とりあえず、予告の二人の出番は次回で。
男は暗い闇の中、今だ夢見心地とはいえ意識を取り戻す。失われる命を、その体に埋め込まれた聖なるものとサンジェルマンによる体の再構築によって永らえさせた。
そう、命は失わなかった、命は。だが、もう男は以前とは少し違っていた。その心は餓えていてあるものを欲し、頭の中に靄がかかり、まともにものを考えられない。
‥‥‥けれど、その胸の渇きがどうにも耐えきれない、いっそ死んでしまった方がいいと思えるほど苦しく、あるものがどうしても欲しい。
欲しい、どうしても欲しい、それはここでは手に入らない。いや手に入るには入る、内の聖なるもの、神の遺物は許すが、男の心が許さない。だってそれは、
まともに働かない頭でそれを認めたが、心の渇きを抑えきれないかもしれない。それを分かった男はその場所を離れることに決め、歩き始める。
拠点を出て、森の深くへ紛れていく。‥‥‥何か、大切なものを置いてきた気がする。そんなことを考えたような気もするが、頭の靄に紛れて消えて行った。
‥‥‥最初は山の中をさまよった。別に目的はない、そもそも
腹が減れば獣をくらい、のどが渇けば川の水をすする。それ以外の時間は座禅やら、鍛錬をすることにした。方法なんて知らないけど、しようと思えば体が勝手に動いてくれる。座禅をすれば、心のざわつきを何とか紛らわすことが出来たし、鍛錬をするのは自分でも分からない何か、あえて言うなら巨大な壁、それを壊すのに必要に思えたからだ。
そんな風に、山で過ごしていても人に会うことがある。道に迷ったものに、山菜を取りに来たもの、修行者だ。大体そいつらには会わないようにして、さりげなく下山する方向へ誘導する。具体的には自然体の道を作ったり物音を出して、クマかなんかと誤解させて逃げださせるのだ。
体や精神の不調が治まらないために山で数十年過ごしていると、俺を討伐しに武芸者が現れ始めた。どうやら、俺の存在が山で人を狙うモンスターとして広まっているらしく、腕に自信のある奴を連れてきて探させたらしい。なんども威嚇したんだがそれでも向かってくるので観念してそいつの前に現れた。
別に危害を加えるつもりはない、出て行けというなら出ていくと伝えたが、問答無用と襲い掛かってきた。俺はそいつの剣を交わして胸ぐらをつかみそこいらの木に投げつけて無力化した。あっさりやられたことにショックを受けていたので、腕の振りや足の運び方をアドバイスした後に別の場所に行くことを伝えて去った、
そんなことをしていると、俺のゆく先々に武芸者が現れ始めた。曰く、時折現れる伝説の超人、彼に挑めば勝てば褒美を、負けても強くなるための方法を教えてくれる。そのため、武芸者は各地の山に入って俺を探しているらしい。おいおい‥‥‥と俺はあきれるしかなかった。でも、なぜか懐かしい感じがした、誰かに何かを教えることは、どこかでやったことがある気がする。ここに、俺の過去があるのだろうか?
