【完結】地球の玄関口   作:ターキィ

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メダル・オブ・オナニー

諸君らはいつぞやの交通事故を覚えているだろうか、いや忘れるはずがない。

例の飯田幸次事件だ。彼は未だに逮捕されていない。

 

 

帝国の皇太子殿下がやって来ることとなった。

今度は前のとは違い、公式のやつである。

日本の首脳並びに天皇陛下との会談が予定されている。

両国の関係が深まることは大変喜ばしい事である。

「お久しぶり、また会ったね」と殿下が現れる。

相も変わらず元気そうでよかった、しかしまたしても妙な事を言い出さないかが心配だ。

「いやいや、今度はちゃんとした仕事だから。しっかりやるとも、うん」

ホントかよー!しかしよく見ると後ろにはキノドクさんやら偉いっぽい人が並んでいるので本当らしい。

いつぞやの枢密院の貴族たちも揃っている。

「お父……陛下はご公務で来られないので、息子であるおれが代理で来たのだよ」

ふふん、と自慢げに鼻を鳴らす。きっと名誉な事なのだろう。

「ところで、まあ会合はいいんだが、プライベートの事でな……」

と深刻そうな顔をした。多分ロクでもないことだろう。

「昼間に会合があるんだが、夜には何もない、自由時間なわけだ。そこでだが……」

どうせまた街をガイドしろだのと言うのだろう。

「よくわかったね。でもお忍びだからな、またあの、まんがきっさ?ってところに連れて行ってくれ!」

随分とお気に召したようである。そんなところ何べんでも連れて行くけど。

 

そして翌日、会合の様子が生中継された。せっかくなので仕事は休んだのである。

首相との会談や天皇陛下との懇談は穏やかに進み、両国の関係が再確認される。

まあここまではよかったんだが、ちょっとした日本滅亡の危機があったのである。

それは勲章の授与式の話題が出た時である。

「勲章ですか、これは驚きました、このような場で冗談を言うとは」

ハハハ、と演技掛かった乾いた笑いを見せる。

「いいえ、冗談では……」と日本の外務大臣が言うも、帝国側の人間はみな納得のいかないような表情をしている。

「本当にお分かりでないのですか?」と小さなガウラ人、いつぞやのトリエスちゃんが腰に下げた儀礼用の槌棒らしきものに手を掛ける。

それと同時に貴族らがガウラの皇太子を取り囲むと、一斉に振り返り、やはり腰の槌棒に手を掛け臨戦態勢に入る。

場は一瞬にして物々しい雰囲気と化した。えらいこっちゃ!

「我々が何も知らないとお思いですかな、陛下。飯田幸次の件を。いいえ、これだけではありませんが」

日本側の出席者たちがざわつく、警備員もどうすればいいのか、とおろおろしている。

そうして、皇太子はガウラ人がどれほど権威や名誉を大事にしているかを語る。

「日本ではどうだか知りませんが、帝国では権威とは犯罪の許可証ではないのです。即ち、これを私に授与しようというのは恐るべき侮辱となる訳です」

辺りのざわめきが大きくなる、事の重大さに気が付いたようだ。

「宣戦布告と受け取ってもよろしいでしょうか」

それはやばい、と外務大臣が飛び出し、勲章の授与を中止にする事を説明した。

当然、会合は中止となり、その場で解散となった。

 

その後、私の方に電話がかかってくる。

『漫画喫茶連れて行ってくれ!』と。え、えー。今からぁ?

しょうがないので行くことにする、まあ中継も終わっちゃったし。

彼らが宿泊しているホテルに向かうと、意外にもラフというか、地球の若者って感じの出で立ちで待っていた。

「こうすればバレないだろう、君みたいな傾奇者にしかガウラ人の違いなどわかるまい」

かぶ……どこで覚えたのだろうか、そんな言葉。

ところで、彼に例の事について聞いてみた。

「失礼だよなぁ!?実際凄い失礼!おれは別に地球に犯罪をしに来たわけじゃないってのに」

根本的な勘違いをしているのか、皮肉なのかはわからないが、とにかくむやみやたらに気高いという事はわかった。

何にせよ、次来た時に改善が見られれば受け取る事にはしようという事であったので安心した。

「冷やっとしちゃった。まさかあのまま出すとは思わないし、こりゃ戦争かなってよぎったよ」

結構ヤバいところには来ていたようで、戦々恐々と言うヤツである。

「大体、勲章なんて貰っても、どうしろっていうのかねぇ……」とぼやく。

今の日本政府はさぞや慌ただしく慌てふためいている事だろう。

 

翌日、例の飯田幸次の初公判についての速報が流れた、加えて過去の未解決事件の捜査の再開なども報道された。

日本政府も腑抜けと思っていたが、中々やるではないか。

恐らく、多少、いや結構な大企業だの官庁だのの幹部が消える事となるだろう。いい気味というものである。

この様子なら次は勲章を受け取ってもらえるだろう。一体誰の為の勲章であろうかと思わされる出来事であった。

与える国の自己満足なら一体どれほどの価値があろうか。

 

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