ってからお話ししますので、今は気兼ねなく食事をお楽しみください」
「そう来なくっちゃねー!」
かくして、エトゥナプランの見直しは見送られた。
アソさん曰く、もし金が足りて彼の計画が遂行されれば地球が地獄と化したであろう、とのことである。
地獄の沙汰も金次第とは言うが、金が無いために地獄となるのを避けられるというのは面白いものである……いや面白くない!
さてその後、観光のガイドも我々がやる事となったのだが、大変愉快な人たちであったので、とても楽しい時間が過ごせた。
ところで、私らの代わりを務めていた人は結構頑張っていたそうだ。
「やれば出来るものですね!ここに就職してもいいですか!?」
案外に強かなヤツであった。