時々山を移動しつつ、それでもやってくる武芸者を相手している生活を長い間続けた。
ある日いつもと様子が違い奴が現れる。剣使いなのだが顔を布で隠していて小柄であり、それでもいつも来る奴らよりも強いと感じる。
「御身は音に聞こえる、山に住みその武を磨く
そう言って、剣を俺の顔に向けて瞬時のうちに真正面から振り下ろす。慌てて、その刃を両手を使って左右から挟み込む、真剣白刃取りを行い、剣を止める。慌てたとはいえ、わずかに手のひらが切り裂かれる。
「ほう、これを止めるか。さすがはかの森にすみし修羅、その異名は伊達ではないな!だが、それでこそ、汝を殺すことでこの刀も、そしてこの私も神殺しとして箔が付くというもの!!さあ、その首を差し出せ!!!」
「いつもの奴らと違うと思ったら、強さだけでなく目的も違うのか…。悪いが俺もまだ殺されたくない、神殺しの名が欲しいのなら、見事俺の首を斬り落とすがいい、その細い腕と剣で出来るものならなあ!!!」
足を相手の腹に向けて骨を砕く、できることなら殺すことが出来るように、思い切り殺意を込めて繰り出すが、それを読んでいたのか俺の手の甲を蹴りその勢いで刀ごと回転しながら飛びのく。
「グオオオオオオオオオ!!危ねえ!!」
そこいらの武器なら、俺の怪力で壊せるのだがその剣は特別製のようで壊れるどころかおそらく一ミリも歪みすらせず、そのまま持っていると手首ごと持っていかれそうなので手を離す。
「ハッ!」
飛びのいた皇は、地面に降りるな否や地面を蹴って再度向かってきて斬りつけてくる。拳で迎撃しようとするが、悪寒を感じ迎撃をやめて回避に徹する。振るわれた剣からは斬撃が飛び、俺がいたところの後ろにあった木々をなぎ倒す。
「厄介な技を持っている。当たれば何物も切り裂けるか、それを行うお前もその剣もかなりのものだ。」
「戦神に褒められるとは私も誉れ高い、我を鍛えしわが師も、我が刀を打ちし刀匠も喜びに涙するであろう。しかし、この身にはその言葉ではまだ足りぬ。褒美として、汝の首が欲しいぞ!!!」
その啖呵と共に、連続で斬撃を飛ばしてくる。俺はなんとか避け続けるが、余波で森どころか山ごとまっ平にされそうな勢いだ。
もし当てれば、文字どうりこの体が真っ二つになるほどの切れ味、だが当たらなければ意味がない、むしろ体力を消耗して隙が生まれる。それを待つしかない。
すると、皇は斬撃を飛ばすのをやめて、刀を上にかざす。何をするのかと警戒していると突然刀がどんどん大きくなっていく。しまいには天にも届くのではないかと思えるほど巨大な刀となった。ま、まさか・・・
「日輪ノ涙!!これで叩き潰して神肉にさせていただく!!!!魚の尾をもつ人を喰らえば不死となると聞くが、御神の体を喰らえばどうなるかな!!!!」
「いや、食うのかよ!!ドン引きだよ!!!!お前、戦闘狂の上にカニバリズムとかどんだけ変態だよ!?今まで見たことある変態の中でもとびきりだ、いやよく覚えてないけど!」
「何をごちゃごちゃと‥‥神の肉が食えるかもしれんのだ、いかに私といえども畜生の考えに陥るさ。戦神よ、この刃、喰らってみせい!」
俺の引き気味の声を気にもせず、むしろ開き直りながらその巨大な刃を振り下ろす。
「死ぬのはごめんだが、食われるのはもっといやだな。その肉包丁砕いてやる!!」
「肉包丁ではない、刀だ!!!」
「反応するの、そこ!?」
俺は、その巨大な剣に拳の連打を叩き込む。刀が巨大になるなど本来はありえない、この刀か奴に何らかのからくりがあるのだろうがそこには一つの弱点がある。それは、この技はその圧倒的な質量で相手を叩き潰すのだが、そこには先ほどの当たれば切り裂かれるほどの鋭さはない。ならば、多少は触れても俺の体は切り裂かれない。地面から飛び上がり、空中で迎え撃つ。
「お前の剣、砕けたり!」
最後に右のストレートを食らわせると、刀は砕け、本来の大きさの刀が中から出てくる。先ほどの大きさは虚像だったようだ。
「ッ!?い、いない!?お前の魂を置いてどこに行った!!!‥‥ガッ!?」
そう、巨大な刀を砕くために意識を集中させたこと、刀身と柄に距離があったため持ち主にいなくなったことに気付かなかった。気付いた時にはもう遅い。
「暗剣・双ノ小太刀。あの技を破りしものは今までいなかった、さすがは戦神。だが、この奥の手まではいくら神といえども見破れず、ゆえに暗剣、ゆえに奥の手!!」
俺を抱きしめるようにして、相手の二つの小さな剣が背中から刺さる。これはまずい、気を失いそうになる。
そこにあることが起きた。戦いのなかで結びが緩んだのか、皇とやらの顔の布が外れたのだ。そこから、予想していなかったものが見えた。
白くて長い髪、凛とした顔立ち、みずみずしい肌、きれいなマツゲ。
「お、ん、な?」
そう、俺を殺しに来たイカれた頭の持ち主は女だったのだ。その美貌に見とれた瞬間、頭にノイズが走る。誰かが、俺に向けて笑いかけている。ハッキリと顔を認識できない、けど、
美しい女だ、欲しい、なんとしてでも欲しい。その肌に指を滑らせたい、その顔に口づけをしたい、その体を貪りたい、この体の渇きを癒すために、そいつを
無意識のうちの、目の前の女に手を伸ばし、彼女も正面から手をまわして背中に剣を突き立てているので互いに抱き合うような態勢となる。
「貴様、何をして、グッ、グアアアアアアアアアアアアアアアァッ!!!」
俺の中、体の中にある何かから電撃が流れる、まるでその女を逃がすなと言うように。電撃が終わるころ、女の体からはわずかに煙が上り、背中から剣を抜いて、俺は意識を失った彼女をかかえ、休めるところを探しに行った。
「ん・・・・・・ここは・・・・・・・」
「気が付いたか」
適当に小屋を見つけて毛布をかぶせて寝かしておいた皇が目をさます。治療のため、服を脱がして包帯を巻いたおいたのだが、その姿は非常に蠱惑的だ。
「戦神・・・・・・そうか、私は負けたか・・・ククク、はっはっはっ!そうか、負けたか!我が剣は御身には届かんなんだか!」
自身が負けたという事実を認めながら笑ってやがるこの女を見て、再度こいつのやばさを再確認する。やけくそではない、自身が負けたということを心地よいものと認識している。
「それで?何故殺しに来た私を生かしている?こうやって治療までして?それとも‥‥‥勝者として、私の体を所望かな?」
今の自分の姿を理解しているのだろう、笑みを浮かべてそんなことを言ってこちらを挑発してくる。
「そうだ。」
「‥‥‥ほう?」
だから、俺はその挑発に乗って自分の今の思いをぶつける。
「俺の心は今、あるものに餓えている。それは一人では埋められない穴、一人では生まれない感情。何よりも強く、何よりも尊いもの。おまえのその抜き身の刀の様な危うさ、刃紋のような美しさ、それを俺は、俺の中の何かは欲しいと感じた。・・・俺はお前に愛を与えたい、だから‥‥お前も俺に愛をくれないか?」
ああ、そうだったのか。この俺の中にある渇き、以前どこかで持っていたもの、それが何なのかずっと分からなかったけど、この女を見てようやく何なのか分かった。俺は誰かを愛し愛されたかったのだ。目の前の皇は美しく、そして懐かしい。俺の失った記憶が誰かの面影を感じてる、ゆえに欲しい。そうすれば愛が得られるかもしれないから。‥‥‥そうでなくては、
「‥‥‥それは勝者としての言葉ではない、ただ一人の、寂しい男の泣き言だ。戦神と言われし御身にはふさわしくない。」
「駄目かな?」
「いずれは彼の地の防人となるこの身には願ってもない言葉ではある、戦神の寵愛をいただけるのだからな。しかし‥‥一人の女としてはいただけない。情けない男のしみったれた懇願などみっともないし、それに‥‥」
そこで皇は言葉をきると、俺の顔面を殴り飛ばす。俺はそれをもろに喰らって壁際まで吹きとばされる。痛いのだが、気になるのはこの女の腕の細さの割にこの力とはどうなっているのだろう?
「お前は私を見ずに、ほかの誰かの顔を重ねている。そんなものただの一人での遊びと同じだ、勝手に一人でやっていろ。」
これは風鳴之皇にとっては悪い話ではない。戦神と交わることは、それだけで一つの箔となる、ましてやこの強き現人神と子を成せば、風鳴の血は刀が研がれるようにいっそう強くなるだろう。しかし、女の意地がそれを承諾させなかった。自分を見てない男などまっぴらだと、
そこまで言うと、再び毛布にくるまってそっぽを向かれる。もともと、俺の攻撃でボロボロだったのに、無茶をして俺を殴ったせいか、よく見ると体がプルプル震えている。あれはおそらく、全身に電流が走るかのような痛みを味わっているな。
そして、殴られて拒否された俺は、外に出る。別に気まずくなったわけではない、新しい客の分の飯を探しに行っただけだ。それにどうも諦めきれない、
そこから俺は、この戦闘狂である頭のぶっとんだ女、風鳴之皇に対して何度もアタックするという頭のおかしいことをするのだった。
パパ(記憶喪失)「やべえ、その白い髪超好み。一緒にお茶でもどう?」
白い髪の女「このクズ野郎、一昨日来やがれ」
乱暴に言うとこう。